MIWARA BIOGRAPHY "VIRTUE KIDS" Virtue is what a Japanized ked quite simply has, painlessly, as a birthright.

後裔記と然修録

ミワラ〈美童〉たちの日記と学習帳

後裔記 第1集 No.143

#### オオカミの{後裔記|143}【実学】ズングリ丸の運命【格物】{武童|タケラ}たる{所以|ゆえん} ####

 体得、その言行に恥ずるなかりしか。
 学徒学年 **オオカミ** 齢13

実学
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ズングリ丸の運命

 どうも……確かに、あの変な{大人|おとな}五人組と一緒に{居|い}ると、何やら得体のしれぬ大きなものに{護|まも}られて生きているような感覚に、包まれてしまう。
 {則|すなわ}ち……五感すべてが、それを感じるのだ。

 あくどい文明エスノ野郎の話は、もうウンザリしてきた。それに、真っ黒い身体の中で、真っ黒い眼をクリクリさせている意外と愛くるしいアイツら……{鴉|カラス}たちの顔が、頭に浮かんでくる。そんな罪もない鴉に電脳チップを埋め込んで、「特攻{鴉|ガラス}」にしてしまった文明野郎たちに、腹が立って腹が立って仕方がない。
 ……なので、他のことを、考えてみた。(何が、脳裏に浮かんでくるんだろう)と、思った。そったら! すったら! 矢庭に、{湧|わ}いてきた。
 (外舎? ……なんで、軟禁?)
 (内舎? ……なんで、監禁?)
 (上舎? ……なんで、{抑留|よくりゅう}か、死罪?)
 この手の質問は……そうそう、民俗学を探求していたという「四角四面相」のテッシャンに訊くのが、真実へと通じる最短の早道に違いない。幸い、その事実は既に、おれら自ら、体験済みである。
 ところが……だッ!
 おれと、同じことを考えていた{奴|ヤツ}が、居た。(そいつと、同じにされたくない!)……と、これが、今のおれの真相だ。でもまァ、「そいつと、似てるーぅ♪」って言われても、反論する材料を、何も持たねぇ!
 ……サギッチが、言った。

 「あの外舎ってさーァ……サギッチ、{曰|いわ}く♪
 変じゃん!
 外舎を修了したら内舎に進級……で、その次が上舎だって言うんなら、意味も通るけどさァ。軟禁、監禁、そして抑留か死罪ってかァ? まるで、監獄か収容所の階級じゃん!」
 「監獄と呼ぶには、{微温湯|ぬるまゆ}過ぎる。そこも、{解|げ}せんところとして、外してはならん{要|かなめ}の疑念じゃなッ!」と、ムロー先輩。
 「意味を知らないんだから、意味が通る{訳|わけ}ないしーぃ!! 解せるはずもないじゃん!」と、マザメ先輩。ご{尤|もっと}もです。
 「不可解を、説明無しで解せるのは、神様くらいのもんかもしれんな。ここには、神様は{居|お}らんしのーォ♪」と、タケゾウさん。どうやら、自分が説明しようという気は、サラサラなさそうだ。
 テッシャンのほうを、見る。一瞬、目が合う。先に目を{逸|そ}らしたのは、おれ。テッシャンが、言った。
 「元は、自然徒學舎って呼ばれていたんです。君たちが{美童|ミワラ}って呼ばれるようになってから、まだ半世紀も経っていないでしょう。その半世紀前までは、自然徒って呼ばれてたんだ。寺学舎も、ミワラという言葉が生まれたのとほぼ同時期に生まれた言葉です。その前は、お寺以外にもいろんな場所に学び{舎|や}があって、ただ単に學舎って呼ばれてたんだ。
 『自然徒心得』ってのがあってね。
 ……あッ!
 なんで詳しいかっていうと……{況|いわん}やです。学生のころ、民俗学の研究室に残ったから。
 正確には覚えてないんだけど、こんな意味だったかなァ♪
 一、学徒たる者、みな、{五省|ごせい}外舎を修める。
 二、門人たる者、みな、{六然|りくぜん}内舎を修める。
 三、学人たる者、みな、{七養|しちよう}上舎を修める。
 四、居舎の中にも、「外内上」の三つの{間|ま}を{布置|ふち}する。
 五、仕事を{為|な}すにも、この三つの手順に{倣|なら}う。
 六、心の中にも、この三つの心構えを設ける。
 七、これらに大努力するが、義。
 八、その義が為す道を、理という。
 九、生涯、学徒であれ!
 ……以上です」

 「{面倒|めんど}っちい奴らだったんだなァ! おれらの祖先ってぇ……」と、おれ。
 「そのチチヨー!! ジョーシャ? ……を卒業したら、次は、どこに行くのォ?」と、ツボネエ。確かに……でも……って言うか、てかさァ! {解|わか}らないことがあっても、誰にも{訊|き}かずに……てか、訊けずに、こそっと独りで調べて納得して終わっちゃうーぅみたいなことが……なんかさァ。増えてきたよなァ。まァ、いっかーァ♪
 テッシャンが、また答えてくれた。
 「ぼくも詳しくはないんだけど、もっと西か南の{彼方|かなた}に、彼らの隠れ島があるって……そんな{噂話|うわさばなし}、聞いたことがあるよ。遠い過去に、置き去りにされた真実……それが、噂ってやつさァ♪」
 「ぼくらは、{拿捕|だほ}されちゃったから、軟禁されたんでしょ? ぼくらは、その隠れ島へは、行けない。……てか、行かせてもらえない。だよねぇ?」と、スピアの野郎!
 (ダホ? 頭打って{阿呆|あほう}になったから、{打呆|ダホー}ってかーァ?!)と、マジ思ったおれ……。
 日焼けした青年……ジュシさんが、応えてくれて言った。
 「難しい言葉、知ってるんだねッ!」
 「この船も、検疫が終われば、解体されて銭湯の{薪|まき}になる運命なんでしょ?」と、マザメ先輩。
 「君らの町には、まだ銭湯があるのォ?」と言って、サングラスを下にずらして、驚いた眼差しを覗かせるファイねーさん。
 「無知と誤解は、餌を食って生きて{居|お}る。何を食って生きて{居|お}ると思うかねぇ?」と、ニヤニヤしながらモクヒャさんが、言った。
 「無知に関しては、うちのムロー学人が詳しいからァ♪」と、ツボネエ。
 「どういう意味ぃ?」と、ファイねーさん。
 「そこは、無知のままで結構! 答えは、時間ですね」と、ムロー先輩。
 「正解! さすが、*無知*運命期ーぃ♪」と、ファイねーさん。
 「知っとるんやんけーぇ!!」と、ムロー学人。
 「そこは、落ち込むところじゃないよォ。怒るところでもないけどねぇ♪ だって、あたいだって、説明できないもん!」と、ファイねーさん。
 「モクヒャーん! 説明、よろしくーぅ♪」と、タケゾウさん。
 ……で、モクヒャのおっちゃん、講釈開始!

 「先ず……だけど。
 拿捕も検疫も解体も、港湾管理所の仕事じゃないからね。まだ{辛|かろ}うじて平時……戦争が始まる前だから、もし拿捕されるとしたら、刑事犯罪の容疑者が乗船しているか、違法操業をしている船舶くらいのものでしょう。
 ただこの船、センケン……船舶検査の有効期限が切れている疑いは、拭えませんけどねッ!
 検疫は、人や動植物……加えて食品等が対象になりますから、もし検疫が必要と判断されたのであれば、君たちは、検疫が終わるまで、このズングリ丸から下船することを許されなかったか、もし許されたとしても、下船して直ぐに検疫所に連れて行かれて、当分はそこで待機させられていたはずです。
 解体に到っては、論外でしょう。他人が所有する船舶を無断で解体なんかしたら、それこそ犯罪人になって、拿捕じゃなくて逮捕されちゃうでしょうからねぇ♪」

 キョトン! とした顔で、{緩慢|かんまん}に手足を作動させているムロー学級の総員八名……。
 そんな{緩|ゆる}やかな時の流れを{余所|よそ}に、作業甲板のご予約席にすっかり納まって{胡坐|あぐら}をかいて{坐|ざ}しているオッチャンにオニイヤンにオネーヤンたち総勢五名は、ムギコン酒の酔いで「あーら、よいよーぃ♪」よろしく、何やら算段をするが{如|ごと}く、なんちゃて談議に没入していったのだった。

【格物】
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武童たる所以

 {戦|いくさ}というものは、群れで*縄張り*を張る{獣|けもの}には、必定なのだ。確かに、子や仲間を{護|まも}ろうとする獣たちは、みな、「護るために戦う」という衝動を、生来持っている。これだけは、どうしようもない。人間は、正にそれ……「獣の代表選手」のようなものではないかァ!

 であれば、文明{民族|エスノ}は、その獣ですらない。
 ケモノ未満だ。
 {何故|なぜ}かッ!
 {奴|やつ}らは、自分や大切な人を護るために、自ら戦おうとしない。衝動が、無い。それどころか、自分の身代わりに、{鳥獣|トリケモノ}に戦わせる。それも、調教という強引な同意に基づいたものではなく、電脳チップを埋め込むという、極めて{卑劣|ひれつ}な{遣|や}り方でだ。
 どう考えても、{鴉|カラス}にチップを埋め込んで人間を襲撃させるだなんて、あくどいにも程がある。そのうち奴らは、我らヒト種と同じヒト科である「チンパンジー種」の面々の頭に、電脳チップを埋め込むに違いない。高度な知能を持つチンパンジーにチップを埋め込んで、彼ら彼女たちを自由に制御できるとなれば……それは正に、驚異でしかない。
 しかも人間は、素手では、チンパンジーに勝てない。  

 獣なら獣らしく、大事な人や物を護るために、自ら起こし起こった衝動に{順|したご}うて、自ら戦場を駆ける覚悟をしなければならない。それが、人間の{大人|おとな}……{武童|タケラ}の、進むべき道。

 その**覚悟**が無い者に、{如何|いか}なる生き物も、決して敬意を抱いてはくれない。

_/_/_/_/ 『後裔記』 第1集 _/_/_/_/
寺学舎 美童(ミワラ) ムロー学級8名

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 東亜学纂学級文庫★くまもと合志
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