MIWARA BIOGRAPHY "VIRTUE KIDS" Virtue is what a Japanized ked quite simply has, painlessly, as a birthright.

後裔記と然修録

ミワラ〈美童〉たちの日記と学習帳

EF ^^/ 然修緑 第2集 第12回

EF ^^/ 然修緑 第2集 第12回

 一、想夏 (11)

 門人学年 エセラ ({美童|ミワラ}・{齢|よわい}十三)
 「息恒循」齢 立命期・少循令・鐡将

   エリートが潰され国亡ぶ

 維新、エリートがリーダーになり、{日|ひ}の{本|もと}の独立を護り抜いた。

 聖驕頽砕……俗に言う環太平洋戦争、エリートが潰され、日の本の国は、滅んだ。

 その亡国、選挙も不可思議だ。
 烏合の衆を国民が選び、烏合の衆が、国家のリーダーを決める。
 逆だと思う。
 国民が国家のリーダーを決め、そのリーダーが、大臣を選べばいい。
 そうすれば、烏合の衆など必要も無いし、選ばれることもない。
 「実際は、そう簡単にはいかないんだよ」なんて{他人事|ひとごと}みたいなことを言ってるから、実際、国が亡んだのだ。
 そんな人たちを選んだということは、国民が自ら亡ぶことを選んだとも言える。
 望み通り?
 祖国が亡んで{嘆|なげ}いている国民は、意外と少ないのかもしれない。

 維新や日露戦争のころの我が国は、エリートがリーダーだった。
 はてさて、エリートとボンクラは、どこがどう違うのだろうか。
 そんな疑問を頭に浮かべながら、参考になりそうな本を読んだ。

 日露戦争のころ、エリート{云々|うんぬん}の前に、大臣も将軍も国民も、{兎|と}にも{角|かく}にもみんな全身全霊でこの戦争に取り組み、全国民が私心を忘れて日の本の独立を護り抜いた。
 衰えが見えてきたとはいえ、対戦相手は依然として世界最大の列強国の一つ
であり、対して当時の我が国は、大陸の東の端っこの小さな島国だった。
 恐れ{慄|おのの}いて全国民が全身全霊に成らざるを得なかったのかもしれないけど、実は、それだけじゃなかった。
 戦争に勝ったところで、露国にしてみれば、足の{爪先|つまさき}を{鼠|ねずみ}に噛まれた程度にしか感じないだろう。
 ところが、わが国は、勝ち戦の戦況を維持するために、武器弾薬は{疎|おろ}か、その他のあらゆる補給物資が底をついていた。
 一刻も早く決着をつけなければ、吹いて飛ぶような我が国は、吹かれてスッカラカンになって亡んでしまうのだ。

 日露戦争の参謀長、児玉源太郎将軍は、この由々しき事態を{憂|うれ}い、あらゆる手段を駆使し、なりふり構わず{嘆願|たんがん}し、まさに身命を{賭|と}して政府に善処を迫った。
 さらに、参謀長だけに{止|とど}まらず、すべての将軍たちが、我が事として身も心も国難の窮地の打開に捧げ、この由々しき事態に挑んだ。
 独立を護り抜くという勝利を得た後、将軍たちはみな力尽きて虚脱してしまったそうだ。
 当時の政治家たちも、この将軍たちの意を汲んで行動を起こすエリートが少なくなかった。
 それは、与党だけでなく、野党も同じだった。
 「反対」「反対」とだけ{喚|わめ}いていれば税金をタダで恵んでみらえる今どきの野党の衆とは大違いだ。
 当時、野党だった政友会の{領袖|りょうしゅう}を務めていた岡崎{邦輔|くにすけ}という人物も、そんなエリートの一人だった。
 岡崎氏は、児玉参謀長と同様に、この由々しき事態を憂いた。
 そしてある日、首相を訪ね、誠心誠意を傾けて忠言した。

 「政府の{苦衷|くちゅう}は、察するに余りある。
 早くどの辺かで結末をつけなければならぬが、恐らく国民の満足を得るわけにはゆくまい。
 従って今のうちからそれとなく国民にその心構えをさせておかなければならない。
 われわれも全力を挙げて協力をするから、政府も遠慮を捨てて、忌憚なく真実を言ってくれ」

 悲しいことに、敗戦した環太平洋戦争でも、同じような気運と場面があった。
 日本海軍と山本五十六元帥だ。
 せっかく日露戦争のエリートたちの魂を受け継いで戦争を早く終わらせることに努めたというのに、潰されてしまった。
 そもそも開戦から反対していたので、最初から潰す標的にされていたのかもしれない。

 我々は、一つの民族。
 言い換えれば、自然の一部の動物だ。
 民族の独立を護るために戦うのは、当然のことだ。
 でも、私利私欲、{驕|おご}り高ぶりで戦争を引き延ばそうとするのは、国家を亡ぼし国民を{殺戮|さつりく}する大罪だ。

 分化して退化が進んでいるヒト種をまた一つにするためには、文明{民族|エスノ}を根絶やしにし、和の{民族|エスノ}と自然{民族|エスノ}の二つの亜種だけで一つになるしかないと、ぼくらの先輩、{武童|タケラ}たちのほとんどが、そう信じて疑うことすらしない。

 本当に、他に方法はないのだろうか。
 それを考えるのは、もう今しかない。
 ぼくが気づいていないだけで、本当は、もう手遅れなのかもしれないけど。 
 
2024.4.1 配信
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発行 Ethno Fantasy 東亜学纂