MIWARA BIOGRAPHY "VIRTUE KIDS" Virtue is what a Japanized ked quite simply has, painlessly, as a birthright.

東亜学纂学級文庫

『息恒循』を学ぶ

ミワラ<美童>の実学紀行 No.115

#### マザメの実学紀行「怪しい島から不気味な海へ。ズングリ丸出帆」{後裔記|115} ####


 《ガキッチョと牛追いばあやの{餞別|せんべつ}》
 《異様! 不気味! 新ズングリ丸が行く》
   学徒学年 マザメ 齢12

 体得、その言行に恥ずるなかりしか。

   《 ガキッチョと牛追いばあやの餞別 》

 それは、ズングリ丸出航の朝だった。
 コオ島と、和の人たちとの別れの朝。
 ズングリ丸を変身させてくれた、例の若いエンジニアのおにいさんが、言った。
 「塩を{塗|まぶ}した石炭は、高効率・高出力を叩き出してくれます。名付けて、シオマブボイラー♪
 但し、難が少々。航行における船舶というものは、海上衝突予防法に{則|のっと}り、他船の航行を{冒|おか}さない限り、自由です。でも、この新オンボロ丸……失礼。新ズングリ丸は、不自由船とよばれる{類|たぐい}の汽艇となりました。
 更に、船員は、重労働! 真っ黒にもなります。
 それだけです」
 ムロー学級、総員八名、現在員六名、みな無言……しかも、陰気臭い!

 続けて、技師長のジジッチョが、何かを言おうとしたが、これまた例の醤油瓶フリフリ婆さんが、{踵|かかと}でジジッチョの足の甲を思いっきり踏んずけて、それを制した。
 そして、ガキッチョに、言った。
 「おまえさァ。せっかく**友**ができたんだ。はなむけに、何か歌でも、披露したらどうだい♪」
 一瞬、不満げな横顔を見せたガキッチョだったけれど、{徐|おもむろ}に姿勢を正して……歌?

 「小高い丘の城跡の崩れかけた{東屋|あずまや}で、その子は父を待っていた。
 この日の朝には帰るはずの父であった。
 それが三つ目の朝となり、四つ目の朝が来て、五つ目の朝が雨だった。

 しとしとぴっちゃん しとぴっちゃん♪
 しーとォぴっちゃん♪

 六つ目の朝、霜がおりた。
 季節の変わり目をつげる別れの霜が。

 ぱきぱきぴきんこ ぱきぴんこ♪
 ぱーきィぴんこォ♪

 帰りゃあいいが 帰らんときゃあ♪
 この子も霜ん中 凍え死ぬ♪
 この子も霜ん中 凍え死ぬ♪
 ああ 大五郎 まだ三つ♪

 ぱきぱきぴきんこ ぱきぴんこ♪
 ぱきぱきぴきんこ ぱきぴんこ♪ 
 ぱきぱきぴきんこ ぱきぴんこ♪」

 サギッチが、一言。
 「三つかい!」
 (そっちかい!)と、思うあたい。
 そのあと、六名無言のまま……新ズングリ丸、ほどなく着水。そして、桟橋に繋がれるズングリ丸。船首の先と船尾の手前にある{繋船曲柱|けいせんきょくちゅう}に{舫|もや}いをとる技師のおにいさんと、ジジッチョ。
 矢庭に新ズングリ丸に乗り込む、{美童|ミワラ}の男ども……。
 そして、{躊躇|ためら}うあたい……ほとんど、無意識。そんなあたいの後ろ姿に、婆ちゃんが、声をかけてきた。なんて言われたか、まったく思い出せない。振り返ってみると、婆ちゃんが、満面の笑みで、両手に、花束を抱えていた。
 そして、言った。
 「こいつの花言葉、知ってるかい?」
 「花ァ?」と、あたい。
 「その、薄い山吹色の、ほれ、乳牛の乳首みたいなの……それ! それが、花ったい」と、ばあや。
 「あーァ……えぇ?」と、あたい。
 「そいつの花言葉は、三つあるもんね。優しい心、忍耐、{諦|あきら}め。その三つ、一言でなんて言うか、知っとっと?」
 (知っとっとるわけがない!)と、思いながらも、無言で首を横に振る、あたい。
 「心意気だもんねぇ♪」と、ばあや。ニッコリ……微笑む。
 そしてまた、言った。

 「あたしゃねぇ。朝の五時から夜の八時までは、乳牛の世話をしてるのさ。そして空いた時間は、畑で野菜の世話さ。
 あんたら自然エスノは、自然のものを探したり捕らえたりして、食う。あたしら和のエスノは、自然のものを育てて、食う。そして文明エスノは、それを金で買って、食らいやがる。
 どう思う?
 次の天地創造で生き残るのは、どのエスノだろうねぇ。
 あるものを{唯|ただ}食う奴らかい?
 育てて食う奴らかねぇ。
 それとも、金で買って食らう奴らかい!
 あんたら、{危|あや}ういと思うけどねぇ。
 今のままじゃ……。
 まァ、もう逢うことはないだろうけどさ。何かを考える時間ができたら、このオンボロ婆ちゃんが言っとったこと思い出して、考えてみるといい。
 この*オンボロおばば*より先に死んだら、直ぐに追い駆けて行って、しこたま説教してやるから、覚えときなね。
 じゃあ、ほら、行った行ったーァ♪
 ほらほらほらほらーァ♪
 おいおいおいおいーィ♪」

 (あたいは、牛かい!)と、思ったあたい。
 そして、ばあやは、牛を追いに、行ってしまった。 

   《 異様! 不気味! 新ズングリ丸が行く 》

 「チョコレートとイチジクってさァ。絶対、カチカチの固いほうが、美味しいよなッ! イチジクの歯応え、チョコレートのコリコリ……絶対、{譲|ゆず}れねーぇ!」と、サギッチ。
 「そんな理屈、いつ、どこで、誰が、{何故|なぜ}どうして、決めちゃったのさァ!」と、あたい。
 「そのチョコレートは、ビターなんだろうなッ!」と、オオカミ。
 「ビターは、当然。問題は、カカオが、何パーセントかだッ!」と、ムロー。
 「なァ……」と、サギッチ。けっこう大きな声を発射したその先には……スピア。
 「あーァ??」と……その、スピア。
 「あのなァ。おれらが真っ黒クロスケになって、汗だくで関東のオデン宜しく濃い口のつゆだくで働いてるってのに……おまえ! 何してんだァ!」と、サギッチ。
 「読書」と、スピア。
 「見りゃ判るよッ! だから、なんで読書なのさッ!」と、サギッチ。
 「いけない?」と、スピア。天然的に、不思議そうな顔。
 
 話の途中だけど……ここで、ズングリ丸の解説を、少々。
 36フィートに足らない{船体|ハル}。(12メートルくらいなんだそうだ)。家船の外観は、そのまま。
 その船体の前半分は、船艙と作業甲板。後ろ半分の後甲板は、コックピットとキャビン……なんて{洒落|しゃれ}たもんの{筈|はず}はなく、その実態は、機関室と舵輪。
 その機関室には、バカでっかい中古の商用エンジンが、新たに据わっている。{舷縁|ふなべり}の{落水防止用のロープ|ライフライン}は、相変わらず、一本のロープが、張ってあるだけ。
 そこに今回、石炭を{焼|く}べる{仕様|スペック}が、加わった。
 通気口に{嵌|は}め込まれていた{通風機|ベンチレーター}は、撤去。そいつの代わりに、ヨットのマストのような鋳鉄管の煙突が、{一|ひと}。

 で、一人目。オオカミは……。
 船尾から延びる曳航用のロープが、十数本。それを、右舷側に掛け替え……かと思えば、左舷側に掛け替えしながら、{方位磁石|コンパス}を*チラ見*しいしい、舵輪を右へ左へと回している。

 次、二人目。サギッチは……。
 その曳航ロープの途中途中の何カ所かに、真っ黒い延伸ポリエチレン製の大きな網袋に{包|くる}まれた石炭が、真っ白い発泡スチレン製の大きな{浮き樽|フロート}に{括|くく}りつけられ、海中に宙吊りになって引っ張られている。
 そのロープを引き込み、その網袋の一つを回収し、ロープはそのまま、{解放|レッコ}する。

 次、三人目。ムロー先輩は……。
 その海水に漬け込まれた網袋入りの石炭は、麻袋に入れて小分けにされている。その麻袋を作業甲板まで運び、麻袋から石炭を出して、甲板の上に{均|なら}してゆく。
 ほどなく水分が飛び、塩塗し石炭に仕上がると、それをまた麻袋の中に納めて、シオマブボイラーのある後甲板まで、運んでゆく。

 次、四人目。あたいは……。
 {所謂|いわゆる}、火夫。{即|すなわ}ち、{缶焚|かまた}き。つまりは、ボイラーに石炭を放り込む、機関員。

 次、五人目。ツボネエは……。
 船首で、見張り。

 そして最後、六人目。スピアは……。
 作業甲板に均された石炭の乾き具合を、見ている……と、せめてこれくらいやっていれば、まァ一応は、{恙無|つつがな}く……という場面。
 ところが、それさえも{飽|あ}きてしまったのか……読書中、サギッチに声を掛けられ、「いけない?」と、返答をしたという次第だ。

 コオ島が小さく見えるようになった頃には、もう日はどっぷりと暮れ、不気味な暗闇が、{怪|あや}しげな{曳|ひ}き船を包んでいったのだった。
 
   **{格物|かくぶつ}**

 ばあやが言ったとおり、正に、己を正す。
 その方法が、変わることだ。
 みなが、{是|これ}をやる。
 さすれば、自然{民族|エスノ}を、正すことができる。
 延いては、三つの亜種が正され、再び、一つと相成る。 

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