MIWARA BIOGRAPHY "VIRTUE KIDS" Virtue is what a Japanized ked quite simply has, painlessly, as a birthright.

後裔記と然修録

ミワラ〈美童〉たちの日記と学習帳

然修録 第1集 No.129

#### ヨッコの{然修録|129}【1】座学「道徳」【2】息恒循〈序説〉遺伝血と伝承脳 ####

 {会得|えとく}、その努力に{憾|うら}みなかりしか。
 門人学年 **ヨッコ** 青循令{飛龍|ひりゅう}

【1】座学
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道徳

 ムロー学人の然修録より。
 「何れにせよ、進むべきは、*道徳*の〈道〉」
 (中略)
 「ところで、自分を変えるための学問とは、なんだろう……」

 (だから、道徳っしょ! 自分で、そう書いてるじゃん)と、思ったあたい。……で、道徳について、座学した。

 **道徳革命**

 一九六〇年代が折り返そうとしている頃の話だ。
 NATOの会議で、アメリカから出席した高官が、{斯|こ}う発言した。
 「ここまで発達した科学・技術は、今後改めて道徳と結びつかなければ、恐るべき破綻に{瀕|ひん}するに違いない……」と。
 これに呼応した欧米各国の権威ある哲学者、社会学者、医学者たちは、斯う声を揃える。
 「人類を*この破綻*から救うためには、道徳革命・精神革命が行われなければならぬ」
 これをきっかけにして、西洋で、東洋文化が注目を集めることとなる。特に、古典哲学に{纏|まつ}わる歴史や思想などの研究が、盛んに行われるようになった。

 片や、わが国{日|ひ}の{本|もと}では、{如何|いか}に!
 宗教が最終的な到達点で、道徳は、{飽|あ}くまでその過程に過ぎない……という考え方が、幅を利かせている。このような考え方をする者たちは、宗教の達者とは限らず、単なる高学歴者に多いというのだ通説だ。
 言わずもがな……東洋哲学の原理に、宗教に導くような要素など、存在する{筈|はず}もない。

 では、道徳とは何か。

 先ずその、〈道〉とは……。

 それは、大宇宙……天の一貫した営みのこと。これ、自然。人間は、自然の一部……{即|すなわ}ち、天人。{故|ゆえ}に人間の人生は、天の道に基づく。
 これは、飽くまで東洋文化の話。西洋文化のそれとは、全く異なる。西洋人にとって天……自然は、{対峙|たいじ}するもの。{故|ゆえ}に、山に登ると、「エベレストを征服した……」みたいに、征服という{戦|いくさ}に勝ったかのような言葉を好んで使う。
 東洋においてはどうか。
 天人合一、天人一体……であるならば、人に心あらば、同時に天も心を持つことになる。大陸の宋代、名高い哲学者が、これを{斯|こ}う説いている。

 「天地のために心を立つ
 生民のために命を立つ
 往聖のために絶学を継ぐ
 万世のために太平を開く」

 意味は、概ね斯うだ。
 大自然は、長きに亘る創造の末に、遂に人間を創り出し、これに心というものを開かせた。それは同時に天地の心でもあり、故に人間は、天地のために心を立てる。
 己は{何故|なにゆえ}に存在し、世の中を{如何|いか}にせねばならぬか……この答えが、命である。
 ところが、一般民衆というものは、{訳|わけ}も解からずにただ生きているだけだ。故に、その命なるものをよく教え示し、このようなものだから、このようにして、こうならねばならぬと、よく教え導いてやらねばならぬ。
 結果、それが*立命*となる。
 {況|いわん}や、人間は、立命のために、先駆者や先哲、先賢に学ばなければならない。そこまでに到って初めて、永遠の平和を実現することができるのである。

次に、その〈徳〉とは……。

 創造された大宇宙、天地人間、大自然に一貫して育ちゆくもの……即ち、{造化|ぞうか}。その本質的な原理が、**道**である。その道が、人間を通して現れたもの……それが、**徳**である。
 この道と徳を結び{繋|つな}げたものが、**道徳**である。

 徳は、様々な社会活動を通じて現れる。人に対しては〈教〉として現れ、社会においては〈功〉として現れる。
 〈教〉とは、「人が他のお手本になって、後進を導く」という意味である。故に教師{足|た}る者、本来は言葉や技術など二の次で、先ずは己の徳が周りの人たちのお手本となって、教え導かねばならない。
 滅多に教師足る者にお目に掛かれないのは、それ故である。
 〈功〉とは、「産業を興し、生活の営みを促進させる」ことである。正に〈利〉であり、「進め励まし教え導く」という意味の〈勧〉とも成り得る。これまさに、*勧業*である。
 〈教〉と〈功〉は、力となる。
 〈力〉は、「率いる」という作用を、最大限に発揮する。故に、道徳から現れた行為行動でなければ、率いる力など無いということだ。

 道は、化となる。化とは、自発的な驚くべき創造であり、大いなる変化でもある。故に道は、万物を化する。これを、道化という。
 サーカスに出てくる道化師を観ていると、ユーモアの中にも、何か内に秘めた痛いほどの真実を、感じさせられてしまうことがある。これが道化であり、道化師と呼ばれる{所以|ゆえん}である。

 このようにして、人間社会が道に{則|のっと}って発達してゆくならば、生活秩序が理法に{敵|かな}い、正しく営まれてゆく。これを、「治まる」という。政治という字は、この「治まる」に、人間の手や技を加える〈政〉という字を合わせた言葉である。
 故に、道に則った政治をしなければ、社会は道を{違|たが}え、秩序は崩壊してしまうのである。
 これを正しく、すべての民衆を率いてゆく人のことを、「王」という。徳をもって民衆を導き、人びとに謙譲の美徳を養わせ、国体を治めてゆく。これを王道とするならば、その真逆……対極にあるのが、力や{脅|おど}しで民衆を率いてゆく「{覇者|はしゃ}」ということになる。

 小事であれ大事であれ、覇者も治乱も、元は一つ。どこかで、一歩踏み外しただけに過ぎない。その踏み外した一歩を反省するのが自反、それによって己を正す行動が、格物である。

【2】息恒循
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〈序説〉遺伝血と伝承脳

 ご先祖様から後裔諸君へ。

 諸君が、ご先祖様の血を受け継いでくれたことを、嬉しく思う。

 受け継いだ血の中に刷り込まれた写像は、君{等|ら}の脳裏に{心像|イメージ}として再生される。これを、心像記憶という。
 心像記憶には、もう一つ種類がある。
 今{此処|ここ}で五感が{捉|とら}えた写像を、心像として脳裏に再生することだ。
 前者は、その再生能力が衰えないように、普段から頭脳を鍛えておかなければならないが、それはそれ。血も、そこに刷り込まれた写像も、生まれ持ったものである。
 ところが、後者はどうか。
 五感で文字から花びらまで何から何まで一つの写像として写し取り、それを心像として脳裏に再生するという{所作|しょさ}を習慣化するためには、訓練が必要だ。

 さて、ここで残念な事実を、明かさねばならない。
 この心像は、一度再生すると、もう二度と再生することが出来ないのだ。言い換えよう。確かに、この心像記憶は、記憶の中に存在している。では、どうやって探し出せばいいのか。その方法が、何一つ無いのだ。
 そこで必要になるのが、{言葉|ワード}記憶だ。
 これは、心像記憶の一つひとつに付けられる{札|タグ}だと思えば、解り{易|やす}い。「{薔薇|バラ}」という言葉記憶を札に書いて、心像記憶に貼り付けたならば、{何|いず}れ五感のどれかが何かを感じ取って「薔薇」という言葉を意識した時点で、この「薔薇」という言葉で札付けされた心像が、脳裏に再生されるという{訳|わけ}だ。

 後者の場合は、五感で取り込んだ写像を、綿密且つ鮮明に一つの心像にするという訓練に加えて、解り{易|やす}く誤解し{難|にく}い言葉を、札に書いて貼り付けるという訓練を、同時に行えば済む話だ。
 ところが、前者はどうか。
 まだ幼いころ、なんの札も付けずに、記憶の底に沈めてしまったのだ。必要な心像記憶だけ引き揚げるなんて都合がいいことは、絶対にできないのだ。
 では、どうするか。
 浅瀬に沈んでいるほうから始めて、片っ端から脳裏に再生しては、札に何か言葉を書き入れて貼り付け、また放り投げてポチャンと沈めるという途方もなく面倒臭くて手間の掛かる作業を、地道に{遣|や}り続けなければならない。
 これも、訓練の一つだ。

 再度、言い換えよう。
 前者を潜在意識、後者を顕在意識に置き換えて考えてみて欲しい。
 顕在意識は、日頃の訓練を怠れば、札は{朽|く}ち{剥|は}がれ、そこに書かれてあった言葉も、薄れて果ては完全に消えて真っ白になってしまう。この状態、正に潜在意識だ。
 潜在意識も、夢の中で引き揚げて、{弛|たゆ}まぬ大努力で札付けをする作業を続けなければ、もし、せっかく大宇宙を震撼させるような心像記憶を脳裏に引き揚げて再生することができたとしても、そこで札付けをする習慣を体得していなければ、再びただの無名の感覚として、記憶の湖の底深くに自ら沈めてしまうことになるのだ。
(Ver.2,Rev.0)

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