MIWARA BIOGRAPHY "VIRTUE KIDS" Virtue is what a Japanized ked quite simply has, painlessly, as a birthright.

後裔記と然修録

ミワラ〈美童〉たちの日記と学習帳

後裔記 第1集 No.142

#### ヨッコの{後裔記|142}【実学】置き去り{民族|エスノ}【格物】奇正に{溺|おぼ}れる ####

 体得、その言行に恥ずるなかりしか。
 門人学年 **ヨッコ** 齢15

実学
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置き去りエス

 (あたいは、絶世の美女じゃないんかい!)と、思ってムッ!っとしたのも{束|つか}の間……(そっかァ。女を感じちゃってるのかァ……)って、マジ嬉しくないしィ!
 {閑話休題|まァ、それはそれ}。

 (若い赤{鷲|わし}ーぃ??
 ぅん?
 ……元い。
 赤い{若鷲|わかわし}ーぃ?!
 てか、どっちゃでもいいやァ!)

 命を狙われたかと思えば、次は能天気なオッサンたちに、喰えない女! 挙句は、意味不明のワシ!
 まァ、そのトリ野郎が敵にせよ味方にせよ、鳥たちとの談議が好きなスピアに交渉を任せて、あたいら年長組は、どんな手段を使ってでも、この{危|あや}うい文明{民族|エスノ}の島から一刻も早く脱出できるよう、手立てを算段しなければならない。
 なーんてことは、{解|わか}っちゃーァいるんだけんどねッ♪ でも、この島……クラースメン島ってさァ。なんか、神秘的で……てか、もっと何か、「スッゲーぇ!!」ことが起こりそうで、去り{難|がた}いんだよね。こんなことを書いちゃうとさァ……。
 ムロー先輩は、きっと、{斯|こ}う言う。
 「世の中を{舐|な}めてると、大惨事を引き起こすぞッ!」
 で、ワタテツの野郎は、必ず、斯う言う。
 「{戦|いくさ}が近いんだ。おまえ! もう、{児戯|じぎ}に類する悪ふざけをするような歳でもあるまい。そろそろ、いい加減、自覚しろッ! てかおまえ、無知運命期に入って、なん年目だァ! イヒッ♪」
 で、(はァ? おめーぇに言われる筋合いはねぇし、おめーにだけは、言われたくないッつーのォ!)と、きっと思う……あたい。たぶん♪

 麦コーン酒に対する抗体を持たない中低学年の{餓鬼|ガキ}どもが、どうやら無防備な昼寝症候群に病んでしまいそうな兆候を見せてっから、ここは、{仕来|しきた}りの旅で修羅場を{潜|くぐ}ってきた学人学年と門人学年が、「シャキーン!!」としなきゃねーぇ♪ ……と、思う。
 赤い若鷲のことを口走った四角四面の頭をしたテッシャンが、睡魔と戦う「ど阿呆どもーォ!!」を{余所|よそ}に、ボソボソと独り{言|ご}ちるように、語りだした。

 「誰にも言ってなかったんだけど、ぼくは、大工になる前……てか、その前の仕事のもっと前、大学の研究室に{暫|しばら}く残って、民俗学や人類学で合点がゆかないところを……まァ、大したことじゃないんだけど、探求を続けてたんだ。
 で、その……赤い若鷲の話なんだけど。
 山から、若鷲が、下りてくる。
 血潮のように、真っ赤に染まった青年の鷲が、一羽だけで……。
 それは、次の天地創造の、合図なんだ。
 天地創造を左右……というか、決定づける大動乱が、何年か、十数年か、数十年後に、起こる。
 その大動乱が終結する年は、{判|わか}ってる。
 それは、七の倍数の年。
 でもそれが、その集結のなん年前に始まるのか……{将又|はたまた}十数年か数十年も前に始まってしまっているのか……{何|いず}れにしてもそれは、判らないんだ。
 君たち自然エスノは、その大動乱で、文明エスノと{闘戦|とうせん}することを天命として定め、それを知命として心得ることによって、君{等|ら}ミワラは、タケラとなる。
 同時にそれは、立命期から運命期への転機でもある。
 立命した君等ミワラは、タケラとして、運命期を歩む。
 ただ天命に向かって、脇目の一つも振らず、まっしぐらに突き進むという{訳|わけ}だ。
 違いますかァ?
 どいつもこいつも、{愚|おろ}かだッ!」

 その愚かなガキどもが、その「愚か」という言葉に反応して、潜在意識が引っ込んで、{現|うつつ}の世界へと出戻って来てしまった。
 (寝てりゃーァいいのにぃ! あと、十年っくらい♪)と、思ったあたい。
 シカクシメン!のテッシャンが、ゆっくりとした動作で、麦コーン缶の栓を開けた。
 スピアが、言った。
 「えっとーォ!!」
 「七〇点かなァ。{甘々|あまあま}でーぇ♪」と、サギッチ。
 言わずもがな、意味不明!
 「そこまで判ってるんなら、生かしてはおけないだろうな。おれたち自然エスノを……」と、オオカミ。
 「あたいだったら、永眠導入剤、たーっぷり{盛|も}っとくわねぇ♪ これと、これと、それからこれと……あと、これにもねぇ♪」と言って、自分の口の中を指差すマザメちゃん! さすがは、{露骨|ろこつ}ねッ♪ (そして、お下品!)
 「自然エスノがァ……」と、スピア。
 そこで言葉を切ると、ゆっくりと、顔を上げた。(いよいよ、{喋|しゃべ}りだすんだなァ! こいつ……)と、思って……{嗚呼|ああ}、観念するあたい。
 「自然エスノがァ……みんながみんな、文明エスノの皆殺しを願ってるっていうかァ……目指してるってわけじゃあ、ないっしょ? でしょ? ホモ種が、三つの亜種に分裂した。そのうち二つの亜種が、{対峙|たいじ}してる。でも、一番恐ろしいのは、どっちとも対峙していない、残りの一つの亜種……ぼくは、そう思う」と、スピア。
 意外と、短かった。でも、短くても、やぱりこいつが言うことは、いつも意味不明!
 「確かに……」と、ムロー学長!
 「俺も、そう思う」と、ワタテツの野郎!
 あたい、解らないんだけどーォ……。

 「確かに、文明エスノってさァ。間抜けなところ、あるよな。薄々だとしても、敵だって判ってる{奴|やつ}らを、軟禁に留めとくんだからなッ!」と、オオカミくん。
 「そう思ったから、ぼくらを電脳{鴉|ガラス}で襲撃したんでしょ?」と、サギッチ。
 「なんで、そんな七面倒臭いことすんのさァ! あたいだったら、半自動小銃で、ダダダダダ・ダーン!って、皆殺しさァ♪」と、マザメちゃん。
 (マザメちゃんって、皆殺しが、好きなのねぇ♪)と、思ったあたい。
 「なんで自動小銃じゃなくて、半自動小銃なんだァ?」と、ワタテツの野郎。まァ……あたいも、そう思った。
 「だって、自動小銃なんて、見たことないんだもん!」と、マザメちゃん。
 「てか、ハン自動ショージューは、見たことあるってことォ? ……てかさァ。ハンとか、ショージューとかって、なにぃ?」と、ツボネエちゃん。
 (まァ、当然の疑問だねぇ♪)と、思ったあたい。
 「マザメちゃん……あんた、{凄|スゴ}いよッ!」と、{渡哲|ワタテツ}サングラスの若い女……ファイが、言った。
 「文明エスノが、海上ジェータイを制圧したときに奪ったのが、半自動小銃ってわけさァ♪」と、日焼けした青年、ジュシ。
 「ジェータイってぇ? アタイが知らない言葉ばっか使わないでよねーぇ!! 禁止、禁止ーぃ!!」と、ツボネエ。相当……怒ってる……んだけど、{何故|なぜ}か、カワユイ♪
 「和のエスノの軍隊ですよ。奴らは、軍隊も、電脳{鴉|ガラス}で襲撃したんです。つまり、{戦|いくさ}になる前に、兵士を毒殺したんです」と、クーラーボックスに片{肘|ひじ}をついて、リラックスモードのモクヒャさん。
 「ぼくらは、死んでないけどォ……」と、スピア。
 (そうよねぇ!)と、思ったあたい。
 すると、内容物が激減して風に{戦|そよ}がされているレジ袋を、依然! 大事そうに{傍|かたわ}らに置いているタケゾウさんが、口を開いた。

 「当然の疑問ですね。
 君たちが吸わされた毒ガスは、クロロアセトフェノンと言って、精々{仄|ほの}かにリンゴみたいな臭いがしたくらいで、電脳鴉が毒ガスを撒き散らしてるなんて、そのときは気づかなかったんじゃないですかァ?
 でも、{直|じき}に涙が出てきて、眠くて{堪|たま}らなくなったんじゃないのかなァ?
 ぼくら日本人が大敗した{戦|いくさ}……{聖驕頽砕|せいきょうたいさい}でも使われていた、昔からある毒ガス……。
 {所謂|いわゆる}、催涙弾のようなものです。
 対して、奴ら文明エスノが、海上ジェータイの兵士たちに使った毒ガスは、ホスゲンって言ってね。
 これも、精々、干し草みたいな臭いがする程度なんで、直ぐには、『やられたーァ!!』だなんて、思わない。
 でも、{直|じき}に、死んじまう!
 喉や気管支に強い刺激を感じたかと思うと、肺が障害を起こして、絶命してしまうんだ。
 これも、俗に言うなら、「窒息弾」……ってところかな。
 これも、聖驕頽砕で実際に使われていた毒ガスなんだそうだ」

 あたい、思ったんだけどね……っていうか、思ったんだけどさァ! あたいら自然エスノだけが、置き去りにされてる……って、思う。対峙してる張本人が、置き去りにされてる……って、なんか{可笑|おか}しい話なんだけどさァ。
 タケラたちは、口を揃えて……みんな、斯う言う。
 「俺たちが、和のエスノの人たちを、護ってきたんだ。これからも、俺たちは、和のエスノの人たちを、護り続けなければならないんだ。俺たちが護ってあげないと、和の亜種は、亡びる。俺たち亜種の原点……源流は、和の人たちなんだ。{絶|た}やしては、ならぬ。決して、和のエスノの血統を、絶やしてはならんのだッ!」……と。

 でも、本当は、護られてきたのは、和のエスノの人たちじゃなくて、あたいら、自然エスノの人間たちなのだ。
 (たぶん、絶対に、間違いない)……と、あたいは、そう思う。
 たぶん♪

【格物】
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奇正に溺れる

 我ら{日|ひ}の{本|もと}の国*最古の*兵書……その『闘戦経』に、斯うある。

 軍なるものは、{進止|しんし}有りて奇正無し。

 {勝|すぐ}れた軍隊は、あれやこれや奇策を練るものでは無い。
 進むか! {将又|はたまた}、止まるか!
 そういった、大きな判断こそが、大事なのである。
 ……と、そんな意味だそうだ。

 まさに……今!
 あたいらが、心得るべき、{玉語|ぎょくご}だと思う。

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寺学舎 美童(ミワラ) ムロー学級8名

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未来の子どもたちのために、
成功するための神話を残したい……
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 東亜学纂学級文庫★くまもと合志
 東亜学纂★ひろしま福山