MIWARA BIOGRAPHY "VIRTUE KIDS" Virtue is what a Japanized ked quite simply has, painlessly, as a birthright.

後裔記と然修録

ミワラ〈美童〉たちの日記と学習帳

後裔記 第1集 No.130

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_/ 2 /_/ 後裔記 第1集の子どもたち
寺学舎 美童(ミワラ) ムロー学級8名
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未来の子どもたちのために、
成功するための神話を残したい……
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_/ 1 /_/ 『亜種記』 電子書籍
亜種に分化した子どもたちの闘戦物語
全12巻、第1~2巻発売中
_/ 2 /_/ 「後裔記」 メールマガジン
亜種記の諸書、子どもたちの実学紀行
週1回、夕方5時配信
_/ 3 /_/ 「然修録」 メールマガジン
亜種記の諸書、子どもたちの座学日誌
週1回、夕方5時配信
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※電子書籍編集のための記号を含みます。
  お見苦しい点、ご容赦ください。

#### ツボネエの実学紀行「熱演ヨッコ♪ 分かれ道で命運を{賭|か}ける」{後裔記|130} ####

 ● ヨッコ先輩、熱演♪ {咄嗟|とっさ}の創作劇に、{唖然|あぜん}!
 少女学年 **ツボネエ** 齢8

 体得、その言行に恥ずるなかりしか。

 ◆◇◆
 ヨッコ先輩、熱演♪ 咄嗟の創作劇に、唖然!

 はーぃ♪
 ツボネエ斥候班、班長……ズバリ! ツボネエです。
 はいはい……(ポリポリ)。

 片や、ムロー斥候班。
 年長者に敬意を示し、川筋を上るか峠を越えるか、先に、ムロー先輩に選んでもらった……って、あたいの心遣いを強調するようなことを書きたかったんだけど、実際は、スピアの兄貴とオオカミ先輩が、峠越えの上り坂を、スタコラさっさと、歩きはじめてしまった。
 考えてみれば、ヒノーモロー島で、何度も何度も、峠越えの歩学を修めてきた二人だ。その展開は、ちょっと考えさえすれば、予想に{容易|たやす}かったんだけど……。
 で、ムロー先輩!
 その二人の後を、追い駆けたってわけ。
 するってーぇと、あたい!
 選択の余地なく、川筋の坂を上りはじめることとなった。残された二人……マザメ先輩とヨッコ先輩が、後ろからついて来る……と、当たり前が{如|ごと}く思っていたので、振り返りもせず、あたいもスタコラさっさと、早歩き♪

 少し、早歩きが疲れたかなーァ?! (「子どもは、疲れない」って言うけど、疲れるじゃん!)と、思った矢先、不意に何かを思い出したかのように、アタイは、歩を止めて、振り返った。
 誰もいない!
 ツボネエ斥候班。総員一名、現在員一名……みたいな。
 すると、待ち伏せしていたかのように、絶妙な{間|ま}(タイミング)で、直ぐ先の分かれ道になっているらしき三差路辺りから、どうにも聞きなれた声が、聞こえてきた。
 「遅いねぇ! だから*ねんね*は、困るんだよーォ♪」……と、それは、間違いなく、マザメ先輩の声。 ……ん? なんで、前からァ? すると、こんどは、後ろから……。
 「あ、すったこらせーぇの、どうかいなーァ?? ね、ツッボネーエさーん♪」 これこそが、「言わずもがな」というもの……ヨッコ先輩だァ!
 すると、次は……また、前方! 例の分かれ道。
 マザメ先輩が駆けおりて来たのとは、違うほうの道。それは、アタイから見て、右側。見るからに無愛想そうな小太りの男が、駆け下りて来る。急接近! 回避不能! ……で、その小太りのオッサンが、口を開こうとしたとき、ヨッコ先輩が、アタイの前にその{体|てい}全体を張り出し、両手を大きく左右に開いて、その小太りのオッサンに、言った。

 「あのさァ!
 管理棟の二人……{年嵩|としかさ}のほうのお兄さん、知ってるよねぇ? そのお兄さん、こいつらのズングリ丸……こいつらが乗って来た{家船|えぶね}なんだけどさァ。その中を、順繰り順繰り巡検してたんだってさ。で……さァ。それが終わって、帰ろうとしたら、なんかさァ。大事な書類を一冊、こいつらの個室に忘れてきたことに気がついたそうなんだ。
 そうさァ♪ 取りに戻れば済む話さ。
 ……それがさァ。済まなかったのさ。家船の船倉は、間仕切りしてあってさァ。こいつらの個室になってるんだってさ。で、その一つひとつに、出入り用の{上蓋|ハッチ}がついてる。
 あのさァ。『さっき、雨、降りそうだったろッ?』って言われたって、この辺は、ずっと天気良かったもんねぇ。でしょ?
 でもさ。港のほうは、どんよりと、灰色の雲が垂れ込めてたんだってさ。で、その年嵩のほうのお兄さん! 巡検最後の個室から出ると、唖然!とした。結構、かなり、家船が、揺れている……。そこで、年嵩のお兄さんが、{呟|つぶや}いた。
 『森の{長|おさ}の{牡鹿|おじか}みてぇだなーァ……暗い灰色で、巨大で、不気味だ。こりゃ、降るぞッ!』
 見ると、船倉の個室のすべてのハッチが、起き上っている。年嵩のお兄さんは、そいつらを片っ端から、ぜんぶ閉めていこうと考えた。考えたときにはもう、一つ目のハッチに手を掛けていた。すべてのハッチを閉め終わった矢先、お兄さんは、あることに気づいてしまった。それは、そこで気づいたのが何よりで、気づいただけで、(目的は、99パーセント達成した♪)って、誰でも思ってしまうような、不注意から生じる{質|たち}の、些細な失敗だった。
 ところがさッ!
 開かないんだよ、ハッチが。どれもこれも、全部。{自動施錠|オートロック}さ。……さァ、たいへん! 個室に、忘れてきたんだってさ。「メッチャ……」って、〈大事〉を最大級に修飾してもいいような、本当に大事な書類なんだってさ。しかもさ。その家船、蒸気船に改造したときに、バカみたいに頑丈に補強したらしくってさァ。どんなにでっかいハンマー持って来たって、『こりゃ、ダメだなッ!』って、すぐに判ったんだってさ。
 で、こいつらの登場ってわけさ。
 個室のハッチ、開けられるのは、その区画を割り当てられた船員だけ。『指紋認証だな。……たぶん』って、お兄さんは、言ってたんだけどさァ。指紋認証だろうが人相ニンニン♪だろうがさァ、どのみち、こいつらを家船まで連れて行かなきゃ、どうにもならないって話さ。
 だから、あたいが、引率してる。先を急ぐ。だから、あんたから今の話の感想を聴いてる時間なんてないってわけさ。悪いけど、行くわァ♪
 そうだッ!
 急いで出て来たから、『今晩は、帰って来れないかもしれない』って言ってくるの、忘れてたわァ! ねぇ、頼まれてよォ♪ 外舎に急いで行って、今のこと、伝えて来てよォ。それとも
あんた、引率のほうをやるぅ?」

 よーォ喋るわァ! このオバハン……元い。このオネエハン♪
(小太りの割には、歩くのが速いねぇ♪)と思って、{何気|なにげ}にヨッコ先輩のほうを見る。何を感じ取ったのか……ヨッコ先輩、呟くように、{斯|こ}う言った。
 「あれって……走ってるよねぇ?」
 二人のおねーさんに挟まれて、分かれ道を左に折れて歩きはじめた。そして、マザメ先輩が、言った。
 「さすがは、ヨッコ先輩だねーぇ♪ 用意周到っていうか、メッチャ先を読んでるっていうか、段取りの達人っていうかァ……」
 「何がァ?」と、ヨッコ先輩。
 「いやいや、今の話だよッ!」と、マザメ先輩。
 「{嗚呼|ああ}、今のォ? 口から出まかせ! 咄嗟の作り話さ」と、ヨッコ先輩。
 マザメ先輩、無言。
 「でもさ。取り{敢|あ}えず、外舎には戻らなくっても大丈夫ってことで、結果オーライじゃん♪」と、アケラカーンっと、ヨッコ先輩。
 「でもさァのでもさァなんだけど、言っていい?」と、アタイ。
 「面倒臭いから、そういうことは、訊かないでくれるーぅ!!」と、マザメ先輩。
 「じゃあ、言う。あのデブッチョのオッサンが、管理棟に連絡したら、どうするのォ? 嘘だって、バレちゃうじゃん!」と、アタイ。  
 「それは、無いねぇ♪ だってあいつら、『定時命!』だもん」と、ヨッコ先輩。
 {暫|しば}し、沈黙。
 「テイジ……ってぇ?」と、アタイ。
 すると、ヨッコ先輩が、親切か否かは別として、丁寧に応えてくれた。

 「あいつらの仕事は、朝はじまって、夕方に終わるんだ。テイジってのは、その夕方のことさ。そのテイジに、さっさと帰っちまうことを、定時退社。テイジを過ぎてからも仕事をすることを、残業って言うんだ。あいつら、残業が、大嫌いでさァ。
 管理棟に連絡せずに、外舎に行って、あたいに言われたことだけやれば、ギリギリかもしんないけど、一応は、テイジに帰れる。それを、テイジの間際になって、管理棟に連絡なんかしてみなさいよッ! テイジは{疎|おろ}か、明日の朝になっても帰れないかもしれない。
 そんなこと……。あの、走ってるんだか歩いてるんだかわけわんねぇようなノロマなオッサンが、そんなハイリスクで骨が折れるようなことを……しかも、自らそんな最悪の結果を招くようなことを、すると思うかい?」

 マザメ先輩の{脚|あし}は、自分の意思で、勝手に動いている。マザメ先輩の頭は、{仰角|ぎょうかく}七度。口が、少し開いている。今にも、泡が出てきそうだ。
 アタイが、言った。
 「ねぇねぇ。何考えてんのォ?」
 「この辺にも、人がいっぱい住んでたんだろうなーァ……ってさァ。ところどころに、集落があてさァ。みんな、{好|い}い人ばっかでさァ。みんなさァ。一つ訊けば、あることないこと、十も二十も、どんな話題でもお構いなしで、いっぱいいっぱい、教えてくれる。(そんな村が、本当にここに、存在してたんだろうなーァ)って、思ったってわけさァ」

 (管理棟のお兄さんたちも、テイジ退社なのかなァ……)と、何気に思うアタイだった。

 **{格物|かくぶつ}**

 人の一生の中で、命運を分ける「ここ一番!」ってときは、ほんの数時間……否、ほんの数分……否、ほんの数秒という短い時間が、たったの一回だけ……たぶん、それが、現実……たぶん、そこで変われるかどうかが、アタイらミワラが目指している〈知命〉ってもんなのかもしれない……不一(←これ、なんか、ムロー化してるーぅ?!……あーァ、ヤダヤダ!) 
 
_/_/_/ ご案内 【東亜学纂学級文庫】
Ver,2,Rev.11

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