まえがき
わたしは、テレブ。
七十六才。
{美童名|みわらな}は、サーレ。
五十八年前、ズッケロさんとペーペとわたしの三人で、{仕来|しきた}りの旅に出た。
そのズッケロさんが、亜種記を編んだ。
十四年前のことだ。
ズッケロさんの{武童名|たけらな}は、イエロダ。
いずれ、ペーペも、亜種記を編むことだろう。
ペーペの武童名は、コールポ。
早くしないと死んでしまうだろうに……まァ、あいつのことだ。
どうにかするだろう。
なぜなら、わたしたち三人は、約束したのだ。
我ら自然{民族|エスノ}の約束は、絶対だ。
なぜなら、我々自然{民族|エスノ}は、自然の一部だからだ。
イエロダは、{美童|ミワラ}たちの後裔記を{羅列|られつ}する形で、亜種記を編んだ。
然修録も、{然|しか}り。
後裔記と然修録を、交互に並べたのである。
そうすることが、一番手間が省けると思ったのだろう。
思ったら、検証する前に、先ずは行動。
それが、我らズッケロ学級三人の常であった。
それが、どんな{窮地|きゅうち}を招くか、一番胸に響いているはずのイエロダが、またやってしまったのである。
早々に、第二版。
少年少女たちの後裔記と然修録を、大幅に書き直した。
後裔記は、{云|い}わば日記、然修録は、云わば学習帳である。
続けて、第三版。
先ず、後裔記と然修録を、別冊にした。
さらに、またまた、後裔記と然修録を、書き直した。
この第三版で、やっと、読むに{堪|た}えるギリギリぎっちょんちょんに達したのである。
なのでわたしは、最初から、後裔記と然修録は、別冊にしようと思う。
幸い、ヒト種の分化による内乱は激しさを増し、{美童|ミワラ}たちも闘うほうが忙しく、イエロダさんが編んだ十四年前の{美童|ミワラ}たちに比べると、然修録の数はずいぶんと少ない。
幕末志士が書いたような難しい漢字や古典的な表現も、すっかり影を潜めてしまったようだ。
書くなら、今しかない。
ある少年と出逢って、そう思った。
エセラ……それが、彼の美童名だ、
わたしたち三人は、寺学舎に通い、{美童|ミワラ}と呼ばれていたころ、「ズッケロ学級」と呼ばれていた。
イエロダが編んだ{美童|ミワラ}たちは、「ムロー学級」と呼ばれていた。
だからわたしも、彼らを、「エセラ学級」と呼ぶことにした。
最後に、わたしの編集方針を、改めて書き添えておく。
後裔記は、羅列しない。
後裔記を諸書として、物語仕立てで編集する。
然修録は羅列するつもりだが、後回しの別冊とする。
さァ、物語のはじまりだ。
マイペースで編みたいし、結果もそうなるとは思うが、ペーペ……元い、コールポのやつ、あやつはきっと、わたしが脱稿するまで、何もしないに違いない。
わたしがサッサと仕事を片付けないと、ペーペのやつ……コールポが、ヨボヨボのヨレヨレになってしまう。
それは、我らの約束を{反故|ほご}することに他ならない。
それだけは、絶対に許されない。
友との約束は、絶対なのだ。
もしその約束が、「ヒト種を、絶滅させてはならない」というものだったとしたら、それも約束だから、絶対にそうしなければならない。
我ら自然{民族|エスノ}の大先人たちよ。
まったく、難儀な習わしをつくってくれたものである。
では、本当に、はじめよう。
物語の、はじまりだ。
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発行 東亜学纂
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A.E.F. Biographical novel Publishing