MIWARA BIOGRAPHY "VIRTUE KIDS" Virtue is what a Japanized ked quite simply has, painlessly, as a birthright.

後裔記と然修録

ミワラ〈美童〉たちの日記と学習帳

後裔記 第1集 No.137

#### マザメの{後裔記|137}【1】実学「黒い{刺客|しかく}」【2】格物「罪への愛着」 ####

 体得、その言行に恥ずるなかりしか。
 学徒学年 **マザメ** 齢12

【1】実学
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黒い刺客

 後先を考えない。動いてから考える。その考えの{殆|ほとん}どが、自反。しかもそれは、失敗の反省ばかり。それが、あたいらの船長……オオカミの実態。
 それを、見抜いての行動だったのだろう。スピアは、声を発するより先に、{身体|からだ}を発した。斜めに立て掛けた{梯子|はしご}に左足を乗せるのと同時に、両手でオオカミの服をガッシリと掴み、床に踏ん張っていた右足を浮かせて、左足を置いていた段より更に二段上の踏み板の蹴込みの縁にその浮かせた右足を押し当て、重力に任せて身体のすべての荷重を両手に掛け、思いっきり! オオカミの身体を下に引っ張った。
 結果、二人と一匹が、派手に床の上に転がり落ちた。スピアがオオカミを引っ張り下ろすのと、正に、まったく同時に、白黒{斑|まだら}の気持ち悪い模様をしたデッカイ{鴉|カラス}が、オオカミが頭を覗かせた{蓋付きの出入口|ハッチ}目掛けて、メッチャもの凄い!速度で直滑降してきたのだ。
 スピアとオオカミは、打ち身をした程度の軽い{怪我|けが}だったけれど、その気持ち悪い斑模様をしたバカデッカイ鴉は、{艫|とも}間の床に直接激突し、その真っ黒い{斧|オノ}のような分厚くて鋭い{嘴|くちばし}が、床板を{劈|つんざ}き、パキーン!! っと骨が折れるような気持ちの悪い大きな音を立てたかと思うと、太い首が、マラソンの折り返し地点のように、グニャーァ!! っと大きく曲がり、そのまま床の上に横たわってしまった。
 言葉も出ず、無意識にその様子を見ていると、その鴉のある部分に、あたいの目は釘付けとなった。嘴が、{砥|と}ぎ石のようなもので砥がれ、出刃包丁のように鋭利に輝いているのだ。それは{既|すで}に、突っつくための嘴ではなかった。明らかに、斬る! 刺す! ……ための、正に、{槍|やり}の{刃|やいば}そのものだった。
 あたいが、その刃に見入っている間に、ムロー先輩が、鴉の翼で押し広げられた出入口を、甲板に跳ね{退|の}けられてしまった上蓋を掴み、素早く元通りに{塞|ふさ}いだ。その動作の正に{俊敏|しゅんびん}な*すばしっこさ*は、ムロー先輩らしくなかった。
 (ヒノーモロー島も、ザペングール島も、コオ島も、いろんな人間が登場したけれど、みんな味方だって、直ぐに判った。この島も、いろんな人間が、登場する。そこは、同じ……でも、この島に{居|い}る人たちは、敵か味方か、さっぱり判らない!)と、{何気|なにげ}にそんな妄想が、次から次へと脳裏に浮かんでくる。だけど、そのどれもこれもが、言葉にはならなかった。
 そんな束の間の妄想の間に、スピアが、{端切れ|ウエス}で鴉の目を覆い、オオカミとサギッチが、別の端切れを{捻|ね}じって鴉の首にひと巻きし、その両端を、それぞれ二人が持って力いっぱい{縛|しば}り上げるように引っ張って、鴉の息の根を断とうとしている。

 そこまでを見届けると、ツボネエが、言った。
 「電脳チップって、{格好|かっこ}悪いんじゃん!」
 {傍|そば}にいたサギッチが、直ぐに応えて言った。
 「カラスだからさ。人間だったら、ちゃんと{食|は}み出さないように頭ん中に納めて、埋め込んだ傷口は、ちゃんと縫い合わせるさ。そこに髪の毛が被さるんだから、見分けなんかつくもんかァ!」
 「電脳チップの埋め込みが、{鳥獣|トリケモノ}にまで及んでいたとはなーァ!!」と、ムロー先輩。
 「埋め込むのは、簡単さ。だって、脳ミソのどこに{繋|つな}げるのかは知らないけど、人間の複雑な脳ミソに繋ぎ込んで制御を乗っ取れるんだ。単純構造の鳥獣なんて、屁の河童だろうさ。そんなことより、問題なのは、鳥獣を自由に操れるっていう*事実*さァ!」……と、ヨッコねえさん♪
 「まァ、要は、もし俺たちがタケラだったら、もうとっくに殺されっちまってるってことだな」と、オオカミ。
 「じゃあ、包帯先生は、やっぱ{凄|すご}いんじゃん!」と、あたい。
 「逢ってみたかったわね。ザペングール島のピアノの先生のことでしょ?」と、これもヨッコ先輩。
 「同じ{仕来|しきた}りの旅でも、ミワラとは、大違いだな」と、ムロー先輩。どうやら、自覚はしているようだ。だのに、{未|いま}だ知命できず……おっと、失礼!
 「どう大違いなのォ?」と、ツボネエ。
 「思い出してみろよッ!
 ミワラの仕来りの旅は、寺学舎で門人に進級すれば、誰だって旅に出れる。殺されるような危険も、殆どない。但し、今はもう、事情が変わってるだろうけどなァ。でも、タケラが自然エスノの領域から出るときは、事情が違う。しかも、包帯先生は、潜入班だ。調査員養成講座を修了した、優秀な密偵だ。でも、四六時中、命を狙われている。それを、大怪我をしながらでも、生きて戻って来れたんだ。やっぱりピアノ先生は、凄腕の密偵なのさァ♪」と、力説するオオカミの野郎。
 「そう考えたら、カアネエは、もっと凄い! 逢ってみたいもんだ」と、ムロー先輩。最もカアネエに詳しいスピア……鴉の頭の後ろで端切れの端を{縒|よ}って結びながら、{何故|なぜ}か無言。

 そのスピアとムロー先輩が、バタついて耳{障|ざわ}り、目障りだった鴉の翼を、これも端切れを捻じって繋いで紐状にして、悪戦苦闘しながらグルグルに縛ろうとしているところだった。矢庭に、スピアが語りはじめた。
 「ぼくらが、タケラに護られてることは、間違いないよ。
 確かに、説明できないことばっかさ。
 門人に満たないぼくらまでもが、{仕来|しきた}りでもないのに旅に連れ出された。誰かが、何かの理由があって、何かの目的のために……。しかも、その連れ出された先は、自然エスノの島が四人、和のエスノの島が二人、文明エスノの島が、二人。誰かが、何かの理由があって、何かの目的のために、ぼくら八人を、三つの島に{布置|ふち}した。
 そして、誰かが、何かの理由があって、何かの目的のために、ぼくら八人を、護ってくれている。きっと、亜種動乱は、もう{始|はじ}まってるんだよ」
 (亜種動乱……かァ。久しぶりに、聞いたわね。寺学舎の座学で聞いた以来かしらん?)と、思ったあたい。確かに、亜種動乱が終結するまで、あと……二十何年かだったっけぇ? もう、始まっていても、なんの不思議もない。
 オオカミの野郎が、言った。
 「{兎|と}も{角|かく}、よっぽどのドジさえ踏まなきゃ、殺されることは無いってことだなァ♪」
 「その心配があるのは、おまえだけだろがァ!」と、吠えるあたい。当然の*無条件*反射である。

 「早く、オオカミ君に、船長に戻ってもらわねばなァ。陸の上に置いておいたら、何をしでかすかわからんからなッ♪」と、ムロー先輩。最近、本当にたまにだけど、{未|いま}だ{的|まと}には{中|あた}りはしない訳だけれども、少しは的の端を{戦|そよ}がせるようなことを言うようになった。無論、{褒|ほ}め言葉♪
 「じゃあ、早くコイツ……ズングリ丸を修理して、ワタテツ先輩も、助け出さなきゃねぇ♪」と、スピア。
 (最後まで生き残るのは、こいつかツボネエの、どっちかなんだろうなーァ……)と、根拠もなく、何気に思うあたいだった。

【2】格物
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罪への愛着

 {氷柱|つらら}のように清く透き通って鋭い観察、痛切な批評……と、こんな詩が生まれたのは、聖なるスイスの大自然に育まれたからだろうか。はじめて目に触れる、世界的な詩人……そして哲学者、アミエルという偉人。

 「我々の主義なるものは恐らく我々の欠陥に対する一種知らず{識|し}らずの弁護に他ならないであろう。我々の眼から自分の未練を持つ{罪業|our favourite sin}を{隠蔽|いんぺい}することを目的とする大見栄に他ならないであろう」

 〈罪業〉という単語を、{敢|あ}えて、〈好感を持つ〉という意味の単語で形容している。人間というものは、自分で罪と認めながらも、その罪に少なからぬ愛着を持ったり、未練を引き{摺|ず}ったりしていると言う。正に、清く透き通った氷柱の鋭利な先端だ。
 人間も、世の中も、複雑だ。
 真実とか、人の本心とか{本音|ほんね}なんていうものは、あたいらの短小な想像では、到底及び到ることは出来ない。それは、宇宙の果てと同じくらい、途方もなく遠いところにあるのかもしれない。人間が発する言葉が、虚偽であるか否か。その行動が、偽装や粉飾であるか否か。そんなことを計り知る方法なんて、そもそも、きっと、元々、有りはしないしないのだ。……と、そう思えてくる。
 これが、三つの亜種……文明、和、自然の{民族|エスノ}たちすべてに共通する、ヒト種の特性……{則|すなわ}ちこれが、自分ではどうすることもできない、逃げることも{逃|のが}れることもできない、あたいら人間みんなが生まれながらにして背負わされている*あれ*……〈宿命〉というものなのではないか。

 あたいら{日|ひ}の{本|もと}の国の昔の偉い哲学者も、こんな意味の語録を残している。あたい流に割愛要約すると、{斯|こ}うだ。

 「……それで、本当に{謂|い}いのだろうか。
 会議では、熱烈にマルクス主義共産主義を語り、参じて仲間内だけになると、自由主義者よろしく好き勝手に虫の{好|い}いご都合を並べ、家に帰ると、封建主義の暴君に変身する。世間の人間というものは、{兎角|とかく}大なり小なり、そんなものだ。
 ……これで、本当に{謂|い}いのだろうか。
 {如何|いか}なる政策も、如何なる約束も、その実態は、{車夫馬丁|しゃふばてい}も恥ずるような虚偽や偽装や粉飾に過ぎない。
 ……*それ*も、*これ*も、それで謂い{訳|わけ}がない!
 結局人間は、己自身……人間を変えるしか、生きる道は無いのだ」

 あたいも、そう思う。

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然修録 第1集 No.133

#### スピアの{然修録|133}【1】座学「{見性|けんじょう}」【2】息恒循〈生涯〉天命 ####

 {会得|えとく}、その努力に{憾|うら}みなかりしか。
 少年学年 **スピア** 少循令{猫刄|みょうじん}
     
【1】座学
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{見性|けんじょう}

 以前、マザメ先輩が、こんなことを然修録に書いていた。
 外国人の{弓道|きゅうどう}修行者が、要領を体得した{経緯|いきさつ}の話だ。正に、「でかしたッ!」の快挙だった。でも、弓道の師匠は、彼を、認めなかった。
 彼がやったことは、要領{会得|えとく}の基本だった。
 一に、先ずは馬鹿になって、やってみる。
 二に、{惰性の繰り返し|マンネリズム}にならないためにはどうするかを、考える。
 三に、無駄を、排除する。
 四に、より簡単で明瞭な方法を考案、または発見する。
 ……と、正に、この基本に忠実に{順|したが}っていたのだ。
 それなのに師匠は、「これ以上教示しても、見込みがない」として、彼を指導することを、{止|や}めてしまった。
 な、な、{何故|なぜ}かッ!

 そこで彼が偉かったところは、弟子に{留|とど}まることを、第一に考えたことだ。再び馬鹿になって、師匠の指導に外れたことは、一切考えないということを、師匠に誓約したのだった。
 そうやって修行を続けた結果、ある日、師匠が、弓を射ている彼の手を止めて、{斯|こ}う言った。
 「今しがた、*それ*ができましたね」
 〈それ〉とは、〈無我の我〉のこと。彼は、歓喜感激した。
 これは、道で言えば、「極意」。俗に言えば、「悟り」。禅では、「{見性|けんじょう}」と言うそうだ。{何|いず}れにしても、それは、彼が*最初に会得した要領*よりも、数段上の次元に到達しなければ得ることのできない*最高峰の要領*だと言える。

 善い組織には、「無神通の{菩薩|ぼさつ}」と呼ばれる人が{居|い}るという。派手な神通力を発揮する{訳|わけ}ではないが、長い目で見ると、神通力と言わざるを得ないような力を持っている人……{則|すなわ}ち、*極意*を会得している人ということだ。
 例えば、とうに定年を過ぎたお爺ちゃんが、なんとなく会社に来ている。会社に来て何をしているかは、よく判らない。でも、そのお爺ちゃんが会社に居ると、なんとなく、いろんなことが{上手|うま}くいく。自然に、無駄なく、上手くいくための環境を、誰かが陰で、整えてくれているという訳だ。

 ここまでで彼は、恐らくその極意を、「*最高*だ!」と思っていた{筈|はず}だ。当然だと思う。無我……意識しないのに、指の力が自然に抜け、矢が放たれる。でも彼は、それを理屈で、自分自身を納得させたかった。これも、当然だと思う。特に、ぼくのような{質|たち}の人間は、そうなのだ。
 そこで彼は、師匠に訊ねた。すると師匠は、{斯|こ}う答えた。

 「あなたは、無用の心配をしています。あなたは、念頭から、{中|あた}りのことを追放しなさい。あなたは、たとえ射がことごとく中らなくても、弓道の師範になれるのです」……と。

 それってさァ……「的に当てようと思ったら、的に当てることを考えてはいけない」ってことだよねぇ? 「なんでよォ!」って、思うよねぇ? ……当然。
 ここで、その後日談。
 ある日、師匠は、彼を呼んで、自ら矢を放ったのだった。しかも、それは夜。辺りは、真っ暗の闇の中。彼は、指示されるがままに、的の前に、先端が赤く灯った線香を、一本だけ立てた。線香一本の明かりが、どれほどのものか……的の暗さは、{容易|たやす}く想像できる。
 結果……。
 ぼくは、弓道は詳しくないので、平たく書く。一本目の矢が、的の中心の黒点に、突き刺さった。二本目の矢も、一本目の矢のお尻の部分に命中し、そのまま的の中心の黒点に、突き刺さった。放った矢の二本ともが、真っ暗な闇の中に必ずどこかにあるたった一つだけの的のしかもその中心の黒い一つの点を、射抜いたのだ。

 彼は、その二本の矢を抜いて別々にしてしまうのが忍びなく、二本の矢が刺さったまま、その的を、持ち帰ったそうだ。その顛末を書き綴った手記に、彼は、{斯|こ}う書き残している。
 「師範は、礼法を*舞った*」と。

【2】息恒循
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〈生涯〉天命

  生涯道徳。
  その一生。
  四十九年間。
  零歳から四十八歳までの人生。

 命は、先天的な特性を備え、後天的な能力を{育|はぐく}むことができる。その先天的なところを「天命」と言い、後天的なところを「運命」と呼ぶ。
 先天的なところとは、生まれながらにして{賦与|ふよ}されている特性を指す。
 後天的なところとは、修養によって、{如何|いか}様にでも変化せしめられる能力を指す。
 天命は、宿命のように動きのとれないようなものではなく、修養や徳の修めかた次第で、どんなものにでも変化させることができる。{故|ゆえ}に、自ら限界を作ったり、変わる努力に{悖|もと}ることがあってはならない。

 これが、人間が浅はかであったり、それ故に無力{或|ある}いは無気力であったりすると、それこそ{所謂|いわゆる}宿命に囚われる身と相成ってしまう。人間力を磨かなければ、運命を育むことは出来ない。逆に、運命を育むことができれば、自ら己の〈命〉というものを、自由に創造することが出来る。
 それを、「{命|めい}は{吾|われ}より{作|な}す」と言う。

 では、運命を育むために、どうやって、その*人間力*というものを磨けば{謂|い}いのか。それは、「どうすれば、天の道を歩むことができるか」という問いに、言い換えることができよう。
 宇宙……{造化|ぞうか}の天地自然は、自らが飽き足りる人生を、命として人間に与える。それこそが、自己実現へと向かう力……{則|すなわ}ち、〈努力〉である。
 {俟|ま}つところを求めない心を{以|もっ}て、{生々化育|せいせいかいく}に{順|したが}った努力をする。これを、「誠」という。この**誠**こそが、天の道である。誠によって万物が{在|あ}り、誠が無ければ、〈物〉も無い。
 人間の力とは、この誠に{由|よ}って生き、{禽獣|きんじゅう}には無い自覚が生じ、正に誠なるものを体得し、それを力として天の道を、歩んでゆく。これを、「{誠之|せいし}」と言う。

 {然|しか}しながら、人間というものは、次第に天地自然の道を自ら{逸|そ}れ、隔て、分かれてゆく性質を皆が持っている。これも、造化の一部、運命という能力の一つであることも、実際{否|いな}めなはしない。悪いのは、そこで、私心に執着し過ぎることによって、〈誠〉に{叛|そむ}く結果となり{易|やす}いというところだ。
 これは、天と己を断つ……則ち、人間を{止|や}めることに他ならない。この、人間を止めたところに、諸悪が{蔓延|はびこ}る。

 この諸悪を断つ唯一の方法は、正に……「{唯|ただ}天下の至誠のみ{能|よ}く性を尽くすことを{為|な}す」ことである。

(Ver.2,Rev.0)

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後裔記 第1集 No.136

#### ヨッコの{後裔記|136}【1】実学「生きどき」【2】格物「線苦点楽」 ####

 体得、その言行に恥ずるなかりしか。
 門人学年 **ヨッコ** 齢15

【1】実学
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生きどき

 粉っぽい? {黴|カビ}臭い? 嫌なニオイ?
 確かに、間違いじゃない。
 でもそれは、麻袋の臭いじゃない。
 「薬草の臭いさァ!」……と、そう言い切れる。
 「なんで言い切れるのさァ!」だってーぇ?!
 だって、このあたいが、爆睡したんだ。そう、{瞑想|めいそう}の達人(!?)の……このあたいがさァ。薬草には詳しくないけど、麻袋の内側に、眠くなるような薬草を、塗り込んであった。間違いない。
 そして、寝ている間に、運ばれた。その証拠に、岩場の上に降ろされた{筈|はず}なのに、起きてみたら、ここは、板の間だ。しかも、むさ苦しい。その上、目覚めて一番に耳に飛び込んできた音は、*最悪*の代名詞……マザメの寝言だった。しかも、{平|ひら}谷川で聞かされた内容と同じ、歯医者の場面!
 次に気づいたことは、腕の痛みが、消えていることだ。{淑女|しゅくじょ}なんだから、少しくらい手加減してくれたっていいのに、力いっぱい締め上げられて、両腕が、痛かった。それが、深い深い爆睡から目覚めてみると、なんの痛みも感じない。(ひょっとしてぇ?)と思ったら、案の定♪ あたいをグルグル巻きに縛っていた{紐|ひも}は、{解|ほど}かれていた。
 麻袋だけは、まだ、頭の上からスッポリ被さったままだった。そっと、ちょっとずつ、恐る恐る、麻袋を{剥|は}ぎ取る。オオカミと、目が合う。キョトンとした目で、ポカンと口を、開けている。まだ半分、眠っているみたいだ。
 そのとき……またまた、
マザメが吠えた!

 「めしーぃ!! 歯、治ったわよーォ!! だから、朝昼{晩|ばん}めしーぃ!!」
 目覚めてはいるみたいだけど、どうやら、寝ぼけているみたいだ。麻袋を被ったまま、吠えている。見廻すと、全員の紐が、{既|すで}に解かれている。麻袋を剥ぎ取っているのは、まだ、オオカミとあたいだけだった。そのオオカミくんが、言った。
 「夢も{現|うつつ}も、ゴッチャゴッチャだなァ、コイツ!」
 「ずっと、寝てればいいのに……一生♪」と、サギッチ。
 (ちゃっかり、起きてるんじゃん!)と、思うあたい。
 そのちゃっかりが、もう一人……。
 「歯医者さんに、行ってたんでしょ? よいかったね。虫歯が治って……」と、スピア。
 顔は、まだ麻袋で隠されてはいるけれど、でも、スピアのクソ{餓鬼|ガキ}野郎! こいつ絶対、今……間違いなく、真顔で言ったよねぇ? まったく。寝ても覚めても、{面倒|めんど}っちい{奴|やつ}だ。
 しかも……問題の、マザメちゃん! 律儀に、その問いに応えて、{斯|こ}う言った。
 「違うよ。歯医者なんか、行ってないってばァ。あたいが行ったのは、自然治癒力覚醒道場……別名、オルゴール美容院ーん♪」
 「そっかァ。{解|わか}った」と、ツボネエちゃん。
 (何が解ったんだかァ!)……と、思ったあたい。
 「ふーぅむ、なるほど♪」と、ムロー先輩。周りを{憚|はばか}るでもなく、{独|ひと}り{言|ご}ちた。
 「ダメだ、こりゃ!」と、{呟|つぶや}くオオカミ。
 あたいも、同感である。
 「何がダメなんだってーぇ?!」と、勘違い大魔王……元い、魔女……{況|いわん}や、マザメ!
 「{鮫|サメ}{乙女子おとめご}、{豹変|ひょうへん}警報発令! 秒読み開始……カチ、カチ、カチ」と、サギッチ。なんと、無謀なことを! いつもながらだけど……(やれやれ)

 そこでやっと、潜在意識が機能しはじめた……あたい。
 「ちょっと、静かにぃ! {甲板|デッキ}に誰かが居たら、どうすんだよ」と、出来る限り声を押し殺して、あたいが言った。
 「甲板? あッ! 早く言ってよォ。解けてるんじゃん♪」と、スピアの面倒臭い顕在意識も、とうとう目覚めてしまった模様。
 ……と、そのとき、出入口の{上蓋|ハッチ}を、押し開けようとするオオカミ。
 「ねぇ! やめたほうがいいよ」と、麻袋を剥ぎ取るなり、スピアが言った。振り返る、オオカミ。{頷|うなず}いて、戻って来る。ムロー学級、総員八名、現在員七名……皆、素顔を現す。
 「敵と闘う{身支度|みじたく}をしながら、外の様子を{窺|うかが}いながら、今までのことを、整理しよう♪」と、ムローのオッサン。いつも落ち着いているのはいいけれど、落ち着いていないところを、一度も見たことがない。それは、何を意味しているんだろう……(まったく!)

 スピアが、言った。
 「あの板、ムロー先輩なら、手で剥がせるよねぇ? あそこ、剥がせたら……ねぇ、ツボネエ!」
 「はァ?」と、ツボネエ。
 「なるほどねッ♪」と、サギッチ。
 「確かに!」と、オオカミ。
 「{艫|とも}間の上蓋、目立つから、動かしたら気づかれっちゃうよ。ヒヤ間の上蓋なら、舵輪の囲いに隠れてるから、近くに誰か{居|い}ないかだけ気をつけてズラせば、たぶん大丈夫だよ」と、スピア。
 「確かに、ツボネエは、細身だからな。あそこ、通れるだろうけどさァ。気をつけながら、そっと、上蓋をズラすーぅ?! この子がァ? 無理!無理! 上蓋が、ドッカンバッタン……誰だッ! 逃げるぞッ! 捕まえろッ! ……みたいな。もう、縛られるのも、被せられるのも、あたい、嫌だからねッ!」と、魔性の{鮫|サメ}{乙女子|おとめご}。
 不思議そうに、ポカンと口を開けたまま、みんなの会話を聞いていた、あたい。そんなあたいを見て、ツボネエちゃんが、声を掛けてきた。
 「ここ、ズングリ丸の中なんだよォ♪」
 納得……でもないかァ!

 あたいらが寝かされていた艫の間というのは、七人がみんな横になれるくらいの広さがあった。その両側の壁は、湾曲しているので、直ぐに船側だと判る。その船首側が、丈夫そうな板壁で区切られている。その板が、一ヵ所、剥がれそうになっている。
 その壁の向こう側には、みんなが「ヒヤ間」と呼んでいる狭い空間があった。真ん中に太い{貫柱|ぬきばしら}が立っていて、その上のほうに、舵輪が取りつけてある。ムローが、その板を引き千切って、開いた穴を恐る恐る、覗き込んだ。実際、覗き込むまでもなく、直ぐに甲板上の様子が、見て取れた。(問題の上蓋とやらは、{既|すで}にぶっ飛んだか、それとも、外されて投げられているか……)とまァ、そんなようなところだろうと思った。
 ムローが開けた穴は、確かに、ツボネエの細身の胴体を、辛うじて通してはくれそうだった。でも、服を引っ掛けずに押し込めたとしても、向こうのヒヤ間にボットン♪ と、落とすことになる。ロープ{梯子|はしご}を上れば、甲板の上に頭を出すことはできるけれども、ヒヤ間から艫間に戻るためには、ツボネエの両手を持って引っ張り上げなくてはならない。
 そんなことをしたら、折れた板に引っ掛かりまくって、せっかく着替え用に手に入れてやった新調の服が、*傷だらけのヒデキーィ♪*……(失礼、アセアセ)に、なってしまう。

 (難儀だわね。どうするのかしらん!)と、{他人事|ひとごと}のように妄想していると、外から誰かが、こちらに向かって呼び掛けている声が、聞こえてきた。
 「どなたか、{居|お}ってんないかねーぇ?! 誰も居らんのんかいのォ、ほんにぃ! あのーォ、すみませんがのーォ!!」
 (動きがノロガメの次は、声がノロガメかい!)と、思ったあたい。
 「勝負に出て運を天に{委|ゆだ}ねるか、ここに隠れ通して飢え死にするか。二択だな」と、ムロー。
 「腹が減って死ぬくらいなら、戦って死ぬほうがマシだねッ!」と、マザメちゃん。
 その声を聞いて、オオカミが、動いた。
 {階段風の立て掛けた木製の梯子|タラップ}を上り、そろそろ恐る恐る上蓋を押し上げて、ズルズルゆっくりとズラしてゆく。潜望鏡よろしく、頭一つ、甲板の上に覗かせた。オオカミは、「メッチャ{眩|まぶ}しい!」とでも言いたげに、顔をしかめた。そのとき、天の陽は、{仰角|ぎょうかく}四十五度。半島の陰に、今まさに隠れようとしていた。
 オオカミは、一点を注視していた。その方角が、ちょうど太陽が沈む方角だったのだ。暫し、無言。なんか、じれったい。*ノロガメ声*のオッサンの声も、聞こえてこなくなった。({喋|しゃべ}るのがノロガメなんだから、しゃーないかーァ……)と、{何気|なにげ}に思ったあたい。
 そのときだった。スピアが、するすると梯子を、上ってゆく。「理屈で勝負が出来る相手かどうか、ちゃんと確かめてから首を突っ込みなさいよねぇ!」と、言ってやりたかったけど、スピアには無視され、外の未確認人体には、この船の中に美しい声の{淑女|しゅくじょ}が居ることを、なんの代償も無しに明かしてしまうようなものだ。
 (まァ……精々、そんなところよねぇ)と思ったので、口を出すのは、{止|や}めにした。

 (もう、今更、ジタバタしても、仕方がないっかーァ♪)と、思いながらも……でも、あたいらが戦う本番は、まだまだ先。その戦いが終息するのは、二十三年後……皇紀二七〇五年のこと! 百年ごとに必ず起こる、大動乱。あたいらは、{武童|タケラ}として、その夜明け……朝を、迎えなければならない。
 無論、ムロー学級の総員、八名揃って……ねぇ♪

【2】格物
■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■
線苦点楽

 世界にその名を{馳|は}せた日本人のプロゴルファーが、{絶不調|スランプ}に{陥|おちい}ったとき、(前も後ろもない。あるのは、今とここだけ……)という境地に到った瞬間、すべてが吹っ切れて、大復活の快進撃がはじまったそうだ。
 {何故|なぜ}、絶不調……不安、迷い、悩み、{憂鬱|ゆううつ}が、長く尾を引いてしまうのだろうか。
 知性も、理性も、概念も、観念も、なんもかんも、それらすべて、一つの点に過ぎない。人間は、それを、{繋|つな}げたがる。繋げると、線になる。線になると……それは自然と、連鎖してゆく。昨日と今日を繋ぎ、今日と明日を繋ぐ。やがてそれは、広大な過去と現在を、繋ぐ。すると……また自然と、その現在は、遠大な未来へと繋げられてゆく。だから、不安も、迷いも、悩みも、憂鬱も、延々と続くのだ。

 何故、繋いでしまうのかッ!
 感性は、そのすべて、そのどれもこれもが、一つの点である。正に、「前も後ろもない。あるのは、今とここだけ」だ。{故|ゆえ}に、繋げずに、点のままで生きれば、もっと楽な……不安も、迷いも、悩みも無い、憂鬱とも無縁な生き方が、出来るのではないだろうか。
 事実、明治維新を駆け抜けた志士たちは、点……湧き上がる感性の、*今とここだけ*で生きた。だから彼らは、*感性型人間*と呼ばれる。今日と明日を、繋げない……{則|すなわ}ち、仮説無し! だから、なんの不安も悩みも無く、今日という一日を、一所懸命に駆け抜けることが出来たのだ。

 あの時代、みんな、一日一日、ただただ、行動しただけだった。そうやって点のままで、迫り来る時代に挑んだから、あの維新という世界にも{稀|まれ}な大奇跡が起きたのだ。
 そうに、違いない……たぶん♪ 

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然修録 第1集 No.132

#### オオカミの{然修録|132}【1】座学「記憶の検閲」【2】息恒循〈目録〉道徳自在 ####

 {会得|えとく}、その努力に{憾|うら}みなかりしか。
 学徒学年 **オオカミ** 少循令{石将|せきしょう}

【1】座学
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記憶の検閲

 予想外の{窮地|きゅうち}に直面、{或|ある}いは、どうしても思い通りにならない時、人は、天空の誰かに{縋|すが}るかのよに、自分自身に向かって、{斯|こ}う問う。
 ({何故|なぜ}?)
 禅の偉いお坊さんに、「それがいかんのじゃ!」って、言われそうだ。しかも続けて、斯う言うのが常だそうだ。「そんなことを考えるから、知識を積んだ人間というのは、どれほど坐禅の修行を積んでも、いつまで経っても何も悟れんのじゃ。素直になって坐禅{三昧|ざんまい}をしていれば、必ず{莫|まく}妄想になれると言うに……」と。

 ところがどっこい!
 自然に、{某|なにがし}かの言葉が、脳裏に浮かんでくる。これが、{言葉|コトバ}記憶。{心象|イメージ}記憶と並んで、人間が生まれながらにして持っている能力だ。しかも厄介なことに、(何故?)の答えが、この地球上には存在しない場合がある。
 それは、自然と調和をしている物や出来事。自然に、そこに{在|あ}る。自然に、そう成る。正に、自由自在の*自在*だ。これが西洋なら、「神様が、そういうふうにお創りになったのだ」と言えば、皆が納得するだろう。でも、信仰心が薄く、神話も教えられず、神様がどんな真実を語っているのかも考えたことすらない日本人にとっては、そんな言葉で納得できる{由|よし}も無い。
 その割には、言葉だけは、西洋人に負けないくらい、知っている。でも、肌で感じることは、出来ない。言葉を肌身に感じて納得し、素直な心で行動に移せるかどうかは、三歳までに教育されているか{否|いな}かに掛かっている。{所謂|いわゆる}これが、刷り込まれて命と成った心象記憶だ。

 では、とうの昔に四歳を過ぎ、しかも、俺のようなボンクラ頭だった場合、もう、神様の言葉も、神話の真実も、理解することは不可能なのだろうか。もしそうなら、実に面白くない。そこで、四歳以降でも役立つ脳の機能について、調べてみた。

 で……あった♪
 自己組織性。嗚呼、難しそう……(やれやれ)
 心象記憶……{即|すなわ}ち、頭の中に記憶された膨大な種々雑多のイメージは、自然に任せておきさえすれば、〈命〉を護るために、勝手にというか、ひとりでに、最も効果的な配列……そう、いい{塩梅|あんばい}の順番で、呼び出されてくるというもの。
 事実、{鴉|カラス}に石を投げると、顔を覚えられて、見つかると、糞やら生ゴミやらを、集中投下されるという。鴉は、人の顔を三年くらい覚えていて、そいつの顔を見ると、それが刺激となり、そいつに{虐|いじ}められた記憶が、都合よく思い出されるという{訳|わけ}だ。
 鴉の脳ミソに出来ることが、人間の脳ミソに出来ない{筈|はず}がない。馬や鹿以下なら、まだ我慢のしようもあるが、鴉以下は、我慢ならん! 冗談はさておき、「自己組織性」と言われると、何やら小難しそうに聞こえるが、人間の四歳以降でも、鳥や{獣|けもの}でも、等しく脳ミソに{具|そな}わった記憶の自在性……みたいに考えると、俺のボンクラ頭でも、どうにか少しは理解できそうだ。

 ところがだッ!
 同じ刺激を与えられて、皆が同じ反応をするかと言えば、実際は、そのまったく逆だ。同じ種類の犬なのに、まったく同じ条件のイメージを記憶させ、同じ時間を経て、再びまったく同じ刺激を与えたとしても、愛想の{好|い}い犬も居れば、無愛想な犬も居る。{敏捷|びんしょう}に反応する犬も居れば、{鈍間|のろま}な{奴|やつ}も居る。
 この違いは、どこからくるのだろうか。その答えが、やはり、三歳までに、どんなイメージを脳に刷り込まれるかで、決まってくるようなのだ。その、幼児期に刷り込まれた心象記憶が、概ね四歳以降、新たなイメージを脳ミソに叩き込もうとしたとき、その、元祖イメージ記憶野郎が、新たなイメージを記憶するべきか否かを、検閲するというのだ。
 平たく言うと、好きなら記憶する。逆に、嫌いだったら記憶しない。俺の顔を見て無愛想な犬は、生まれつきというか、幼児期の体験によってというか、{何|いず}れにしても、そもそも、俺みたいな顔が、嫌いなのだ。

 この検閲のことを、個性というそうだ。
 結局……個人的な性格は、一生、変わらないということかッ!
 えッ?
 「あんたが覚えたがるイメージは、検閲じゃなくって、*検疫*のほうやろッ!」だってぇ?
 ほっとけやァ! 失礼な……(アセアセ)

【2】息恒循
■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■
〈目録〉道徳自在

 先ず序章として、{既|すで}に下記を記した。

 〈序説〉 ●遺伝血と伝承脳
 〈遺伝〉 ●心象記憶
 〈伝承〉 ●言葉記憶

 「天命{之|これ}を性と{謂|い}い、性に{率|したが}ふ之を道と謂い、道を修むる之を教と謂う」

 之、『{中庸|ちゅうよう}』の一節である。

 無限の創造、変化、進歩……。
 約してこれを、{造化|ぞうか}と言う。

 地は有限であり、固定である。
 対して天は無限であり、変化極まりない。
 天地と人間を含む自然を象徴して、天と呼ぶ。
 {故|ゆえ}に、天地自然は、造化であり、その作用、働きというものは、絶対であり、必然である。
 その絶対と必然のことを、命という。
 生命が、精神や意識の世界をもつに到ったことも絶対、必然であれば、{子供|こども}に対する親の*言いつけ*も、絶対であり、必然である。命令とは、そういうことである。

 その天地自然、造化の絶対的な作用そのものが、天地自然の一部である個々の生命そのものであり、その個々の生命に宿った絶対的必然的な作用のことを、天命と言う。
 その個々の生涯は道徳であり、その道徳は、正に自在であり、無限である。

 この書……『{息恒循|そっこうじゅん}』は、その生涯道徳を、以下の目録に{順|したご}うて、説くものである。

 《生涯》
 ●{天命|てんめい} (生涯道徳。その一生。四十九年間。零歳から四十八歳までの人生)

 〈前期〉
 ●{立命期|りつめいき} (天命の前期十四年間。この時期の学童を、{美童|ミワラ}と呼ぶ。実父母が命名した{美童名|みわらな}を名乗る)

 〈一の循〉
 ●{幼循令|ようじゅんれい} (零歳から六歳までの**最初**の七年間)
 〈一循の{猶|ゆう}〉
 ●少年/少女候補予定者 (幼循令の前半四年間)
 〈一循の{候|こう}〉
 ●少年/少女候補学童 (幼循令の後半三年間)

 〈二の循〉
 ●{少循令|しょうじゅんれい} (七歳から十三歳までの七年間)
 〈二循の初〉
 ●少年/少女学年 (少循令の初等学年)
 〈二循の中〉
 ●学徒学年 (少循令の中等学年)
 〈二循の高〉
 ●門人学年 (少循令の高等学年)
 〈二循の反〉
 ●学人学年 (少循令の最高学年)
 〈二循の格〉
 ●**知命** (自修して運命期へ)

 〈後期〉
 ●{運命期|うんめいき} (天命の後期三十五年間。この時期の年代を、{武童|タケラ}と呼ぶ。自ら己に命名した{武童名|たけらな}を名乗る。※知命に到っていない場合は、運命期の頭に*無知*の二文字が付く。タケラとは成るが、*たけらな*は名乗れず、ミワラの学年と*みわらな*で呼ばれる)

 〈三の循〉
 ●{青循令|せいじゅんれい} (十四歳から二十歳までの七年間)
 〈四の循〉
 ●{若循令|じゃくじゅんれい} (二十一歳から二十七歳までの七年間)
 〈五の循〉
 ●{反循令|はんじゅんれい} (二十八歳から三十四歳までの七年間)
 〈六の循〉
 ●{格循令|かくじゅんれい} (三十五歳から四十一歳までの七年間)
 〈七の循〉
 ●{徳循令|とくじゅんれい} (四十二歳から四十八歳までの**最後**の七年間)

 《指南一》
 ●{循令|じゅんれい} (7年間。※七つの循令共通)
 〈一年目〉 ●{飛龍|ひりゅう}
 〈二年目〉 ●{猛牛|もうぎゅう}
 〈三年目〉 ●{猫刄|みょうじん}
 〈四年目〉 ●{嗔猪|しんちょ}
 〈五年目〉 ●{悪狼|あくろう}
 〈六年目〉 ●{石将|せきしょう}
 〈七年目〉 ●{鐵将|てっしょう}

 《指南二》
 ●{時令|じれい} (一年間)
 〈一季目〉 ●{想夏|そうか} (七、八月)
 〈二季目〉 ●{起秋|きしゅう} (九、十月)
 〈三季目〉 ●{執冬|しっとう} (十一、十二月)
 〈四季目〉 ●{烈冬|れっとう} (一、二月)
 〈五季目〉 ●{結冬|けっとう} (三月)
 〈六季目〉 ●{敲春|こうしゅん} (四、五月)
 〈七季目〉 ●{還夏|かんか} (六月)

 《指南三》
 ●{恒令|こうれい} (一週間)
 〈一日目〉 ●{七養|しちよう} (日曜日)
 〈二日目〉 ●{自修|じしゅう} (月曜日)
 〈三日目〉 ●{内努|うちゆめ} (火曜日)
 〈四日目〉 ●{五省|ごせい} (水曜日)
 〈五日目〉 ●{自反|じはん} (木曜日)
 〈六日目〉 ●{六然|りくぜん} (金曜日)
 〈七日目〉 ●{人覚|にんがく} (土曜日)

 《指南四》
 ●{伝霊|でんれい}】 (一日)
 〈潜在一〉 ●{腹想|ふくそう} (午後九時から午前三時まで)
 〈潜在二〉 ●{頭映|ずえい} (午前三時から四時まで)
 〈顕在一〉 ●{体敲|ていこう} (午前四時から五時まで)
 〈顕在二〉 ●{然動|ぜんどう} (午前五時から七時まで)
 〈顕在三〉 ●{烈徒|れっと} (午前七時から午後六時まで)
 〈顕在四〉 ●{考推|こうすい} (午後六時から八時まで)
 〈顕在五〉 ●{気養|きよう} (午後八時から九時まで)

 《指南五》
 ●{唯息|ゆいそく} ({一刻|いっとき})
  〈一呼吸目〉 ●{想|そう}
  〈二呼吸目〉 ●{観|かん}
  〈三呼吸目〉 ●{測|そく}
  〈四呼吸目〉 ●{尽|じん}
  〈五呼吸目〉 ●{反|はん}
  〈六呼吸目〉 ●{疑|ぎ}
  〈七呼吸目〉 ●{宿|しゅく}

 《指南六》
 ●{吐無|ぬむ} ({一吐息|ひとといき})

 《指南七》
 ●{造化|ぞうか} (天地自然)

(Ver.2,Rev.0)

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後裔記 第1集 No.135

#### ムローの{後裔記|135}【1】実学「五体不満足」【2】格物「無限の変化」 ####

 体得、その言行に恥ずるなかりしか。
 学人学年 **ムロー** 齢17

【1】実学
■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■
五体不満足

 「動くなッ!」と、みなに目で合図を送った。
 みな、それを受け取ったが、{頷|うなず}くと同時に、みなが、走り出した。

 すると、それとほぼ同時に、深く落ち込んだ谷川の斜面のところどころから、真っ黒いなりをした大人たちが飛び出してきた。春に{繁|つなが}りはじめた雑草に隠れて、人が隠れ潜むことができるくらいの{窪|くぼ}みが、何カ所も設けられていたのだ。その数々の窪みがすべて、地中で繋がっているということを、後から知った。
 黒い大人たちが飛び出してきたのは、その数々の窪みのうち、七カ所。しかも、ピッタリ二人ずつ。男の二人組が四カ所、女の二人組が三ヶ所。俺たち男ども四人は、男の二人組に両脇から地面に抑え込まれ、ヨッコたち女三人は、女の二人組に、同じく両脇から地面に抑え込まれた。
 恐ろしく足の速い連中だった。ノロガメさんの姿は、{既|すで}にどこにも見当たらなかった。それを確認したのと同時に、大きな麻袋を頭から被せられ、「キオツケーェ!!」の姿勢で、麻袋にすっぽりと{包|くる}まったまま、両方の腕あたりをグルグルに{縛|しば}られた。

 鼻は、肥料のような粉っぽさとカビ臭さで、機能が停止してしまった。目は、明かりは感じるものの、小さい格子窓一つの牢屋のように、薄暗く陰気な麻模様が見えるだけだった。達者なのは、耳と口だけだった。これから、どこに連れて行かれるのか、不自由な五感で、その道筋を感じ取らなければならない。
 そう思った途端……矢庭に、グルグルと高速で{身体|からだ}を回転させられた。吐き気がするくらい目が回って、気分が悪くなった。考える力も、{萎|な}えた。次は、両腕を掴まれたまま、少し歩かされた。立ち止まると、動物が動く気配を感じた。服が擦れ合う{微|かす}かな音、靴が{細石|さざれいし}を踏み締める音……。
 人の声は、一切聞こえてこない。既にみんな、どこか別々の場所に連れて行かれてしまったのだろうか。それとも、俺と同様、声を押し殺して、頭の中の脳ミソだけを、ただグルグルと{掻|か}きまわしているだけなのだろうか。
 そうこうしているうちに、こんどは、二人の男に抱え上げられ、焚き火の上で棒に刺した鶏を丸焼きにでもするように、またグルグルと身体を高速で回転させられた。(まったく、回すのが好きな{奴|やつ}らだ……)と、思うのが精いっぱいで、他には何も考えられなかった。
 回転が治まると、男二人は、俺を抱えたまま、また歩きはじめた。

 暫くすると、薄暗さが、闇へと変わった。ゆっくりと下に降ろしてはくれたのだが、そこは、岩場のように、堅く冷たかった。頭がクラクラするのが治まったら、立ち上がれないこともなさそうだ。でも、転んでも手をつくことが出来ない。今は、盲目で上半身不随の身……五体満足の有難味が、{沸々|ふつふつ}と湧いて出てくる。
 (今更、神様に感謝したって、「不義理者めがァ!」って言われるだけだろうな……やれやれ)と、思ったそのときだった。靴音が、近づいてくる。そして、次に……人の声が、聞こえた。
 「その*神様*のことなんだが、亜種記の冒頭に、書いてある。読んだこと、あるかねぇ?」
 予想されるその声の主の一番の候補は、ノロガメさんだ。でも、男の声には違いないが、{籠|こも}った声で、しかも共鳴していて、若いのか老いているのかもよく判らない。無論、敵か味方かさえも、未だに、決定的な証拠を掴めないままでいる。そうやって押し黙ったままでいると、{俄|にわ}かにまた、その男の声が聞こえてきた。

 「今日のことも、またいつか、後裔記に書くんだろうな。君等は……と、いうことはだ。それは、亜種記の諸書となって、何千年か先には、今日の出来事が、神話になるって{訳|わけ}だ。事実を基にした神話ってのは、読み{応|ごた}えがあるだろうな。
 亜種記は、諸書の{集纂|しゅうさん}という点では、西洋の神話であるいくつかの経典と、なんら異とするものではない。真実を読み取らせようとする意図も、同じだろう。だが、それが、事実性の比較というところに及ぶと、そこは俄かに、目を見張る。
 その点では、亜種記は、西洋の神話に比べると、現実的過ぎて、物語としては、面白くないかもしれない。誤解してもらっては困るが、決して、ミワラたちの文章力が劣っていると言っている訳でも、タケラたちの編集の腕が未熟だと言っている訳でもない。
 それは、事実と真実の宿命的な違いであり、書き手の問題ではなく、読み手のほうの問題なのだ。亜種記の冒頭……確か、こんなことが書いてあったな。

 『今は、{今|こん}天地時代の、まだ初期だろうか。それとも、既に中期に差し掛かっているのだろうか。折りしも、ヒト属ホモサピエンス種の分化が、色濃くなった。三つの亜種……ワノヒト亜種、ブンメイビト亜種、シゼンジン亜種が、互いに、対峙の様相を見せはじめたのだ。
 土壇場が、しばしば生じるようにもなった。ある日、そこで渦巻く{熾烈|しれつ}な葛藤や企ての委細を、時を置かずして、シゼンジン亜種の一族の{子等|こら}が、書き記した。その実録は、次第にシゼンジン亜種全体に広がりを見せ、実録代々記ともいうべきところまで、伝承を遂げた。これが、二つある亜種記の諸書のうちの一つ、後裔記の起源だ。
 神話は、真実であり、事実ではない。ここに、異論を挟む余地はないだろう。然し{乍|なが}ら……一つ、{解|げ}せない。{何故|なにゆえ}に、架空の物語でなければならないのか。事実……実話からは、真実を導き出すことはできないのか。
 ここだけは、{堪|た}え難い。そこだけは、{耐|た}え難い。平たく言おう。気に入らん。
 後裔記は、事実を連ねはじめた。それを諸書とするからには、亜種記も、事実から{始|はじ}めなければならぬであろう。だが……言わずもがなである。時、既に遅し。今天地時代の創世記に立ち会うことは、どう大努力をしても、無理である。
 でも……である。事実に{拘|こだわ}って後裔記を{記|しる}しはじめたシゼンジン亜種たちが、今まさに{居|い}るではないか。その祖先たちが語り継いできた神話であれば、かなり高い率で、事実に近いのではないか。そう考えて、この亜種記の冒頭で、最も大事な役割とするところ……彼ら彼女たちが語り継いできた創世記を、ここに記す。
 但し、悠久語り継がれているうちに、委細は、すべて{削|そ}ぎ落されてしまったようだ。ただそれだけに、事実性が高いとも考えられなくはない。語り部から習いたての子等の話が、最も正確だろう。

 **{斯|こ}う**、{諳|そら}んじてくれた。 

 神々が、海からやってきた。
 真っ赤に焼け溶けた溶岩が、陸地を埋め尽くす勢いで、流れていった。
 溶岩が冷えたその台地では、虫けら一匹すら見ること{叶|かな}わなかった。
 そこへ、神々が、海からやってきたのだ。
 神々は、{四柱|よはしら}。
 みな、{子供|こども}の神だった。
 年長から{順|したご}うて。

 {海之御中大神|あまのみなかのおおかみ}
 {海之御鮫魔神|あまのみざめのまかみ}
 {海之御鷺黒神|あまのみさぎのくろかみ}
 {海之御森座神|あまのみもりのざかみ}

 四神は、帆に風をたんまりと{孕|はら}んだ木造りのずんぐりとした船で、岸辺まで迫ってきた。
 岸に着くや、その船は、真っ赤な炎を上げた。
 その中から、二神が、浜辺に降り立った。
 海之御鷺黒神と、海之御森座神。
 {二柱|ふたはしら}とも、子供の{男神|おがみ}だった。
 残りの二神は、船の中で、死んでいた。
 男神の海之御中大神が、女神の海之御鮫魔神を、まるで{護|まも}るかのように覆い被さり、二柱は、重なり合い交わったまま、冷たく横たわっていた。
 その二柱の衣装は、まるで石炭のように、真っ黒に焼け焦げていた。
 鼻と唇は、焼け{爛|ただ}れて平らになっている。
 だが、黒く焦げた衣装から垣間見える海之御鮫魔神の乳房は、限りなく真っ白に近い透明だった。
 女神が命よりも大事にしていた白肌を、護り抜いた男神……海之御中大神の名は、そののちに創造された神々や、下々の民である{青人草|あおひとくさ}たちの子々孫々にまで、語り継がれることとなろう。

 夜明け。
 {天|あま}より降り注ぐ、無数の羽根。
 そのどれもこれもが、この世のものではない色を、輝かせている。
 それは、{瑠璃|るり}色のガクアジサイの、ひとひらひとひらだった。
 その、ひとひらひとひらは、{忽|たちま}ち、木造りの{神舟|しんしゅう}全体を、覆い尽くした。
 物悲しくも幸福そうな音色が、聴こえてくる。
 すると、ガクアジサイの蝶たちは、軽々と神舟を持ち上げ、海水が{滴|したた}り落ちた。
 そして見る見る、天高く召されていった。

 **以上**。

 確かに、事実は、死を物語っている。だが真実は、事実と同じ死を、物語っているのだろうか……』

 と……まァ、こんな感じだ。
 神々は、創造された万物それぞれに、名前をつけた。それは、万物の一つひとつに、命を吹き込むためのものだったのだ。
 元来命名とは、そんな、{貴|とうと}いものだったのだな」

 そこまでを言い終わると、男はまた、靴音だけを残して、その気配を消してしまった。

【2】格物
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無限の変化

 命とは、万物の無限の変化の働きが、個人に発せられることを言う。
 その、万物の無限の変化のことを、{造化|ぞうか}と言う。
 {故|ゆえ}に、真の自己に{反|かえ}らなければ、命を知ることはできない。
 また同時に、真の自己を絶えず変化させ、無限に進歩し続けなければ、己の命を、真っ正面から見ることはできない。
 それ{即|すなわ}ち、己の真の姿を、{真面|まとも}に見ることはできないという意味だ。

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然修録 第1集 No.131

#### マザメの{然修録|131}【1】座学「心の目覚め」【2】息恒循〈伝承〉言葉記憶 ####

 {会得|えとく}、その努力に{憾|うら}みなかりしか。
 学徒学年 マザメ 少循令{悪狼|あくろう}

【1】座学
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心の目覚め

 曲も本も、時代に合っていないと、買ってもらえない。
 誰にも、聴いてもらえない……。
 誰にも、読んでもらえない……。
 では、精神論は、どうか。
 哲学は?
 心理学は?
 人は、{流行|はや}り{廃|すた}れに左右されることを嫌う。
 {何故|なぜ}か。
 それが、現実。それが、自分だからだ。

 **下位者を{上手|うま}く指導してやれない**

 下位者が、思うように動いてくれないと、ついつい{罵|ののし}って、知らず知らず攻撃してしまっていることがある。相手は、人格否定をされて、やる気を{削|そ}がれてしまう。こういうのを、「勇気くじき」と言うそうだ。
 やらなきゃならないのは、その逆だ。**勇気づけ**。そんなことは、解っている。解っているのに上手くいかないから、焦る。焦るから、安易に相手を{褒|ほ}めて、ご機嫌をとる。褒められた相手は、自分を誤解してしまう。誤解して行動してしまうから、結果それは、相手を変な方向に操作することになってしまう。
 「こらッ!」も、「やめろッ!」も、「晩ごはん、抜きにするぞォ!」も、褒めたり持ち上げたりするのと同様、意に反する所作を強要する{訳|わけ}だから、これらみな、相手を操作してその場を{凌|しの}ぐという{姑息|こそく}な手段に他ならない。

 周りから持ち上げられて、誤解して上機嫌になった連中が群れると、縦の関係が、強化構築されてゆく。逆に、「愛のムチ」というものがある。これも、大概は、自己満足で終わる。例外があるとすれば、上位者も下位者も共通の目的や課題を持ち、強い信頼関係が構築されている場合だけれども、もしそんな関係が築けているのなら、愛だかなんだか知らないけど、*ムチ*なんてものは、{要|い}らないと思う。

 〈先輩〉とか〈後輩〉とか、上下関係を示した言葉は、欧米では、ほとんど無いそうだ。逆に我が国……{日|ひ}の{本|もと}には、メッチャいっぱいある。上下関係の呼び方だけでも、『呼び名辞典』みたいな、一冊の本ができるほどだ。
 アドラー先生は、「あらゆる関係は、対等でなければならない」と、言っている。欧米では、この考え方が基本になっているので、上下関係に{拘|こだわ}った呼び名を、あれやこれやと考える必要が無かったんじゃないかと思う。

 では、平等な関係の相手に注意をする必要があるときは、どう対処すればいいのか。相手を操作するような言動を{慎|つつし}み、相手のやる気を削がないような前処理……*動機づけ*をした上で、助言を与える。
 {漠然|ばくぜん}としているので、目的心理学の本を読むと、{斯|こ}う説かれていた。

 一に、肯定。
 良いところ、上手くいっているところを、素直に認めて伝える。「君ならできそうだ」とか、「正直、期待してるから」とか、相手の良いところや好感がもてた理由を、ハッキリと言う。
 二に、助言。
 「でも、そのやり方は、ダメだ」と、注意したいところだけを、正確に指摘し、「ダメだ」と、ハッキリと伝える。相手が、「どうすればいいんですかァ?」と、素直に興味をもって相談を持ち掛けてきたら、そこで対話だ。
 但し、*解決方法だけ*に主題を{絞|しぼ}ること。ここで、普段の行動や考え方にまで、問題指摘の範囲を広げてはいけない。また、問題の原因を分析したり追求することも、ダメだ。
 三に、再び肯定。
 ここで、油断して褒めてはいけない。上から目線で言っているように見られてしまうからだ。ここは、相手の成果によって自分や仲間が助かったことや、問題なく事が進んだりしたことに対して、素直にお礼を言うだけでよい。
 「解り{易|やす}い資料で、助かったよ」とか、「あそこまで気がついてくれて、みんな『助かった』って言ってるよ」とか、「君に頼めば、安心できる。次も、頼むよ」……みたいな。

 「助かった」って言われると、組織や社会に対して何か具体的に貢献できたような実感が湧いてきて、嬉しいし、勇気も湧いて来るというものだ。
 ……と、理屈の上じゃあ、解るんだけれども、現実となるとね。これが実に、難しい。
 「てめぇ! 頭打っとんかい! おまえの頭は、生ゴミかーァ!!」みたいなことを、ついつい言ってしまう。しかも、限定解除! 下位者に限らず、同位者や上位者に対しても、分け隔てなく……(ポリポリ)

 **学ばなければ、目覚めない**

 {吾々|われわれ}……三つの亜種すべての人びとに共通して悪いところは、肉体ではなく、精神にある。それを起因として、不健康となり、早く老い、早く死ぬ。精神のどこが、悪いのか。それは、感激性が薄れ冷めてしまうことだ。あらゆる物事……身の周りの俗務という{猥雑|わいざつ}な日常以外に、何も感じなくなってしまう。
 願望への一途にも、自己の向上や修得にも、感激の情が、湧いてこない。感激が無いから、どんな状態が*無心無欲*なのかさえ、判らない。これではもう、ヒト種の亜種ですらない。
 変種だッ!

 あたいは、起きていても、眠っているような気分になることがある。そんなときは、本当に眠る。人間は、学んでいないと、どうでもいいことに延々といつまでも迷ったり悩んだり……ぼんやりとして、全く眠っているのと同然になってしまう。
 まるで、時間が止まったようだ。でも実際、時間は、止まってはくれない。起きていて自分だけが、時間が止まってしまうのなら、本当に眠って時間の経過を潜在意識に{委|ゆだ}ねるほうが、よっぽどマシだ。
 そして、目覚めて学べば、心の中に星が輝き、パッと明るくなり、心の中も外も、{冴|さ}え{亘|わた}る。それは、目覚めたから学んだのではない。心が何かを学んだから、目覚めたのだ。だから、学ばなければ……一生、目覚めることはない。

 では、どうすれば心が学んでくれるのか。それが、自反。自ら、{反|かえ}る。素直な気持ちで、己を{省|かえり}みる。心が反省をするから、ここに感激性が生じ、*格物*と相成る。
 物……{即|すなわ}ち、己。格……即ち、{格|ただ}す。
 己を、正す……そこで初めて、自分を変えることができるのだ。

【2】息恒循
■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■
〈伝承〉言葉記憶

 心の伝承……それが、日本人流の{言葉|ことば}記憶の元祖だ。儒学を核として、東亜の哲学を、教育の**型**としてきた。{幼子|おさなご}が、『四書五経』などを{諳|そら}んじる光景も、珍しくはない。

 だが、懸念する光景もある。「これを読めば、こんな良いことがある」といった、何らかの確固とした裏づけがなければ、それについて興味を示さないという風潮だ。確かに、間違いではない。

 ただ、根拠があるからと言って、学問から目を{逸|そ}らし、脳の機能を向上させる西洋的な{遣|や}り方にばかり興味を示すのは、{如何|いかが}なものだろう。
 確かに、脳の機能を改善させてくれるものとして、{身体|からだ}に{好|よ}いとされているものがある。カフェインは、脳の機能改善以外にも、腎臓の改善にも効くと言われているし、ハーブティーやアホエンなどというものも、脳の血流が上がることから、脳が活性化すると言われている。
 確かに、それらは、{良|い}いことだろう。

 {然|しかし}しながら、同じ脳科学の観点から考えるのであれば、正に確固たる実績のある人間学の修得について、目を{逸|そ}らせなくなるような裏づけを、是非とも研究し、整理して欲しいものである。
 人間学の修得……即ち、言葉記憶の修行による心の伝承。これが、世界に誇る教育の型であり、世界の人々……、特に、西洋の人びとが、今最も注目している学問であることを、{吾々|われわれ}日本人は、忘れてはならない。

 《以下……後年、後裔による追記》

 人類必定の百年ごとに起こる大動乱……その一つ、{聖奢頽砕|せいきょうたいさい}【脚注】が、やっと終わり、我ら{日|ひ}の{本|もと}の国は、独立を断念するも、米国の被保護国として、今も{猶|なお}、古代国家としての国体を、微塵ながらも保ち続けている。
 生活も少しずつ楽になってきたが、国民の不安は、{募|つの}るばかりだ。(どんな生き方が、正しいのか。どんな人生を歩み、何を目指せばいいのか……)などと、常に迷い、悩んでいる。
 学校や新聞雑誌などの媒体にしても、夥しい量の知識を与えてはくれるが、人間として最も大事に違いない、「何が正しく、何が悪いのか」や、「人間は、{如何|いか}に生きるべきなのか」などの人間学については、一切その口を、閉ざしている。逆に、金儲けの情報や知識は、{溢|あふ}れんばかりに{止|とど}まるところを知らない。

 結果、誰も、真剣に生きる意味を問わなくなり、人間のあるべき姿を追求することを、止めてしまう。ただただ楽で安易な道を探し求め、脇道に迷い込んでそのまま、崖から落ちて人生を終えてしまう。そんな日本人が、今後も増え続ければ、辛うじて保ち得ている先祖伝来の国体も、{惨|みじ}めに荒廃し、{挙句|あげく}は、亡びてしまうこと必至だ。

 それを防ぐためには、どうすればいいのか。実は、簡単なことなのだ。みんな一人ひとりが、生きるための明確な指針をもち、日々一所懸命、生涯一生懸命に生きれば{良|い}いだけのことなのだ。
 これこそが、人生の普遍的な価値である。もう、迷っている時間はない。もう、悩んでいる場合でもない。個々が、確固たる人生観をもち、ただただ、日々一所懸命に生きるべきなのだ。
 その人生観を、どうやってもつか。それが、人間学。それが、学問。それが、本当の教育なのだ。

【脚注】
 聖奢頽砕とは……。
 「植民地から有色人種を解放する聖戦から{驕|おご}り{頽廃|たいはい}による痛恨の{玉砕|ぎょくさい}までの東亜の大動乱」の略称であり、特に、自然{民族|エスノ}の間で、{斯|こ}呼ばれている。
 聖戦を担う和の{民族|エスノ}と文明{民族|エスノ}の中から、文明エスノが離脱し、驕り頽廃を引き起こし、結果、全軍玉砕に到った。
(Ver.2,Rev.0)

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未来の子どもたちのために、
成功するための神話を残したい……
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後裔記 第1集 No.134

#### オオカミの{後裔記|134}【1】実学「敵か味方か」【2】格物「訓練は嫌い」 ####

 体得、その言行に恥ずるなかりしか。
 学徒学年 **オオカミ** 齢13

【1】実学
■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■
敵か味方か

 コンコンコン、ギー、コンコン♪
 コンコンコン、ギー、コンコン♪

 「ションベンに行ってくるから、みんなはこのまま、ここから動かないでくれ。{序|つい}でに、奥方たちが{憚|はばか}れそうな場所も、探しておこう。{狸|タヌキ}じゃないが、そういう場所は、一ヵ所に決めておいたほうがいいからな。
 それにしても、マザメちゃんって言ったっけぇ。彼女の寝言は、実に面白い。
 じゃあ、直ぐに戻るから」

 ノロガメさんは、そう言うなり立ち上がり、のろのろと森の奥へと入って行った。
 ムロー先輩と、目が合った。
 マザメが、寝言を言いながら、目をパッと見開いた。
 マザメとヨッコ先輩の目が合った。
 ヨッコ先輩が目を開けたまま寝言を言い始めたのと同時に、マザメは寝言を{止|や}め、一番近い木の太い幹を、スルスルと上ってゆく。
 マザメから、手のひら信号が届く。腕信号は、振り幅が大きいから気づかれる心配があるし、かと言って指信号だと、けっこう高く登って距離が開いているし……しかも、この薄暗さだ。判読できなければ、意味を{為|な}さない。だからマザメは、手のひら信号にしたのだ。
 おれは、マザメの指示に従って、{匍匐|ほふく}したり立ち上がったりしながら、出来るだけ木陰や岩陰に身を隠すようにして、ノロガメさんの後を追った。
 ノロガメさんが、大きな岩を廻り込んだ。ノロガメさんの姿が見えなくなったのと同時に、マザメからの信号が、腕信号に変わった。その信号が指示するとおり、その大きな岩に、そっと耳を当てた。
 すると、聞こえてきたのだ。

 コンコンコン、ギー、コンコン♪
 コンコンコン、ギー、コンコン♪

 同じ{旋律のひと区切り|フレーズ}を、繰り返している……ということは、呼び出し信号なのだろう。残念だが、信号の本文を聴き終わってから逃げたのでは、遅い。案の定、マザメの腕が、「戻れ!」と言っている。{已|や}む無く、退散。
 マザメも、そのおれの行動を見て認めるや、スルスルスルっと木の幹を伝い、地に降り立った。

 みんなのところに戻ると、ツボネエが言った。
 「定時退社、しなかったみたいだね。あの警備員のオッサン」
 「電脳チップがそうさせたのか。それとも、勤勉な日本人の血が、そうさせたのか。{兎|と}も{角|かく}、あの男が報告して止め置かれたということは、直ぐに殺される心配だけは、無くなったという{訳|わけ}だ」と、ムロー先輩。

 確かに、公然の場でおれたちを殺しても、誰にも責められないし、罪にもならない。殺すだけなら、密偵なんだか{刺客|しかく}なんだか知らないけど、あんな、どこまでが演技なんだか判らないようなオッサンを送り込むという{凝|こ}った手口を使う必要など、どこにもない。
 「生け捕りなら、木の上から大きな網が降ってきて、おれらみんな、そのまま木に吊るされるんでしょ?」と、サギッチ。
 「今どき……忍者でまるまいし!」と、ヨッコ先輩。
 「忍者、居るじゃん。そこにーぃ!!」と、サギッチ。
 マザメ、何かを言いたそうな顔で、サギッチをギロッ!っと{睨|にら}む。
 「寝言は、もういいのォ? そろそろ、戻って来るんじゃない?」と、スピア。
 {仰|おっしゃ}るとおりである!
 {下手|へた}に逃げると、殺されるかもしれない。
 さりとて動かねば、未来はない。
 (ノロガメ追ん出し……元い。オッサン追ん出しゲーム、もっと真面目にやっとけばよかったなーァ)と、思ったおれだったが、どうであれ、実践に乏しいことは、{否|いな}めない。ワタテツ先輩が居ない今、頼れるのは、{仕来|しきた}りの旅を終えているムロー学人とヨッコ門人の二人になる訳なのだが……。

 ヨッコ先輩が、言った。
 「ノロガメさんが現れた時間って、三差路で出くわした{鈍間|のろま}の警備員が、外舎に着いた頃だよねぇ? 途中で報告を入れたにしたって、この辺に文明のチップ野郎たちの詰め所か何かがあるのは、間違いないよ。
 ノロガメさんが、電脳チップを埋め込んでいるかどうかは判らないけど、港湾管理所の若い二人みたいに、ただ善良なだけの文明人だったら、コソコソと{岩鍵|がんけん}を打ったりなんかしないだろう」
 「ガンケンってぇ?」と、ツボネエ。
 「あの岩みたいに大きいとは限らないんだけど、岩の上のほうが地上に出てて、岩の底が、{洞穴|どうけつ}の天井になってるのさ」と、マザメが得意げに、口を挟んだ。
 「洞穴って……じゃあ、仲間じゃん♪ 自然エスノ……」と、サギッチ。
 「タケラが、穴を掘ったって言うのーォ?! ピアノのおねえさんを、見たろォ? ただ目立たないように潜んでるだけでも、半殺しにされるんだ。しかも、みんな独りで、群れないように気をつけながら動いてる。一人で穴なんか、掘れないっしょ!」と、スピア。
 やはり、座森屋の後裔……サギッチには、特に厳しい。{鷺|さぎ}助屋の血と座森屋の血が、火花を散らす! みたいな……。

 「ノロガメ氏が敵にせよ味方にせよ、直ぐに殺さないということは、電脳チップのプログラミングに不備……例えば、タケラへの{対処|アルゴリズム}は綿密に組まれているが、ミワラへの対処までは、充分に対処できていないのかもしれない」と、ムロー先輩。
 「それなら、こっちの時間稼ぎになるけど、逆に、アルゴリズムのとおりに電脳チップが指示を出して、あいつらのほうが時間稼ぎをしているとしたら、あたいらの余命は、秒読みってことになるけどねぇ!」と、ヨッコ先輩。

 正にそのとき! ツボネエの、押し殺した焦りの声……。
 「マザねぇ、寝言ーォ!!」と。
 見ると、ノロガメさんが、視界の端から、のろのろと姿を見せはじめたところだった。 

【2】格物
■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■
訓練は嫌い

 **指示される備えは、嫌い!**

 例えば、防災訓練。
 主催者は、{斯|こ}う{嘆|なげ}く。
 「『確かに、災害の時は、そうしないとダメだよねぇ♪』と言って、みんな理屈では解っているのに、どうして訓練に協力してくれないんだろう。(災害のときは、ちゃんとそうしなきゃあ!)って、理屈の上では解ってるんだから、協力してくれないはずはないんだけど……」

 果たして、本当に「はず……」なのだろうか。
 答えは、{否|NO}!だ。
 人間ってのは、緊急事態でもないのに、架空の訓練で「あーしろ、こーしろ」って言われるのが、嫌いか大嫌いか、ほぼそのどちらかなのだ。だから、協力なんか、する*ワケ*がない。
 はてさて……では、どうするかァ?

 一に、繰り返し言い続ける。
 理屈では正しくても、実際にそうなってみると、「それどころじゃない!」ってことが、よくある。それでも、普段から言われ続けていれば、直ぐには出来なくても、どうにかしようと行動に出るものだ。
 例えば、普段から「火を消せ!」って何度も何度も言われていると、突如大きな地震がきてテーブルの下に非難しているとき、(火を消さなきゃ!)って思って、揺れが少し治まったときに、急いで火を消しに行く……みたいな。

 二に、強制的にやらせる。
 人間は、自由が与えられると、文句ばかり言う。でも、強制されて何度も何度もその行動をしていると、いつの間にかそれが当たり前になって、{身体|からだ}が自然に、強制されたとおりに動いてしまう。
 {所謂|いわゆる}これが、洗脳だ!
 戦後の義務教育で、この洗脳が、抜群の効果を発揮した。それが、何よりの{論的証拠|エビデンス}だ。でも、人間ってのは、ほぼ全員、強制されるのが嫌いか大嫌いかのどちらかだ。嫌いなことをやらされるワケだから、活力も、失われてしまう。敗戦前と敗戦後の子どもたちを比べてみれば、一目瞭然だろう。

 結局、訓練は、無意味なのかッ!
 そんなことは無い……というか、あってはならない。
 理屈で言えば、{嫌|イヤ}なことを強制しないで、訓練される人たちそれぞれが、対策を考えるようにすればいい……とまァ、確かに! 理屈というよりも、原則論だ。
 では、空論や原則論を具現に変えるためには、どうすればいいのか。それは、個々の*洞察のために*、普段から*正しい*{或|ある}いは*現実的*な情報を、提供しておくということだ。

 例えば……。
 「警報が出たら、直ぐに避難所に移動してください」
 これは、裏を返せば、「避難所に行けば助かるかもしれないけど、保証はできないよッ!」と、聞こえて来ないでもない。
 では、どうするかァ?
 「災害が起きたら、救急車も消防車も、お宅の前までは行けません。被災地に近寄ることさえ、出来ない場合もあります。避難所までなら、大概の場合、どうにかして行けます」……みたいに、〈出来ないこと=正しい情報〉として、少しでも多くの正しい情報を、普段から提供しておくというのは、どうだろうか。

 そうすると、民衆というのは、頼んでもいないのに、自らいろいろと考えるものである。防災用の井戸を掘るとか、消防ホースを狭い路地に敷設しておくとか、避難所まで早く安全に移動するための防災グッズを各家で備えておくとか……。
 そこで、お役所の登場です♪
 その領収書と引き換えに、{颯爽|さっそう}!と、補助金を給付してあげればいいのだ。
 訓練に参加しない人たちのことをボヤいていても、仕方がない。なんのためにも、誰のためにもならない。それよりも、「民衆の潜在意識の中の**好き♪**を、探せ!」だ。好きだから、頼んでもいないのに、みんな身銭をきって、*備える*という行動に出るのだ。

 こんな{逸話|いつわ}も、残っている。
 関東大震災のとき、東郷大将の本宅の周りも、火の海になったそうだ。当然、避難! と、思いきや……。
 大将とお手伝いさんの三人で、家に水をかけ続けて……{終|つい}には、家を守り抜いたそうだ。
 結局みんな、自分の家だけは、守りたい……人間はみな、*たった一つの自分の城*というものを、持っているのだ。

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然修録 第1集 No.130

#### ワタテツの{然修録|130}【1】座学「対人心得」【2】息恒循〈遺伝〉心象記憶 ####

 {会得|えとく}、その努力に{憾|うら}みなかりしか。
 門人学年 **ワタテツ** 青循令{猛牛|もうぎゅう}

【1】座学
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対人心得

 相手に{好|よ}く見られるために、暗示を掛ける……。
 ヨッコは、その会得に努力し、その体得が、ムロー学級六名の命を救った。確かに、競争社会に{於|お}ける社会活動では、有効な手段だ。よく耳にする言葉で、「法に触れなければ、何をやってもいい」というものがある。「暗示」と言えば、少しは聞こえはいいが、要は、嘘で固めて相手を{騙|だま}すということだ。
 古来悠久、日本人は、{戦|いくさ}に対しても{或|ある}いは競争社会に在っても、「勝つためなら、法に触れない範囲で、なんでも有り♪」ではなく、「日本人として、どうあって、人間として、{如何|いか}に**道**を{全|まっと}うするか!」を思い、考え、行動してきた特異{稀|まれ}な民族である。
 {故|ゆえ}に、この特異稀から{逸脱|いつだつ}してしまうと、日本人ではなくなってしまう……それ{即|すなわ}ち、人間ではなくなってしまうことを意味する。
 俺は、不器用と言われようが、要領が悪いと言われようが、戦列から離脱して役立たずと言われよう(……というか、事実そうなってしまった)が、日本人で在り続け、人間としての道を、最後まで全うしたいと思うのである。

 **下位者に対する心得**

 我ら{日|ひ}の{本|もと}の国は、「神の国」とか「霊薬が{生|む}す国」などと言われ、今に現存する神聖なる古代国家として知られていた。過去形で書かざるを得ないところが、なんとも残念である。では、その神聖の源……根の部分には、何があったのか。それが、「〈和〉であっただろう」と、言われている。事実、「和の国」とも呼ばれていた{所以|ゆえん}でもある。
 その和を生み出すためには、先ずは{長|おさ}……{延|}いては、上位の立場に在る者すべてが、*無私*の精神と*公平な意見や態度*が不可欠となる。
 どんなに競争力があっても、どんなに効率よく動けても、「自分たちだけは……」とか、「あいつだけは……」と、そんな個人的な都合で立ち振る舞っているような先輩や上司には、(どうも人間としては、信服できないな)と思ってしまうのが、本音というか、現実ではなかろうか。
 こうなってしまうと、{弛|たる}んだ組織がウジャウジャと湧いて出てきて、まったく統一性とか連携といったものが、実現不可能になってしまう。これでは到底、和の国とは呼んでもらえまい。
 故に、長たるもの、上位に値する者は、従える者たち一人ひとりの人間としての真価を、しっかりと見定めて、それを尊重しなければならない。それが、{所謂|いわゆる}度量の大きな人間であり、思い遣りがある人間であり、即ちそれが、*日本人らしい*人間ということになるのではないだろうか。

 **同位者に対する心得**

 恐らく日本人は、元来、縦の{繋|つな}がりには強いが、横の繋がりには弱い……というか、苦手である。事実、維新や安保闘争のころの志士を観れば、同盟や横の繋がりを維持することに、{如何|いか}に苦慮していたかが{窺|うかが}えよう。
 何故か? {況|いわん}や!
 {自我|エゴ}、{面子|めんつ}、{沽券|こけん}とか{面目|めんぼく}とか……そして何より、{嫉妬|しっと}心だ。
 どうなに心根に筋金を入れたような人間であっても、自分の存在を脅かすような競争相手が出現すると……内心、嫉妬の念無きを得ないに違いない。それを、どれだけ心の底に留め置くことができるかというところで、人間の真価が分かれるだけのことであって、大なり小なり、心の動揺が{露|あら}わになってしまうものである。
 この真価を決定づける習慣的態度が、学問でありまた、それによって身に着く教養というものではなかろうか。その素養たる心得が、現実を知り認める……即ち、自分自信や相手の実力や徳の{如何|いか}ほどかを、そのまま素直に受け容れるという態度にあるのだと思う。
 この素直な態度の具現を見るためには……まさしく、無私でなければならない。和の国とは、受け容れの社会のことなのだ。

 **上位者に対する心得**

 以前、マザメが珍しく、然修録に{真面|まとも}なことを書いていた。
 皆、覚えているだろうか。
 これだ。

 一に、「一切、理屈は言わない。ただひたすらに、師匠の教えを、そのまま受け入れます」と、心の中で誓約する。
 二に、貢献できることに、集中する。
 三に、成果を上げる方法を、考える。

 要は、「上位者の命には、忠実に従うのが基本だ」ということだ。更に、余程のことが無い限り、批判がましいことは口に出さない。何故かと言うと、真面な上位者であれば、それなりの責任を負って、広く全体を見渡しているものだ。そのごく一部分を切り取っただけに過ぎない下位者とでは、立ち場が違う。ものの見方や考え方が違っていても、「それは、当然!」というものなのだ。
 但し、{諫言|かんげん}という言葉を聞いたことがあると思う。武士道の一つであり、{曲者|くせもの}と呼ばれる{所以|ゆえん}の一つが、この諫言でもある。即ち、もし上位者から意見を徴せられたならば、率直{坦懐|たんかい}に、己の所信を述べなければならないということだ。
 {尤|もっと}も、だからと言って、己の狭い了見を意気揚々と言えば良いかというと、それは、違う。自分の立場や視野の狭さを自覚した上で、上位者の心情への配慮も忘れてはならない。
 ある分野の創始者たる先人が残した{言乃葉|ことのは}に、こんなのがある。

 「上位者に喰って掛かって、自ら{快|こころよ}しとする程度の人間は、真の大器ではない」

 正に、この言葉通りだと思う。但し、陰口を叩くくらいなら、正々堂々と喰って掛かるほうが、よっぽどマシだとは思うが……。
 その反対もある。
 これも、よく聞く話だが、上位者に{媚|こ}び{諂|へつら}う者が、なんと多いことか。実に、{卑|いや}しい! こういう人間が、実は、上位者から最も軽んじられるのだ。そんな簡単な現実が、何故判らぬのか。
 まったく、不思議でたまらん!

【2】息恒循
■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■
〈遺伝〉心象記憶

 不思議な話を耳にした。
 人間学の本を、精神疾患を抱えている患者さんにお渡しすることにより、患者さんに改善の傾向が見られたというのである。人間学を学ぶことで、脳を使って何かが{甦|よみがえ}り、幸せに生きるための力が{具|そな}わるのではないか……。そう、考えられないだろうか。

 何が、甦ったのか?

 先人たちの心……我らが祖国、{日|ひ}の{本|もと}に住んでいた日本人の心ではないかと思うのである。 
 その{論的証拠|エビデンス}の一つとして、千年、二千年という長い年月に{亘|わた}って風雪に耐え、人間学を伝える種々の書物が生き残ってきた……という事実がある。
 その教えは、推察するに、先人英霊たちが、人間……自分たちの{後裔|こうえい}である日本人の心の持ちようを、改善……即ち、「自ら自分を変えてもらいたい」という願いが込められているように思えてくる。
 これが、{所謂|いわゆる}大陸の人びとが言う**霊薬**……西洋医学が持て余して個人が抱え込んでしまっている脳の問題の根本的な解決に繋がる、先人〈日本人〉たちの叡智なのではないだろうか。

 日清戦争が{俄|にわ}かに始まろうとしていた頃、西洋で、ある本が話題となり、よく売れたそうだ。無論、英語。でもそれを書いたのは、なんと意外や意外、{生粋|きっすい}! こてこての日本人……彼の名は、内村鑑三。
 その本の名は、そのまんまズバリ、『{日本及び日本人|Japan and Japanese}』。この本を読んで、正に西洋の人びとは、日の本の国の台地には、霊薬が{生|む}し、そこに古来悠久住まい続ける日本人には、その霊薬が、遺伝的に具わっている……と、確信したのではないだろうか。
 それが、言葉では言い表せない、生まれながらにして具わっている{心象|イメージ}記憶であり、それを、脳裏に映し出す力……それこそが、人間力なのだろうと思う。その力を修めるための学問が、人間学……即ち、「古典を読む」ということなのではなかろうか。

 《以下……後年、後裔による追記》

 この『日本と日本人』が、著者本人によって改訂されたとき、その著者の{言乃葉|ことのは}が、〈はしがき〉として、今に残されている。無論、英語。この改訂版を、その精神を受け継いだ現代の{翁|おきな}が、監訳してくれている。
 そこには、日本語で、{斯|こ}う訳されている。

 本書は、……(中略)
 若き日の熱い愛国心はとうに冷めてしまったが、それでも日本人のもつ素晴らしい特性に目をつぶってはいられない。
 それに、日本が私の祖国であることに変わりはない。
 日本は、私が「わが祈り、わが希望、わが無償の奉仕」を捧げる唯一の国だ。
 わが同胞のよき特性――しばしば日本人に帰せられる盲目的忠誠や血塗られた愛国心*とは別な特性*――を、外なる世界に伝える一助となること。
 それが本書の目的である。
 おそらく、……(後略)
(Ver.2,Rev.0)

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後裔記 第1集 No.133

#### サギッチの{後裔記|133}【1】実学「不滅の神話」【2】格物「師たる預言者」 ####

 体得、その言行に恥ずるなかりしか。
 少年学年 **サギッチ** 齢9

【1】実学
■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■
不滅の神話

 文明エスノの{曲者|くせもの}か、和のエスノの指導者か、{将又|はたまた}自然エスノの潜入{武童|タケラ}か……{何|いず}れにしても、気を許す{訳|わけ}にはいかない。でも、その後ろ姿は、{鈍間|のろま}で滑稽で、歩学が好きそうな無害の{団亀|どんがめ}という感じだった。
 そんな、突如現れて威勢よく、{然|しか}しながら声を押し殺しておれらを{叱咤|しった}した{得体|えたい}の知れないオッサンを班長として、谷川の岸辺に身を隠しながら、一列縦隊で森の奥へと上って行った。
 そして、無駄に{潰|つい}えた時間の後を追うかのように、森に射し込んでいた夕方の西日も、{終|つい}には森の枝葉に{遮|さえぎ}られて、ほぼ完全に{閉|と}ざされてしまった。
 するとオッチャンは、ところどころで枯れ葉が堆積している場所を、キョロキョロと束の間見渡すと、その中でも一番表層が乾燥している辺りに、腰を下ろした。
 幅の狭い谷川の河原を歩いているうちは、「どうにかして欲しい!」ほどの鈍間に見えていたオッチャンだったが、河原の上り坂の{勾配|こうばい}が角度を増しても、その歩く速度は変わらず、おれたちは知らず知らず、必死こいて歩かされてしまっていた。
 オッチャンとおれら七人が枯れ葉の{絨毯|じゅうたん}の上に腰を下ろし終えると、直ぐに、ツボネエが口を開いた。

 「ねぇ。なんでそんなにのろのろ歩くのォ?」
 オッチャンが、応えて言った。

 「早く歩くと、右足を引きずらにゃならん。発見した地域と右足が不自由という情報が電脳チップにインプットされると、該当する人物全員のデータァが抽出され、そのそれぞれの対象人物の思考パターンや行動パターンが、解析されてしまう。
 その結果を基に、抽出データァと解析データァに優先順位が施され、いくつかの対応が策定される。更に、もしそれが失敗したときのための対処案も、同時に作成される。
 {即|すなわ}ち、完璧なのだッ!
 その電脳野郎が出した結果{如何|いかん}で、わしは、殺されるやーァもしれん。将又、無視されて命拾いする結果となるやーァもしれん。じゃから、思考や行動のパターンが、出来るだけ平凡で目立たんように、努めて{居|お}るという訳じゃ」

 「じゃあ、オッチャンは、和のエスノかい? 文明の{奴等|やつら}に狙われてるのに、あたいら自然を、助けてくれた……」と、マザメ。
 「そうとも限らんさ。事実、港湾管理所の二人は、文明エスノの管理職員にも拘わらず、君らを自然エスノだと見抜いて、助けてくれたじゃないか」と、オッチャン。
 「じゃあ、オッチャンも、文明の人なのかァ?」と、オオカミ先輩。
 「だから、そうとも限らんと言っとるじゃないかァ! それより、せっかっく港湾の若い衆に{匿|かくま}ってもらったっていうのに、何を血迷ってわざわざ目立つところを*ほっつき*歩いとんじゃあ! まったく……」と、オッチャン。
 「そういうときはさァ、{斯|こ}う言うんだよ」と、そこまで言ったおれは、そこで言葉を切られてしまった。
 そして、そのおれに代わって、オッチャンが、言った。
 「わけわかんねーぇ♪」
 「正解! お見事ーォ♪」と、オオカミ先輩。
 「随分と読まれ{易|やす}い言動パターンだなッ!」と、ムロー先輩。
 「{兎|と}も{角|かく}、どっぷり日が暮れるまで、おまえらもわしも、{迂闊|うかつ}には動けん!」と、オッチャン。
 その言葉を聞くと、矢庭に問題児……元い。危険人物のスピアが、口を開いた。
 「ねぇ。だったらさァ。そもそも何がどうなってこうなっちゃたのか、知ってる範囲でいいから、話して聴かせてよォ」
 「あんたさァ! そもそもと、何がと、どうなってと、こうなっちゃったの*こう*のスペシャル四本立てを聴こうって言うのかい? そんなもん聞かされた日にゃあ、その日の陽がどっぷり暮れるどころか、次の陽がひょっこり昇ってきちゃうじゃないかァ!」と、ヨッコ先輩。実に、正しい。まどろっこしいけど……。
 で、そのヨッコ先輩の懇願の叫びを無視して、オッチャンが、語りはじめた。
 (爺さんだけじゃ飽き足らず、今度は、オッサンが{標的|ターゲット}かい!)と、思うおれだった。

 ……ではでは、おれの潜在意識によって、バッサリと{割愛|かつあい}された、オッチャンの講釈。
 「こんな感じでーすぅ♪」……ってことでぇ(アセアセ)。

 「神話を読み通したことがある人は、どれくらい{居|い}るのだろうか。西洋では、宗教の原典と呼べるものが、数々{編纂|へんさん}された。今の西洋の天地の創造を記した神話と呼べるものは、その宗教の原典の中に編み込まれている。
 創世記、出エジプト記、レビ記、民数記など、(夥|おびただ}しい数の諸書を{搔|か}き集めて編纂された、旧約聖書。
 もう一つ。
 マタイによる福音書、マルコによる福音書、ルカによる福音書、ヨハネによる福音書、使徒行伝など、これまた夥しい数の諸書を搔き集めて{編|あ}まれた、新約聖書。
 この二つの原典は、{正|まさ}しく神話! そう呼んでも、誰からも文句は出まい。
 我が国{日|ひ}の{本|もと}にも、神話と呼ぶに{相応|ふさわ}しい書が、二編あった。古事記と日本書紀が、それだ。

 {況|いわん}や!
 我が国の神話は、古くて難しくて、つまらない。
 そもそも、神話というものはだ。不思議と{何処|どこ}となく新しく感じさせるところがあって、誰にでも自力で読めて、しかも面白くなければ、伝承の糸は、ブチ!っと切れてしまう。
 この星では珍しく、せっかく宗教の原典ではない、純粋に自国で起こった創造劇だけを説いた神話を持っているというのに……何度も言うようだが、この国で、神話を読み通したことがある人は、どれくらい居るのだろうか。
 読者の声が、聞こえてこん{訳|わけ}でもない。古今東西、神話というものは、必ずしも、そのすべてが史実とは限らない。しかも、我が国の神話に到っては、古くて難しくてつまらないときている。

 無論!
 難しいから{解|わか}らないだけで、面白い場面や関係式も、実は、意外と少なくはないと思うだがな。
 {兎|と}も{角|かく}だ。「事実ではない」「科学的ではない」「現実的ではない」「面白くない」……などと、そんなことは、神話を読まなくてもよいという理由にはならんのだ。
 そこのところは、西洋人たちのほうが、よく心得て{居|お}る。彼らは、古来悠久、事実ではなく、*真実*を読み、理解しようと努めてきたのだ。

 さて。
 ここからが、本題だ。
 亜種記は、次の天地の神話と、相成ろう♪」

 「やっぱオッチャン、タケラじゃん。だって、亜種記のこと知ってるんだから……」と、強引に口を挟むツボネエ。
 「亜種記くらい、文明の奴らだって、知っとるわい!」と、鈍間のオッチャン。
 (なんか、このオッチャンの名前、*ノロチャン*になりそーォ♪)……って思ったのは、おれだけぇ?
 ここで、目には目を、{面倒|めんど}っちいにはメンドッチ・スピアを……てな訳でもないけれど、あの野郎が、口を挟んだ。
 「ねぇ。*ノロガメ*さんさァ。亜種記の書き出しって、知ってるぅ?」
 「知らん!」と、ノロガメさん(← ナイス! ベリーグッド♪)と、思ったおれ。

 そのときだった。魔性の{鮫|サメ}{乙女子|おとめご}の寝言の続きが、始まってしまった。こうなってしまうと、ただただ、その寝言が、小難しくて面白くもない創作神話でないことを、切に願うしかない!

 それしにても、ノロガメさん……って、何者なんだろう。

【2】格物
■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■
師たる預言者

 物の根たるもの五あり。
 曰く、陰陽。
 曰く、五行。
 曰く、天地。
 曰く、人倫。
 曰く、死生。
 {故|ゆえ}に{其|そ}の初めの始を見る者は神たり。
 神にして衆人のために舌たる者を聖と為す。

 西洋の主なる宗教は、預言者によって広められた。西洋の宗教とは、わが国では神話に当たる。我が国の神話を語り伝える預言者など、聞いたことが無い。
 ところが、なんと平安時代に書かれた書に、この預言者の存在が、名言されていたのだ。それが、日本最古の兵書……『闘戦経』。

 「生命の成り立ちである五つの根を、示している。その根の始まりを見るのは神のみであって、しかもその神は、ただ見るのみ。その様子を、衆人のために語れる者が、現れる。それが、聖人だ」と、まァ……こんな意味だ。

 根とは、原理原則のこと。仕事であれ学問であれ、原理原則というものが、必ずある。それは{何|いず}れも単純で、一言で言い表すことができる。それは、大努力したものだけに、見えてくる。見えてきたら、その一言を、繰り返し繰り返し、周りの人たちに、{懇々|こんこん}と、説き続ける。
 それが、聖人……真の、預言者だ。
 その真の預言者を探し当て、師と仰ぐ。
 それが、知命への一番の近道なのだ。

 爺さんやオッチャンを見ると、すぐに密着して話を聴きたがるスピアの野郎……おまえは、知命への近道を、知っていたのだなッ! 正に、知命へのショートカット♪
 ……だのになんで、あいつの話は、いつもいつも遠回りで、バッカ長いんだかァ!

 追伸。
 格物……己を{格|ただ}すためには、先ずは自反。その自反も、せめて{素直|すなお}道の初段くらいの純粋さで、反省しなければならない。
 {斯|か}くして、自反を{為|な}して、格物は成る。

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然修録 第1集 No.129

#### ヨッコの{然修録|129}【1】座学「道徳」【2】息恒循〈序説〉遺伝血と伝承脳 ####

 {会得|えとく}、その努力に{憾|うら}みなかりしか。
 門人学年 **ヨッコ** 青循令{飛龍|ひりゅう}

【1】座学
■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■
道徳

 ムロー学人の然修録より。
 「何れにせよ、進むべきは、*道徳*の〈道〉」
 (中略)
 「ところで、自分を変えるための学問とは、なんだろう……」

 (だから、道徳っしょ! 自分で、そう書いてるじゃん)と、思ったあたい。……で、道徳について、座学した。

 **道徳革命**

 一九六〇年代が折り返そうとしている頃の話だ。
 NATOの会議で、アメリカから出席した高官が、{斯|こ}う発言した。
 「ここまで発達した科学・技術は、今後改めて道徳と結びつかなければ、恐るべき破綻に{瀕|ひん}するに違いない……」と。
 これに呼応した欧米各国の権威ある哲学者、社会学者、医学者たちは、斯う声を揃える。
 「人類を*この破綻*から救うためには、道徳革命・精神革命が行われなければならぬ」
 これをきっかけにして、西洋で、東洋文化が注目を集めることとなる。特に、古典哲学に{纏|まつ}わる歴史や思想などの研究が、盛んに行われるようになった。

 片や、わが国{日|ひ}の{本|もと}では、{如何|いか}に!
 宗教が最終的な到達点で、道徳は、{飽|あ}くまでその過程に過ぎない……という考え方が、幅を利かせている。このような考え方をする者たちは、宗教の達者とは限らず、単なる高学歴者に多いというのだ通説だ。
 言わずもがな……東洋哲学の原理に、宗教に導くような要素など、存在する{筈|はず}もない。

 では、道徳とは何か。

 先ずその、〈道〉とは……。

 それは、大宇宙……天の一貫した営みのこと。これ、自然。人間は、自然の一部……{即|すなわ}ち、天人。{故|ゆえ}に人間の人生は、天の道に基づく。
 これは、飽くまで東洋文化の話。西洋文化のそれとは、全く異なる。西洋人にとって天……自然は、{対峙|たいじ}するもの。{故|ゆえ}に、山に登ると、「エベレストを征服した……」みたいに、征服という{戦|いくさ}に勝ったかのような言葉を好んで使う。
 東洋においてはどうか。
 天人合一、天人一体……であるならば、人に心あらば、同時に天も心を持つことになる。大陸の宋代、名高い哲学者が、これを{斯|こ}う説いている。

 「天地のために心を立つ
 生民のために命を立つ
 往聖のために絶学を継ぐ
 万世のために太平を開く」

 意味は、概ね斯うだ。
 大自然は、長きに亘る創造の末に、遂に人間を創り出し、これに心というものを開かせた。それは同時に天地の心でもあり、故に人間は、天地のために心を立てる。
 己は{何故|なにゆえ}に存在し、世の中を{如何|いか}にせねばならぬか……この答えが、命である。
 ところが、一般民衆というものは、{訳|わけ}も解からずにただ生きているだけだ。故に、その命なるものをよく教え示し、このようなものだから、このようにして、こうならねばならぬと、よく教え導いてやらねばならぬ。
 結果、それが*立命*となる。
 {況|いわん}や、人間は、立命のために、先駆者や先哲、先賢に学ばなければならない。そこまでに到って初めて、永遠の平和を実現することができるのである。

次に、その〈徳〉とは……。

 創造された大宇宙、天地人間、大自然に一貫して育ちゆくもの……即ち、{造化|ぞうか}。その本質的な原理が、**道**である。その道が、人間を通して現れたもの……それが、**徳**である。
 この道と徳を結び{繋|つな}げたものが、**道徳**である。

 徳は、様々な社会活動を通じて現れる。人に対しては〈教〉として現れ、社会においては〈功〉として現れる。
 〈教〉とは、「人が他のお手本になって、後進を導く」という意味である。故に教師{足|た}る者、本来は言葉や技術など二の次で、先ずは己の徳が周りの人たちのお手本となって、教え導かねばならない。
 滅多に教師足る者にお目に掛かれないのは、それ故である。
 〈功〉とは、「産業を興し、生活の営みを促進させる」ことである。正に〈利〉であり、「進め励まし教え導く」という意味の〈勧〉とも成り得る。これまさに、*勧業*である。
 〈教〉と〈功〉は、力となる。
 〈力〉は、「率いる」という作用を、最大限に発揮する。故に、道徳から現れた行為行動でなければ、率いる力など無いということだ。

 道は、化となる。化とは、自発的な驚くべき創造であり、大いなる変化でもある。故に道は、万物を化する。これを、道化という。
 サーカスに出てくる道化師を観ていると、ユーモアの中にも、何か内に秘めた痛いほどの真実を、感じさせられてしまうことがある。これが道化であり、道化師と呼ばれる{所以|ゆえん}である。

 このようにして、人間社会が道に{則|のっと}って発達してゆくならば、生活秩序が理法に{敵|かな}い、正しく営まれてゆく。これを、「治まる」という。政治という字は、この「治まる」に、人間の手や技を加える〈政〉という字を合わせた言葉である。
 故に、道に則った政治をしなければ、社会は道を{違|たが}え、秩序は崩壊してしまうのである。
 これを正しく、すべての民衆を率いてゆく人のことを、「王」という。徳をもって民衆を導き、人びとに謙譲の美徳を養わせ、国体を治めてゆく。これを王道とするならば、その真逆……対極にあるのが、力や{脅|おど}しで民衆を率いてゆく「{覇者|はしゃ}」ということになる。

 小事であれ大事であれ、覇者も治乱も、元は一つ。どこかで、一歩踏み外しただけに過ぎない。その踏み外した一歩を反省するのが自反、それによって己を正す行動が、格物である。

【2】息恒循
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〈序説〉遺伝血と伝承脳

 ご先祖様から後裔諸君へ。

 諸君が、ご先祖様の血を受け継いでくれたことを、嬉しく思う。

 受け継いだ血の中に刷り込まれた写像は、君{等|ら}の脳裏に{心像|イメージ}として再生される。これを、心像記憶という。
 心像記憶には、もう一つ種類がある。
 今{此処|ここ}で五感が{捉|とら}えた写像を、心像として脳裏に再生することだ。
 前者は、その再生能力が衰えないように、普段から頭脳を鍛えておかなければならないが、それはそれ。血も、そこに刷り込まれた写像も、生まれ持ったものである。
 ところが、後者はどうか。
 五感で文字から花びらまで何から何まで一つの写像として写し取り、それを心像として脳裏に再生するという{所作|しょさ}を習慣化するためには、訓練が必要だ。

 さて、ここで残念な事実を、明かさねばならない。
 この心像は、一度再生すると、もう二度と再生することが出来ないのだ。言い換えよう。確かに、この心像記憶は、記憶の中に存在している。では、どうやって探し出せばいいのか。その方法が、何一つ無いのだ。
 そこで必要になるのが、{言葉|ワード}記憶だ。
 これは、心像記憶の一つひとつに付けられる{札|タグ}だと思えば、解り{易|やす}い。「{薔薇|バラ}」という言葉記憶を札に書いて、心像記憶に貼り付けたならば、{何|いず}れ五感のどれかが何かを感じ取って「薔薇」という言葉を意識した時点で、この「薔薇」という言葉で札付けされた心像が、脳裏に再生されるという{訳|わけ}だ。

 後者の場合は、五感で取り込んだ写像を、綿密且つ鮮明に一つの心像にするという訓練に加えて、解り{易|やす}く誤解し{難|にく}い言葉を、札に書いて貼り付けるという訓練を、同時に行えば済む話だ。
 ところが、前者はどうか。
 まだ幼いころ、なんの札も付けずに、記憶の底に沈めてしまったのだ。必要な心像記憶だけ引き揚げるなんて都合がいいことは、絶対にできないのだ。
 では、どうするか。
 浅瀬に沈んでいるほうから始めて、片っ端から脳裏に再生しては、札に何か言葉を書き入れて貼り付け、また放り投げてポチャンと沈めるという途方もなく面倒臭くて手間の掛かる作業を、地道に{遣|や}り続けなければならない。
 これも、訓練の一つだ。

 再度、言い換えよう。
 前者を潜在意識、後者を顕在意識に置き換えて考えてみて欲しい。
 顕在意識は、日頃の訓練を怠れば、札は{朽|く}ち{剥|は}がれ、そこに書かれてあった言葉も、薄れて果ては完全に消えて真っ白になってしまう。この状態、正に潜在意識だ。
 潜在意識も、夢の中で引き揚げて、{弛|たゆ}まぬ大努力で札付けをする作業を続けなければ、もし、せっかく大宇宙を震撼させるような心像記憶を脳裏に引き揚げて再生することができたとしても、そこで札付けをする習慣を体得していなければ、再びただの無名の感覚として、記憶の湖の底深くに自ら沈めてしまうことになるのだ。
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