MIWARA BIOGRAPHY "VIRTUE KIDS" Virtue is what a Japanized ked quite simply has, painlessly, as a birthright.

後裔記と然修録

ミワラ〈美童〉たちの日記と学習帳

_/_/_/ 後裔記 第2集 _/_/_/ 第5回


   お試し亜種記

 一年が経ち、エセラは六歳になった。
 矢庭に後裔記を書きはじめ、物語は、唐突にはじまった。

 とうさんに、言われた。
 「おまえたちには、生まれ持った美質がある。
 それを、護り抜け。
 そのためには、武の心が必要だ。
 それを、養え。
 そのためには、知命せねばならん。
 息恒循を学び、それを、然修録に残せ。
 旅を、せねばならん。
 立命期が終わる前にな。
 その旅で感じたことを、後裔記に残すのだ。
 知命するまで、そのことを{怠|おこた}るな。
 知命したならば、己の運命を進め。
 それが、運命期だ。
 天命に到るまで、自反と格物に{悖|もと}るな。
 行動を学として、前に進み続けるのだ。
 そして、{武童|タケラ}となれ。
 それが、我ら自然{民族|エスノ}の使命だ」

 なんのことだか、とんとわからない。
 だってぼく、六歳だから。
 でも、とうさん怖いから、一つづつ、学んでみた。
 そして、それを一つづつ、やめちゃった。

 人の一生は、一つ。
 あたりまえじゃん!
 {天命|てんめい} (生涯道徳、その一生。四十九年間。零歳から四十八歳までの人生)
 じゃあ、百歳まで生きた爺ちゃんや婆ちゃんは、二回人生があったってこと?
 人生が二度あって、よかったじゃん♪

 十四歳で、大人になる。
 無理、無理!
 {立命期|りつめいき} (天命の前期十四年間。この時期の学童を、{美童|ミワラ}と呼ぶ。実父母が命名した{美童名|みわらな}を名乗る)
 {運命期|うんめいき} (天命の後期三十五年間。この時期の年代を、{武童|タケラ}と呼ぶ。自ら己に命名した{武童名|たけらな}を名乗る)
 十三歳までに、悪いことやっとかなきゃってこと?
 忙しいじゃん!

 人生は、七年間が七回。
 {幼循令|ようじゅんれい} (零歳から六歳までの最初の七年間)
 {少循令|しょうじゅんれい} (七歳から十三歳までの七年間)
 {青循令|せいじゅんれい} (十四歳から二十歳までの七年間)
 {若循令|にゃじゅんれい} (二十一歳から二十七歳までの七年間)
 {反循令|はんじゅんれい} (二十八歳から三十四歳までの七年間)
 {格循令|かくじゅんれい} (三十五歳から四十一歳までの七年間)
 {徳循令|とくじゅんれい} (四十二歳から四十八歳までの最後の七年間)
 四十にして惑わずって、中国の偉い学者が言った言葉だよね?
 それと、同じことだよね?

 その七年間の一年一年にも、名前がある。
 {飛龍|ひりゅう} (一年目)
 {猛牛|もうぎゅう} (二年目)
 {猫刄|みょうじん} (三年目)
 {嗔猪|しんちょ} (四年目)
 {悪狼|あくろう} (五年目)
 {石将|せきしょう} (六年目)
 {鐵将|てっしょう} (七年目)
 これ、{循令|じゅんれい}だって。
 凝り過ぎだな。
 やめてーぇやーァ!

 季節は、七つもある。
 {想夏|そうか} (七、八月)
 {起秋|きしゅう} (九、十月)
 {執冬|しっとう} (十一、十二月)
 {烈冬|れっとう} (一、二月)
 {結冬|けっとう} (三月)
 {敲春|こうしゅん} (四、五月)
 {還夏|かんか} (六月)
 これ、{時令|じれい}だって。
 めんどっちい。
 四つでいいじゃん!

 一週間は、七日。
 よしよし♪
 でも……。
 {七養|しちよう} (日曜日)
 {自修|じしゅう} (月曜日)
 {内努|うちゆめ} (火曜日)
 {五省|ごせい} (水曜日)
 {自反|じはん} (木曜日)
 {六然|りくぜん} (金曜日)
 {人覚|にんがく} (土曜日)
 これ、{恒令|こうれい}だって。
 めんどっちい。
 月月火水木金金でいいじゃん!

 一日は、七つの刻。
 江戸時代かァ!
 {腹想|ふくそう} (午後九時から午前三時まで)
 {頭映|ずえい} (午前三時から四時まで)
 {体敲|ていこう} (午前四時から五時まで)
 {然動|ぜんどう} (午前五時から七時まで)
 {烈徒|れっと} (午前七時から午後六時まで)
 {考推|こうすい} (午後六時から八時まで)
 {気養|きよう} (午後八時から九時まで)
 これ、{伝霊|でんれい}だって。
 わけわかんない!

 次は、忍者かな!
 ひと息つくだけなのに、またまた小難しい!
 {想|そう} (一吐息目)
 {観|かん} (二吐息目)
 {測|そく} (三吐息目)
 {尽|じん} (四吐息目)
 {反|はん} (五吐息目)
 {疑|ぎ} (六吐息目)
 {宿|しゅく} (七吐息目)
 これ、{唯息|ゆいそく}だって。
 吸わなきゃ、吐けないじゃん!
 そう、思わない? 

 ……で、最後。
 生の最小単位。
 ひと吐息。
 それが、{吐無|ぬむ}。

 そのひと吐息も無い世界……。
 それが、{造化|ぞうか}。
 これが天地自然の正体なんだって。

 さすがにこれは、手強い!
 「己が書いた然修録が、己の人生の指南書となるのだ」と、とうさんは言う。
 それも、難儀。
 その難儀を克服してきた大先輩たちの歴史が、亜種記なんだろうなと思う。
 何をどう頑張ろうとも、ぼくらは百年ごとに殺し合うんだ。
 あらゆることが、めっちゃ{億劫|おっくう}に思えてくる。

 天は、時代と情勢。
 地は、場所。
 {物|ブツ}は、人。
 人は、めんどくせぇ! 

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発行 東亜学纂
// AeFbp //
A.E.F. Biographical novel Publishing