MIWARA BIOGRAPHY "VIRTUE KIDS" Virtue is what a Japanized ked quite simply has, painlessly, as a birthright.

東亜学纂学級文庫

『息恒循』を学ぶ

一息92 ミワラ<美童>の後裔記 R3.5.22(土) 夜7時

#### 一息マザメ「連行されてザペングール島に渡った{余所|よそ}者、あたい!」後裔記 ####

 その一日……ある言葉だけが、{鰯|イワシ}の小骨よろしく、心の{喉仏|のどぼとけ}に{痞|つか}えている。漂海民。そこに思いを{馳|は}せると、スピアの記憶の中の爺さんの言葉が、{甦|よみがえ}ってくる。それにしても、地底では囚人、地上では{廃墟|はいきょ}に置いてけぼりーぃ?! なんちゅう一日やねん!
   学徒学年 マザメ 齢12

 一つ、息をつく。

   《 スピアとサギッチに、二つ言いたいことがある 》

 その一つ目。
 おまえらを待つ気なんか、最初っから、サラサラ無かった。
 だから、遅れて来たことは、気にすんなってことよッ♪

 その二つ目。
 おまえら、なんでそう、馬鹿なのさッ!
 いろいろあって、今、あたいの頭ん中、グルグルしてる。書きたいことは、山ほどあるけど、みんな知ってのとおり、あたいは、書くのは苦手。……というより、嫌い!
 なので、こうしよう♪
 いろいろあった中で、なんら思いを馳せないおまえら二人に腹が立ったから、それを、そのまんまの勢いで、オオカミの野郎に聴かせてやった。
 だから、オオカミ!
 代筆、よろしくーぅ♪ ……(ニコニコ)。

 おまえら二人に話して、それを、「あたいの代わりに書け!」って言うこともできるけど、それだと、スピアの長ったらしい理屈っていうオマケ付きの後裔記を、読まされることになる。そんなことになるくらいなら、まだ自分で書いたほうがマシってもんさ。書かないけどねぇ♪

 ただ問題は、オオカミの野郎の頭ん中の記憶装置の機能が、短期限定ってことだ。この話が、ここで終わっちまうかもしれない! だから、二人に、これだけは言っておく。
 スピアの幼いころの記憶。爺ちゃんが役なのか{将又|はたまた}本当の爺ちゃんなんかは知らないけれど、スピアと一緒住みだった爺さんが言い残した言葉。それが、本当は、どういう意味だったのか……。
 あたいら{美童|ミワラ}は、そこは、{受け流す|スルーする}ところじゃないと思う。{莫|まく}妄想なんて*かったるい*ことしてる暇があったら、妄想でも、モンモンでも、なんでもいいから、その爺さんが言った言葉を思い出して、モーモー牛さんよろしく{反芻|はんすう}してみろってことさッ!

 ここは、誤解を招くようなドジは踏みたくないから、{諄|くど}いようだけど、スピアが書いていたその爺さんの言葉を、抄出しておく。
 「どの家の子も、お世継ぎなんだ。
 この世を継ぐ跡取りとして、厳しく育てねばならん。
 (中略)  
 厳しく育てたが故に、御家の行く末よりも、理を以て尊ぶべき(世のため人のための)職分を、己の天命と知る。それを、(己)自ら、己の運命に定めたのじゃ……{云々|うんぬん}」

   《 で、五人組に連れられ、珍!地底道中…… 》

 まるで、{囚人|しゅうじん}になって、連行されてる気分!
 普通はさァ……。
 見知った幼い{子等|こら}が、家の前を連れ立って歩いてたらさァ、声、掛けるじゃん。
 「あーらァ♪ よしこちゃん! みんな連れ立って、今日は、どこにお出かけーぇ?!」……とかさァ。
 それが、どうだい!
 目だけ合わせて、お互いが頭をタテやヨコに振って、それで終わりさ。まるで、「そいつが、例の囚人かい?」「そうさ。余計なこと、言わないでよね」「解ってるわよォ♪」……みたいな。
 家って言っても、ただ横穴を掘って、その入り口に{暖簾|のれん}とか{簾|すだれ}を垂らしてるだけなんだけどさ。{私生活の秘密|プライバシー}、まる聞こえーッ!! って感じ。それも、有り得ん!

 この地底住みの人たち、スピアの血と同じ流れを{汲|く}んでるみたい。
 ほらッ! 覚えてるぅ? 史料室の社史、スピアが、バカ丁寧に長ったらしく要約して後裔記に書いてくれて……それ、あたいら、読まされたじゃん?
 その中に書いてあった、スピアん{家|ち}の座森屋と、サギッチん家の{鷺|さぎ}助屋の、起こりの話……。座森屋は、文明{民族|エスノ}の社会に潜入して、情報収集。鷺助屋は、会社を運営して、文明社会で軍資金稼ぎってところ。

 あの地底の人たち……その{子等|こら}、例の五人組の連中はさァ。その潜入先で、仕込まれた{奴|やつ}らなのさ。身分と使命を隠して潜入して、何食わぬ顔して普通の生活してりゃあ、恋も生まれりゃ、子も産まれるってもんさ。その〈子〉ってのが、あいつらさ。
 ここで、スピアの記憶の中の爺ちゃんが言った言葉と、{繋|つな}がる。
 「厳しく育てられ、自分の家のことより、世のため人のための天命を知り、それを、自ら己の運命と定める……云々」
 あいつら、父ちゃんか母ちゃんのどっちかが、自然{民族|エスノ}潜入班の調査部員で、もう片方が、文明{民族|エスノ}の複雑な血なのさ。

 複雑ってのはさ……。
 天竜川を境に、北方大陸系民族と、南方大陸系民族。この二つの民族を併せて、大和民族。{奴|やつ}らに言わせると、その大和民族ってのが、文明{民族|エスノ}の源流なんだそうだ。
 そして、北海道のアイヌ民族、瀬戸内の漂海民族、沖縄の琉球民族。他にも、{聖驕頽砕|せいきょうたいさい}の敗戦で*なだれ*込んで来た、欧米の狩猟民族たち。
 それから、労働を軽んじた大和民族の{足許|あしもと}を{掬|すく}ってなだれ込んで来た、東方・東南方大陸や、南米大陸の移民たち……そして、それらが{猥雑|わいざつ}な世間に{揉|も}まれながらも文化を成し得て交り合った、交血種民族!

 で、その五人組の、最年長の女。外見は、まだ幼いチビ助なのに、オオカミの野郎と{同|おな}い年ってことは、あたいより年上? しかも、上から目線の、あの物言いときたもんだ。
 {解|げ}せん! 許せん! 腹が立つ!
 (名前くらい、最初に名乗れっつうのッ!)……とは思ったけれど、言うのは{止|や}めにした。その理由は、知れたこと。あいつは、絶対に、{斯|こ}う言い返してくる。
 「おまえもなッ!」だ。
 ムカつく。
 でもまァ、あいつらの{住処|すみか}を一緒に歩いてりゃ、わざわざこっちから{訊|き}かなくても、周りの人が、名前か愛称で呼んでくるはずだ……と、思ったんだけど、このザマ……無視、阻害、まさに、針の{莚|むしろ}だッ!

 そんなこんなで、囚人マザメの海底〈珍!〉道中、斯様にして終わったのでありました。

   《 浮上? 上陸? 登頂? ザペングール島到着! 》

 てかこいつら……。
 風呂はーァ?!
 {飯|メシ}は、どこで作んのよッ!
 それに……そう、ウンチくんはーァ?!

 地上に出ると、そこは、入り組んだ海岸線。
 そそり立つ、断崖!
 散乱する、コンクリートで固められた{土塊|どかい}の残骸。それを{縫|ぬ}うように、見え隠れする{人道|ペデストリアン}の迷路。その先に、{剥離剥落|はくりはくらく}したコンクリート打ち放しの構造物……。
 窓ガラスに、鳥の{糞|ふん}や{粉塵|ふんじん}を{塗|まぶ}したエントランス……そして同じく、見上げたところに展望レストラン……見るからに、廃墟!
 (スピアが見たら、また、秘密基地にしちゃいそう……まァ、どうでもいけどさァ)……と、思うあたい。
 そのスピアが要約してくれた、例の社史。そこから想像していた、この島の原風景は……観覧車よろしく、{聳|そび}え立つ鉄塔駅に、メトロノームよろしく、宙で振れ回る色とりどりの中空車輌……で、実際はァ?
 廃墟の、シーサイドホテル……かァ?

 そんな、頭も足取りも*もたつく*あたいを、見捨てるかのように、五人組のやつらは、スタコラッサッサと、その廃墟の中へと、{宛|さなが}ら、行軍の歩調!
 無論、ほかに行く当ても無いので、やつらの後を、追う。手押しの自動ドアが、五人の共同作業で、左右に、開かれる。
 中に入ると、確かに廃墟には違いなかったが、整理整頓と片付け清掃が、行き届いている。これは、明らかに、{穢|けが}したり散らかしたり{放|ほ}ったくったりが大好きな文明{民族|エスノ}の{仕業|しわざ}ではない。
 自然{民族|エスノ}の習性……{或|ある}いは、和の{民族|エスノ}の中の、昔ながらの気の{利|き}いた人たちかッ!

 すると……結局?
 お互いに、名前も判らず仕舞いになってしまいそうな五人組の最年長の女が、可愛げもなく振り向いて、機械音のような声で、言った。

 「ここで、水回りを、使わせてもらってるんだ。豪雨とか地震とかんときには、ここが、避難となる。台風や吹雪のときは、あたいらもここで、追ん出しゲームや罰ゲームの馬乗りをさせてもらうこともあるんだ。
 和の人たちは、たまに漂海民の人たちをここに呼んで、宴会場を使って、寄り合いっていう会議みたいなもんを、やってる。ここを使ってるのは、〈和〉とあたいら〈自然〉と漂海民の人たちだけど、ここを造ったのは、文明に連中さ。
 {尤|もっと}も、その文明のやつらは、儲からなくなった途端、壊すだけ壊して、穢すだけ穢して、放ったくって投げ散らかして、サッサとここを、出て行ったみたいだけどさ。
 まァ、文明エスノだなんて、随分カッコつけた亜種名を名乗っちゃってるけどさ。所詮は、その程度の下等動物ってことさ。そんな下等動物なんかと戦って、あんた、死にたいかい?
 なんであたいらエスノが、動乱に向かって転がり落ちてんのか……その{訳|わけ}、{判|わか}るぅー?! 判んないのーォ?!
 要領が、悪いからさッ!」

 (ご尤も! なんだけど……。だからってさ。その物言い、なんとかなんないのーォ?! てかさ。こいつらの生活ぶりの説明なんか、聞かされてるバヤイじゃないだろッ! なんでオオカミの野郎が、出迎えに来てないのさッ! まったく。
 人間ってのは、なんで{斯|こ}うも、どいつもこいつも……なのさッ!)と、やっぱりまた、つい思ってしまう、あたいだった。
 で、{閑話休題|それはおいといて}。

 そのときだった。
 舞台女優でも現れそうな中央階段から、どやどやと、むさ苦しい男どもが、下りてきた。あいつから話を聞かされたあと、矢庭のことだった。なので、(これが、例の寄り合いってやつねぇ?)と、直ぐに見当をつけることができた。
 すると、そのやつら! 5人{雁首|がんくび}を揃えて、浅い会釈をした。まるで、頭だけ海軍の5度の敬礼って感じ。その視線の先には、一人の爺さん。一群の中で、その爺さんだけが、小ざっぱりとした格好をしている。
 上半身は、サラリーマン。下半身は、土木作業員。足は、白い{長靴|ちょうか}で、漁師のオッチャーンって感じ。顔は、難しそうだったけれど、5人の会釈を受けて答礼するときには、くしゃくしゃの笑顔に変わっていた。
 そのオッチャンだけが、一群を外れて、あたいのほうに歩み寄ってくる。依然、くしゃくしゃの笑顔が保たれている。そして、言った。
 「君が、マザメちゃんだねぇ♪ やんちゃ坊主二人は、一緒じゃないのかい?」
 「はい。その二人は、遅れて来ます。しかも、かなり……」と、あたいが、すぐさま応えて言いかけると、そのオッチャンは、頭を大きく前後に二度三度振りながら、{斯|こ}う言った。
 「ちょうどよかったーァ♪
 もし、君らのほうが先に揃っとったら、ちょっと待っといてもらわにゃいかんで、申し{訳|わけ}ないなーァって、思っとったところだ。
 悪いが、二人が来るまで、ここでゆっくりしといてくれんかね。わしは、直ぐに戻るんでな。べつに、遠くへ行くわけじゃない。わしの用事は、〈かなり〉までは、掛からんけにーぃ♪」
 その丸っこい低周波の声は、あたいの耳ん中に押し寄せてくると、優しく波打つように、頭の芯まで伝わってくるのだった。そこで、ある人物に、思い当たった。
 (ジジサマだーァ!!)

 そうよ。あの、オオカミの野郎の、航海術の{俄|にわ}か師匠。だねッ♪ そのジジサマも、自分が思い当てられたことを直ぐに察したのだろう。そのくしゃくしゃの笑顔が、微妙に、すっかり安堵したかのように変化した。
 すると、ジジサマ。背中を左右に揺らしながら、手押し自動ドアの脇に置いてあった角スコップを手に取ると、そのままスタコラサッサと、外に出て行ってしまった。

 (ゆっくりしとけって言われたって……ねーぇッ!!)と、思う以外に、なんの次の行動の案も、頭に浮かんではこなかった。しかも、その頭を左右に回して、視界を{繋|つな}いで360度見渡してみても、あの五人組の姿が、見当たらない。
 (用が済んだら、サッサと消えるんかい!)と、腹立たしく思った途端、オオカミの野郎のニヤニヤとした顔が、脳裏に浮かんできやがった。そのニヤニヤ顔の理由は、直ぐに、見当がついた。あいつは、ジジサマに、斯う言われたのだ。
 「寄り合いのついでに、わしが三人を拾って来てやるよ。まァ、ここで、待っとりゃいいけにーぃ♪」……みたいな!

 (あたいら、これから、船出なんだろッ?
 なんで、どいつもこいつも、斯うも呑気なのさ。
 てか、……あたい。
 どうしよーォ!!)
 と、思うあたい……なので、ありました。
 ですです(アセアセ)。
 
_/_/_/「後裔記」と「然修録」_/_/_/
ミワラ<美童>と呼ばれる学童たち。
寺学舎で学び、自らの行動に学び、
知命を目指す。「後裔記」は、その
日記、「然修録」は、その学習帳。
_/_/_/
Hatena Blog (配信済み分の履歴)
配信順とカテゴリー別に閲覧できます。
http://shichimei.hatenablog.com/

_/_/_/『亜種記』_/_/_/
少循令(齢8~14)を共に学ぶ仲間
たちを、寺学舎では「学級」と呼ぶ。
その学級のミワラたちは、知命すると
タケラ<武童>と呼ばれるようになる。
そのタケラが、後輩たち或いは先達
の学級の後裔記と然修録を、概ね
一年分収集する。それを諸書として
伝記に編んだものが、『亜種記』。
_/_/_/
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亜種記「世界最強のバーチュー」
Vol.1 『亜種動乱へ(上)』
[ ASIN:B08QGGPYJZ ]
Vol.2 『亜種動乱へ(中)』
[ 想夏8月ごろ発刊予定 ]

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