MIWARA BIOGRAPHY "VIRTUE KIDS" Virtue is what a Japanized ked quite simply has, painlessly, as a birthright.

後裔記と然修録

ミワラ〈美童〉たちの日記と学習帳

EF ^^/ 然修緑 第2集 第11回

EF ^^/ 然修緑 第2集 第11回

 一、想夏 (10)

 門人学年 エセラ ({美童|ミワラ}・{齢|よわい}十三)
 「息恒循」齢 立命期・少循令・鐡将

   世界で一番異質なガイジン

 外国人のガイジン論が、面白い。
 外国人から見たガイジンとは、我ら日本人のことだ。
 亜種に分化する以前から、日本人は異質だったのだ。
 敗戦で国が亡ぶまで、悠久と続いた海洋の中の一国一文明一民族。
 かつて{日|ひ}の{本|もと}の国は、現存する古代国家と言われ、奇跡の国家として注目を集めていた。
 そんな特異なガイジンを、外国人たちは、鋭く観察していた。

 欧米の会社は、二つのタイプに分かれている。
 右脳優先型の会社と、左脳優先型の会社。
 右脳優先企業の昇級は能力主義で、社員たちの頭は柔軟、社内では友好的な雰囲気が保たれる。
 対して左脳優先企業は、年功序列制で、社員たちは、型に{嵌|は}められた規則通りの仕事を好む。

 日本人は、江戸幕府の組織運営方式を引き継いで、後者の左脳優先一辺倒でやってきた。
 それも、{聖奢廃砕|せいきょうたいさい}でアメリカに大敗して、国が亡んでしまった要因の一つなんだと思う。
 有色人種の独立を支援するという聖戦として始めたはずだった戦争は、左脳優先の組織であったがために、指導者たちの{奢|おご}りを疑問視する声が踏み{躙|にじ}られ、次第に指導者たちの心が頽廃し、{挙句|あげく}は{玉砕|ぎょくさい}、仕舞いには国中が焼け野原となり、{終|つい}には亡んでしまったのだ。

 ところが、アメリカの被保護国の国民となった日本人に、不思議な習慣が残った。
 履歴書だ。
 個人の価値を評価するこの書類、世界中を見渡しても、極めて異質だ。
 世界の国々では、仕事のやり方を詳しく示した{職務明細書|Job description}が、必ずと言っていいほど存在する。
 日本人の被保護国だけ、全くの逆だ。
 従業員の価値は評価したがるが、仕事の詳しいやり方は、評価されたくない。
 だから、何も示さない。
 職務明細書も履歴書も、同じ左脳が担う仕事だ。
 同じ左脳の仕事なのに、日本人だけ、異質なのだ。
 左脳優先の書類で人の価値を評価して採用しておきながら、いざ入社してみると、仕事のやり方が右脳優先なのだ。
 職務明細書は存在せず、自分で考え、やり方や方法は、先輩から盗めだ!
 左脳が異質化したために、本来の左脳と右脳の役割分担のバランスが、崩れてしまったのかもしれない。
 これも、ぼくたちが亜種に分化してしまった要因、退化の始まりに違いない。

 ぼくが嫌いな外国語の一つに、こんなのがある。
 ニッポンジンカンコーキャク。
 ちなみに好きな外国語は、スケベーと、アマテラスだ。
 ニッポンジンカンコーキャクというのは、左脳しか使えない日本人が、集団で外国旅行をすることだ。
 何時何分にどこで何を食べて、何時何分から何時何分までどこで何を観るかまで決まっていて、{汝|なんじ}勝手な行動をするべからずなのだ。
 有り得ん!
 せっかく外国に行ったのに、周りは顔見知りの日本人で固められている。
 近場の温泉に日帰り旅行でもしたほうが、日本人の恥を{晒|さら}さずに済むというものだ。
 なぜ、そんなことになってしまっていたのか。
 旅先で左脳優先なのは、日本人だけじゃない。
 外国人も、旅先では、左脳をフル回転させる。
 見知らぬ人の身分や言葉遣いを気にかけながら、初対面の人間たちと交わっていかなければならない。
 左脳が相当に疲れてしまう、大仕事なのだ。
 でも日本人は、それが出来ない。
 最初から出来ないことなんて、絶対に無い。
 面倒臭いから、やらなくなったのだ。
 だから、自分が住んでいる地域の環境をそのまま切り取って、その環境が、ただ外国を廻って来るだけのことが、好まれ当たり前になってしまったのだ。
 それならば、確かに左脳は疲れない。
 {狡賢|ずるがしこ}いと言えば聞こえはいいけど、実際は、愚かこの上なしだ。
 それで日本人は、自分の{所為|せい}で無能になってしまった左脳を、{呆|あき}れたことに{放|ほ}ったくってしまい、終には腐らせてしまったのだ。

 これが、「腐れ左脳のニッポンジン」と{揶揄|やゆ}されるようになった{所以|ゆえん}というわけだ。

 そんな{経緯|いきさつ}で退化した自分の脳を、見捨ててしまった者たち。
 そんな脳の退化に気づき、それを防ごうとしている者たち。
 そうではなくて、人間本来の自然の一部に立ち返ろうとする者たち。

 ……と、この三つの亜種に分化してしまったのが、被保護国ジャポンの今のニッポンジンなのだ。
 
2024.3.24 配信
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発行 Ethno Fantasy 東亜学纂