EF ^^/ 然修緑 第2集 第13回
一、想夏 (12)
門人学年 エセラ ({美童|ミワラ}・{齢|よわい}十三)
「息恒循」齢 立命期・少循令・鐡将
日本人とは何か?
亜種記の然修録編に、『代表的日本人』という本が取り上げられていた。
冒頭から順次要約するような内容だったと思う。
先輩の{武童|タケラ}たちが少年少女だったころに書いた要約は、たしかに原書よりは読み易く、理解もし易いものだと思う。
でも、その本が{上梓|じょうし}されたのち、後世の代表的日本人が『代表的日本人』を紹介するとしたら、どんな内容になるんだろう。
少なくとも、要約だけでは終わらないはずだ。
なので、そんなことが書かれている本を探して、読んでみた。
『代表的日本人』とは……。
著者は、明治期を生きた宗教家、内村鑑三。
明治の末期、西欧諸国に日本を紹介するために、英文で書き下ろされた。
西郷隆盛、上杉鷹山、二宮尊徳、中江藤村、日蓮上人という五人を代表的日本人として取り上げ、日本人の美徳を伝えている。
まだ代表的になるかどうか判らない少年少女時代のぼくらの先輩たちは、ここから原書の日本語訳の要約を始めるたが、ぼくが読んだ代表的日本人が書いた解説は、ここから二宮尊徳に着目し、独自に二宮尊徳について勉強して、その感想を書いている。
その勉強で得たものは……。
「考え方」が、経営や人生において最も大切であること。
その中でも、特に誠実さや勤勉さが大切であること。
まさに、損得ではなく、尊徳なのだ!
その尊徳は、江戸末期、篤農家として活躍していた。
篤農家というのは、実践的な農業技術や農業経営を研究し、各地で農業指導を行い、先進的農法の普及に貢献した農業経営者や農民のことを指す。
尊徳は、加えて道徳を解き、荒廃したおよそ六百もの寒村を、飢餓が襲ってきてもびくともしないくらい充分に穀物を備蓄した豊かな村に、次々と変貌させていった。
また彼は、その生涯を通じて、一日に二時間しか眠らなかったと言われるほどの働き者だった。
頑丈な身体も、そこまで働き詰めだと、すぐにボロボロになってしまう。
それだけ、人並外れた美しい心根と強い精神力を持ち合わせていたに違いない。
ここでやっと、『代表的日本人』の引用がある。
尊徳という人物が、いかに偉大で美しい心根を持っていたかを読者に理解してもらうための引用だ。
「彼(尊徳)の如き熱誠の人にとりて、如何なる事業に対しても全心を{献|ささ}げざるは、罪である」
尊徳は、「何ごとを行うにしても、全身全霊を傾けていなければ、それは罪だ」と思うような人であった。
「{禍|わざわ}ひを福ひに天ぜんもの、只一つ至誠のみ。智謀術計の及ぶ所に{非|あら}ず」
尊徳は、常に誠実な人であった。
「禍を幸福に転じるものは、ただひとつ誠のみである。どんなに頭をめぐらせ、知恵を使っても、そんなものの及ぶところではない」と言うような人であった。
「術策と政略とは彼には皆無であった。彼の簡単な信仰は{此|これ}であった。{即|すなわ}ち『至誠の感ずる所、天地も之が{為|ため}に動く』と」
尊徳は、「術策や政略はまったくなかった。ただひとつ、彼は揺るぎない信仰を持っていた。それは、自分の真心、誠心誠意は、天をも動かすということである。物事が達成できないとしたら、それは自分の誠が足りないからで、誠が伝わりさえすれば、天をも動かすことができ、必ず物事を成就させることができる」と信じるような人であった。
この解説は、数人で始めた町工場を、一代で現存する世界的な大企業に成長させた代表的日本人の自伝のなかで見つけたものだ。
その著者は、「企業経営には、権謀術数などというものは、一切必要ない。今日一日を一生懸命に生きさえすれば、未来は開けてくる。また、正々堂々と人間として正しいやり方を貫けば、運命は必ず開けてくると考えている」と、言い切っている。
なぜ、そうなるのか。
著者は、こう考えている。
「ひたむきに取り組む我々の姿に、天が心打たれ、手を差し延べてくれたのだと思えてならない」と。
尊徳も、同じようなことを言っている。
「誠を尽くすことによって、鬼神も感じ入り、同時に天地までがこれに動かされる」と。
亜種記で、先輩の{美童|ミワラ}たちは、ご先祖様が操業した大企業の社史読解に、かなりの時間を割いている。
読んでいてかったるかったけれど、この自伝で尊徳の解説の下りを読んだとき、(なるほどな)と思った。
その下りには、{斯|こ}う書かれていた。
「零細企業のそのような遅々とした歩みであっても、眼前にそびえ立っていた伝統ある大企業を、いつのまにか{凌駕|りょうが}することができた。
これは、まさに誠意に基づいて、{鍬|くわ}一本で寒村を富裕な村に変身させていった尊徳と同じことだと私は思う。
一見愚鈍に見えるほどに誠実で忍耐強い努力、このことこそが、偉大なことを為し遂げていくということを、まさに当社の歴史が証明している」
2024.4.7 配信
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発行 Ethno Fantasy 東亜学纂