まえがき
アイアム、テレブ。
七十六歳。
{美童名|みわらな}は、サーレ。
自己紹介は、後裔記を諸書として編集している方の「まえがき」に書いたので、省略する。
この編では、後裔記と同様、亜種記編纂のため、然修録を諸書として編集する。
イエロダが編んだ亜種記は、後裔記と然修録を同期させながら羅列した。
だが、わたしが編む亜種記は、同期させない。
イエロダが編んだムロー学級のころと、わたしがこれから編もうとしているエセラ君たちの時代とでは、世情も、治乱の進行具合も、大きく違ってきているからだ。
ムロー学級のスピア君たちが書いた然修録の目的は、息恒循の自修である。
これ、小難しい。
現代の{子等|こら}は、小難しいものは読まないし、書かない。
なので、寺学舎の学師の少年たちに、ある提案をした。
息恒循は、学ばなくてもいい。
{美童|ミワラ}のうちは、息恒循を理解するために必要な素養を養うこと。
息恒循の真意を後裔たちに繋げるために、自由に読書し、大いに見聞を広めて欲しいと。
そして願わくは、知命して晴れて{武童|タケラ}となるまでに、自分たちの言葉で、新訳「息恒循」を完成させて欲しいと。
後裔記の編では、序章として、エセラ君の五歳から七歳のころの日記を載せた。
本編は、彼十三歳から十四歳のころに{美童|ミワラ}たちが書いた後裔記を、一つの物語に編む予定にしている。
なので、然修録も同じく、そのころのエセラ君たちのものを集めた。
後裔記と時勢は同じくするも、前述したようなことを目的として書かれた学びの記録あるから、後裔記との同期は意味がないと判断した。
「息恒循は、学ばなくてもいい」とは確かに言ったが、実際、本当に学んでいない。
わたしが提案したとおり、自由に読書し、見聞を拡げることに努めたようだ。
だが、立命期は、十三歳で終わる。
{美童|ミワラ}の時代を、終える。
すなわち、もう子どもではなくなるということだ。
十四歳となった想夏、運命期がはじまる。
そう……{武童|タケラ}、自然{民族|エスノ}の大人となるのだ。
ムロー学級は、八人が八人とも、{美童|ミワラ}のまま、運命期に突入した。
我ら{日|ひ}の{本|もと}の国を遠く離れてしまったので、ある意味仕方がない部分もあるが、それでいいという理由とはならない。
確かに彼らは、漢字や小難しい熟語をいっぱい覚えたし、息恒循も小難しいまま読み{熟|こな}し、エセラ君たち後輩に繋いだ。
だがそれは、繋いだのではなく、残しただけのことだ。
今、この時代、エセラ君たちに、同じことはできまい。
それはそれで{虚|むな}しいことではあるが、そこはそことして、それなりの大努力を模索してもらわねばならない。
我らが祖、イザナキの父君とイザナミの母君の夫婦喧嘩からはじまったヒト種の栄枯盛衰と人口の乱高下は、今や、アマテラスの姉御やスサノヲの兄貴たちの想いを大きく裏切り、分化と退化留まることなく、その分化した亜種ですら、さらなる分化と退化の副産物である変種!の誕生が、{危惧|きぐ}されている。
嗚呼、なんたる愚痴っぽい前書き!
では、K2694年、想夏。
立命期最後の年、エセラ君。
少循令、鐡将。
彼の然修録から、はじめよう。
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発行 東亜学纂
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A.E.F. Biographical novel Publishing