MIWARA BIOGRAPHY "VIRTUE KIDS" Virtue is what a Japanized ked quite simply has, painlessly, as a birthright.

後裔記と然修録

ミワラ〈美童〉たちの日記と学習帳

後裔記 第1集 No.162

#### 棒磁石の摂理と心の真実 ツボネエ {後裔記|162} ####

 体得、その言行に恥ずるなかりしか。
 学人学年 **ツボネエ** 齢9

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 退屈だから、中国ドラマを観てる{訳|わけ}じゃない。
 時おり中国人らしきグループが立ち止まるくらいで、行き交う大半の白人アングラ・ザクセンの人たちは、見向きもしない。
 座り込んで観ているのは、あたいだけ。
 そう、退屈だから、観てる訳じゃない。
 中国は、闘戦の歴史。
 ホームドラマでさえ、常に何かと闘い、誰かとの戦いに備えてる。
 だから、文明{民族|エスノ}たちが作るプロパガンダ番組や、考える習慣を退化させるための番組なんぞ、観る気もしない。
 サギッチの空っぽの頭の前に付いている目から発せられる投げ{遣|や}りな視線を感じながら、あたいは、{何気|なにげ}にそんなことを思っていた。
 すると矢庭に、タケゾウさんが、あたいのほうに歩み寄り、あたいの真後ろに背中を合わせるように座った。
 あたいが腰掛けていたのは、日本人の大人が二人優に座れるくらいの、ゆったりとした幅広のスツールだった。
 タケゾウのおっちゃんが、言った。

 「浦町の東の{遥|はる}か先、浦町の港から出てるバスが行きつく大きな町、河口が{堰|せ}き止められた湖のような大きな川を渡ると、高いビルや大きな駅、なんでも揃ってる大きな建物もある。
 デパートってやつだな。
 行ったこと、あるかい?」

 「ない!」と一言、あたい。
 中国ドラマの中国語に集中してるんだ。
 気が散る!
 あたい、{俄|にわ}かに不機嫌。
 その気持ちが、背中から{滲|にじ}み出てしまったのか、次のタケゾウさんの言葉で、あたいのイライラは消えた。

 「日本語の字幕モードにすればいい。DVDだから、今見ているところからまた観返せばいい。そうするかい?」

 「うん!」と一言、あたい。
 タケゾウのおっちゃんが、話を続けた。

 「その、川向うの大きな町が、ツボネンちゃんが知命して{武童|タケラ}になったある日、火の海になるだろう。
 あッ!
 質問は、{要|い}らない。
 そのまま、聞いていてくれるだけでいい。
 川向うにある大きな街と同じような街が、{日|ひ}の{本|もと}の国には、{到|いた}るところにいくつもある。
 地方都市って呼ばれてるんだ。
 そこが、すべて、火の海になるだろう。
 {何故|なぜ}か。
 地方都市に住んでいるのは……。
 電脳チップの埋め込みを拒否している文明{民族|エスノ}。
 動植物や魚を育てている集落から働きに来ている和の{民族|エスノ}。
 そして、潜入の教育を受けて{密偵|みってい}として暮らしている自然{民族|エスノ}。
 ヒノーモロー島で教育を受けた{武童|タケラ}たち……自称スピア君の養母カアネエや、包帯を巻いたピアノ……オルガンだたかなァ? まァ、その女先生たちがやっている仕事が、その密偵だ。
 地方都市よりも十倍も百倍もでっかい街で、自然をも支配したかのような勘違いをしている電脳チップ人間たちにとって、地方都市に住んでいる反抗的な亜種の人びとは、どうにもこうにも{煙|けむ}たい存在なんだよ。
 だから、{根絶|ねだ}やし。
 一人残らず殺すってことだ。
 そんな祖国の地獄絵巻のニュースが映し出されるモニター画面を、こうやって、ぼんやりと、観て{居|い}られるかい?
 {一柱|ひとはしら}の神という同じ祖先を持つ{云|い}わば一民族総{同胞|はらから}の日本人。
 その身内同士で、皆殺しを{賭|か}けて真剣に殺し合うのだ。
 勝敗を分けるのは、武器の優劣や電脳の有り無しではない。
 心の強さと、愛の存在を信じ続ける信念だ。
 さァ、字幕モードに変えよう♪」

 「さァ」って、そっちかい!
 ……と、思ったあたい。
 観たいところに戻すリモコン操作も、教えてもらった。
 字幕、ヤエ……「夜江」の字を見つけた。

 夜江 「どうにもならないことが、もし天命だったら、どうすればいいの?」
 父、{面喰|めんくら}った顔で、夜江が自分の胸にあてている手の細く長い、白い指を見つめる。
 夜江 「てかさァ。とうさんがいつか言ってたあれ、何ぃ? あることがきっかけで……って、あれ」
 少し乱暴な言葉なのに、父は、どこか嬉しそうだ。暗い受験勉強の一年間を{征|せい}して、また少女期のような興味をそそる魅力的な女の子に戻ってくれたことに対する喜びのように感じられる。
 そして父、応えて言う。

 「あの……日誌を、{棄|す}てたからさ。
 呪いを、{葬|ほうむ}った。
 焼いたんだ。
 真実が、テーマ。
 個人的な話。
 立ち入った話。
 格好悪い話。
 自分の心が傷ついた話。
 他人には知られたくない、恥ずかしい話。
 そこに、俺の真実があったんだ」

 夜江、矢庭に応えて言う。

 「じゃあ、それでいいじゃん。
 とうさんは、{得体|えたい}が知れない男なんだもん。
 それが、なんで呪いなの?」

 父、少し考えて、夜江のほうに向き直って、言った。

 「義を承知したということは、理を共有したということだ。
 俺は、棒磁石の真ん中に{居|い}る。
 おまえも、かあさんも、血肉を分けた同胞はみな、S極に居る。
 棒磁石の中心は、両極の情報が入り混じっているが、その中に潜む複雑な事情や、更にはその委細をも知ることができる。
 それ……両極の真意や動向を{掌握|しょうあく}するということは、意外と困難なものだ。
 おまえたちS極の民族は、{対峙|たいじ}するN極の勢力に、どうにかして追いつき、勝らずとも劣らない力を得て均衡を{図|はか}ろうとする。
 その後も、体力をつける努力を{憾|うら}まず、至誠にも{悖|もと}らず、決戦の機が熟した{暁|あかつき}には、策万全。
 精鋭、即時{足下|そっか}に、N極になだれ込む。
 だが俺は、棒磁石の中心に居ながら、両極に気を配ることすら出来ない。
 人間というものは、何かの中心に居ると、その何かに、何も影響を与えることができないものなんだ。
 だから、おまえたちの思考と行動が、この星の命運を左右する。
 今どきの人間は、{場数|ばかず}をバカにする。
 百ぺんの場数など、意味が無いと……。
 一度の修羅場を経験したかしないか……大事なのは、それだけなんだと。
 だがな。
 場数を{経|へ}なければ……その一つひとつの場を、正しく{治|おさ}めながら月日を重ねてゆかなければ、歴史は、悪いほうへ、悪いほうへと、転がり落ちてゆくものなのだ」

 (この中国人のおっさんの日誌って、あたいらでいう後裔記みたいなもんなんだろうな。それが、呪い?)

 あたいらは、もう、呪いを焼くことは{疎|おろ}か、ただ棄て去ることすら出来ない。

 自分を呪い、自分から呪われ、他人を呪い、他人から呪われながら、生きてゆく。

 そして、訪れる。
 新たな、天地創造が……。
 この星の、消滅。 

_/_/_/ 『後裔記』 第1集 _/_/_/
美童(ミワラ) ムロー学級8名

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未来の子どもたちのために、
成功するための神話を残したい……
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