MIWARA BIOGRAPHY "VIRTUE KIDS" Virtue is what a Japanized ked quite simply has, painlessly, as a birthright.

後裔記と然修録

ミワラ〈美童〉たちの日記と学習帳

一息81 ミワラ〈美童〉の後裔記 R3.4.17(土) 夜7時

#### 後裔記「秘密基地で送別会! その第一話」 少年サギッチ 齢9 ####

 いつもの{類型|パターン}。スピアが言った。「ぼく、この島出るから。*おまえ*、*どうする*?」 次。「明日、ぼくらの送別会。ぼく行くけど、*おまえ*、*どうする*?」 で、*幽霊*主催、*鳥と動物たち*が催した送別会! で、どうしたかってーぇ?!

 一つ、息をつく。

 「結局、決まらなかったなッ!」と、オオカミ先輩。
 「秘密基地じゃなかったのォ?」と、マザメ先輩。
 「それでいいと思う」と、スピアのやつ。
 {美童|ミワラ}四人衆、入江に、揃い踏み。
 四人{皆|みな}、秘密基地……廃墟を、見{遣|や}る。
 その視界の下のほうで……一羽、歩いている。
 ここでおれ、一言。
 「{立腰|りつよう}だなッ!」
 「はーァ?!」と、マザメ先輩。
 でもしっかり、{鮫|サメ}{乙女子|おとめご}の目は、前方のウミネコを、{捉|とら}えている。
 「まァ、確かに。ケツを後ろに突き出して、腰は前に前に。腹には空気を{溜|た}め込んで……。『まァ、』と言うより、『完璧!』だなッ♪」と、オオカミ先輩。
 「妊婦さんもだよねぇ?」と、スピアの野郎。
 これがズバリ、いつもの「一言多い!」ってやつ。理屈排出開始!の合図でもある。
 「はいはいはいはい……。前に出すのは腹じゃなくって、腰でしょうがァ!」と、マザメ先輩。至極、ご{尤|もっと}もォ♪

 そんな{訳|わけ}で、おれたち四人は、秘密基地へと向かっていた。
 目的は、おれらの送別会。
 〈発案〉 幽霊のおにいさん
 〈参加者〉 海辺の鳥たちと、森の動物たち
 〈お品書き〉 対話の{咀嚼|そしゃく}のみ
 以上。

 秘密基地の二階の居室は、{既|すで}に、いつになく{賑|にぎ}わっていた。
 早速、問題の発生に気づく。
 {糞害|ふんがい}!
 しかもトンビの野郎、いつにも増して、下痢気味の様子。ほかの種の鳥どもとて、程度の違いがあるだけで、どいつもこいつも、慢性の下痢だ。
 思わず、窓の外を見遣るおれ。青とも灰ともつかぬ、{如何|いか}にも{渇|かわ}いていると判る空を見て、ふと思った。

 ({嗚呼|ああ}、この島に来て、今月でちょうど、半年かァ。過去に{往|い}にやがったおれの命の半年分、この部屋にもあった恒令の「五省」じゃないけど、正にまったく、努力に{憾|うら}みなかりしか!だ。
 そういうことは、浦町を出る前に、ちゃんと寺学舎で教えといてくれよって、今にして思う……てか、言いたい! 後悔のない大努力をしろって言われたって、何を努力すればいいか考えてるうちに、半年なんか直ぐに{経|た}って、過去のどこかに消え去っちしまう。
 だのにもう、次の島。そこで努力を憾んで、また次の島ってかい! 嗚呼……情けなや、情けなや)

 幽霊のおにいさんは、まだおれには見えないけど、やっと気配だけは、五感のどいつかが捉えてくれるようになった。送別会が終わる頃に、やっと見えてくるんじゃないかなッ!
 スピアの野郎の説明によると、そのとき、おにいさんは、うつぶせ寝の体勢。無言。但し聴覚は、周囲からの刺激に反応していた。
 引き戸が半開きになった玄関から、カニ歩きで部屋の中に入ったときには、まだ鉄の寝台の上の段の床の上を、転がるようにして右を向いたり、左を向いたり、仰向けにもなってみたりして、何やら、落ち着かない様子だったそうだ。
 で、幽霊のおにいさんが選んだ、最も落ち着ける体勢が、その{俯|うつぶ}せだったという訳だ。

 やがて、それぞれの種は、居室の中に自分の居場所を確保し、そこに陣取って動かなくなった。固まったって意味じゃなくて、座り込むか、立ちすくんでるってこと。
 {静寂|せいじゃく}、{即|すなわ}ち沈静化まで、もう一歩……と、いうところで、依然、歩き回っている種が、一羽! 言わずもがな、ウミネコ。まだ{喋|しゃべ}らないけど、たぶん、こいつがあの、ウミネコだ。
 無論、名札でもぶら下げといてくれないと、カモメなんだかウミネコなんだか、見分けはつかない。

 そのときのおにいさんの様子は、例によってスピアのやつの説明によると、{斯|こ}うだった。
 ウミネコのペタペタ歩きの音というか、気配というか、{兎|と}に{角|かく}そやつの存在が{鬱陶|うっとう}しいとでも言わんばかりに、身をよじりながら、両の耳をウミネコから{背|そむ}ける努力をしていた。
 ……が、首を{捻|ひね}った一瞬、視覚までもが、ウミネコを捉えてしまった。それで、{遂|つい}に観念してしまったのか、おにいさんが、口を開いた。
 その声は、最初は{微|かす}かにだったけど、{俄|にわ}かにハッキリと、おれの耳でも、捉えることができた。
 で、幽霊のおにいさんが、{猶|なお}もペタペタと歩き続けるウミネコに向かって、{斯|こ}う言った。

 「ねぇ。
 ねーさんたちは、{日|ひ}の{本|もと}の列島の南から北まで、渡り歩いてるんだったねッ?
 どんな感想を、持ちましたかァ?」

 ウミネコのおばはん……元い。おねーはん! (また、ミャーミャー言うんだろうなァ……)と、思いきや。意外と、真面目な答えを返してきた。
 てか、(渡り**歩く**って、皮肉かい!)と、思ったおれ。
 で、おねーはんが、{応|こた}えて斯う言った。

 「{何|なん}か、学校に{居|い}るみたいやなァ。
 その、物言い!
 まァ、はい。
 答えます。
 キウシュウ{島|じま}は、異国情緒が染みついている。
 ハンシュウ島は、痛恨が漂っている。
 ホウカイド島は、異民族が{彷徨|さまよ}っている」
 おにいさんが、言う。
 「さすがは、音に聞こえた渡り鳥の{目利|めき}きですね」
 「違うよ」と、ウミネコ。
 「違う?」と、おにいさん。
 「渡り**歩いてる**ときのほうの感想を、訊いてきたんだろッ? だから、{利|き}いたのは目じゃなくって、聞こえた音を捉えた耳のほうだって答えたのさ」と、ウミネコ。
 「音ーォ?! 耳ですかァ?」と、おにいさん。
 「そうさなッ!
 飛んでるときには、左右の脳ミソちゃんを、片方づつ寝かせながら、視覚を利かせながら飛ぶ。
 でも、歩いてるときにゃ、左右両方の脳ミソちゃんを眠らせて、聴覚を利かせながら歩く。
 まァ、進化さァ♪」と、ウミネコ。
 ここでスピアの野郎、口を挟む。
 「ねぇ。
 てか……っていうか、おまえ……じゃなくて、オバちゃん……っていうか、オバちゃんたちってさァ。
 どこに行っても、そんなに、いつもいっぱい、歩いてるのォ?」
 ウミネコ、応えて言う。
 「いつもは当たってるけど、どこに行ってもってのは、外れだねぇ。北国でもたもた歩いてたら、凍え{死|じ}んじゃうじゃないのさァ!」

 ここでハヤブサ、{嘴|くちばし}!を挟む。
 {因|ちなみ}に、スピアのやつが好き勝手に付けた名前っていうか呼び名は、ここでは、無視する。
 ややこしくって、いけねーぇ!!
 てか、{既|すで}におれの頭ん中、こんがらがって、ドングリヒッチンかやしとりますがーァ!! ……(アセアセ)。
 で、ハヤブサが、言った。
 「もたもたしても生きていられるのは、おまえらヒト種くらいのもんだ。おれらの種の寿命は、短い。十年も生きれば、もう立派なクソ{爺|じじい}ぢゃ!」
 {面倒|めんどう}っちい{爺|じい}さんなんだか、生意気な{若造|わかぞう}なんだか、見ただけじゃ、{判|わか}んねぇッつーのォ!

 そのときだった。
 魔性の{鮫|サメ}{乙女子|おとめご}が、吠えた!
 「一緒にすんじゃないわよォ!
 この素っ頓狂タワシ{頭|あたま}野郎がーァ!!
 ヒト種は、もう、一つじゃないんだよ。
 あたいらは、{歴|れっき}とした自然の一部……亜種、自然{民族|エスノ}なのさ。
 覚えときなァ!
 この、すっとこタワシ{頭|あたま}どっこいがーァ!!」

 ハヤブサ、目を丸くして、マザメ先輩の顔を、じっと見ている。
 無論、素っ頓狂な顔で。
 その様子を、トンビが、不服そうな顔をして、頭を左右に振りながら、その一匹と一人を、交互に見遣っている。
 まるで、斯うでも言いたげな、元祖!素っ頓狂な顔で……。
 「素っ頓狂な顔と、まん丸い目は、おいらたち種の、専売特許だぞーォ!!」……みたいな。

 一応、ここで、断わっておく。
 送別会は、まだ始まっていない。
 てかもう、始まってんのかなァ?
 {何|いず}れにしても、長くなりそうだ。
 ……と、いうことはだ。
 このまま書き続けると、また、あの悪夢の*要約*を、言いつけられてしまう。
 「誰に?」って、そりゃアンタ、心優しい悪意に満ちた魔性のオトメっち様……えっとォ、かもしれないやん?
 でもそれは、間違いなく。
 たぶん……でも、絶対に!

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「自伝編」夜7時配信……次回へとつづく。
「教学編」は、自伝編の翌朝7時に配信です。

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その編纂 東亜学纂
その蔵書 東亜学纂学級文庫
その自修 循観院