MIWARA BIOGRAPHY "VIRTUE KIDS" Virtue is what a Japanized ked quite simply has, painlessly, as a birthright.

後裔記と然修録

ミワラ〈美童〉たちの日記と学習帳

一息 58【少年学年スピア】巡回授業所、深層社宅、発掘された遺跡、便所紙、オセロ、コソ泥歩き、但惜身命、不惜身命。

第3集「自伝編」R3.2.13 (土) 19:00 配信

 一つ、息をつく。

 {暫|しば}しの静寂……マザメの{後|あと}の静けさ。サギッチ、閲覧席で、無言。手書き原稿と、{睨|にら}めっこ。考えているのか、ふてくされているのか、途方に暮れているのか。そのサギッチが、言った。振り向きもせず。
 「なァ。そのコソ泥みてぇな歩き方、{却|かえ}って気に{障|さわ}るんだけど。どうにかしろよッ!」
 「無理。てか、声デカイよッ! おまえ。『図書室と階段は、静かに!』って、習ったろッ?」と、ぼく。
 「怪談^??^ 冬だぞ、まだ!」と、サギッチ。
 「じゃなくて。階段は、踏み板を{軋|きし}ませないように、静かに上り下り」と、ぼく。
 「習ってねぇよ。誰だよ、そんなこと言ったの。てか、学園の先生の名前なんか言われたって、おれ、{判|わか}んねぇけんど……」と、サギッチ。
 「ぼくだって、判んないよ。ばァば先生と、ぼくのばァば」と、ぼく。
 「バーのバァバとバーバーのバァバかと思ったよ!」と、サギッチ。
 「そっちのほうが、わけわかんないってばァ! そんなことより、おまえ。今どこに住んでんのッ? それと、巡回授業所の講釈人って、子どもがやるの? {何|なん}でおまえなのさ。言い忘れてたけど、質問、二つね♪」と、ぼく。
 「社宅。その社宅に住んでるやつが、順番でやる。{魔性|ましょう}の鮫女も社宅住みだけど、一度も見たことねぇ。昼間は、森住みさ。たぶん。無論、そのほうが有難いってもんだけどな」と、サギッチ。
 「シャタク? なにそれ。官舎みたいなもん? てか、順番ってさァ。それじゃあ、巡回授業所じゃなくて、輪番授業所じゃん!」と、ぼく。
 「リンバン^??^ まァ。いいや。ここ、会社だから、社宅。この下。今は順番……てか、リンバン^??^だけど、昔は巡回だったらしい。それ専門の講釈人が、巡回して講座を開いてたんだってさ。シンジイも、ここじゃリンバンだけど、{余所|よそ}に行ったら巡回になるじゃん。てか、そうしてるみたい」と、サギッチ。
 「ふーん。そっかァ。で、下ってぇ?」と、ぼく。
 「深層住宅。地下四層の集合住宅さ」と、サギッチ。  「ふーん。微妙に{凄|すご}いじゃん」と、ぼく。
 「それが、ビミョーにスッゲくないんだ。階段。エレベーター、ついてないんだ。踏み板は、駆けても軋まない。セメントだからな。酸素もいっぱいあるから、有酸素運動もオーケイさ」と、サギッチ。
 「なんか、よく{解|わか}んないけど。コンクリートの防空壕って感じ? その上は、遺跡みたいな木造だし^!!^」と、ぼく。
 「それ。それだよ。西工場は近代的な設備らしいけど、こっちの東工場は、どこを向いても国宝級だな」と、サギッチ。
 「西工場ってぇ? なんか、最初にここに来た時に、聞いたような気はするけど……」と、ぼく。
 「隣りの島さ」と、サギッチ。
 「オオカミさんが降ろされた島ってことォ^??^」と、ぼく。
 「らしいな。てか、『……みたいな』じゃなくて、遺跡なんだ。ここ」と、サギッチ。
 「はーァ?」と、ぼく。
 「発掘したんだ」と、サギッチ。
 「発掘? 誰がァ^??^」と、ぼく。
 「発掘っていうか、掘ったらぶつかったっていうか。てかさァ。おれ、忙しいんだ。社史読めよッ!」と、サギッチ。
 「シャシーィ^??^」と、ぼく。
 「そうか。そうだよッ! 社史だよ^!!^ 社史をコピったら、課題のほうは、片付くじゃん! 消灯にも間に合うぞ♪」と、サギッチ。
 「消灯?」と、ぼく。
 「夜の八時に、社宅の主電源が切れるんだ」と、サギッチ。
 「ふーん。てか、なんでぇ?」と、ぼく。
 「節電。腹想。潜在意識の日課が始まる時間さ。だから、光は要らない。寝ろ!ってことさ。元い。腹想だから、眠れ!だな」と、サギッチ。
 「なんか、よくわかんないけど。まァ、もういいやァ。ぼくも、帰らなきゃ。日没までに帰らなきゃだから」と、ぼく。
 「日没までにって……なんか、女の子だな。てか……そっか。おまえ、戸建ての官舎住みだったよな。海軍の……まァ、空襲に気を付けてなッ^!!^」と、サギッチ。
 「ありがと。でも、まだ{暫|しばら}くは、大丈夫だよ。でも、そろそろまた始まるらしいけど……戦争」と、ぼく。
 「内乱だろッ? 敵は、異民族じゃない。同一民族の異亜種だからな」と、サギッチ。
 「闘いは、もう始まってる。でも、それが内乱とか戦火とかにならないうように、お互いの{戈|ほこ}を{止|とど}めさせる。それが、武の心だろッ?」と、ぼく。
 「出たッ^!!^ 座森屋教団の無関心お祈りの術! まッ、いっかァ。あんまり言うと、おまえの長い話が始まるからな。
 今日は、おれのほうが忙しいんだ。講釈の本題も、思い出さなきゃだからな。おれの宝物だった手書き原稿は、今ごろ魔性の鮫女にクソだらけにされてんだろうからな。便所{紙|がみ}ってやつさ。だから貧乏人の子どもは、サルみてぇにケツが赤いのさ。{硬|かた}いからな。原稿用紙も、チラシ広告の紙も。
 てか、だからさ。便所紙じゃなくて、戦争のほうさ。おれたちは、闘う運命なのさ。それが、天命。使命さ。だから{主題|テーマ}を、『対文明戦のための数学的思考のすすめ』にしたってわけさ。
 まッ、いいやァ。早く行けよ。日没と追い駆けっこするんだろッ? それとも、オセロでもやるかァ^??^ 防空壕でぇ!」と、サギッチ。
 「あるのォ? オセロ」と、ぼく。
 「ないよッ! 手作りさ。オオカミ先輩にでも、作ってもらうかな。得意そうだしぃ♪」
 「得意なんだか、好きなだけなんだか、それも、どうなんだか^!?^ てか、まだ作ってないのォ? 作っといてよ。今日の消灯までに。よろしく。じゃあ♪」と、ぼくは言って、コソ泥歩きで史料室を出て、遺跡の{建屋|たてや}を{後|あと}にした。
 たしかに、日没は近そうだった。門を出る前に、また、角楼に上った。(今まさに、この時代、この場所で生きてる。不思議だ。奇跡だ。有り得ない神秘。だよな……)と、{何気|なにげ}にふと思う。そして、太陽神を、見{遣|や}った。するとぼくは、無意識に語り掛けていた。
 「{但惜身命|たんじゃくしんみょう}。
 アマテラスさんも、ぼくも、今こうして、お互いが生きてる。考えてみたら、こんなに不思議なことはないよね。時間は悠久。これも不思議。空間は{茫漠|ぼうばく}。これも不思議。それなのに今、ぼくとアマテラスさんは、その同じ時間と空間を一緒に共有してる。不思議……というより、奇跡だね。
 {刹那|せつな}、寸陰……でもそれは、{現世|うつしよ}で実際に存在した現実。でも、そう思ったその時間も、空間も、ぼくという存在も、もう過去なんだ。もう{無|む}、何もない。何も残っていない。すべて、消えてしまった。なんか、{哀惜|あいせき}に{堪|た}えない気分になってくる。ぼくはもう、死んじゃったのかなァ。だから……哀惜。
 {不惜身命|ふしゃくしんみょう}。
 そうだな。この奇跡。この刹那。この寸陰の時間と空間のために、すべては生かされてるんだ。愛があれば、必ず、戈を止めさせることができる。そんな奇跡、そんな刹那、そんな愛にくらべたら、ぼく一人の命なんて……。
 アマテラスさんも、そう思わない? 思うでしょ^??^
 ぼく、もう行くね」
 門を出ると、ぼくは、峠を上りはじめた。
 永遠の上り坂……。
 悠久の時間。
 ぼくの存在が無くても、何も変わらない。
 変えないために、亡くさないために、すべてを変えなきゃ!
 たとえ、すべてが無になっても……。

皇紀2681年2月13日(土) 活きた朝 2:46
少年スピア 齢10^

令和3年2月13日(土)号
一息 58【少年学年スピア】巡回授業所、深層社宅、発掘された遺跡、便所紙、オセロ、コソ泥歩き、但惜身命、不惜身命。

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東亜学纂

MIWARA BIOGRAPHY
(C) Akio Nandai "VIRTUE KIDS" Vol.1 to 12
V.K. is a biographical novel series written in Japanese with a traditional style.
Virtue is what a Japanized ked quite simply has, painlessly, as a birthright.
A.E.F. is an abbreviation for Adventure, Ethnokids, and Fantasy.

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