MIWARA BIOGRAPHY "VIRTUE KIDS" Virtue is what a Japanized ked quite simply has, painlessly, as a birthright.

後裔記と然修録

ミワラ〈美童〉たちの日記と学習帳

uki ^^/ 然修緑 第2集 第29回

uki ^^/ 然修緑 第2集 第29回

   二、 起秋 (6)


 門人学年 カズキチ {齢|よわい}十二
 「息恒循」齢 立命期・少循令・石将

 店頭で財布を見ていたら、(こいつ、財布が欲しいんだな)と思われ、契約を迫られた。
 「オススメの財布を取り寄せてやるから買え!」という意味のことを言われたのだ。
 嗚呼、ストレス。
 金を持たないので買えるはずもなかったけれど、その場では断り切れず、返事は現物を見てからということにした。
 ストレスの先延ばし……それもまた、ストレス。
 今日もまた、無駄に過ごしてしまったのではないかと考える……ストレス。
 明日は、何をすれば挽回できるだろうか……またまたストレス。

 言わずもがな、ストレスに関する本を読んだ。

 ある心理学者の言葉。
 「ストレスを感じるとき、脳内ではストレスホルモンが放出されている。
 それが何か月、何年と続いたら、身体{蝕|むしば}まれ、精神も飲み込まれてしまうだろう」

 おれの身体の中にストレスと言う名の妖獣が居て、そいつにおれ自身が飲み込まれて食われてしまうということだろうか。

 昼間は、考えることが次から次へと押し寄せる。
 夜は夜で、不安や悩みが次から次へと押し寄せてくる。
 一年三六五日、一日二十四時間、ストレスは続く。
 それでも、おれはまだ妖獣に食われていない。

 まだ子どものおれですら、毎日が{慌|あわ}ただしくて、もう少し時間に余裕があれば……と、思う。
 このまま大人になったら、本当に妖獣に食われてしまうに違いない。

 妖獣に食われてしまう前に、予兆があるという。
 睡眠障害、些細なことですぐにカッとなる、記憶力の低下、パニック……まさに発作!
 おれは産れてすぐに、些細なことですぐに{癇癪|かんしゃく}を起して泣き{喚|わめ}いたそうだけど……。

 予兆が出たら、対話やランニングがストレス軽減に効くという。
 ストレスを病気と捉えている西洋では、投薬とセラピーがストレス疾患の二大治療法だそうだ。
 米国では、国民の72%が重いストレスという病魔に侵され、42%の国民は不眠症で悩んでいる。
 対話やランニングがストレス軽減に効くというなら、なぜそれを西洋人たちは実践しない?
 しかも、ストレスによる疾患の治療と予防には、運動が目覚ましい効果をもたらすことが、研究によって立証されている。
 まさに、「知らないと損をする」の代表例なんじゃないのか。

 そもそも、その「ストレス」とは何なんだァ?

 実は、ストレスは神経を研ぎ澄まし、集中力を高めるための大事な機能なのだ。
 その機能が過剰に反応すると、集中どころか思考が混乱して、わけがわからなくなってしまう。
 こうなるともう、制御不能だ。
 「わけわかんねーぇ」の口癖は、ちょっと自重したほうがいいかもしれない。
 いま自制心が失われ、押し{潰|つぶ}されそうな苦しみに{囚|とら}われていると白状しているようなものだからだ。

 その「制御」というやつ、どんな仕組みなんだろう。
 頭の奥に、【1】視床下部という器官がある。
 何か脅威を感じると、この【1】視床下部からホルモンが放出される。
 次に、そのホルモンが、【2】下垂体という器官を刺激する。
 すると【2】下垂体は、別のホルモンを放出する。
 そのホルモンは、血流によって運ばれ、【3】副腎という器官を刺激する。
 そこでいよいよ、その【3】副腎が「コルチゾール」というストレスホルモンを放出するのだ。
 そのストレスホルモンによって、動機が激しくなる。

 極度に緊張すると、{動悸|どうき}が早くなり、水を飲んでも飲んでも{喉|のど}が{渇|かわ}く。
 手が微妙に震え、おまけに汗が{滲|にじ}み出てくる。
 でもそれを、周りの人には気づかれたくない。
 そこでまた、ストレスは増幅する。
 まさに、【1】視床下部、【2】下垂体、【3】副腎が活性化し、血中のコルチゾールの濃度が急増してしまうのだ。
 コルチゾールが急増すると、*闘争*か、*逃走*か、の究極の二択を迫られてしまう。

 コルチゾールの血中濃度が上がると、脳も身体も厳戒態勢に入る。
 闘争と逃走のどちらを選んでも、筋肉がたくさんの血液を要求する。
 それが、動悸を激しくする。
 心拍数が、増加する。
 脳は、意識を集中させる。
 {僅|わず}かな変化にも、敏感になる。

 このストレスの仕組みは、動物が生きるうえで、無くてはならないものだ。
 でも、今やおれたち人間は、それを自ら制御することができなくなってきている。
 これは、進化の過程なのだろうか。
 はたまた、退化の過程なのだろうか?
 
2024.9.22 配信
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発行 UKI library 卯喜書房