#### ムローの実学紀行「自然{民族|エスノ}は、能天気な亜種だったのか。{喝|カツ}!」{後裔記|120} ####
《敵か味方か! 電脳チップの埋め込みを拒んだ二人の男の正体》
《無言、暗闇……目的地。そこは、何でもない原っぱ。勢いを増す陽光が、ある一点を照らす》
学人学年 ムロー 齢17
体得、その言行に恥ずるなかりしか。
《 敵か味方か! 電脳チップの埋め込みを拒んだ二人の男の正体 》
(こいつらァ!
捕虜になったっていう認識が、まったく無いな。
それとも、心理戦の第一波、警戒心を解く攻撃を受けて、脳ミソを占拠されてしまったのかッ!
問題は、こいつら文明エスノ二人の紳士的態度が、ただ単に心の中のありのままを映し出しているだけなのか。それとも、悪意に満ちた演技なのか……。
まァ、いい。
暫くは、このまま、黙っておこう)と、思った俺。
スピアも、問われて一度は応えて口を開いたが、その後、開いたままのその口からは、耳を澄ませど何も流れては来なかった。
暫し……と、言いながら……概ね、四十五分の沈黙。空気が、重い! やっと、年長のほうの青年が、木製のスツールから立ち上がった。そして、言った。
「一つ、敵兵に敬意を払って、忠言しておく。
ぼくらを、文明エスノとは、思わないことだ。
無チップの{輩|やから}から観ても、ぼくらは、異端児さ。ヒト種分化の出来{損|そこ}ないってところかな。文明というより、和のエスノに、近いのかもしれない。
但し、分化の結果は、{飽|あ}くまで文明エスノだ。ぼくらの血は、君たちを敵と認識して、疑わない。今考えてみると、、{何故|なぜ}君たちを助ける気になったのか……正直、不思議な気分さ。
仮に、今ここで、君たちの自由を護るという理に{順|したが}って、君たちを解放……{即|すなわ}ち、見逃すという行為を義とするならば、結果的にぼくは、君たちの死に無関心だったということになる。
海のルールに{譬|たと}えれば、海難の第一発見者の義務に{悖|もと}る行為になってしまうということだ。{解|わか}るかい? 見逃すって言えば聞こえはいいけど、それは、正しいコトバ記憶じゃない。真実結び付いた正しいコトバは、*見逃す*ではなく、*見殺しにする*だ。
ぼくたちは、先祖代々、二つの生きものの命を、{護|まも}ってきた。一つは、海。もう一つは、海民さ。君たちは、半島育ちだけど、ルーツは、海賊じゃないのかい?
実際、子どもたちだけで、{家船|えぶね}を{操|あやつ}って、自然エスノの半島から、和のエスノの島を経て、{終|つい}には、{此処|ここ}。文明エスノのこの島まで、やってきた。
それも、血だ。
君らは、血に順って、己の命を、ここまで運んでくることができたんだ。もし君たちが、左脳の理屈や教訓や方程式に頼って生きている子どもだったとしたら、君らは、既に、もうこの世には、存在していないはずだ。異世界の化け物にでも、なっていたことだろう。
話が長くなってしまって、申し{訳|わけ}ない。
これより、難民六名を、収容する」
年長のほうの青年は、そう言い終わると、俺たち六人と、俺と{年嵩|としかさ}が大差ない若いほうの男に、指示を出した。
俺たちには……。
「目的地に到着するまで、何があっても、口を閉ざしておけ」と。
若いほうの男には……。
「報告書には、{斯|こ}う書いといてくれ。
『一切、言葉を発せず。国籍、血の種別、共に不明。収容とする』と。
それ以外のことは、一切、何も{臭|にお}わすんじゃないぞッ!」
それを聴き終わった若いほうの男が、応えて言った。
「承知しました。
それはそうと、ヒト種のレディーってのは、そんな小汚い顔や、薄汚い身なりをしてちゃ、ダメだな。
レディーファーストの*レディー*ってのは、{身体|からだ}はいつも清潔にして、その{身|み}の周りは、常に整理整頓。見えないところにまで気を配り、日々清掃を{怠|おこた}らず。
そんな女性だから、男たちから大事にされる。女だから、*ファースト*なんじゃない。*レディーだから*、ファーストなんだ。
実際問題、住まいの汚さは、七養を妨げる。
{公|おおやけ}の汚れ{穢|けが}れは、六然を{阻|はば}む。
職場の{怠慢|たいまん}や{卑屈|ひくつ}は、五省を{遠退|とおの}ける。
そのどれが欠けても、心は、{醜|みにく}い悪の温床となってしまう。
女性にだけ、厳しい{訳|わけ}じゃない。
男には、職分がある。父親としての、義務もある。男にも女にも、職分と親としての義務があるってことさ。
これは、古典!
歴史学の、ヒト種の研究ってところかなァ♪
今は、乱世……{否|いな}。
乱世の、始まり……そこは、逆説が入り混じった、複雑な迷路さ。
{縁尋機妙|えんじんきみょう}……ってねぇ♪
ぼくも、今から、口を閉ざすから。
君たちの生命を護るためにね」
《 無言、暗闇……目的地。そこは、何でもない原っぱ。勢いを増す陽光が、ある一点を照らす 》
{敲春|こうしゅん}……その、後半。和や文明の奴らで言う、五月だ。
後裔記を読んでいるであろうヨッコ君とワタテツ君のために、余計な解説を入れる。バカ長いネックウォーマーを、頭から被せられ、脳天と首のところを{縛|しば}られた格好を、イメージしてみてほしい。
蒸れる!
不快指数……どんな数値で示すのか知らんけども、要するに、不快極まりない時空を経て、俺たち六名は、何でもない原っぱに、放置された。
文明エスノの無チップの二人の男は、無言という約束の{体|てい}を崩さず、やることだけやって、さっさと立ち去ってしまった。
原っぱ全体に、当然だが、{万遍|まんべん}なく、陽光が刺す……ものだが、それが、どうにも、空気が、おかしい。
陽光が、ある一点に集まってゆくように、思えるのだ。
この感覚は、あとで聞いた話によると、六人とも、共通だったようだ。
**{格物|かくぶつ}**
この世には、理屈では説明できない……というより、無理に科学的な{論的根拠|エビデンス}で切って{棄|す}てると*ツマラナイ*ことっていうのが、事実、少なくない。
心は正すべきだが、この世の物事を{悉|ことごと}く科学的に正すべきではないと思う。
そのことを{上手|うま}く表現した先人語録が、あった。
うろ覚え……調べれば済むだけの話だが、今は収容の身。それでも、どうにか調べるのが、貧の精神……学問の神髄だ。
だが、今日の事にはならん!
ムロー学級八名、現在員六名。
総力を結集して、その語録を、調べるべし!
「なんでーぇ!?」と、ツボネエの声が、実際問題、聞こえてくる。
……(アセアセ)。
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