MIWARA BIOGRAPHY "VIRTUE KIDS" Virtue is what a Japanized ked quite simply has, painlessly, as a birthright.

後裔記と然修録

ミワラ〈美童〉たちの日記と学習帳

然修録 第1集 No.159

#### 生活{類型|パターン}が頭脳を操る オオカミ {然修録|159} ####

 {会得|えとく}、その努力に{憾|うら}みなかりしか。
 学徒学年 **オオカミ** 青循令{飛龍|ひりゅう}

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 スピアとおれは、テッシャンに連れられて、デンマーク経由でスウェーデンに降り立った。
 そして驚いたことは、いっぱいあるが……。
 でも、一番驚いたのは、スロープがないことだ。
 街のどこを見回しても、階段、階段、階段。
 (福祉大国なのに、なんてこったァ!)と思うのは、おれだけじゃないだろう。
 ところが……だ。
 その「なんてこったァ!」という非難の声と、そのお{咎|とが}め〉は、スウェーデンに対してではなく、我ら祖国「{日|ひ}の{本|もと}」とその国民、日本人が{蒙|こうむ}るべき言葉だったのだ。

 ある日の朝、スウェーデン名物の霧が、ストックホルムの旧市街地に垂れ込めていた。
 そこへやって来たのが、両手で力なく{車椅子|くるまいす}を操っている、初老の男の人。
 その男が向かう先には、どう見ても、上りの石段しかない。
 (どうするんだろう……)と、手も足も出さずに頭の中だけで観察していると、一人、また一人と、後先に歩いていた人たちが集まって来た。
 なんとッ!
 集まって来た大人三人と少年一人が、その男を車椅子ごと持ち上げて、一緒に階段を上て行ったのだ。
 しかも、その中の一人は、石段を下りて来た人……つまり、せっかく下りて来た階段を、また上って、引き返す格好になってしまっている。

 ここでおれは、思いを改めた。
 (福祉大国だから、スロープなんで無駄なものは、{要|い}らないんだなァ♪)……と。

 それにしても、同じ人間……同じヒト種なのに、どうしてこんなに、思いや考えや行動が、違っているんだろうか。
 そんな{訳|わけ}もあって、ここスウェーデンの人が書いた脳に関する本を、読んでみたいと思った。
 きっと、日本人が書いた脳に関する本とは、一味違ったことが書いてあるに違いない。
 そんな期待を{膨|ふく}らませながら、またまた、脳に関する本を読んだ。
 何冊も読んでいるのに、{未|いま}だまったく、己の思いや考えに反映されていない。
 こんな人間のことを、おれが今までに読んだ本に言わせると、「おバカさん!」と呼ぶ。
 {閑話休題|まァ、それはそれ}。

 頭が{良い|プラスの}人と、{悪い|マイナスの}人が{居|い}る。
 これは、生まれつきではなく、生まれてからどんな生活習慣を送って、どのようなその場その場の行動{類型|パターン}が記憶されているかによって決まる。
 人は、その記憶された類型を{連携|れんけい}することによって判断し、己の肉体に命令を下して行動するからだ。

 その習慣化に到った「良い特質を持った行動類型」とは、スピアのように記憶力が{凄|スゴ}い、集中力がある、教養の水準が高い、飲酒や喫煙や身体に良くない飲食物に対する自制心が強い、情報を整理して一つ一つを完遂する能力がある……等など。

 対して、「悪い特質を持った行動類型」とは、直ぐにカッとして暴言を発する、{煙草|タバコ}や{お酒|アルコール}への依存、記憶力の欠如、注意散漫、無教養というか……常識や徳がない、気が{直|す}ぐに{余所|よそ}に移って何をやっても長続きしない……とかとか。

 病気はともかく、体調の良し{悪|あ}しについても、例外ではない。
 体調が良くなるような生活の類型が多く記憶されていれば、それらが連携して、体調が悪くならないように心がける生活習慣が、「型」として構築されるという訳だ。
 その逆は?
 言わずもがなである。

 {則|すなわ}ち、脳ミソが一方的に思ったり考えたり行動の指示を出したりしている訳ではないということだ。
 日頃の反省や己の行動を改めることが、脳ミソ君の判断材料となり、様々な脳の機能を変えてゆく。
 我ら自然{民族|エスノ}の「息恒循」流に言えば、自ら{省|かえり}みる「自反」と、己を正す「格物」が、{正|まさ}に、これに当たる。
 おれたちの肉体を{司|つかさど}っているのが脳ミソ野郎なのではなく、実際は、その逆!
 おれたちの身体が日頃どう動いているかによって、脳ミソ君をネチネチと{強|したた}かに、裏で操っているという訳だ。

 では、自然{民族|エスノ}が幼い{子等|こら}を{指|さ}してよく言う、「生まれ持った美質」については、どうだろう。
 
 楽器や芸事、競技や武術……「子どもの頃からやっておけばよかった。今からじゃ、自己満足の趣味にしかならない!」と、多くの大人たちが、こんな思いを抱いたことがあるのではないだろうか。
 確かに、{幼子|おさなご}からはじまって子どもたちの脳の柔軟さは驚くばかりで、猛スピードで様々な技能や{技|わざ}を修得してゆく。
 しかも、大人ほど、大努力したふうもない。
 それどころか、楽しそうな場面だって、少なくない。
 {何故|なぜ}?

 原野の哺乳類の動物たちや、海の中の生きものたちのことを考えれば、直ぐに答えが出る。
 動物だって昆虫だって魚だって、子どものうちは、大人になるためと大人になってからも生き抜くための様々な術を、一刻も早く身に着けなければ、{呆気|あっけ}なく直ぐに死んだり殺されたり食べられたりしてしまうからだ。
 だから、子どもたちの脳の中では、脳細胞が猛烈な速さで結合したり切り離されたりを繰り返している。
 ここに、遺伝子の「美質」……徳が、結びつく。
 これが、我ら自然{民族|エスノ}が考える「生まれ持った美質」なのだろうと思う。

 この、脳細胞の結合と切り離しの猛烈な速さは、{子等|こら}だけのものだ。
 確かに、大人になってから修得できることは、多くはないのかもしれない。
 でも、無くなる訳ではないのだ。
 (まだ、間に合う……)
 ({否|いや}、まだまだこれからだ……)
 と、脳ミソのオッサンにそう思わせ、あれこれ考えて実際に行動の指示を出させるか{否|いな}かは、おれたちが日頃*良い生活類型*を習慣化させることが出来るか否かによって決まるのだ。

 ふと、思う。
 文明{民族|エスノ}たちの未来……。
 頭の中に「電脳チップ」を埋め込んだからといって、百パーセント人の頭脳を操れる訳じゃない。
 己の脳ミソ君を自らが操って、電脳チップに対抗することだって、きっと出来る{筈|はず}だ。
 そう仕向けることも、我ら{美童|ミワラ}の先輩{先達|せんだつ}である{武童|タケラ}の「武」の文字の由来、「相手の{戈|ほこ}を{止|とど}めさせる」ことに通じる戦術の一つなのかもしれない。

 無論、({闘戦|とうせん}の現実は、そんな甘いものではない)と、本音ではそう思ってはいるのだが……。

_/_/_/ 『然修録』 第1集 _/_/_/
美童(ミワラ) ムロー学級8名

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未来の子どもたちのために、
成功するための神話を残したい……
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 A.E.F. Biographical novel Publishing