EF ^^/ 然修緑 第2集 第8回
一、想夏 (7)
門人学年 エセラ (美童 齢十三)
「息恒循」齢 立命期・少循令・鐡将
海賊って、なに?
ぼくらのご先祖さまは、{能登守教経|のとのかみのりつね}の軍勢の{傭兵|ようへい}だった野島水軍の海賊……だったと、堅苦しい本をいっぱい出している出版社の新書に、書いてあった。
なので、その反動を言い訳にして、少し柔らかい本を、たくさん読み{漁|あさ}っている。
そんなとき、ふと……(海賊って、なんだろう?)と、思った。
「海で生き延びるには、好奇心と創造力が必要だ」と、父さんが言っていた。
当時はまだ、好奇心の意味も、創造力の意味も、知らなかった。
どうして、そんなことを、ぼくに言ったんだろう。
ぼくらは、文明{民族|エスノ}と闘うために、心を鍛えている。
でも、実際の戦いとは、たぶん、ミサイルが飛び交うことだと思う。
もし、水爆のミサイルを打ち合ったら、人類全体が、亡んでしまう。
でも、それより破壊力の小さい原爆なら、首都だけを効率よく効果的に亡ぼすことができる。
首都が、もし国境から離れていれば、隣国への放射能の影響も、少ない。
だから、島国の首都は、絶好の標的となる。
だったら、自国の首都に核ミサイルを撃ち込まれる前に、その核ミサイルが保管されているところを、先に攻撃すればいい。
そうすれば、自国の首都を護ることができる。
でも、人間という動物は、戦うことにかけては、頭がよく回る。
核ミサイルは、海の中にある。
原子力潜水艦の中。
なかなか見つからないばかりか、好きな時に、好きなところに行って、どこからでも、核ミサイルを発射できる。
だから、深い海底に隠れることができる領海を持っているアメリカとロシアが、最強なのだ。
この強大な二国が、北海道のすぐ北西と北東の深い海の底で、互いに核ミサイルを搭載した原子力潜水艦を潜航させながら、{睨|にら}み合っている。
狙われ易く、利用し易い国……それが、ぼくらの国、{日|ひ}の{本|もと}なのだ。
それで、納得できた。
いまの中国は、浅い海の領海しか持っていない。
だから、核ミサイルを搭載した原子力潜水艦を隠すために、広くて深い領海が、欲しいのだ。
どこ?
そうかァ。
だから、南シナ海なんだ!
南シナ海さえ自分たちのものにしてしまえば、ごちゃごちゃと内政に干渉してくるアメリカに対して、対等で言い返すことができる。
強い国から無理矢理に制度を変えさせられたり、力ずくで領土を取られたりする心配も、なくなる。
しかも、アメリカと対等になれば、太平洋の西半分を、中国の縄張りだと、アメリカに認めさせることだって、できるかもしれない。
南シナ海を領海にすることは、中国にとって死活問題だし、中国三千年の悲願なのだ。
ロシアにしたって、北海道の北のオホーツク海の深海に隠れて、アメリカを狙ているのだ。
北方四島を領土にすることは、ロシアの長年んぼ悲願だったに違いない。
(死んでも返すもんかッ!)って、きっと思ってる。
それなのに、「返してください」ってお願いしてるぼくらの国って、どこまでナイーブ(お人好しの世間知らず)なんだろう。
それよりも、ぼくらヒト種の分化と退化を止めることのほうが、誰が考えたって先だろう!
このまま{放|ほお}っておけばいいって、最初は思ってたけど、そんなことをしたら、ぼくらの亜種が亡ぶのは時間の問題だし、行く末は、ヒト種全体が、亡んでしまう。
だから、ぼくらは、戦わなければならない。
亜種記には、ヒノーモロー島やザペングール島に、ぼくら自然{民族|エスノ}も巨大な工場を持っていると、書いていた。
隠密で、新型の電脳チップを開発しているようなことも、書いていた。
でも、基本は、今も昔も、ぼくらは悠久、心を鍛えることを、第一の修行としてきている。
心を、どうやって武器に変えるんだろう。
それができなければ、ぼくらの亜種は、一番に亡びる。
2024.3.3 配信
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発行 Ethno Fantasy 東亜学纂