MIWARA BIOGRAPHY "VIRTUE KIDS" Virtue is what a Japanized ked quite simply has, painlessly, as a birthright.

後裔記と然修録

ミワラ〈美童〉たちの日記と学習帳

後裔記 第1集 No.166

#### カゼルタ庭園のクソ{婆|ばばあ}ちゃん ヨッコ {後裔記|166} ####

 体得、その言行に恥ずるなかりしか。
 少年学年 **ヨッコ** 齢16

 モクヒャさんたち{武童|タケラ}タケゾウ組の五人はみんな、{日|ひ}の{本|もと}へ帰る。
 現役の{美童|ミワラ}や、その後輩たちに生き残ってもらうために、何かをするためだ。
 (何をするんだろう……?)
 あたいら{美童|ミワラ}ムロー学級の八名は、渡航した外地に置き去りにされる。
 あたいらの出番に備えて、何かの目的があって、わざわざタケゾウ組の五人に海外まで連れて来られて、置き去りにされるのだ。
 あたいらの出番……あたいらムロー学級八名が祖国日の本に戻る頃は、今よりももっと、事態は悪化……深刻化している{筈|はず}だ。
 あたいらの祖国は島国で、あたいらの祖先は、武家の名門平家の{傭兵|ようへい}となった海賊だ。
 あたいら島国民族は、{独|ひと}りになると、ほっとする。
 でも、あたいらが訪れた異国の民族は、たくさんの人が集まってワイワイガヤガヤしていると、ほっとするようだ。
 どちらの民族が、外交的に有利かは、一目瞭然の言わずもがなだ。
 そのへんの己の人格コントロールを、あたいらは、求められているのかもしれない。

 あたいらの星は、近い将来、電脳界に支配されてしまうのだろうか。
 今は、電脳チップを頭の中に埋め込んでいる文明{民族|エスノ}も、{何|いず}れは、埋め込まなくても同等の機能を実現出来る外付けタイプの電脳ユニットを使うようになるだろう。
 その流れは、もう、誰にも止めることは出来ない。
 しかも、先進的な電脳チップ人間は、{既|すで}に、グリーゼ581Cの電脳人との交信に成功しているという。
 てんびん座……20光年と少々離れたスーパーアースに潜んでいる電脳人と、{密|ひそ}かにあたいらの星の征服を{企|くわだ}てているという情報を掴んだのは、カアネエや包帯のおねーさんたち潜入班の精鋭たちだった。
 この宇宙で、電脳人たちが連合を組んで、電脳界樹立を{目論|もくろ}んでいるのだ。
 (じゃあ、どうすればいいのォ?)
 ……と、そんな思いを察してか察しないでか、モクヒャさんは、別れの日に、あたいとワタテツを連れ出して、ナポリ駅からローカル線の鈍行列車に乗り込んだ。
 着いたのは、カゼルタ宮殿。
 個人の庭としては世界最大の、マジ!でっかい庭園の中を、半日がかりで歩いて廻った。
 途中、露店でエスプレッソを売ってるんだけど、これがまァ、なんと申しましょうか……甘くて、めっちゃ美味しくて、あたい、何杯飲んだことかッ!

 「あんたら、ニッポンジンだねぇ♪」

 「日本語、お上手ですねぇ!」と言いながら振り返ると、そこには、背中の曲がった老婆が{佇|たたず}んでいた。
 顔の堀は深く、その佇まいの割には{皺|しわ}が少ない、なんともシャキッとした顔立ちをしている。
 そんな{凛々|りり}しい顔立ちなのに、{何故|なぜ}かめっちゃ優しそうに感じられる満面の笑顔で、あたいらの方をじっと見つめている。
 その老婆が、言った。
 「あんたたちニポンジンが、きっと落ち着けるような庭園もあるんだよ。
 その庭園は、{遥|はる}か昔、日の本の国からわざわざ木材を運んできて造られたんだ。
 行ってみるかい?」

 普通なら行ってみたいところだけど、モクヒャさんは、本数の少ないローカル線でナポリ駅まで戻り、そこから特急に乗り換えてローマ駅まで行って、遅い時間に出発する割安の飛行機に乗って、祖国日の本を目指さなければならないのだ。
 あたいら二人も、そのローマ駅でモクヒャさんを見送り、その足でナポリにとんぼ返りするという、優雅な庭園巡りという午前中とは対照的に、実にタイトなスケジュールを{熟|こな}さなければならない。
 こんなにも広い庭園、ザックリと{一巡|ひとめぐ}りするだけで、精一杯だった。
 そんな事情を察してくれたのか、老婆が、言葉を継いだ。

 「また来ればいいよ。
 もう、二人だけで来れるだろォ?
 それより、今一番の問題は、『どうすればいいのォ?』の答えだろうねぇ。
 方法は、二つある。
 一つは、アタイらのような原始的でアナログのヒト種も、連合で対抗することさ。
 亜種なんて、{要|い}らない。
 アタイらホモ種も、森の四つ足も、空の{翼|つばさ}たちも、海を{遊弋|ゆうよく}する{背鰭|せびれ}の野郎どもも、それらすべてが連合して、一つの属を成す。
 三つの亜種のどれが退化し、どの亜種の何が進化し、それらを区別して分布図に{纏|まと}め上げるなんていう、アタイら当事者にとっちゃあどうでもいい無意味なことは、千年先の考古学者か歴史学者がやりたきゃ好きにやればいいだけのことなのさ。
 今に明るい人類学者でさえ、過去に送られたことしか、学問出来ないんだよ。
 未来を学問することは、天命……未来に向かって命を運んでるアタイら原始人間の役目なのさ。
 それを放棄するような不届きな亜種は、生き残れない。
 そいつらが未来に存立を果たすことは、絶望的ってことだよ。
 この星のすべての生身の種が一丸となって、未来と闘う。
 たとえ{一颯|いっさつ}に己の血けむりを見ようとも、電脳人が天を{翔|か}け、地底を{這|は}って攻めて来ようとも、次の天地創造で{生|なま}ものの種属が生き残りを果たすまで、アタイら{キンド|kingdom}・{アナメニア|animalia}……動物界の生ものたちは、その無数の心を鉄が{如|ごと}く一つに固めて、電脳の伏兵がウジャウジャ{居|お}る道なき道を、{只々|ただただ}ひたすらに、前へ前へと、駆けて行かねばならんのだよ。
 {解|わか}るじゃろォ?」

 「解かるけどさァ。
 でも、あたいらは、その前に、どうしても越えなきゃならない山があるんだけど……」と、あたい。
 「知命かい?
 その知命が、致命的になることだってあるんだよ。
 その証拠に、知命した{武童|タケラ}たちは、今、何をしようとしてるぅ?
 連合どころか、分裂を加速させようとしてるじゃないかァ!
 その結末がどうであれ、アタイらのところに{尋|たず}ねてくる奇特な{主|ぬし}は、未来……その人だけさ。
 大努力……。
 一度目の人生に必要なのは、ただそれだけさ」……と、老婆。
 「じゃあ、二度目はァ?」と、あたい。
 「わからん!
 二度目の人生を歩むことを選んで……でも、それも{既|すで}に、折り返してしまったんだけどねぇ。
 何が一番大事なんだか、{未|いま}だに{判|わか}らん!」……と、老婆。

 その老婆の深みと張りのある顔に、(それが判ったら、わざわざ苦労して生きてなんかないよォ!)……と、太字で{描|か}いてある。
 確かに、わざわざ自分からやってきてくれるのは、未来だけだ。
 千切って投げ、千切って投げしても、未来は、次々とやってくる。

 {嗚呼|ああ}……。
 モクヒャさんたちには、生きていて欲しい。
 生きてまた、この星で……元い。
 あたいらの祖国、{日|ひ}の{本|もと}で、再会したい。
 サヨウナラ、モクヒャさん。
 またねぇ♪ クソ{婆|ばばあ}……ちゃん!

 それにしても、誰だったんだろう……。
 あの、クソオババちゃん!   

 _/_/_/ 『後裔記』 第1集 _/_/_/
 ミワラ<美童> ムロー学級8名

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 吾ヒト種   われ ひとしゅ
 青の人草   あおの ひとくさ
 生を賭け   せいを かけ
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 ルビ等、電子書籍編集に備えた
 表記となっております。
 お見苦しい点、ご容赦ください。

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