MIWARA BIOGRAPHY "VIRTUE KIDS" Virtue is what a Japanized ked quite simply has, painlessly, as a birthright.

後裔記と然修録

ミワラ〈美童〉たちの日記と学習帳

一学 54【少年学年スピア】常に相手を主役に据える恒令「外努」。血が流れる国難を止めるために涙を流した維新の英雄達。

第3集「教学編」R3.2.7 (日) 7:00 配信

 一つ、学ぶ。

 {外努|そとゆめ}

 外にあっては
 一にも三にも五にも

 常に相手は学師
 常に自分は学徒
 常に頭体は六然
 常に腹心は七養
 常に處人は試己
 常に處世は尽己

 恒令の一週間は、心を養ってから{始|はじ}める。{故|ゆえ}に一日目は七養……日曜日。
 ぼくが務める課題は、その二日目……月曜日。それが、{外努|そとゆめ}。
 水曜日にあたる四日目が{内努|うちゆめ}となっていることからも{判|わか}るように、外努は外に向かって{如何|いか}にするべきかを説いている。外とは、世のため人のため。如何にするかは、常に相手や世間を主役に据えて、己は{唯唯|ただただ}修養あるのみという事。ここで言う修養とは、外に{居|い}る{或|ある}いは外に向かっているときに{於|お}いては、特に六つのことに{悖|もと}らぬように、よく{努|つと}めるべしという事。

 特に、その一つ目。
 相手の言動は、すべて己を磨くための教師と成り得ることを心に留めて、何ら腹を立てることなく、常に己の学びに徹すること。
 特に、その二つ目。
 如何なる優位な立場、如何なる得意な気分になろうとも、常に学びの姿勢と{謙虚|けんきょ}さを忘れぬこと。
 特に、その三つ目。
 {頭体|ずてい}は、常に{六然|りくぜん}であること。恒令五日目の木曜日が、この六然にあたる。故にこの委細の説明は、恒令五日目を課題とする当番に譲る。
 特に、その四つ目。
 {腹脳|ふくのう}……腹の中にあるの心は、常に七養であること。七養は、恒令の一日目。前回{既|すで}に課題として取り上げられているので、これも委細の説明を省く。
 特に、その五つ目。
 人に{處|しょ}しては、常に己を試す気構えで{居|お}ること。相手に処しては……相手の{在|あ}るあらゆるすべての行動は、自分を試すための実地試験、実技試験、適性試験であるということ。
 特に、その六つ目。
 世間に處しては、世のため人のため、常に惜しみなく己の全能を{尽|つく}くすこと。

 この外努を会得実践した英雄が、イシンの国に{居|お}った。もう、遠い過去の話だけれど。特に、その国の維新や武家社会にまで{遡|さかのぼ}ると、その事例たるや、{枚挙|まいきょ}に{暇|いとま}がない。男や女たちの涙が、その時代を{創|つく}り、そして{護|まも}り抜いた。今は、時代がない。歴史の空白。誰も創らない、創れやしない。誰も護らない、護れっこない。

 惜しみなく涙と汗を流して時代を護って後世に{繋|つな}げた立役者たちの一人に、山岡鉄舟がいる。海舟が表を護り、鉄舟が裏を駆け巡った。そして、江戸城の無血開城という、世界で最も誇らしい快挙を成し遂げた。奇跡の時代……。
 鉄舟は、幕府方の使者として敵陣を突破。江戸攻めの将、西郷の居る駿府に{赴|おもむ}く。そこで、敵対する両陣営の将と使者、西郷と鉄舟との会談が成る。

 使者鉄舟が、敵陣の将、西郷に迫る。
 「官軍は、無理無体に人民を殺すのですか」と。
 西郷が、答える。
 「朝敵を討つためだ」と。
 鉄舟が、食ってかかる。
 「江戸には朝敵など一人もおりません」と。
 西郷が、吠える。
 「徳川{慶喜|よしのぶ}がおるじゃないか!」と。
 「徳川慶喜は恭順の(謹んで{遵|したが}う)者でございます」と、鉄舟。
 「恭順の誠が見えぬ!」と、敵陣の将、西郷。
 「それはあなたが耳を{覆|おお}い目を{塞|ふさ}いでいるからだ!」と、使者鉄舟。 
 「今さら{退|ひ}けぬわ」と、西郷。火花飛び交うなか、鉄舟を{撥|は}ね返す。
 「不忠だ! 西郷殿。日本一の{逆賊|ぎゃくぞく}になりますぞ」と、鉄舟。叫ぶ^!!^
 両者、{暫|しば}し{睨|にら}み合う。将、西郷。使者鉄舟に、問う。
 「敵陣深く一人で乗り込んできて、その場で{斬|き}られたらどうするつもりだった」
 使者鉄舟、敵陣の将、西郷に答える。
 「もとより覚悟の上です」
 この一言、この言乃葉が西郷の心に届いた正にその瞬間、官軍の江戸攻め中止が決まった。

 興味が湧いて調べてみると、この鉄舟という男、武勇伝の発明家だった。
 例えば、江戸攻め中止の講和条約……総督府が策定した五か条の命令の最後の一箇条、「徳川慶喜を備前藩に預ける」という条文に、鉄舟が{噛|か}みついた。恩を授かった主君が、敵藩に監禁されるという意味だ。再び敵陣の将、西郷と対立する。

 平行線に{業|ごう}を{煮|に}やす西郷、席を立とうとする。
 鉄舟、涙ながらに訴える。
 「西郷先生。仮にあなたのご主君の島津公が朝敵の汚名をきせられ、その汚名をそそぐ方法がないまま、朝命によって敵藩に差し出せと迫られたら、先生は平気で島津公を人質としてお出しになりますか」
 鉄舟の言乃葉、再び敵陣の将、西郷の心に刺さる。
 その心痛く、目に涙を浮かべる。
 西郷、鉄舟に申し出る。
 「慶喜公のことは自分が万事引き受けましょう」
 西郷、のちに鉄舟のことを、{斯|こ}う評する。
 「徳川公は偉い宝をお持ちだ。山岡さんという人は、どうのこうのと言葉では言い尽くせぬが、何分にも{腑|ふ}の抜けた人でござる。金もいらぬ名誉もいらぬ、命もいらぬといった始末に困る人ですが、あんな始末に困る人ならでは、お互いに腹を開けて、共に日本の大事を誓い合うわけにはまいりません。本当に無我無私、大我大欲の人物とは、山岡さんのごとき人でしょう」
 西郷、その鉄舟を、明治天皇の侍従に推挙する。

 ここで、大物山岡鉄舟の時代絵巻は終わ……らなかった!
 侍従となった鉄舟、西洋の何でもかんでもを取り入れようとする明治天皇を見かねて……{況|いわん}や! そこで、黙っていられる鉄舟ではない。天皇に、直談判! 行き過ぎた西洋化を{諫|いさ}める。これに明治天皇が激怒! なんとなんと、相撲で決着をつけようと言い出す。どうなんだか^!!^ 巨漢の鉄舟、明治天皇を土俵に叩きつける。天皇、憤然として岩戸……元い。自室に引きこもる。
 関係する者たちは、落胆する。疑いの余地もなく、鉄舟にお沙汰が下るものと思った。皆々、静かにそのとき到るを待つ。鉄舟もそれを疑わず、覚悟して一晩中、廊下で禅を組む。気を{鎮|しず}めた天皇が、岩戸……元い。自室より{自|みずか}ら{出|い}でて姿を見せる。
 結果、一切お{咎|とが}め無し。そればかりか、逆に、侍従長に抜擢! その理由は……。
 「鉄舟こそ本当の忠臣だ」

 これらは{何|いず}れも、実際にスゲスゲ国(スッゲー国民が住んでる、スッゲー国)で起こった、本当のお話です。ぼくたちの国ニッポンでは、とてもとても考えられません。でも、そのスゲスゲ国でさえも、今は昔……遠い昔のお話なのです。今や人類は退化、ヒト種は分化の世の中……これ乱世。国は、治乱。もう、どうにもなりません。
 ほんとうに、ぼくらミワラ〈美童〉が生まれ持った美質と、ぼくらの先輩{先達|せんだつ}タケラ〈武童〉が修養した武の心で、何かがどうにかなるのでしょうか。また、時代というものが、再びぼくらの国に訪れるのでしょうか。それとも、{亡|ほろ}びるのか。このまま、{為|な}す{術|すべ}もなく……。

皇紀2681年2月7日(日) 活きた朝 1:03
少年スピア 少循令{猫刄|みょうじん}

令和3年2月7日(日)号
一学 54【少年学年スピア】常に相手を主役に据える恒令「外努」。血が流れる国難を止めるために涙を流した維新の英雄達。

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MIWARA BIOGRAPHY
(C) Akio Nandai "VIRTUE KIDS" Vol.1 to 12
V.K. is a biographical novel series written in Japanese with a traditional style.
Virtue is what a Japanized ked quite simply has, painlessly, as a birthright.
A.E.F. is an abbreviation for Adventure, Ethnokids, and Fantasy.

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