MIWARA BIOGRAPHY "VIRTUE KIDS" Virtue is what a Japanized ked quite simply has, painlessly, as a birthright.

後裔記と然修録

ミワラ〈美童〉たちの日記と学習帳

後裔記 第1集 No.161

#### 女どもの*まぐわい*の備え ムロー {後裔記|161} ####

 体得、その言行に恥ずるなかりしか。
 学人学年 **ムロー** 齢18

■□■□■□

 顔と体形だけの美人は、ヨッコの{奴|やつ}とマザメ君で見飽きている。
 でも、美しい女性というのは、厄介だ。
 {否|いや}、苦手だ。

 ファイさんが、言った。
 「ねぇ。屋上、行けないかなァ。
 ここの屋根、コケ緑化やってるのよねーぇ♪」

 (わざわざオランダくんだりまでやって来て、屋根見てどうする!)
 と、(思って当然だろッ!)と、思った俺。
 無言でただ後ろについて歩いているうちに、どうやら{諦|あきら}めてくれたようだ。
 そんなこんなで、無事に、空港ビルを後にした。
 ファイさんが向かったのは、アムステルダムの市街。
 (やっぱ、ここだよな。普通♪)と、{何気|なにげ}に思いながら、{安堵|あんど}。
 {苔|コケ}{生|む}す{渓谷|けいこく}で{滝行|たきぎょう}でもやらされるんじゃないかと、内心、マジで気が気ではなかったからだ。
 まァ、美しい女性と仲良く並んで{滝行|たきぎょう}……それも、悪くは無い。
 勿論、「夏だし……」と、いう意味での話である。
 {然|しか}しまァ、美しい街である。
 同じ運河の都市でも、文明の奴らが陣地を構える東京都心とは、大違いだ。
 運河も橋も、自然の生きものたちによる自然の造作物……それが、自然のままに、今に残っている。
 歴史とは、偉大なものだ。
 歴史、万歳!

 ファイさんが、{徐|おもむろ}に、自然石のスツールに腰を下した。
 運河を行き交う船を{舫|もや}う{繋船直柱|けいせんちょくちゅう}なのだろうか。まァ、どっちゃーでもいい。
 ほどよい距離を隔てたところに、同じような直柱が{植|う}わっている。
 側面には{矢跡|やあと}が残り、天端はゴツゴツとした{凸凹|デコボコ}だった。
 {蝋|ろう}を流し込むように、俺の柔らかいケツが、その凸凹を埋め尽くした。
 長居は、無用!
 どうやら、こいつの{凸|デコ}と、俺の{尾骶骨|びていこつ}とは、相性が悪いようだ。
 {頑|かたく}なに無言のままで居ると、ファイさんが{喋|しゃべ}り出した。
 {危|あや}うし、俺のケツ!
 泣く泣く仕方なく、片耳だけファイさんのほうに傾けた。

 「和の子たちってさァ。
 なんで、学園なんかに文句の一つも言わずに通っていられるんだろう。
 わたしたちって、そうさ。
 先ずみんな、不登校になる。
 そこまでは、いい。
 でも、せっかく登校を拒否できたのにさァ、なんでみんなわざわざ、寺学舎に通いはじめるのォ?
 おかしくない?
 だからってわけじゃないんだけど、わたしね、寺学舎には行ってないの。
 まだ少女学年だってのに、{仕来|しきた}りの旅に出たんだ。
 正確には、預けられたって感じ。
 君さァ、家族の思い出、ある?
 わたしは、父の背中のぼんやりとした{輪郭|りんかく}と、ちっちゃくってあったかい妹の手。
 それだけ。
 この橋のペデをさァ、{独|ひと}りで歩いて渡ったんだ。
 ペデってのは、歩道のことね。
 ねぇ。
 エピクテートスの哲学って、知ってる?
 今どきのバイブル。
 学園の子どもたちのね。
 わたしに言わせれば、大人たちが仕掛けた不登校対策。
 こんな言い方をしたら聞こえが悪いけど、でも、悪いことばかりじゃない。 言い換えれば……そうだなァ。
 自殺防止のための心の{鎧|よろい}……ってところかしらん?
 わたしね。
 君と同じ歳の頃まで、ほとんど誰とも口を{利|き}かなかったんだ。
 君、{青循令|せいじゅんれい}の{悪狼|あくろう}でしょ?
 わたしじゃ、いつも、図書館に居た。
 君も、本が好きみたいね。
 すべての答えを、本に求めようとする。
 違う?
 あたい……元い。わたしも、そうだった。
 でもわたしは、本が好きだった{訳|わけ}じゃないの。
 本しか、友だちが居なかっただけ。
 幸い、人間の心に関する本……しかも、その分野で名高い著者が書いたのとか解説本とか、いっぱい並んでたし。
 人間関係構築のためのいろんな暗示法も試してみたし、常に他人に気を{遣|つか}って、摩擦が起こらないように、いつも神経を{尖|とが}らせてた。
 でもさァ。
 考えれば考えるほど、行動すればするほど、どんどん周りから嫌われた。
 あたいの心の中は、一生、死ぬまで治乱! 生涯、学徒であれ!
 ……ってね。
 ずっと、自分に、そう言い聞かせてきた。
 でもさァ。
 そうすると、あたいの心の中の{悪餓鬼|わるがき}が、騒ぎ出すんだよね。
 なんで、そんな{辛|つら}い人生のために、生きてなきゃならないんだッ!
 ……ってね。
 闇雲に、宗教を心の{拠|よ}り{所|どころ}にした時期もあった。
 そんなある日、ある{女性|ひと}から、聞いたこともない名前の雑誌をもらったの。
 彼女は、{斯|こ}う言ったのよォ。

 『宗教ってさァ。
 本当は、メッチャ高尚な教えなのよね。
 どんなに場数を稼いだからって、そう簡単に{解|わか}るもんじゃない。
 その中の少なくとも一回は修羅場を{潜|くぐ}り抜けた人じゃないと、解りっこないんだよ。
 あんたってさァ。
 頭は良さそうだけど、心がダメじゃん?
 まだ、ねんねちゃんだってことさ。
 そういう心の発達障害の人には、こっちのほうがいいよ。
 これ、あんたにあげるよ。
 あんたには、宗教は、無理。
 だから、こっちにしときなァ♪』

 ガーン! ……だったね。
 もう、何が書いてあったか、忘れちゃったけどさァ。
 でも、何を伝えたくて書かれた文章なのかは、今でもハッキリと覚えてる。
 先ずは、見極め。
 自分の意思でどうにかなることと、どうにもならないことがある。
 それを、しっかりと見極める。
 どうにかなることは、その必要性と難易度に{順|したが}って、思い考え、行動する。
 次。
 どうにもならないことは、サクッと{諦|あきら}める。
 諦めるのを{躊躇|ためら}うと、心を他人の都合で動かされてしまう。
 決して、己の心を{騒|さわ}がせてはいけない。
 絶対に、どうにもならないことに興味を持ったり、{囚|とら}われたりしてはいけない。
 考えてもどうにもならないことって、いっぱいあるじゃん?
 例えば、宇宙の外側には、何があるのかなァ……とか。
 次の天地創造は、何年何月何日の何時ごろなのかなァ……とか。
 他人が、自分のことを、本当は、どう思ってるのかなァ……とか。
 他人はみんな、どうして、自分を嫌ってるのかなァ……とか。
 それから暫くの間、何に対しても、興味が持てなくなってしまったんだけどね。
 てかさァ!
 やっぱ男の子って、頑強よね。
 だって、お尻痛くならないんでしょ?
 あたいは、絶対に無理!
 だって、*まぐわい*のときに、お尻が凸凹だったら、恥ずかしいじゃん?」

 ファイさんは、そう言うなり、お尻の下から何かを引っ張り出した。
 座布団だッ!
 しかも、折り紙サイズで、石柱の天端にジャストフィット!

 地上に{産|う}みし民……我ら{青人草|あおひとくさ}の女どもにとって、*まぐわい*とは、種の存続のため。
 {則|すなわ}ち、「繁殖の儀式」以外の意味は、一切何もない。
 ファイさんは、{斯|こ}うも言った。

 「繁殖に貢献するときは、まぐわい宜しくねぇ♪
 だってさァ。
 オッサンとじゃ、{嫌|いや}じゃん!
 まァ、君だって、マザメちゃんたちから見れば、ただのオッサンだけどね。
 それとも、マザメちゃんと、まぐわいしたかったァ?
 無理だから。
 悪しからずーぅ♪」

 (交尾より、今の問題は、尾骶骨だァ! ばかチンめぇ!)
 と、思った記憶を、記しておく。
 悪しからず! 

_/_/_/ 『後裔記』 第1集 _/_/_/
美童(ミワラ) ムロー学級8名

=::=::=::=::=::=::=::=::=::=::=::=::=::=::=
未来の子どもたちのために、
成功するための神話を残したい……
=::=::=::=::=::=::=::=::=::=::=::=::=::=::=
_/_/_/ 電子書籍
『亜種記』 世界最強のバーチュー 全16巻
(Vol.01) 亜種動乱へ(上)初版 ※第二版編集中
https://www.amazon.co.jp/exec/obidos/ASIN/B08QGGPYJZ/
(Vol.02) 亜種動乱へ(中)初版
https://www.amazon.co.jp/exec/obidos/ASIN/B09655HP9G/
(Vol.03) 亜種動乱へ(下巻前編)初版
https://www.amazon.co.jp/exec/obidos/ASIN/B0B6SQ2HTG/
(Vol.04) 亜種動乱へ(下巻知命編)※編集中
(Vol.05-08) 裸足の原野
(Vol.09-12) {胎海|たいかい}のレイヤーグ
(Vol.13-16) 天使の{洞穴|どうけつ}
_/_/_/ ペーパーバック
(Vol.01) 亜種動乱へ(上)※編集中
_/_/_/ まぐまぐ
(1) 後裔記 
https://www.mag2.com/m/0001131415
(2) 然修録
https://www.mag2.com/m/0001675353
_/_/_/ はてなブログ
https://shichimei.hatenablog.com/
_/_/_/ note
https://note.com/toagakusan

=--=--=--=--=--=--=--=--=--=--=--=--
※電子書籍編集のための記号を含みます。
  お見苦しい点、ご容赦ください。
=--=--=--=--=--=--=--=--=--=--=--=--
 学纂ファンタジーブックス★くまもと合志
 東亜学纂★ひろしま福山