MIWARA BIOGRAPHY "VIRTUE KIDS" Virtue is what a Japanized ked quite simply has, painlessly, as a birthright.

後裔記と然修録

ミワラ〈美童〉たちの日記と学習帳

然修録 第1集 No.162

#### 世界最強の{美徳|バーチュー} ワタテツ {然修録|162} ####

 {会得|えとく}、その努力に{憾|うら}みなかりしか。
 学人学年 **ワタテツ** 青循令{嗔猪|しんちょ}

 一つ、どうしても心配なことがある。
 俺たち自然{民族|エスノ}は、心で負けてしまうのではないか。
 「三つの亜種の中で、一番心が強いのは、どの亜種?」と問われたら、和の{民族|エスノ}はもちろん、文明{民族|エスノ}のほとんどの人たちも、「自然{民族|エスノ}だッ!」と、答えることだろう。

 だから、文明の人たちは、そんな我ら……自然{民族|エスノ}を怖がり、亡ぼそうとしている。
 和の人たちはというと、そんな俺たちに護ってもらうことを期待して、我ら自然{民族|エスノ}に絶大なる協力を{惜|お}しまない。

 心の強さという点では、モクヒャさんに連れられ、ヨッコと一緒に訪れたこのイタリアの人たちのそれは、恐らく、ヨーロッパ随一ではないだろうか。
 それに引き替え、まだ子どもとは{云|い}え、自然{民族|エスノ}の選ばれし精鋭である我ら{美童|ミワラ}は、先輩{武童|タケラ}に導かれ、離島疎開の{挙句|あげく}、海外へ脱出!
 その、どこがいけないのかーァ??
 まったく、いけてないではないかッ!

 俺たちの心の中に、(ラッキー♪)と思う気持ちは、なかっただろうか。
 {武童|タケラ}の先輩たちは、我らムロー学級八名を導き、俺たちが行く手の危機を乗り越えられるように、我が身の危険も{顧|かえり}みず、折々、俺たちの命を救ってくれた。
 よほどの{訳|わけ}あっての決断と覚悟だったに違いない。
 だのに俺たちは、心のどこかに、旅行気分のような甘さを{拭|ぬぐ}いきれないまま、オーストラリア、イタリア、スウェーデンデンマーク、オランダの五か国に散ってしまった。
 そして、俺たちをアテンドしてくれた{武童|タケラ}タケゾウ組の五人は、俺たちを置いて、一人、また一人と、次々に祖国{日|ひ}の{本|もと}へと帰って行く。
 戦禍へと突き進む未来で、選ばれし{美童|ミワラ}となるであろう{子等|こら}が、戦いで命を落とさぬように、今から出来る限りのことを{為|な}すがために……。

 {戦|いくさ}は、心が強いほうが勝つのだ。
 七年間の循令の三つ目、青循令が始まる年……その齢、14。
 {古|いにしえ}の{美童|ミワラ}たちが、{武童|タケラ}となった歳だ。
 その歳を過ぎても、俺も、ムローさんも、ヨッコも、{未|いま}だ*知命*に到っていない。
 {則|すなわ}ち、{武童|タケラ}となって{武童名|たけらな}を名乗るべき歳なのに、未だ、{美童|ミワラ}のままということだ。
 {何故|なぜ}かッ!
 その答えは、今ならもう、考えなくても{判|わか}る。
 心が、弱いからだ。

 そこで、心の強さを武器にして、{日|ひ}の{本|もと}の企業戦士として、心に描くままに願望を実現していった偉大なる{先達|せんだつ}、稲盛先生の著書を読み、その感想を書き連ねてみた。

 心が強いとは?
 すべてが、心に描いたとおりになる。
 なかなか、そうはいかない。
 もしそれが、科学的に実現されるものだったら、人間は、とうの昔に空を飛んでいるだろうし、{蟹|カニ}は、堂々と胸を張って、足を前に前にと繰り出して歩いていることだろう。
 科学では自由にならない、なかなか実現しない事を、「信じろ、信じろ」と言うのは、それはもう、新興宗教の域だ。
 親切心からくる励ましの「信じろ!」という言葉が、何やら*きな臭く*さえ思えてくる。

 でも……。
 (心に描いたとおりになりたい)
 (夢を叶えたい)
 (目標を達成したい)
 という願望は、誰の頭の中にも、必ず存在している。
 そんな、{虚|むな}しさの{塊|かたまり}のような願望を、科学と呼べる
域にまで引き上げ、確実に具現化させるためには、何が必要で、どれが{無駄|むだ}だたったり不要だったりするのだろうか。

 その……答え。
 心に描く思いが、強烈であること。

 但し、その強烈さは、持続しなければ、意味が無い。
 言い換えると、「心の底から、そう願う」ということ。
 (何がなんでも、そうなるんだァ!)と、強烈に、絶え間なく、その通りになるまで、ずっとずっと、そう思い続けるということだ。
 それは、常識で考えれば、「百パーセント不可能だ」と言い切れるようなことかもしれない。
 例えば、京都の工場の一角を間借りしている小さな町工場を、「京都一の会社に!」 次に、「日本一に!」 その次は、「世界一のリーディングカンパニーにしよう!」……と、言っているようなものだ。
 ところが、それは、実現してしまう。
 {何故|なぜ}、そんな非科学的で宗教的な願いが、実現してしまうのだろうか。
 それは、世界一を目指した町工場の社員たちが、その強烈な思いの中に{浸|つか}かっていたからなのだ。

 では、強烈に願いさえすれば、なんでも実現できるのかッ!
 残念ながら、そうではない。
 もう一つ、大事なことがある。
 それは、何を心に描くかだ。
 自分自身の私利私欲を目的にした成功は、永続しない。
 {自我|エゴ}のためだけの個人的な私利私欲の願望を、どんなに強烈に思い描いたところで、一時的な成功はあったとしても、結局は、思い通りにはならない。

 冷静に、*現実*というものを、考えてみる。
 そうなのだ。
 心は、自由にならない。
 (こう思え! こう考えろ! こう動け!)と命じても、なかなかその通りには、{順|したが}ってくれない。
 他人や自分から、強引に思い通りにさせようとすると、心は、反乱を起こす。
 乱されたその心は、{脆|もろ}くも、{俄|にわ}かに、{病|や}んでゆく。
 そもそも、我ら動物の心は、自分が生きるために喰らい、種の存続のために交尾をし、子を産む……ただ、それだけを思う器官なのだ。
 そもそも、俺たちの身体の中に君臨している心が、目的として思い描いているものは、食う事と、*まぐあい*をする事……その、二つだけなのではないだろうか。
 それが、神様から授かった心?
 利己的で、自分本位で、自己中心的…….元い。
 もっと、好意的な言い方を、探してみよう。
 精々、主観的?
 形容はどうであれ、それは、{斯|こ}う呼ばれている。
 *本能の心*。

 「じゃあ、ヒト種って、{獣|けもの}と一緒じゃん?」
 と、思うのも当然だ。
 でも、そうはなっていない。
 生まれ持った美質に栄養分を与えると、グングン育つからだ。
 その栄養分とは?
 一日一日、一年一年、場数を重ねるなかで、学問を修め、修羅場を潜り、教養を積んでゆくこと。
 それが、美質……美徳のための、何よりの栄養分となる。
 すると、まだ幼かった美質が成長し、本能の心を超えてしまう。
 それが、*理性の心*だ。

 理性は、科学的であり、道徳的である。
 自我の私利私欲に{囚|とら}われた主観から遊離し、己自身を{鳥瞰|ちょうかん}し、物事を客観的に{捉|とら}え、分析し、推理し、推論を打ち出す。
 これ{正|まさ}に、科学ではないかッ!

 「客観的に分析したら、損得がハッキリするから、打算的になるじゃん?」
 そうかもしれない。
 でも、理性の科学は、そうはならない。
 理性の心に、{更|さら}に栄養を与え続けると、理性よりも上の世界へと、格が上がるのだ。
 それが、宗教心。
 お{釈迦|シャカ}様や大乗仏教の教えで言うところの、慈悲の心。
 キリスト教で言うところの、愛。
 東亜の哲学で言うところの、良心。
 {何|いず}れにしても、{高邁|こうまい}で、豊かな精神のことだ。

 肌の色も違い、一生会うことも無く、その存在すらも知らないような人……でもその人は、貧困に苦しんだり、争いから逃げ惑ったりして、寒さに震え、暑さに{萎|な}え、飢えに直面して生死の境を{彷徨|さまよ}っている。
 そんな人を、心の底から助けたいと思い、どうすれば助けてあげられるかを本気で考えているような人の心は、想像では計り知れない、果てしない強さがある。
 そんな強い心があるから、人間は、優しくなれる。
 心が弱く、弱いが{故|ゆえ}に優しくなれないような俺らでき{損|そこ}ないの{美童|ミワラ}が、「{戈|ほこ}を{止|とど}めさせる心」を本分とする{武童|タケラ}になど、なれる道理があろう{筈|はず}も無い。

 心には、三つある。
 本能心、理性心、良心。
 そして、その良心は、心を最強にし、優しさを生み出す。

 {正|まさ}に、世界最強の{美徳|バーチュー}!
 
 _/_/_/ 『然修録』 第1集 _/_/_/
 ミワラ<美童> ムロー学級8名

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 吾ヒト種  われ ひとしゅ
 青の人草  あおの ひとくさ
 生を賭け  せいを かけ
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 ルビ等、電子書籍編集に備えた
 表記となっております。
 お見苦しい点、ご容赦ください。

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