MIWARA BIOGRAPHY "VIRTUE KIDS" Virtue is what a Japanized ked quite simply has, painlessly, as a birthright.

後裔記と然修録

ミワラ〈美童〉たちの日記と学習帳

第4集「自伝編」土曜夜7時配信 R3.3.20 一息69

#### 後裔記「青空の一糸が肌を刺さす。昼下がりの対談」 少年スピア 齢10 ####

 *本音を探り合う*二人。親友、{将又|はたまた}宿敵かッ! *面倒っちさを競う*、先の見えない対話。

 一つ、息をつく。

 {漸|ようや}く、要約疲れも{癒|い}えたある日の昼下がり……執冬も、後半。空には、目にハッキリと澄み渡った青が映り、その青の一糸一糸が、肌に寒々と{擦過|さっか}してくるのだった。

 「おまえのこと、ザグッチって呼ぼうかなァ♪」と、サギッチ。
 「やめてくれよ。おまえ、クロスケって呼ばれることになるんだぞッ!」と、ぼく。
 「そこまでは考えてなかったな。脚下される前に、取り下げるよ」と、サギッチ。

 ……角楼。
 間もなく、午後の三時。さすがの〈昼〉も、観念して{手を振って|サヨナラして}いる。
 {美童|ミワラ}の少年二人の手には、ライ麦パンを二度焼きしたラスクが……。それが、時おり口に運ばれて、{角|かど}っちょから慎重に{齧|かじ}られてゆく。
 {間|ま}が、少々。そしてまた少々の間が、{尋|たず}ねて来ては、また直ぐに消え去ってゆく。どこへ行くのやら。やや寒いものの、太陽が、よく照っている。そのお陰でか、心地は、悪くはない。{幾|いく}たびか短い間が去ったあと、再び、サギッチが、口火を切る。

 「おまえは、来ないと思ったけどな。巡回授業所。シンジイに、引っ張って来られたんだろ、おまえ」
 「また、その話か。確かに、行きたいとは思わなかったし、行かなきゃよかったって思ってる。まさか要約{漬|づ}けのベッタラ疲れになるなんて、思ってもみなかったからな」と、ぼく。
 「否定もせずに{御託|ごたく}を並べるところをみると、やっぱり{嫌嫌|いやいや}連れて来られたんだなッ?」と、サギッチ。

 あの日……{伝霊|でんれい}は、{腹想|ふくそう}。{頭映|ずえい}の刻まで、まだ一時間以上もある。そんなことを覚えているということは、腹想の時間に暗躍する潜在意識が、爆睡していた顕在意識を揺り起こしたってことだ。{何故|なにゆえ}に……。 
 そのとき、{何気|なにげ}に思ったことを、何気に思い出す。

 (授業所かァ。{面倒|めんど}っこいなァ。行かないと、アイツ、怒るかなァ。んなわけ、ないかァ! まァ、どっちゃーでもいいや。どうせ他人に見せる感情とか情緒なんてもんは、作りものさ。実際の腹ん中は、他人が見ることはない。
 それにしたって、アイツが怒る理由なんて、何一つ無い。来いとは言われたけど、行くって約束した覚えはない。しかも、アイツに課題を与えたのは、ぼくじゃない。史料室の……モノさんだ。
 そもそも、あの怪しい研究棟に行くのが、ぼくの日課じゃない。ぼくの日課は、秘密基地……元い。{五省|ごせい}舎に通学することだ。てか、やっぱ秘密基地って、呼んでたんだったッけーぇ??)
 ……みたいな。
 そのまま、眠りには戻れず、朝がくる。朝食。シンジイが、言った。
 「行くのかァ?」
 「うん」と、ぼく。

 再び、間が少々。まだ、やや寒いものの、太陽も、相変わらず、よく照っている。また、再びサギッチが、口火を切る。

 「せっかく、奇跡的に、しかも今、おれらは、この世に生きてるんだ。おれは、この世に生きている間に、出来ることをやりきりたいと思う」
 「たとえばァ?」と、ぼく。
 「歩けるうちに、歩けるところを歩く。言えるうちに、言いたいことを言う。書けるうちに、書きたいこと**だけ**を書く。走って逃げれるうちに、蹴飛ばしたいやつをぶっ飛ばして、走って逃げる……だ」と、サギッチ。
 「どうだか」と、ぼく。
 「どうだかって言えば、おれの講釈、どうだったァ?」と、問うサギッチ。
 「{拘|こだわ}るなァ! そんな昔のこと、覚えてないよ。でも、少なくて良かったじゃないかァ……聴衆。もし多かったら、もっと緊張してただろッ?」と、応えて言うぼく
 「まァ、な。史料室の{黙読|もくどく}コーナーのほうが、混み合ってたって言うしな。でも、問題は、そっちじゃない。{問|と}うたのは、そんなことじゃない。内容……講釈の、中身だッ!」と、サギッチ。
 「面倒っちいなァ。鷺助屋はッ!」と、ぼく。
 「で、どうなんだ」と、しつこく問うてくるサギッチ。
 「それほど、悪くはなかったよ」と、ぼく。(面倒臭いなァ)と、思いながら。
 「それほどってことは、それほどのちょい手前まで悪かったってことじゃないかァ!」と、{面倒|メンド}ッチ……元い。ミスター、サギッチ・メンドッチ。
 「そういう{捉|とら}え方は、おまえら一族の面倒っちさだ。今ぼくが言ってるのは、そっちの意味じゃない。心配するほど悪くなかったって意味さ。たぶん」と、ぼく。
 「一を知って十を知るような、おまえ物言い! {戴|いただ}けないな」と、サギッチ。
 「差し上げてないし。{貰|もら}ってくれとも言ってないし……」と、ぼく。
 「ありがとよッ♪ スピアッジャ・メンドッチーノ君」と、サギッチ。
 「てか、おまえらさァ。サギッチ・メンドッチ君の一族が、このテクニカルセンターの創業者って訳だろッ? そのおまえ、サギッチ・サンドイッチ・メンドッチ君が、それを知らなかったはずはないよなーァ?!」と、ぼく。どうしても、サンドイッチを{挟|はさ}みたくなっただけなんで……まァ、失礼♪
 「まァ、な。でも、こんな事にまでなってるとは、知らなかったよ。だって、経営は、{美童|ミワラ}の仕事じゃない。おれらの仕事は、学問だからなッ!」と、サギッチ。まァ、それは、ご{尤|もっと}も。
 「さては、人工知能{云々|うんぬん}の話。既に、漏れ聞いていたんだなッ? だから、おまえが当番の講釈、〈数字で{捉|とら}えて戦おう♪〉みたいな{主題|テーマ}になったんだなァ? だって、人工知能って、二進法っていうか、十六進法っていうか、三十六進法だろッ?」と、ぼく。
 「かもな。そんなことをわざわざ訊いてくるってことは、おまえも、漏れ聞いてたんだなァ? 文明界への潜入が、おまえら一族の{仕来|しきた}り……てか、{掟|おきて}みたいなもんなんだってこと。聞かされてない{筈|はず}がない。だよなッ?」と、サギッチ。余計なところにだけ、頭が働く。
 「おまえさァ。長生きしたいって、思ったことあるかァ?」と、」ぼく。べつに、話を{逸|そ}らしたいって思って言った訳じゃない……訳は、別にあるけど。
 「長生きかァ。それは、{糞|クソ}食らえ!ってやつさ。おれは、胎児期から{此|こ}の{方|かた}、早く死にたい派だ」と、サギッチ。
 「二つだけだな」と、{何気|なにげ}に応えて言うぼく。
 「何がだッ!」と、サギッチ。まァ……そう思って、当然。
 「鷺助屋の血と、座森屋の血の、共通点のことさ」と、ぼく。
 「何だ、それはッ!」と、サギッチ。
 「何だって……。『なんで今、共通点なんだァ?』ってことォ? それとも、『二つの共通点って、何だッ!』ってことォ? 取り敢えず、後者のほうで答えるよ。一に、{厄介|やっかい}な面倒臭さ。二に、{頑|かたく}なな早く死にたい願望」と、疑念を{交|まじ}えて答えるぼく。
 「だとしてもさ。おまえは、いいよな。文明界に潜入したら、好きなだけ、子どものままで{居|い}られるじゃないかァ。百歳まで、子どものままで過ごすことだって、出来る。
 生まれてきたって、立命せず。知命もしない。天命を知らないから、己を正す必要もない。行動から学ぶこともない。ただ、安易に運命を歩む。知らず知らず、天命に{呑|の}み込まれてゆく。だから、大努力の必要もない。自反もしない。大望もなし。
 でも、たまには{旨|うま}いもんを{食|く}いたい。たまには、温泉に浸かって、まったりしたい。たまには着飾って、百貨店で衝動買いをしたい。そんな程度の願望を抱きながら、百年分の吸った{一息|いっそく}を、{溝|ドブ}に吐き捨てる。
 溝に吐き捨てられた{夥|おびただ}しい数の命の{欠片|かけら}は、過去へ過去へと、押し流されてゆく。それを見ても、それが自分の命の削り{滓|カス}だってことに、気づかない。それに気づくのは、早くても、焼き場で焼かれて、骨と霊だけになって、自分の命がやっと透けて見えたときだ」と、サギッチ。
 「他人の事と、霊になった自分の事は、よく見えるって、言うもんなァ♪」と、ぼく。
 「よく見えないから、来る日も来る日も、自反と格物。反省して正し、それをまた反省して、また正す。その繰り返しが、運命ってことじゃないかッ! そこまでやっても自分の事がよく見えなかったら、{終|つい}に観念して、霊になる。
 日々の努力も、行動の学問もせずに、『サッサと霊になって、答えを見ちゃえーぇ♪』なんて安易な考えで骨と霊だけになるから、{陸|ろく}なもんが見れない{陸|ろく}でなしの幽霊になるんだろッ!」と、サギッチ。
 「だから、効率よく大努力して、要領よく闘って、能率よく己の命を運んでゆけ! ……って{訳|わけ}かァ。そこだけは、言えたなッ♪ あッ、ゴメンゴメン。おまえの講釈の話ね、これ!」と、ぼく。ちょっと……てかかなり、余計なことを言ってしまったかもしれない。
 「じゃあ、〈そこだけ〉以外のところは、どうだったのさッ!」と、サギッチ。まァ、そう思うのも、当然。やっぱり余計……だったな(アセアセ)。
 「長すぎるんだよ。おまえの講釈。顔、{強張|こわば}ったままだしぃ……以上」と、ぼく。
 「どこが長いんだッ! 数字で示せ!」と、サギッチ。
 「自分がやったことなのに、数字で示されないと{判|わか}らんのかい! おまえの言う**通り**だな」と、ぼく。
 「どの**通り**だッ! どの通りか、ハッキリと{解|わか}るように、ちゃんと具体的に言え!」と、サギッチ。
 「三丁目の交差点から概ね北西。正確には、三二五度。{距離|キョリ}{二百|ふたひゃく}にある林道。正確には、林道一七五号線。これで、いい?」と、ぼく。
 「**それほど**、悪くはない」と、サギッチ。
 「数字に{囚|とら}われ過ぎて、自分が見えなくなることもある」と、ぼく。
 「なーんじゃ、そりゃ!」と、サギッチ。
 「覚えてないの? 自分が言ったことなのに……」と、ぼく。
 「知らん!
 おれのことは、もういい!
 そんなことより、おまえの養祖父と養母だ。
 シンジイとカアネエ、座森屋の親戚かなんかなんだろッ? でなきゃ、おまえみたいな面倒臭い子ども、預かるはずないもんなッ♪」と、サギッチ。
 「たぶんな。{何|なん}にも、言ってなかったけど。ぼくも、{何|なに}も{問|と}うてはないけんどさ」と、ぼく。
 「ホント、可愛くないよな。おまえの、その物言い!」と、サギッチ。
 「宿敵に可愛いって思われたら、それこそ、もう終わりだろッ?」と、ぼく。
 「まァ、……な。でもまァ……だな」と、サギッチ。
 見上げると、{鴉|カラス}が一羽、ぼくらを見下ろしていた。
 「そろそろ、鳴くっカラスーぅ♪ ぼくが鳴いたら、早く、帰れーぇ!!」と、言わん……元い。鳴かんばかりに。

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 _/_/_/ エスノキッズ心の学問「自伝編」 _/_/_/
 平成22(2010)年4月創刊
 旧メルマガ名: 「オールドパパスの配信小説」

   《 発行周期 》
 今週の配信は、木金土の夜7時です。
 この周期は、創作の作業段階によって、変動します。
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  【に】電子書籍編集期間
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