#### オオカミの座学日誌「要領よくの締め{括|くく}り。それが、{一燈照隅行|いっとうしょうぐうぎょう}」{然修録|109} ####
『要領よく、世のため人のためになる方法』 《祝杯の習慣、その極意》《素直じゃないのよ、頭の{主|あるじ}》《「世のため人のため」は寝言! 先ずは「自分のため親兄弟のため」》
学徒学年 オオカミ 少循令{石将|せきしょう}
{会得|えとく}、その努力に{憾|うら}みなかりしか。
**{主題と題材と動機|モチーフ}**
《 {主題|テーマ} 》
要領よく、世のため人のためになる方法。
《 その{題材|サブジェクト} 》
祝杯の習慣、その極意。
素直じゃないのよ、頭の主。
「世のため人のため」は寝言! 先ずは「自分のため親兄弟のため」。
《 この主題と題材を選んだ{動機|モーティブ} 》
寺学舎では、フロイトやユングは、学ばなかった。過去にのみ焦点を当てる{類|たぐい}の心理学を、潜在意識への絶対服従を宣告する宗教のように{捉|とら}えてきたからだと思う。
我ら自然{民族|エスノ}の生き方の指南書……{息恒循|そっこうじゅん}は、その潜在意識に立ち向かって、自ら{省|かえり}みて、自らを正し、己の天命をも正しながら、自力で立命し、その命を世のため人のために運んで行くための学問だ。
精神症生産工場の心理学が、己の過去と自分自身だけで完結するものであるとするならば、息恒循は、その対極……{此|こ}の世の未来と自分以外のすべての生きものが主役で、自分の過去も自分自身も、脇役は{疎|おろ}か、偶然に此の世に映り込んだだけの、{唯|ただ}の〈像〉に過ぎない。
{故|ゆえ}に、我ら{美童|ミワラ}は、未来社会志向型のアドラー心理学、東亜の心の学問である儒学、お{釈迦|シャカ}様が自ら悟った原始仏教などを、学ぶ。
おれは、その学問を、ズングリ丸が難破して以来、{疎|おろそ}かにしている。何事も要領よくやるための{云|い}わば発明発想法も、その疎かにされている未来志向型学問の一つだ。
では、それが、世のため人のためになるのか。もしならないのなら、どうすれば、どう考えれば、成るのか。
*そこ*について、考えてみることにした。
**題材の{講釈|レクチャー}**
《 祝杯の習慣、その極意 》
スピアも然修録に書いていたように、習慣とは、クセ。そのクセの代表選手が、負けグセ……即ち、*失敗のクセ*だ。
だったら、反対……対極のクセをつければいい。そう、*成功のグセ*だ。
そのためには、先ずは、最低でも一回は、成功しなければならない。だから、その成功のハードルは、低くする。簡単な目標を設定する。困難な目標を設定して多大な労苦自分に{強|し}いることよりも、*クセ*がつくまでの間は、小さな成功を積み重ねることのほうが、効果的という訳だ。
でも、ただ成功しただけでは、クセは、ついてはくれない。負けたり失敗したりしたら、その悔しさや恥ずかしさから、頭の中にイメージとして、強く焼き付けられてしまう。ところが、成功の場合は、ほっとするという{癒|いや}しの情動が充満しているので、何も焼き付いてくれない場合が多い。
なので、強制的に、イメージを焼き付けなければならない。それが、祝杯だッ! べつに、酒を呑めと言っているわけではない。大人だって、酒が飲めない人が居る。では、どうするか。それが、{所謂|いわゆる}自分へのご{褒美|ほうび}というやつだ。
但し、ここで一つ、注意が必要だ。
ご褒美といっても、ただ自分を甘やかせばいいかというと、そんなに成功のプロセスは、甘くはない。では、快楽体験のほかに、何を自分に与えればいいのか。
二つ、例を挙げる。
一に、スポーツ選手。
困難な目標を達成した瞬間の演技を写真に収めてもらい、その写真を、自分の机に貼っておくそうだ。出来るだけ四六時中その写真を見るようにして、その時の歓喜のイメージを呼び起こす*訓練*をするのだそうだ。
大事なのは、その次だ。イメージを呼び起こしたら、そこに自分の欠点を見出し、その四六時中の時々で気付いたことを、次の練習で克服できるようなトレーニングのプログラムを組み立てる。
ここで、差が出るのだッ!
二に、ビジネスパーソン。
目標を達成して、酔いしれてばかりいてはつまらん! ……と、いうことだ。成功したからこそ、その過程のプロセスをじっくりと反省し、効率が悪かったところや危うかったところを洗い出し、二度と同じような不具合を起こさないように、改め新たな遣り方や方法を考案して、次の挑戦に備えなければならない。
これを、ビジネス用語で、フィードバックと呼んでいるそうだ。
最後に、もう一つ。
成功したのは自分ではなく、可愛い部下や、可愛がっている後輩だったら、みんな、どうするんだろう。
結論だけ言う。
部下や後輩が成功したら、即座に、ポケットマネーで祝杯の軍資金を渡して、成功のその夜、上司や先輩から貰った金一封で、部下や後輩たちに祝杯を挙げさせなけれならない。
但し、言わずもがな。
優秀な部下や後輩が、たくさん育ってくると、皮肉なことに、ポケットマネーは{枯渇|こかつ}し、死活問題どころか、挙句は自己破産だッ!
そうならないように、世の中や会社の中で無駄に{澱|よど}んでいるマネーが自分のポケットに迷い込んでくれるように、日々、表に裏にと動き回っておかなければならない。これが、〈国際派ビジネスパーソン〉を名乗る唯一の資質なのだ。
《 素直じゃないのよ、頭の主 》
人間の頭のご主人様は、万人総じて、ひねくれている……即ち、素直ではないということだ。
だが、この星には、どうしても曲げることのできない方程式というものがある。それが、これだッ!
素直 = 何事も、簡単。
素直じゃない = 何事も、難しい。
以上。
実は、実に簡単で判り易い真相が、日常生活に潜んでいるのです。
取引先に、初訪問。引っ越し先の不動産屋に、車で出かける。友人の祝い事に招かれて、初めて友人の家に行く。遠方の都市部で開催される講習会に参加……。
電車とバスを乗り継いで、駅のどっち口を出て、徒歩……その経路は? 自家用車、或いは社用車で……。高速を使う? 早めに出て下道を走る? 都市部は渋滞にはまると時間が読めないから、渋滞のないルートを探す?
まァ、おれらはまだ運転免許なんか持ってないけど、特に大人の人は、ある目的のために初めて行く場所に、絶対に遅刻をしないで行く方法を、実に丹念に丹念に、しかもいろんなパターンを、調査……と言ったら大袈裟かもしれないけど、兎にも角にも、納得ゆくまで、調べまくるんじゃないですかァ?
でもね。
それが、困難極まる難題となると、意外にも、そこまで徹底した調査を、しないものなんだそうです。
この不可思議な人間の習性を、「素直じゃない!」と、呼んでいるのだそうです。
《 「世のため人のため」は寝言! 先ずは「自分のため親兄弟のため」 》
伝教大師の著、『{山家学生式|さんけがくしょうしき}』より。
{各々|おのおの}がそれぞれ一燈となって、{一隅|いちぐう}を照らす。{即|すなわ}ち、自分が{居|い}るその周りの{片隅|かたすみ}を照らすこと。{所謂|いわゆる}、一燈照隅行。
伝教大師=最澄(七六六~八二二)。
平安初期の僧で、空海と共に中国に留学。帰朝後比叡山に天台密教の道場を開く。天台宗の開祖。『山家学生式』は、修行僧が守るべき規則と心得を{綴|つづ}った書。
片隅を照らだすなんて、なんとも宗教らしくない。近年横行している{猥雑|わいざつ}な宗教なら、「大光明を放つ!」なんて{大袈裟|おおげさ}なことを言って、信者を{募|つの}るところだ。無論、大光明を放つ人間など、居るはずがない。
こんな、出来もしないことを大袈裟に豪語する団体や、ただ大口を叩くだけでなんの行動も起こさない人間に限って、「世のため、人のため……」なんて{尤|もっと}もらしいことを、偉そうに言うものだ。
そんなもんは、寝言……{戯言|たわごと}……{否|いや}、もっと悪い! 中身がない。即ち、根拠がない。ただただ拝んで、{他人|ひと}任せ!
自分のためのことを、自分でどうにかしよう。親兄弟のためのことを、我が事としてどうにかしよう。……と、そんな思い、考え、行動の欠片もないような人間に、どうして「世のため、人のため……」などという大業が成せようかッ!
己の時間(=命)を削ってまで、そんな{戯|ざ}れ{言|ごと}を言う暇があったら、自分が{居|お}るその場を照らせ! ……と、いうことだ。それなら、出来る。出来るからこそ、それが、真実を生む。
一人が己の足元を照らして一燈となり、もしそれを一万人、十万人、百万人が同じことをやれば、一燈が、{萬燈|ばんとう}となる。この萬燈になれば、{燈火|ともしび}は、広く世間に照りわたる。所謂……これが、萬燈{遍照|へんしょう}だ。
これが、「世のため、人のため……」の、真実だ。
でも、この真実の具現のためには、怖ろしく長い時間がかかってしまう。だからこそ、地道に、不断の努力が必要なのだ。
**{自反|じはん}**
そうは言っても、{最早|もはや}事態は、急を要す。百年ごとに起きる必定……大治乱は、{既|すで}に秒読みに入っている。一人ひとりがみんなが、足元を照らせるようになるまで、待ってなどいられない。
では、どうするかッ!
だからこそ、(ワタテツ先輩が、然修録に書いていたような、)強い意志を持った、真の{統率者|リーダー}の登場が、不可欠なのだ。
ここで、{焦|あせ}ってはいけない。焦ると、志{半|なか}ばで、踏切事故で無念の死を{蒙|こうむ}ってしまう。
やはりここは、地道にコツコツ♪ ……不断の努力だッ!
_/_/_/ ご案内 【東亜学纂学級文庫】
Ver.2,Rev.1
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