MIWARA BIOGRAPHY "VIRTUE KIDS" Virtue is what a Japanized ked quite simply has, painlessly, as a birthright.

後裔記と然修録

ミワラ〈美童〉たちの日記と学習帳

然修録 第1集 No.139

#### ワタテツの{然修録|139}【座学】赤{鷲|ワシ}と金色の{鵞鳥|ガチョウ}【息恒循】〈二循の初〉少年/少女学年 ####

 {会得|えとく}、その努力に{憾|うら}みなかりしか。
 門人学年 **ワタテツ** 青循令{猛牛|もうぎゅう}
     
【座学】
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赤鷲と金色の鵞鳥

 赤い若鷲に、どんな秘密が隠されているというのだろう。
 しかもそれは、悠久……和の{民族|エスノ}に、語り継がれてきた。文明エスノも、自然エスノも、その源流は、和のエスノだ。ということは、我らヒト種が亜種に分化する前の大昔から、それは、神話よろしく大事として、ヒト種の源流の人びとによってのみ、語り継がれてきたということになる。
 神話の色鳥……我が{日|ひ}の{本|もと}の国で思い当たるのは、「火の鳥」の赤だが、どうも赤い若鷲とは、なんの関係もなさそうだ。では、海外では、色のついた鳥に、どんな物語があり、何を子々孫々たちに語り継ぎ、またそれは、真に何を教えようとして始まったことなのだろうか。
 いつもの堅苦しい東洋哲学や原始仏教のテーマからは、大きく{逸|そ}れてしまうのだが、原始ヒト種たちが、色づきの鳥から何を教訓として知り得て、{何故|なぜ}それが、語り継がれてきたのかを知る……ということは、赤い若鷲の話を聴くための正しい姿勢を心得るために、是非とも学んでおくべきことだと思う。
 ……で、西洋。こんな話を、見つけた。

 あるオッサンの話。
 息子が、三人居た。上の二人は可愛がったが、「ウスノロ」と呼ばれていた末息子だけは、可愛がるどころか、{寧|むし}ろ{蔑|さげす}んで、常々厄介にさえ思っていた。
 ある日、長男が、木を{伐|き}りに森に入ることになった。母は、パンケーキ一つと葡萄酒を{一瓶|ひとびん}、長男に持たせた。さて、長男が森に入っていると、白髪で小柄な老人が現れ、食べ物と飲み物を恵んでほしいと懇願した。だが長男は、「そんなものは、持っていない」と{嘘|ウソ}をついて、「とっとと帰れぇ!」と言って、追い払ってしまった。
 すると……その直後。
 長男は、自分が振るった斧で己の腕に怪我をしてしまい、まだ{殆|ほと}んど仕事が出来ていないというのに、急ぎ家に帰らざるを得なくなってしまった。

 次に、次男。
 長男の代わりに、やはり同じ食べ物と飲み物を持たされて、森に入ってきた。すると、また同じ老人が現れ、同じことを次男に言った。だが次男は、「自分の分が減ってしまうから、ダメだッ!」と言って断り、「とっとと帰って、俺を一人にしてくれ!」と言って、老人は、またもや、追い払われてしまった。
 すると……その直後。
 次男は、自分が振るった斧で己の腰をひどく{傷|いた}めてしまい、長男と同様、ろくに仕事もしないうちに、急ぎ家に帰ってしまう。

 順番からいくと、次は、ウスノロの末っ子だ。
 本人も、「次は、僕に行かせてくれ」と、父に頼んだのだが、何を懸念してか、父は、それを断固許さなかった。だが、あまりにもしつこく頼むので、仕方なく、末息子も森に行かせることにした。母も、食べ物と飲み物を持たせてくれたが、二人の兄とは異なり、小麦粉だけで作った粗末なケーキと、一瓶の酸っぱい{麦酒|ビール}だった。
 ……で、当然、同じ老人が現れ、同じことを、末っ子くんに頼んできた。すると末っ子くん、{斯|こ}う言った。
 「小麦粉と水だけで作ったケーキと、酸っぱいビールだけしか持ってないんだ。それで良けりゃ、ここに腰を下して、僕と一緒に食べようよォ♪」
 二人が仲良く腰を下ろすと、粗末なケーキは、栄養たっぷりの美味しいパンケーキに変わり、酸っぱいビールは、甘くて美味しい葡萄酒になった。
 すると矢庭、小柄な老人は、末っ子に向かって、斯う言った。
 「君は、とても親切にしてくれたので、幸運を授けてあげよう。あそこに、一本の老木がある。あれを切り倒せば、その根元のところに、何かがあるよッ♪」
 老人は、そう言うなり、「あッ!」っという間に消えて、{居|い}なくなってしまった。末っ子くんが、老人に言われたとおりにしてみると、{何本|なんぼん}もの根っこの間に、羽根が金色の鵞鳥が{坐|すわ}っているのが見えた。ウスノロの末っ子くんは、それを見るなり、大事そうにその鵞鳥を抱き上げ、そのまま、その晩に泊まることにしていた宿屋へ運んで行った。
 その宿屋の主人には、三人の娘がいた。娘たちは、その金色の鵞鳥を大いに珍しがり、なんという鳥なのかを知りたがり、{挙句|あげく}、その金色の羽根を一本{貰|もら}えないものかと考えはじめた。やがて、その機会を{窺|うかが}っていた長女が、鵞鳥の羽根をむしり取ろうとしたところ、どうしたことかッ! そんまま鵞鳥にくっついて、離れなくなってしまった。
 それを見ていた次女が、姉を鵞鳥から離そうとしたが、なんとォ! 次女もそのまま、鵞鳥から離れなくなってしまった。末の妹は、触ると危ないから近寄るなと注意されたけれども、次女の{身体|からだ}に触れた途端、やはり末の妹も、くっついて離れなくなってしまった。こうして娘三人は、鵞鳥に{繋|つな}がれて、くっついたまま、一晩を明かしたのだった。

 はてさて、ウスノロくん!
 ここは、「薄のろ」の異名の本領発揮……と、言わんばかりに、くっついた娘三人のことなど一向に気にならない様子で、再びその金色の鵞鳥を抱き上げると、そのまま出かけてしまった。娘三人は、鵞鳥に繋がれたまま、ウスノロくんの足の向くまま、右や左へ東へ西へと、ウスノロくんを追い回す格好で、野っ{原|ぱら}を走り回らねばならなかった。
 暫く振り回され走り回っていると、顔見知りの神父さんと出会った。……で、その神父さん。当然、{斯|こ}う言った。
 「娘のくせに、なんという恥さらしなことを! そんなふうに男の尻を追い回すような振る舞いは、断固けしからん!」
 神父さんは、そう言うなり、{殿|しんがり}の末娘のほうに手を伸ばして、その身体に触れた。すると、なんと神父さんまで、末娘の身体にくっついて離れなくなってしまった。オマケに、その神父さんの付き人まで神父さんにくっついてしまい、助けを求める声を聞いて駆けつけた二人のお百姓さんまでもが、更にまたくっついてしまった。

 ところが、恐るべし「薄のろ」!
 ここに到ってもまだ何も気づかないウスノロくん……結局、総勢七名が、{数珠|じゅず}繋がりのように鵞鳥に繋がってしまった。そして、そのまま野を抜け、町に出てた。
 その町の王様には、娘が一人居た。子どもは、その娘が一人だけだったので、大そう可愛がっていた。{然|しか}し、何故かどうして……その娘、産れてこの方、一度も笑ったことがなかった。そこで王様は、娘に、こんな約束をさせた。
 「わたしを笑わせることが出来た男となら、結婚してもいいです」と。

 はてさて!
 ウスノロくんと、金色の鵞鳥と、そこに数珠繋がりとなった七人の老若男女たち……。この光景を観たお姫様はァ?
 案の定……さすがのお姫様も、これには「ぷっ♪」っと、噴き出してしまった。しかも、その笑いは、いつまで経っても、治まりそうがなかった。これで、文句なしで、王様の一人娘の婚姻が決定づけられた訳なのだだけんども……{如何|いかん}せん、その婚姻のお相手は、ウスノロくん! 言わずもがな、王様は、この未来の婿殿が、どうしても気に入らなかった。
 そこで王様は、考えた! そして、ウスノロくんに、斯う言い渡した。
 「娘を花嫁とするためには、先ずはこの仕事を片付けなければならない」……と。 {則|すなわ}ち、王様は、ウスノロくんに無理難題をふっかけた訳だ。ところが、どう見ても「薄のろ」にしか見えないこの若造が、どんな無理難題の仕事を言い渡しても、申し分なく、完璧にやりこなしてしまうのだ。
 何故? ここでまた、あの小柄な白髪の老人が、陰であれやこれやと、ウスノロくんに指南を授けていたのだった。
 そうこうしているうちに……{終|つい}にウスノロくんは、王様の一人娘と結婚し、更に、王様が{亡|な}くなると、ウスノロくんがその後を継ぎ、王国の領地をごっそり治める「大国の王様」となったのである。

 ……とまァ、こんな話だ。

 グリム童話に出てくる有名な物語の一つであり、このような話は、ヒンズー教の説話やイソップ寓話をはじめ、インドやヨーロッパの様々な民話に現れてくる。前述の物語の一節にも表現されているように、そもそも鵞鳥というのは、素朴な人には幸運を、{狡|こす}っ{辛|から}い人には、悪運をもたらす……と、信じられてきた。
 鵞鳥は、信仰の対象なのだッ!

 鵞鳥には、人に{報|むく}いたり、人を罰する力があると、信じられている。……と同時に、鵞鳥は、敵の接近に際して、警報を発するという信仰も、存在している。
 一例を{挙|あ}げると……。
 四世紀に、ローマがゴール人の侵略を{蒙|こうむ}ったとき、女神ジュノーの{社|やしろ}に居た聖なる鵞鳥が、敵の{斥候|せっこう}を見つけるや、けたたましく{啼|な}き出したという。
 乗り込んで来た敵兵は、その鵞鳥をひっ捕まえて、殺してしまうも……時遅し! その時分には、もう既に、住民たちは、危険の訪れを察知して、行動に出ていたのだった。
 そののち、ローマ市を絶体絶命の危機から救ってくれた鵞鳥を{讃|たた}えるために、行列の先頭に一羽の金色の鵞鳥を{戴|いただ}いて、国会議事堂へと運ばれたということだ。

 このような話は、西洋では、枚挙に{暇|いとま}がない。ギリシャ神話のゼウスの妻ヘーラーの逸話、シベリアのオスチャック族の三大神の逸話、フィンウグリッド族のノアの洪水の逸話、ヒンズー神話の羅生門の逸話、英国の聖マイケル祭の逸話……等など。

 ……で、我が国「日の本」。
 ブリの養殖をしているという和の{民族|エスノ}(らしき……)オッチャンが、{嘗|かつ}て町屋の大工をやっていたという頃よりも、もっと前の学生時代、民俗学の研究室に残って知り得たという「赤い若鷲」の逸話……。
 そこに隠された*信仰*が、分化して滅亡への道を転げ落ちているヒト種を救う鍵となるのではないか……。

 その理由の説明など、出来っこないけんども……俺は、そう思えてならないのだ。

 ……蛇足になるが、{敢|あ}えて一つ。
 何故、単に「鷲」ではなく、「若鷲」なのだろう。稚魚と成長魚の区別は簡単に出来るが、形も大きさも大差がない成長魚の各々の年齢など、素人に区別できるはずがない。
 鳥も、同じだと思う。「若鷲」と表現したのは、「鷲とは違う鳥だが、その呼び名を知らぬ{故|ゆえ}、{一|ひと}先ず「若鷲」と表現した」……という仮説が、もし成り立ったとしたら……若鷲と呼ばれている赤い鳥は、実は、西洋の信仰と同じく、敵の接近に際して警報を発する鵞鳥ということにもなるのではないだろうか。

息恒循
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〈二循の初〉少年/少女学年

(第二版 改訂0号)

 生涯、{則|すなわ}ち{天命|てんめい}。その最初の重要期を{立命期|りつめいき}と言い、その立命期の後半の循である七歳から十三歳までの七年間を、{少循令|しょうじゅんれい}と言う。

 その少循令の初等学年を、「少年/少女学年」と言う。

 「少年/少女学年」とは、何を学ぶ歳なりや……。

 「天下のこと万変といえども、{吾|わ}がこれに応ずる{所以|ゆえん}は喜怒哀楽の四者を出でず」

 陽明先生……王陽明の教えの中に在る一節である。
 どんなに世の中が激しく移り変わろうとも、喜怒哀楽の四つを大事にしておれば、必ず生きて進んでゆけるという意味だ。喜怒哀楽が、人生の要……と、いうわけである。
 現代の子どもたちは、本当の意味での学問というものを、していない。学校でも、塾でも、家庭教師も、喜怒哀楽を揺さぶってはくれない。そのような{訳|わけ}で、教育の荒廃も、登校拒否や非行も、止まりはしないのである。
 国会中継を{視|み}て、喜怒哀楽を揺さぶられて、感情を{露|あらわ}に国を想って熱弁している政治家が、一体全体何人居ることだろう。{嘗|かつ}ての吉田茂のように……。

 山岡鉄舟清水次郎長は、{凄|すさ}まじく障子も震えるほどの喧嘩を、よくやっていたという。だが、そこまで互いに喜怒哀楽を露にしたからこそ、真の友情が生まれたのである。

 孔子も、喜怒哀楽の激しい人だったという。「{憤|いきどお}りを発して食を忘れ、楽しみて{以|もっ}て{憂|うれい}を忘れ」と、『論語』にもある。「{慟哭|どうこく}」という言葉は、弟子の顔回が殺されたときに、孔子が周りも{憚|はばか}らずに泣き{喚|わめ}いた様子を、表しているのだという。

 喜怒哀楽は、人間が自然の一部であることの証である。自然とは、自ら{燃|も}ゆることだ。全身の活力が起爆し、体内のすべての精力が発散し、燃え尽きる。

 これが、子供期に学ぶべき、「真」である。 

_/_/_/_/ 『然修録』 第1集 _/_/_/_/
寺学舎 美童(ミワラ) ムロー学級8名

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 東亜学纂学級文庫★くまもと合志
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