MIWARA BIOGRAPHY "VIRTUE KIDS" Virtue is what a Japanized ked quite simply has, painlessly, as a birthright.

東亜学纂学級文庫

『息恒循』を学ぶ

一息82 ミワラ〈美童〉の後裔記 R3.4.23(金) 夜7時

#### 語るオオカミ「秘密基地で送別会! その第二話」後裔記 ####

 自然の一部の生きものとして、それぞれが己の種の宿命と*闘い*ながら、*必死*で生きている。変わらなければ、進化しなければ、生き残れない。それが*解っていても*、日々*切磋琢磨しても*、それでも死ぬときは*死に*、亡びるときは*亡びる*。
   学徒学年 オオカミ 齢13

 一つ、息をつく。

 【考察一】
 サギッチの後裔記。
 サギッチ、第ニ話を、暗にスピアに振る。
 【考察二】
 スピアの然修録。
 スピア、それを感じ取り、観念して引き受けた模様。
 【考察の結果】
 史料室にて。
 スピア、第二話を、安堵しているおれに振る。

 岸辺の鳥たちが居室の空気を{危|あや}うくするなか、{暫|しば}しの沈黙を破って口火を切ったのは、タヌキだった。
 サギッチは、おにいさんの姿は見えなくとも、声だけは聞くことができているようだが、おれは、ハヤブサの回答から、おにいさんの問いの内容を拝察するしかなかった。
 動物たちの声は、森や岸辺で何度も聞かされたので、さすがにもう努力などしなくても、無意識のうちに耳の中で響いてくれる。なので、それがタヌキの声だと、直ぐに判った。
 で、そのタヌキが言った。
 「ボクって、あと何年生きたら、{爺|じい}さんタヌキになるのかなーァ?!」
 ウリ坊、矢庭に応えて言う。
 「おまえらが成るのは、爺さんタヌキじゃなくて、{古狸|ふるだぬき}だろッ♪ てかおまえ、自分の寿命も知らねえのかッ! {呆|あき}れたもんだな」
 「そう言うおまえは、どうなんだッ!」と、タヌキ。
 「ウリウリ♪ おまえらとは、違う。おれらは、五年も{経|た}てば、もう立派な頑固{爺|じじい}だ。十年も生きた日にゃあ、長寿{大往生|だいおうじょう}さ。
 だから、おれらの子ども時代は、忙しいのさ。おまえらと違って!」と、ウリ坊。
 「だから、色分けしてるんだねぇ? もうすぐオトナになる忙しいころが{縞々|しましま}で、もうすぐ死ぬ忙しくないころが茶色。{柄|がら}で判るから、便利だよね。きみたちは……」と、タヌキ。ウリ坊、絶句!

 ここで、{何故|なぜ}かスピア!
 「ぼくらも、一緒だね。ウリ坊と……」と、なんかこいつ、妙に溶け込んでる。
 「一緒って、何がーァ??」と、サギッチ。そう、そこだったッ!
 「子どもがウリ坊、オトナが{猪|イノシシ}。
 ぼくらも、同じ。呼び名が変わるじゃん。
 子どもが{美童|ミワラ}、オトナが{武童|タケラ}。でしょ?」と、スピア。
 「{柄|がら}は、一緒だけどな。おれら……」と、おれ。
 「確かに、ずっと{柄|ガラ}が悪いもんねーぇ♪ あんたたち男どもはッ!」と、その男どもと〈一緒〉を{遥|はる}かに超えて柄が悪いということに気づけず、未だに自覚できていないマザメが言った。
 {因|ちなみ}に、この女子種。幼少名を、魔性の{鮫|サメ}{乙女子|おとめご}というが、予想するに、こいつがオトナになると、悪夢の{鯱|シャチ}{乙女婆|おとめババア}と呼ばれることに相成ろうか。
 たぶん{概|おおむ}ね、当たらずも何とやら。待てば必ず、{何|いず}れはそう相成ろう……{嗚呼|ああ}、怖ろしや、怖ろしやーァ!!

で、ここでまた、スピア。
 「ぼくら、柄が悪いんじゃないよ。柄が、無いんだよッ! ウリ坊みたいに大努力しないと、柄にならないんだよ。たぶん」
 「じゃあ、あんたらの大努力は、柄にもないってことだねぇ? ちゃんと自分のこと、判ってるじゃん。偉い偉い♪」と、マザメ。
 「こいつら、毎晩徹夜して{匍匐|ほふく}前進してっから、縞々になるんじゃん! おれら、べつに縞々になる必要なんて無いし!」と、サギッチ。
 「普段、長い{脚|あし}で立ってるから、{匍匐|ほふく}って言うんでしょ? ウリちゃんたち、いつも短い脚で突っ伏してるから、匍匐とは違うと思うけど。
 でも……だとしたら、〈なに前進〉って言えばいいのかしらん!」と、小鹿の{乙女子|おとめご}ちゃん。
 「また、悩みだしたぞッ! おまえが、{余計|よけい}なことを言うからだ」と、おれ。そう言ってスピアを横目でチラ見したが、反省の色無し!
 トンビが、翼を広げて、グライダーのポーズ♪
 {何|なん}でまた、唐突にぃ!
 そして、言った。
 「{斥候|せっこう}は、突っ伏して地を{這|は}うより、空から偵察したほうが、効率がいいぢょ♪」
 そしてまた、羽ばたいて見せた。
 こいつらがみんな好き勝手に羽ばたくと、足の踏み場が無くなる……てか、寒くっていけねーやァ! てなわけで、以後、〈室内羽ばたき禁止〉と、相成る。

 ところでハヤブサ、無言。
 何やら、ムッツリ!
 何か、言いたそう……。
 で、言った。
 「おまえらヒト種は、文字に{拘|こだわ}り過ぎだ。大事なのは、響きだ。文字の形じゃない。言葉の意味でもない。{上手|うま}く歌えるかどうかだ。
 そろそろ、歌の練習が始まる。
 ホーホケキョ♪ が上手く歌えるようになるまで、あいつらがどんなに朝練と独習と自反を重ね、セッションに参加しならがらみなが互いに切磋琢磨に{努|つと}めているか、その歌声を聴けば、おまえらも少しは、考え方を改める気になることだろう」

 すると、それまでミャーミャー言わずに黙って聴いていたウミネコが、羽ばたきを{諫|いさ}められて肩を落として翼を垂れているトンビのほうをチラッと見ると、ぼそっと言った。
 「不思議だよね、あんたたちって。
 ホケキョちゃんたちはさァ。アタイらが旅立つころに練習を始めるから、そいつが言うことも解るんだけど……てか、『ホケ、ホケ、ケッケッキョー♪』って、まァ、壊れたスピーカーから流れてくる途切れ途切れの町内放送みたいだから、あの子たち、春の間、よっぽど猛練習するんだろうねぇ。
 で、あんたたちさ。けっこう、いい声して鳴くじゃん? 『ミャーミャミャミャミャミャミャ♪』……みたいにさァ。そのわりには、あんたたちが歌の練習してるところ、見たことないんだよねッ!
 それとも、何かい? アタイらがいない夏の間に、猛特訓でもしてるのかい?」
 「{似|に}てないし……」と、マザメ。独り{言|ご}ちる。
 「ウミネコの声、そのまんまだし……」と、サギッチも、独り言ちる。
 「ヒーヨヨヨヨヨヨヨヨ♪」と、トンビ。
 「それそれーぇ♪」と、ウミネコ!

 ここで、意外にも、口を挟んでくるチビ助の坊主が{居|い}た。
 心{密|ひそ}かに、何を考えてたんだかッ!
 コソコソと{然|しか}しながらガサガサと{耳障|みみざわ}りな音をたてながら、ウリ坊が言った。 
 「朝練してるのは、ホケッキョちゃんたちだけじゃないよ。毎朝3時前から練習……てか、雄叫び? それとも、ヤケクソ?
 コーーケコッコーーォォォ♪ ってさァ。{兎|と}に{角|かく}そいつら、朝も{早|は}よから、{煩|うるさ}いの煩くないのって、煩いんだってばッ!」
 そう言い終わったあともまだ{猶|なお}、陣取ったその場で全身をクルクルと回転させながら、何やらブツクサと{呟|つぶや}いている。
 問題は、その{所作|しょさ}のほうだ。床に爪を立てたり、背中を{擦|こす}りつけたりしている。それを、{憐|あわ}れと思うが{故|ゆえ}か、ほかの皆それぞれが、その様子を無言で、暫し見守っていたのだった。
 {後|あと}で、おにいさんから聞いた話によると、その床は、レッド・アイアン・バークと呼ばれる南半球産の鉄のように硬い{硬質木材|ハードウッド}の床なんだそうだ。
 掘ることは{疎|おろ}か、削れもしない。
 それでもウリ坊は、送別会が終わるまで、その{虚|むな}しい限りの大努力を、{止|や}めようとはしなかった。これが、自然の中で……「自然の一部として、生きる」ということなのか。
 何やら、意外と鳥や動物たちから学ぶことが多いおれたちヒト種が、無性に、情けなく思えてきた。

 ……てか、この送別会の話、要約しないと、延々と続きそうだ。
 {某|ぼう}後輩に告ぐ!
 観念して、この後裔記の続きを引き受けて、この話を、えーかげん、終わらせてくれッ!

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「自伝編」夜7時配信……次回へとつづく。
「教学編」は、自伝編の翌朝7時に配信です。

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