MIWARA BIOGRAPHY "VIRTUE KIDS" Virtue is what a Japanized ked quite simply has, painlessly, as a birthright.

東亜学纂学級文庫

『息恒循』を学ぶ

ミワラ<美童>の実学紀行 No.113

#### ムローの実学紀行「言語乱れる美童。救世主、インテリ技師登場」{後裔記|113} ####


 《ヨッコとワタテツを救え!》《まったく! 涙がチョチョ{切|ぎ}れるほど頼りになる後輩たち……》《謎のインテリ技師、ズングリ丸の正念場!》
   学徒学年 オオカミ 齢13

 体得、その言行に恥ずるなかりしか。

   《 ヨッコとワタテツを救え! 》

 川筋の早朝ミーティングは、意外にも有意義な内容であったように思う。そう、認めざるを得ない。{何故|なぜ}なら、オオカミ君が、「復習」という言葉を、持ち出したからだ。
 実際に復習したかどうかは知らないが、アイツからそんな言葉が出るだけでも、{驚愕|きょうがく}に値する。
 だが、そんな学徒学年の後輩の成長を感じさせる後裔記を、その直ぐ上の上級生である〈門人学年〉の二人……ワタテツとヨッコは、果たして、読んでくれているのだろうか。
 あの二人が、後裔記を発進しないのは、学友たちの後裔記を受信していることを、隠し通すためなのではないか。
 ヨッコとワタテツが発信する然修録は、検閲を受けている。間違いない。そう確信できる文言は、ただの一回。しかも、ほんの数語。なんとも遠回しで、実に、判り{難|にく}いものだった。
 {何故|なぜ}だろう……。

 その答えは、歴然だッ!
 事細かい内容など、伝える必要はない。ただ、{危|あや}ういということだけが、伝わればいいのだ。
 なので、ズングリ丸を改造した結果が、蒸気船であれ、手{漕|こ}ぎの{短艇|カッター}であれ、何を置いても、{兎|と}にも{角|かく}にも、今直ぐに、この島を出立せねばならぬ。
 正に、急務……今、俺たちに肝要なことがあるとすれば、それは、ただ一つ。
 「ヨッコとワタテツを、救え!」だ。

   《 まったく! 涙がチョチョ切れるほど頼りになる後輩たち…… 》

 {少循令|しょうじゅんれい}のガキンチョたちと、アマガエル様の親子との会話のあれこれは、……置く。

 ガキッチョが、祖父であり師匠であり上司でもあるジジッチョに、言った。
 「ねぇ。まだ、行かなくていいのーォ?!」
 するとジジッチョ、「ばばッ! べしゃーァ!! なすなす♪」と言って立ち上がり、そそくさと長屋の角部屋へと戻り、着替えはじめた。
 俺たちは、間借りをしているとは言っても、賃貸し用に空けてもらった{訳|わけ}ではなく、ただ爺さんと孫が、{身|み}一つで{退|の}いてくれただけのことだった。
 なので当然、ジジッチョとガキッチョの生活用品のすべてが、置き去りにされているのだった。{因|ちなみ}に、その生活用品の種類と数の少なさには、{唖然|あぜん}とさせられた。
 だが、三者三様。感じるところは、人それぞれ、違っているようだった。

 マザメが、言った。
 「ねぇ。シャツ! なんでパンツの中に、{丁寧|ていねい}に押し込むわけーぇ?! ジジむさい!」
 するとジジッチョ、大人気なく、見た目〈少女〉のマザメに、{噛|か}み付く。
 「〈ジジ〉は認めるが、〈むさい〉は、聞き捨てならん!
 ジジ、イコール〈むさい〉という意味にもとれる。{迂闊|うかつ}なことを言うと、世界中の爺さんを、敵に回すことになるんだぞッ!
 ジジ{臭|くさ}かろうが、ジジ{汚|きたな}かろうが、どんなに{醜|みにく}く映ろうとも、義理は、曲がらぬ。
 わしの肌は、弱い。そこは、総じて、『爺さんの肌は、弱いものだ』と、解釈してもよいところだ。パンツのゴムは、汗を吸わぬ。{故|ゆえ}に、{汗疹|あせも}が、できる。{俄|にわ}かに{爛|ただ}れ、ジクジク……{挙句|あげく}は、{化膿|かのう}する。
 そこまで進行してしまうと、{最早|もはや}安価な薬では、{太刀|たち}打ちできん。わしら和のエスノは、{貧|ひん}に生きて{居|お}る。
 アンダーウエアー、ここで{云|い}うところのシャツ、{即|すなわ}ち肌着というものは、肉体から{滲|にじ}み出る液物も、{漏|も}れ{出|い}でる液物も、分け{隔|へだ}てなく吸い取ってくれる。
 故に、ご辺の言う『シャツを、パンツん中に押し込みの{技|わざ}ーァ♪』は、正に、自画自賛級! 機能的にして合理的な、秘技なのぢゃ!」
 ……と、まァ。
 四苦八苦してバカ丁寧にその肌着を、己のパンツの中に押し込みながら、真顔で答えるジジッチョだった。

 すると、スピア!
 突如、叫ぶ。
 「それで、{解|と}けたーァ♪」
 「あのさァ。そこの、子ども! あんた、ウザイ亜族かい! それとも、変種のウザッタイ人かい?」と、マザメ。
 スピア、当然が{如|ごと}く、それを、無視! 嵐の{渦中|かちゅう}の静けさ……。なぬーぅ?? オオカミ君が、{頷|うなず}いている。何が解けたと言うのだッ!
 スピアが、無言の問いに応えて、言った。
 「シンジイが、『出て来いシャザーン♪』って言いながら、引っ張り出すのに四苦八苦してた{訳|わけ}!」
 まァ、後裔記を読んでいる俺ら学級のミワラたちは、これだけ聞けば、シンジイが前{屈|かが}みで懸命に四苦八苦している様子が目に浮かぶことだろう。
 ……が、ジジッチョや長屋十人組の奴らには、正に、「わけわかんねーぇ!!」はずだ。
 ジジッチョが、言った。
 「そうかァ。自然人の達人……{否|いや}、{曲者|くせもの}。仙人、シンジイ{翁|おきな}も、四苦八苦しておったかァ。こりゃ、愉快ぢゃ♪」
 「センニン? シンジイ? オキナってぇ?」と、ガキンチョ。当然の問い……だと思う。
 仙人? まァ、仙人かどうかは別としても、呼称、愛称としては、実に、適切だと思う……てか、なんでこの島の技師長が、遠く離れたヒノーモロー島の爺さんのことを、知ってるんだァ? まったく、ややこしい!
 ジジッチョが、ガキッチョの問いを無視して、スピアのほうに顔を向けて、興味津々の顔になって、言った。
 「……して、その四苦八苦の経過と結末は、どうであったのだァ?」
 「結末は、ギリチョンで、悪くは無かったんだと思うけど……シンジイの顔を、見た限りではなんだけどさァ。てか、経過の観察なんて、してないよォ! 覗き込むわけにもいかないし、見たいとも思わないし……」と、代わりに応えて、丁寧に解説するオオカミ。まさに、正論!
 すると、意外にもスピアが、異を唱えた。
 「したよ、ぼく!」
 「どうやってぇ!」と、オオカミとジジッチョ。声が、揃う……やれやれ。
 「液物を、一滴も漏らさず、無事に、放水が始まったら、シンジイ、天を仰いで、『合格ーぅ♪』って、吠えるんだァ」と、スピア。
 なんか、スピアかオオカミの後裔記に、そんなようなことが書いてあったような気もするが、オオカミも俺らも、すっかり忘れているか、そもそも記憶すらしていなかったようだ。
 それは{兎|と}も{角|かく}も、ジジッチョ……なんとも、{大袈裟|おおげさ}なリアクション!
 「ななななーんとォ! そこまでは、知らなんだ。恐るべし! 自然エスノ……てか、座黒一族!」……と、{何故|なぜ}か、両手両足で、*防御*の構えをしながら、ジジッチョが、言った。

 マザメが、一言。
 「そこ、感心するところなんだかーァ?!」
 {頷|うなず}く多勢……。

   《 謎のインテリ技師、ズングリ丸の正念場! 》

 保守工場。
 ジジッチョのみならず、俺ら学級の六人、長屋の野郎ども十人、揃って重役出勤!
 その保守工場に到着するやいなや、ジジッチョが、古参と{思|おぼ}しき技師に引っ張って行かれてしまった。
 何やら……その二人、のけぞって驚いたり、手を打ったり(左手がパー、右手がグー)している。悪い話ではなさのうな様子は、直ぐに拝察することができた。
 その一部始終は、食堂で昼食をとりながら、従えし{子等|こら}十六名に、説明が{為|な}された。言わずもがな、長いので、以下に要約する。
 
 炭鉱技師の中に、国立大学の船舶海洋工学科を卒業した若いエリートが{居|い}ることが、判明。これには、(何故かッ!)さすがのジジッチョも、驚いた。
 この炭鉱は、大企業によくありがちな、職階制を採用していた。ジジッチョは、チーフ・エンジニア……{即|すなわ}ち、技師長と呼ばれ、現場の技師たちのトップだ。その孫のガキッチョは、アプレンテスと呼ばれ、言わずもがな、技師たちのボトム……{所謂|いわゆる}、底辺だ。
 ところが、彼ら技師たちは、みんなが大きな一つの{瓶|ビン}に入ってでもいるかのような、{云|い}わば{一括|ひとくく}りの集団なのではなく、いくつかの小瓶に分けられて、納まっていた。これを、職群というらしい。
 この(……「また、方言かい!」と、言われそうだが)、*たいぎい*要約を、早く終わらせたい。なので、ジジッチョの言葉を、そのまま書いて、終わらせようと思う。

 「そぎゃーなやつが、{居|お}ったんかい! こりゃぜっぴ、わしらのベリーたいぎいプロジェクトに、引き込まにゃいけん。ほいじゃが、わしゃ、そいつの直属の上司には当たらん! 現場の人間なら、首に{縄|なわ}を付けて連れて来りゃあ済むことなんじゃが……はて、どうしたもんかのーォ!?」

 背中までは、四十五分かかるそうだが、{悪巧|わるだく}みという必殺の秘技を使えば、背中だろうが月面だろうが、五分と掛からない……という仮説は、どうやら、真実のようだ。それが、和の{民族|エスノ}が悠久語り継いできた、方程式なのだった。
 その若いエンジニアは、石炭の積出港の片隅に{上架|じょうか}されているズングリ丸を、なんら一切説明を受けることの「ないまま、黙々と実測し、それが終わったかのような{仕種|しぐさ}を見せるやいなや、一目散に、保守工場の建屋に隣接しているシミュレーションルームに、走り込んだ。
 恐る恐る、その後を追ってみると、静寂な電算室の一番奥まったところにある大きな箱(制御用コンピュータというそうだ)の前に据えてある一脚のデスクと、画面(コンソールというそうだ)を前にして、スツールに腰掛けていた。
 そのコンソールを{睨|にら}めながら踊るその指は、正に、悪党に特有の慣れた手つき!
 すると、本当に{程|ほど}無く、そのコンソールの両脇に並んでいる大きな画面(ワークステーションというそうだ)に、次々と動的なグラフィックが映し出されていった。そのグラフィックのどれもこれもが、正しく、ズングリ丸だったのである。

 「何をやってるんだろうなーァ……アイツはァ!」と、ジジッチョ。何故か、俺と、目が合う。
 「技師長に判らないのに、俺らに判るわけないじゃないっすかァ!」と、俺。
 「さすがは、最年長の、{未|いま}だ知命できない、*無知*運命期の留年生だな。何か答えらしき言葉を返してきたら、おまえを、あの消波ブロックを作るときに使う型枠に放り込んで、その上から生コンをたっぷいりと流し込んでやろうかって思っていたところだ。命拾いしたなッ! おめでとう♪」と、ジジッチョは言うのだった。
 
   **{格物|かくぶつ}**

 {仕来|しきた}りの旅先で、こんな話を聴いたことがある。

 「組織のトップっていうのは、一億人から『間違ってる!』って言われたって、絶対にそれを認めないし、{況|ま}してや、絶対に謝ったりなどしない!
 組織のトップが、{過|あやま}ちを認めたり謝ったりするってことは、どういう意味か、判るだろッ? その組織は、その時点で、終わりさ。{亡|ほろ}びるってことさ。
 組織のトップは、俺たちの数百倍、数千倍、組織のことを、考えてる。それが真似できないんなら、おれら組織の人間は、会社のトップが考える時間を、誰からも邪魔されないように、純粋に、ただそのことだけを考えて、最善を、尽くす。
 ……即ち、悔いなき努力を、すべきなんじゃないのかなァ?
 俺は、そう思うけどなッ!」……と。

 {此|こ}の世の中には、俺の考えの及ばないところで、{夥|おびただ}しい数の思い{遣|や}りや、温かい情念が、{蠢|うごめ}いているのだ。 

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