MIWARA BIOGRAPHY "VIRTUE KIDS" Virtue is what a Japanized ked quite simply has, painlessly, as a birthright.

後裔記と然修録

ミワラ〈美童〉たちの日記と学習帳

後裔記 第1集 No.144

#### マザメの{後裔記|144}【実学】またもや離散!【格物】潰された心の{強|したた}かな秘策 ####

 体得、その言行に恥ずるなかりしか。
 学徒学年 **マザメ** 齢12

実学
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またもや離散!

 スピアの然修録、冗談にならないっていうか……笑えない。
 養殖ヒト変種?
 まァ、そこまでやれば完璧だろうけどさァ。さすがに、人間の養殖まではしないと思う。だって、猿で充分じゃん! しかも、知能の高いチンパンジーなら、養殖ヒト変種よろしく、完璧ってもんさァ♪
 あいつら……うん、間違いない。
 絶対、やるねッ!

 この星……最後の平和なひととき……嗚呼、森で寝たい!
 底抜けに生真面目なテッシャンが、言った。
 「現実的な話だけど。こいつ……ズングリ丸、いつまでもここに{繋|つな}いでおくわけにもいかないでしょう。港湾管理所は、地方行政です。行政っていうのは、都合が悪くなると、何を{為出来|しでか}すか{判|わか}りません」
 (クーラーボックスのオッチャン……って言ってくれれば、直ぐに判るのにーぃ!!)と、つい思ってしまうモクヒャさんが、応えて言った。
 「それは、わしが……いや、おれがァ……あやァ! うん。
 わしが、なんとかしよう♪
 ひとまず、フリートに回航だ」
 「また、レース用のかっちょいいヨットに乗って来るのォ?」と、ツボネエ。
 「いや、レース艇のエンジンは、{飽|あ}くまで補助的な役割でしかない。ズングリ丸を{漕|こ}いで行くなんて、とんでもないぜぇ!」と、どの角度から見ても日焼けしてるジュシさん。
 「養殖、やってるんですよねぇ……みんな。漕ぐの、プロじゃん!」と、サギッチ。
 「{生業|なりわい}の{糧|かて}として{要|かなめ}である船を、そう{易々|やすやす}と奉仕作業になんぞに使えんだろう!」と、ムロー学人。ご{尤|もっと}もーォ♪ でも、ムロー先輩が言うと、無意味に{堅|かた}ッ苦しい!
 「キャタピラー製の、でっかいエンジン積んでるから、ぼくの船を持って来ましょう。うちの{筏|いかだ}は、鉄で重いからァ♪」と、テッシャン。
 「じゃあ、おまえに任せたッ♪」と、モクヒャさん。
 「任せるんかい!」と、オオカミの野郎。
 「苦渋の選択であろう……たぶん」と、ワタテツ先輩。
 「てかさァ。なんでフリートなのさァ。フリートは、艇団が、おねんねするところだろッ? 廃船……とまでは言わないけど、作業船にでもするつもりかい?」と、なんか……あたいと同じ{匂|にお}いがするファイねーさんが、言った。
 「この辺りの造船所は、どこも地方行政の{子飼|こがい}だ。頼んでも無いのに解体されっちまうのが、オチってもんさァ」と、タケゾウのオッチャンが、言った。
 ファイねーさん……考えが浅いところも、あたいと同じ匂いがする!
 「じゃあ、どうすんのよォ! 真面目に考えてんのかよォ……マジでぇ!」と、サギッチ。
 「マジじゃないことを考えるほど、{最早|もはや}わしらの余命は、長くはない」と、タケゾウのオッチャン。
 「行間、読めたかァ? いちいち、おまえらに説明してる暇なんて、無いってことさァ!」と、ジュシさん。少々、ムカつく。行間は、めっちゃくそムカつくーぅ!!
 「ムローくんと、ヨッコくんと、ワタテツくんの三人だけ、ぼくらと一緒に、フリートに行って欲しいんだけどォ……。しっかり、働いてもらうことになるとは思うけどォ!」と、テッシャン。
 「他の{餓鬼|ガキ}どもは、どうすんのさァ!」と、サギッチ。
 「おれたちの家に、一人ずつ、ホームステイだなァ♪ ちょうど、五人ずつじゃないかァ!」と、モクヒャのオッチャン。
 「よし。じゃあ、ここは、{恨|うら}みっこ無しで、{斯|こ}うしよう。
 わしの家には、オオカミくん。
 モクヒャん{家|ち}には、マザメくん。
 テッシャン家には、スピアくん。
 ジュシん家には、サギッチくん。
 ファイん家には、ツボネエくん。
 まァ、家庭料理の当たり外れは、乱高下っちゅうところじゃから、何を出されても黙って食うしかないが、どの家も、気兼ねは{要|い}らん。異論は、辞退してもらおう。{如何|いかん}せん、わしらの余命は、短いでなァ♪」と、もうすぐ死ぬらしいタケゾウ{爺|じい}が、言った。
 ツボネエは、既に、大はしゃぎモード♪
 スピアとサギッチは、目が泳いでいる。
 あたいは不満で、どうやらオオカミは、不服らしい。
 オオカミの野郎が、独り{言|ご}ちた。
 「他人のお情けに、甘んじてるバヤイかよォ!
 まだおれたちは、知命前の身だ。指令だろうが宿命だろうが、なんだっていいが、そんなもんに従う義理はない。義理があるのは、一族の先人{先達|せんだつ}くらいのもんだ。ただ血に{順|したご}うておれば、道理を誤ることはない。それが、自然ってもんだろがァ! そうやって、おれたちは、自然界で、生き延びてきたんだ」
 と、オオカミの野郎が、そこまで言った……そのときだった。
 「ぼく……お世話になります」と、スピア。
 「宜しくお願いします」と、サギッチ。
 「今晩、何食べるのォ?」と、ツボネエ。ファイねーさん、聞こえなかったふりーぃ♪
 「スピアくんとは、いろんな話ができそうだねッ♪」と、テッシャンが、言った。

 さっきから、ヨッコ先輩が、黙ったままだ。
 (この女、また変わろうとしてるーぅ?!)と、{何気|なにげ}に思ってしまうあたいだった。
 
【格物】
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潰された心の強かな秘策

 人生、思い通りにはならない……。
 これ、あたいの妄想。
 人生、言葉通りにはならない……。
 これ、オオカミの野郎の妄想。

 あたいの心は、「思い」の重みに、押し潰された。
 オオカミの野郎の心は、「言葉」の重みに、押し潰された。

 {何故|なぜ}、この世は、これほどまでに乱れてしまったのだろう。
 改めて{唯識|ゆいしき}を、学習してみた。

 乱れはじめた頃から人間は、皆一人ひとり、あまりにも外にばかり心を流散し、お金に名誉、地位だの利便だのと、外に外へと、己の幸せを追い求め続けてきた。
 自分を本当に幸せにしてくれるものは、お金でも地位でも名誉でも利便でもない。では、権力だろうか。無論、違う。それは、幸せどころか、破滅へと導く。本当に大切なものは、個々各々の心の中にしかない。そのことに目覚めるべきときに、人間は、{終|つい}に目覚めることができなかった。
 そのとき目覚めて、その「本当の幸せ」の獲得を目指して、生き方を大きく変えなければならなかったのだ。

 本当に……もう、手遅れなのだろうか。

 百数十億年前に、ビッグバンってもんが起きて、宇宙が生まれた。その宇宙は、今も、膨張し続けている。確かに、それは、事実なんだろう。でも、あたいが実際に、それを体験したわけじゃない。
 ところがさッ!
 あたいの心の中のビッグバンは、宇宙のそれほどでっかくはないかもしれないけど……でもそれは、実際にあたいが体験した、正真正銘の真実だ。しかも、そのビッグバンは、毎日のように起きている。その証拠に、潜在意識が映し出した夢から覚めると、「現実」というまったく心の想像が及ばないような不思議な異世界の中に、放り出されてしまう。
 その異世界では、自分と他人とが{対峙|たいじ}し、今日やらなければならないことに{縛|しば}られ、何者かが、あたいの心を押し潰そうと暗躍している。
 矢庭に、何かを考える。それが、*言葉*となる。
 {俄|にわ}かに、悩む。それが、*思い*となる。
 そして……この世のすべてが、対立する。

 そんな「言葉」や「思い」なんかに潰されない強い心を養わなければ、「私」という生きものに未来はない。ビッグバンによって出現した「この世」という現実の世界は、ビッグバンが起きる前から、そこにあったのだろうか。そんなはずはない。心のビッグバンが起こったから、そこに出現したのだ。
 ……であれば、己の心が欲するような世界を、出現させればいいではないか。「はーァ?! 非現実的……正に、{戯言|たわごと}だッ!」と、言われるのであれば、それで構わない。但し、その代わりに、心が欲するような世界になるように、大努力して{戴|いただ}くしかあるまい!

 毎朝、毎朝、心にもない理不尽で不条理な現実に振り回されながら、それを毎日毎日繰り返して、やがて老いて死んでゆく。正に、泥沼……なら、まだマシなほうだ。{殆|ほとん}どは、{肥溜|こえだ}めだ。そこから、なんとしても、抜け出さなくっちゃいけない。
 そんなことは、判っている。では、どうやってぇ?
 目覚めたとき、肥溜めの世界が、既にそこにあったわけではない。目覚めた瞬間から、悪意に満ちた言葉や思いによって、世界は、次々と出現するのだ。それが、対立の世界だ。では、どうするか……。
 目覚めたときには、まだ何もなかった……であれば、そこに、戻ればいい。何もない、真っ白の生の世界へ。その、「生の世界」へ戻る力が、唯識で言うところの、「念、{定|じょう}、{慧|え}」だ。

 「念」とは、明記して忘れざる力。
 ……心の中にある影像を明瞭に記憶して、それを忘れることなく、いつまでも思い描く。それを、維持し続ける力のこと。

 「定」とは、静まり定まること。
 例えば、坐禅を組むなどして集中していると、心の中の対立が消えて、静まり定まった心が現れてくる。

 「慧」とは、あるがままにある世界。
 定心……「定」によって静まり定まった心の中は、言葉も思いも、消え去っている。そこに、まだ何もない、あるがままの世界が、映し出される。

 この「念」「定」「慧」が、繰り返し心の中に起こるように錬磨しているうちに、本当に素晴らしいものを、己の心の中に獲得することが出来る。これこそが、本当に大切なもの……そう、幸せなのだ。
 この「大切なもの」を獲得する方法とその実践のことを、{瑜伽|ゆが}という。{所謂|いわゆる}これが、「ヨーガ」というやつだ。

 唯識というのは、三世紀ごろに生まれた古い思想だけれども、科学性と哲学性と宗教性という三つの面を、兼ね備えている。これは、世界でも{稀|まれ}だ。

 {最早|もはや}、科学だけでは、幸せにはなれない。哲学だけでは、誰も変われない。宗教だけでは、己が行動しない。瑜伽の三面が合わさって初めて、「まだ、間に合う♪」……のだ。

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寺学舎 美童(ミワラ) ムロー学級8名

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 東亜学纂学級文庫★くまもと合志
 東亜学纂★ひろしま福山