MIWARA BIOGRAPHY "VIRTUE KIDS" Virtue is what a Japanized ked quite simply has, painlessly, as a birthright.

後裔記と然修録

ミワラ〈美童〉たちの日記と学習帳

後裔記 第1集 No.142

#### ヨッコの{後裔記|142}【実学】置き去り{民族|エスノ}【格物】奇正に{溺|おぼ}れる ####

 体得、その言行に恥ずるなかりしか。
 門人学年 **ヨッコ** 齢15

実学
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置き去りエス

 (あたいは、絶世の美女じゃないんかい!)と、思ってムッ!っとしたのも{束|つか}の間……(そっかァ。女を感じちゃってるのかァ……)って、マジ嬉しくないしィ!
 {閑話休題|まァ、それはそれ}。

 (若い赤{鷲|わし}ーぃ??
 ぅん?
 ……元い。
 赤い{若鷲|わかわし}ーぃ?!
 てか、どっちゃでもいいやァ!)

 命を狙われたかと思えば、次は能天気なオッサンたちに、喰えない女! 挙句は、意味不明のワシ!
 まァ、そのトリ野郎が敵にせよ味方にせよ、鳥たちとの談議が好きなスピアに交渉を任せて、あたいら年長組は、どんな手段を使ってでも、この{危|あや}うい文明{民族|エスノ}の島から一刻も早く脱出できるよう、手立てを算段しなければならない。
 なーんてことは、{解|わか}っちゃーァいるんだけんどねッ♪ でも、この島……クラースメン島ってさァ。なんか、神秘的で……てか、もっと何か、「スッゲーぇ!!」ことが起こりそうで、去り{難|がた}いんだよね。こんなことを書いちゃうとさァ……。
 ムロー先輩は、きっと、{斯|こ}う言う。
 「世の中を{舐|な}めてると、大惨事を引き起こすぞッ!」
 で、ワタテツの野郎は、必ず、斯う言う。
 「{戦|いくさ}が近いんだ。おまえ! もう、{児戯|じぎ}に類する悪ふざけをするような歳でもあるまい。そろそろ、いい加減、自覚しろッ! てかおまえ、無知運命期に入って、なん年目だァ! イヒッ♪」
 で、(はァ? おめーぇに言われる筋合いはねぇし、おめーにだけは、言われたくないッつーのォ!)と、きっと思う……あたい。たぶん♪

 麦コーン酒に対する抗体を持たない中低学年の{餓鬼|ガキ}どもが、どうやら無防備な昼寝症候群に病んでしまいそうな兆候を見せてっから、ここは、{仕来|しきた}りの旅で修羅場を{潜|くぐ}ってきた学人学年と門人学年が、「シャキーン!!」としなきゃねーぇ♪ ……と、思う。
 赤い若鷲のことを口走った四角四面の頭をしたテッシャンが、睡魔と戦う「ど阿呆どもーォ!!」を{余所|よそ}に、ボソボソと独り{言|ご}ちるように、語りだした。

 「誰にも言ってなかったんだけど、ぼくは、大工になる前……てか、その前の仕事のもっと前、大学の研究室に{暫|しばら}く残って、民俗学や人類学で合点がゆかないところを……まァ、大したことじゃないんだけど、探求を続けてたんだ。
 で、その……赤い若鷲の話なんだけど。
 山から、若鷲が、下りてくる。
 血潮のように、真っ赤に染まった青年の鷲が、一羽だけで……。
 それは、次の天地創造の、合図なんだ。
 天地創造を左右……というか、決定づける大動乱が、何年か、十数年か、数十年後に、起こる。
 その大動乱が終結する年は、{判|わか}ってる。
 それは、七の倍数の年。
 でもそれが、その集結のなん年前に始まるのか……{将又|はたまた}十数年か数十年も前に始まってしまっているのか……{何|いず}れにしてもそれは、判らないんだ。
 君たち自然エスノは、その大動乱で、文明エスノと{闘戦|とうせん}することを天命として定め、それを知命として心得ることによって、君{等|ら}ミワラは、タケラとなる。
 同時にそれは、立命期から運命期への転機でもある。
 立命した君等ミワラは、タケラとして、運命期を歩む。
 ただ天命に向かって、脇目の一つも振らず、まっしぐらに突き進むという{訳|わけ}だ。
 違いますかァ?
 どいつもこいつも、{愚|おろ}かだッ!」

 その愚かなガキどもが、その「愚か」という言葉に反応して、潜在意識が引っ込んで、{現|うつつ}の世界へと出戻って来てしまった。
 (寝てりゃーァいいのにぃ! あと、十年っくらい♪)と、思ったあたい。
 シカクシメン!のテッシャンが、ゆっくりとした動作で、麦コーン缶の栓を開けた。
 スピアが、言った。
 「えっとーォ!!」
 「七〇点かなァ。{甘々|あまあま}でーぇ♪」と、サギッチ。
 言わずもがな、意味不明!
 「そこまで判ってるんなら、生かしてはおけないだろうな。おれたち自然エスノを……」と、オオカミ。
 「あたいだったら、永眠導入剤、たーっぷり{盛|も}っとくわねぇ♪ これと、これと、それからこれと……あと、これにもねぇ♪」と言って、自分の口の中を指差すマザメちゃん! さすがは、{露骨|ろこつ}ねッ♪ (そして、お下品!)
 「自然エスノがァ……」と、スピア。
 そこで言葉を切ると、ゆっくりと、顔を上げた。(いよいよ、{喋|しゃべ}りだすんだなァ! こいつ……)と、思って……{嗚呼|ああ}、観念するあたい。
 「自然エスノがァ……みんながみんな、文明エスノの皆殺しを願ってるっていうかァ……目指してるってわけじゃあ、ないっしょ? でしょ? ホモ種が、三つの亜種に分裂した。そのうち二つの亜種が、{対峙|たいじ}してる。でも、一番恐ろしいのは、どっちとも対峙していない、残りの一つの亜種……ぼくは、そう思う」と、スピア。
 意外と、短かった。でも、短くても、やぱりこいつが言うことは、いつも意味不明!
 「確かに……」と、ムロー学長!
 「俺も、そう思う」と、ワタテツの野郎!
 あたい、解らないんだけどーォ……。

 「確かに、文明エスノってさァ。間抜けなところ、あるよな。薄々だとしても、敵だって判ってる{奴|やつ}らを、軟禁に留めとくんだからなッ!」と、オオカミくん。
 「そう思ったから、ぼくらを電脳{鴉|ガラス}で襲撃したんでしょ?」と、サギッチ。
 「なんで、そんな七面倒臭いことすんのさァ! あたいだったら、半自動小銃で、ダダダダダ・ダーン!って、皆殺しさァ♪」と、マザメちゃん。
 (マザメちゃんって、皆殺しが、好きなのねぇ♪)と、思ったあたい。
 「なんで自動小銃じゃなくて、半自動小銃なんだァ?」と、ワタテツの野郎。まァ……あたいも、そう思った。
 「だって、自動小銃なんて、見たことないんだもん!」と、マザメちゃん。
 「てか、ハン自動ショージューは、見たことあるってことォ? ……てかさァ。ハンとか、ショージューとかって、なにぃ?」と、ツボネエちゃん。
 (まァ、当然の疑問だねぇ♪)と、思ったあたい。
 「マザメちゃん……あんた、{凄|スゴ}いよッ!」と、{渡哲|ワタテツ}サングラスの若い女……ファイが、言った。
 「文明エスノが、海上ジェータイを制圧したときに奪ったのが、半自動小銃ってわけさァ♪」と、日焼けした青年、ジュシ。
 「ジェータイってぇ? アタイが知らない言葉ばっか使わないでよねーぇ!! 禁止、禁止ーぃ!!」と、ツボネエ。相当……怒ってる……んだけど、{何故|なぜ}か、カワユイ♪
 「和のエスノの軍隊ですよ。奴らは、軍隊も、電脳{鴉|ガラス}で襲撃したんです。つまり、{戦|いくさ}になる前に、兵士を毒殺したんです」と、クーラーボックスに片{肘|ひじ}をついて、リラックスモードのモクヒャさん。
 「ぼくらは、死んでないけどォ……」と、スピア。
 (そうよねぇ!)と、思ったあたい。
 すると、内容物が激減して風に{戦|そよ}がされているレジ袋を、依然! 大事そうに{傍|かたわ}らに置いているタケゾウさんが、口を開いた。

 「当然の疑問ですね。
 君たちが吸わされた毒ガスは、クロロアセトフェノンと言って、精々{仄|ほの}かにリンゴみたいな臭いがしたくらいで、電脳鴉が毒ガスを撒き散らしてるなんて、そのときは気づかなかったんじゃないですかァ?
 でも、{直|じき}に涙が出てきて、眠くて{堪|たま}らなくなったんじゃないのかなァ?
 ぼくら日本人が大敗した{戦|いくさ}……{聖驕頽砕|せいきょうたいさい}でも使われていた、昔からある毒ガス……。
 {所謂|いわゆる}、催涙弾のようなものです。
 対して、奴ら文明エスノが、海上ジェータイの兵士たちに使った毒ガスは、ホスゲンって言ってね。
 これも、精々、干し草みたいな臭いがする程度なんで、直ぐには、『やられたーァ!!』だなんて、思わない。
 でも、{直|じき}に、死んじまう!
 喉や気管支に強い刺激を感じたかと思うと、肺が障害を起こして、絶命してしまうんだ。
 これも、俗に言うなら、「窒息弾」……ってところかな。
 これも、聖驕頽砕で実際に使われていた毒ガスなんだそうだ」

 あたい、思ったんだけどね……っていうか、思ったんだけどさァ! あたいら自然エスノだけが、置き去りにされてる……って、思う。対峙してる張本人が、置き去りにされてる……って、なんか{可笑|おか}しい話なんだけどさァ。
 タケラたちは、口を揃えて……みんな、斯う言う。
 「俺たちが、和のエスノの人たちを、護ってきたんだ。これからも、俺たちは、和のエスノの人たちを、護り続けなければならないんだ。俺たちが護ってあげないと、和の亜種は、亡びる。俺たち亜種の原点……源流は、和の人たちなんだ。{絶|た}やしては、ならぬ。決して、和のエスノの血統を、絶やしてはならんのだッ!」……と。

 でも、本当は、護られてきたのは、和のエスノの人たちじゃなくて、あたいら、自然エスノの人間たちなのだ。
 (たぶん、絶対に、間違いない)……と、あたいは、そう思う。
 たぶん♪

【格物】
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奇正に溺れる

 我ら{日|ひ}の{本|もと}の国*最古の*兵書……その『闘戦経』に、斯うある。

 軍なるものは、{進止|しんし}有りて奇正無し。

 {勝|すぐ}れた軍隊は、あれやこれや奇策を練るものでは無い。
 進むか! {将又|はたまた}、止まるか!
 そういった、大きな判断こそが、大事なのである。
 ……と、そんな意味だそうだ。

 まさに……今!
 あたいらが、心得るべき、{玉語|ぎょくご}だと思う。

_/_/_/_/ 『後裔記』 第1集 _/_/_/_/
寺学舎 美童(ミワラ) ムロー学級8名

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然修録 第1集 No.138

#### ツボネエの{然修録|138}【1】座学「手抜きの神髄」【2】息恒循〈二の循〉{少循令|しょうじゅんれい} ####

 {会得|えとく}、その努力に{憾|うら}みなかりしか。
 少女学年 **ツボネエ** 少循令{飛龍|ひりゅう}
     
【1】座学
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手抜きの神髄

 町屋の大工、船大工……それに、{長場|ちょうば}の大工さんも「ズングリ丸」の大改造に参加してくれることになった。でも……気になったのが、モクヒャさんの言葉。
 「さすがに、宮大工に声をかける訳にはいかんだろうからなーァ!!」
 さすがにぃ? なんで、「さすがにーぃ!!」なのォ?
 ……なので、その宮大工さんが出てくる{逸話|いつわ}を、探してみた。なんでわざわざ逸話なのかっていうと、「宮大工とは、なんぞや……{云々|うんぬん}」的な本を読むのは、アタイには無理だからだ。{何故|なにゆえ}に無理かっていうと、そんな小難しい本、読みたくないからァ♪

 今は昔……{聖奢頽砕|せいきょうたいさい}で、アタイらの祖国{日|ひ}の{本|もと}が大敗し、アメリカの被保護国になっちゃうその前のお話し……ですデス。

 その逸話を書いた人は、日の本が戦争に負けて、今の中国の東北地区のチチハルから引き揚げてきたんだけど、家は空襲で焼けてしまっていたので、親戚に間借りをして、当座を{凌|しの}いだんだそうです。
 でも、いつまでも{居候|いそうろう}に甘んじている訳にもゆかず、「よし! 家を建てよう♪」と、決心する。でも、金は無し。大工も、そう{易々|やすやす}とは見つからない。そこで、考えたのでした。中国やシベリアの農民が、自分の家を建てるとき、大工さんのような建築の専門家の手は借りない。近所の人たちが集まって、{漫々的|マンマンデー}でやってる。漫々的ってのは、「ゆっくり、のんびりと……」っていう意味なんだってーぇ♪
 {閑話休題|さて}、そのシベリアで見た家は、{殆|ほと}んどが丸太造りで、なかなかガッシリとしていて、住み心地も快適だった。そこで、それと同じような{遣|や}り方で家を建てれば、大工さんに頼らなくっても、何とかなりそうだって思ったってわけ。

 で……どうしたかァ? さすがに家を建てる話なので、専門的なことや数字は、避けては通れない。だったら、要約と{割愛|かつあい}……しかない! なのでサクッと、短く書きます♪

 当時の建築基準では、四〇平方メートル以上の家は、建てられない。木材の購入にも制約があって、一日当たり〇・四立方メートルまでしか、買うことができない。なので、出来るだけ少ない木材で、丈夫な家を建てなければならない。
 そこで、使用する木材の形状を、今で言う「ツー・バイ・フォー」っていう形にすることにした。要は、断面が真四角じゃなくって、長方形にする。{則|すなわ}ち、{圧|お}される方向のほうを、長くしたって{訳|わけ}だ。
 更に、実際に組み上げるときの要領を心得るために、二〇分の一の骨組みの模型を製作した。すると、片手に乗ってしまうくらいちっちゃな、鳥{籠|かご}みたいなのが出来上がった。それを、二〇倍したものを造ればいいだけのことなのだ。
 ……いざッ! 建築開始♪

 建て始めると、お隣りさんの敷地でも、新築工事が始まった。大工さんが、二人来ている。そのうちの一人が、六〇歳くらいの年配の職人。これが、どうにも、一所懸命に作業をしているようには見えない。ちょっと仕事をしては、直ぐに腰掛けてタバコをプカプカと吹かしている。
 {呆|あき}れて眺めていると、なんとその年配の大工が、のこのこと敷地を{跨|また}いで、自分めがけてこっちにやって来た! で、話しかけられた。
 「旦那は、なんの商売の方ですかい?」と、大工。
 「大学に勤めています」と、逸話の著者。
 大工、(建築の先生だなァ……)と、勝手に解釈する。
 「学問は学問だろうが、先生のノコの使い方は、見ちゃいられねぇ! カンナも、ダメだなッ!」……と、その大工は、しきりにそんなことを言いながらも、大工道具の使い方の要領を、それこそ一つひとつ、手取り足取り教えてくれた。
 それは、確かに有り{難|がた}いことだったけれど……でも、気兼ねするので、{訊|き}いてみた。
 「おじさん! 教えてもらえるのは、有り難いんだけど……。あなたの仕事に、差し支えはないのォ?」
 すると、年配の大工は、ニコニコしながら、{斯|こ}う答えた。

 「いやーァ。
 先生が、変わった建て方をしてるんで、わしゃ(なるほどーォ)って感心しとるんでさァ。
 わしゃ、本当は、宮大工なんですがね。
 こんなご時世じゃ、宮を造る仕事なんて、ありゃしませんやなァ。
 それでも、食わなきゃなんねぇんで、建築屋の下請けをしてるって訳なんですがね。
 ところが、一日当たりなんぼの日払いときてやがるんで、わしらみたいな年寄り大工は、大損でサァ!
 ああやって、若いのを働かしておりますが、あいつが一日かかるところを、わしゃ半日でやってしまいますからねぇ。
 そのあと遊んでたって、出来高も日当も、あいつと同じなんでさァ♪」

 さて、ここからが、ミソ!
 宮大工の卓越した仕事ぶりの{噂|うわさ}を{予|かね}てより耳にしていた著者は、(宮大工って、普通の大工さんより、そんなにも手が早いのかァ!)と思って訊いてみたところ、その答えは、意外だった。宮大工のオッサンが、言った。
 「なに、手抜きですよ。
 速いわけじゃない。
 それどころか、若い{奴|やつ}らに、速さで勝てるわけがない。
 多少の見栄えは{兎|と}も{角|かく}としても、量で敵うはずがない。
 実はね。
 現場の監督さんが検査しても判らない程度の手抜きの仕方ってぇもんが、あるんですよ。
 若いもんにゃ、教えませんがね。
 {勿論|もちろん}、そういう手抜きをすると、建物の持ちは、悪くなります。
 だけどね。
 この家は、建て主にとっちゃあ、仮の住まいでね。
 落ち着いたら、本建築に立て直したいんだって言っておりましたから……まァ、十年も持てばいいんでしょう。 
 それなら、何も本式の細工をしなくってもいいってわけで……「{仕口|しぐち}」って言うんですけどね。
 別に、仕口をちょっと変えたからって、直ぐに壊れるってわけじゃないんだからーァ♪
 例えば、こんな感じでサァ!」

 そう言うと、その宮大工は、柱と柱の{接|つ}ぎ手の仕口を、{二|ふた}通りやって見せてくれた。すると……なるほど、仕上がった接ぎ手の部分の外見は、まったく同じ……見分けがつかなかった。{然|しか}し、その一方は、紛れもない{匠|たくみ}の永久建築の仕口。……で、もう片方は、建て売り住宅などで使われる簡便法なんだそうだ。

 話としては、ここで終わりなんだけど……。
 さて、著者は、この体験から、どんな教訓を得たんでしょうか。合理的な手抜きの方法? まさかァ!
 役所仕事なんかでは、よくあることらしいけど、一度「作業手順書」が出来上がってしまうと、何度も何度も、何年も何十年も、その手順書に従い続けるのが通例なんだそうだ。実際に出来上がったものが、なんの目的で造られたのかとか、どんな使われ方をするのかとか、どのくらいの期間に{亘|わた}って使われるものなのかとか、そんなことは、どうでもよくなってしまうらしい。
 「手抜きなんかしたら、{容赦|ようしゃ}しないぞォ!」って言われるのは、その出来上がりが目的や必要な条件に{適|かな}っていなかったり、使いたい期間の途中で壊れてしまったりするからであって、条件をすべて満たして役目を{全|まっと}うするのであれば、手抜きをすればするだけ……それは、「改善」を{為|な}したことに値するのだ。

 則ち「改善」とは、出来上がりに必要な条件を変えないで、{如何|いか}に手抜きをするかッ! ……ってことなのだ。
 それを心得て、{何気|なにげ}に実践している宮大工さんは、やっぱり{凄|スゴ}い! ……と、アタイは思う。

息恒循
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〈二の循〉{少循令|しょうじゅんれい}

 生涯……{則|すなわ}ち、{天命|てんめい}。
 その最初の重要期を{立命期|りつめいき}と言い、その立命期の後半の循を、{少循令|しょうじゅんれい}という。

 七歳から十三歳までの七年間。
 生涯を通じて、**二番目**の循である。

 「少循令」とは、{如何|いか}なる期か……。

 卓越した創造力、勝れた想像性、{逞|たくま}しき意欲、燃え{滾|たぎ}る熱意、{怯懦|きょうだ}を寄せ付けない勇猛心、慎重に研ぎ澄まされた冒険心……それら、すべてである。
 古来、{子等|こら}や若者たちは、飢えに勝ち、侵略戦争に立ち向かい、偉大なる思想を抱いて維新を重ね、歴史を創ってきた。それらを奪われた現代、子等や若者たちが{苛|いら}立つのは当然であり、苛立たぬは、{腑|ふ}抜けの{空|うつ}け者である。

 いつの時代も、変革は若者が起こし……そして、それを{遣|や}り{遂|と}げるのだ。疑問、{覚醒|かくせい}、憤怒は、彼ら彼女たちの特権だ。{安寧|あんねい}、規制、常識は、老いの成れの果てである。
 国家にせよ、企業組織にせよ、軍隊にせよ、一つの組織が、前例や慣例や建て前に{縛|しば}られて硬直すると、内部に中毒症状を起こす。そして、停滞。やがては崩壊に向かい……終には、{亡|ほろ}びる。これを、{必定|ひってい}と言う。代謝、回転、変形……と、組織も個人も、常に変わり続けなければ、明日は無い。
 この「青春」の運動を、青臭いものと感じ、彼ら彼女たちを静観し、{諦観|ていかん}する眼を奪われ、悪意に満ちた体制に身を{委|ゆだ}ねたそのとき、人間は、その魂を悪魔に売り渡し、身も心も過去へと送られ、{現|うつつ}から抹消されてしまう。

 大化の改新、蒙古の襲来、明治維新……と、何れも、我ら祖国を救ったのは、若者たちによる変革であった。{旧|ふる}いものは新しいものに代わり、小さいものが大きいものに取って代わり、青い者が老いた者に代わって躍動する。その代替わりが、変革なのだ。
 変革者が、英雄になるとは限らない。行動を起こした結果が、逆賊にされてしまうことも、珍しくはない。だが、英雄も逆賊も、貴い先駆者であることには変わりはない。
 有名な句に、こんなのがある。
 「萩に来てふとおもへらくいまの世を
 救わむと{起|た}つ松陰は誰」
 誰? それが、{何|いず}れ「青春」と相成る子どもたちだッ!

 もし、子どもたちが失望されようものなら、その国は、間違いなく亡びる。そんな英雄予備軍の子どもたちを、いじけた大人たちは、あら探しをし、{揶揄|やゆ}し、{挙句|あげく}は、{鬱憤|うっぷん}の{捌|は}け口に利用する。子どもたちに劣等感を感じるのではなく、まだどこか子どもたちと同じところ……同じ心があるはずだと信じ、それを探し出す努力をすべきである。
 そこで、同じものが見つかったとき、子どもたちや若者に対する劣等感は、すっと立ちどころに消えてしまうはずだ。

 いつの時代も、今どきの子どもたちや若者が、世の中を変えてゆくのだ。我らが祖国……{日|ひ}の{本|もと}が救われるためには、今どきの子どもたちに期待するほかに{術|すべ}はない。
 {則|すなわ}ち、{子等|こら}はそれを自覚し、大努力し、自反と格物を日常知とする、**{美童|ミワラ}**とならねばならないのだ。

(Ver.2,Rev.0)

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_/ 3 /_/ 然修録 第1集の子どもたち
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後裔記 第1集 No.141

#### スピアの{後裔記|141}【1】実学「修羅場と場数」【2】格物「知命の極意」 ####

 体得、その言行に恥ずるなかりしか。
 少年学年 **サギッチ** 齢9

【1】実学
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修羅場と場数

 (いくら、{家船|えぶね}だからって……。
 いくら、巧みな技で家を造る職人だからって……。
 やっぱ、船じゃん!)
 と、おれは、心の中で{呟|つぶや}いていた。

 それを察したのか、どうなんだか。木の筏でトラフグを育ててるっていうモクヒャさんが、言った。
 「……とは言ってもだ。やっぱり、船は船だ。町屋の雨仕舞と、{船体|ハル}の水密性とじゃ、大違いだぞッ!」
 「世界で一番大きな木造船、どこにあるか、知ってるかァ?」と、唐突にテッシャンが言った。おれらの顔を見回している。おれらは、反射的にというか、絶望の確認というか、一応だけど船長ってことになってるオオカミ先輩の顔を伺い見た。おれたちを代表して、「知らねーぇ!!」と言ってくれると、誰もが疑うことなくそう思っているような顔をしている。
 ……で、オオカミ先輩が、言った。
 「掃海艇でしょ?」
 「さすが、船長だなッ!」と、{渡哲|ワタテツ}サングラスを下にずらして、生の{眼|まなこ}でオオカミ先輩を覗き込むような所作をしながら、ジュシさんが言った。
 「大工{繋|つな}がりで、船大工の助っ人を探してみようじゃないかァ♪」と、タケゾウさん。実に、物分かりがいい。
 「事は、急を要する。だよねぇ? ……君たち。だったら、{長場|ちょうば}の大工さんも集めて、{手元|てもと}をやってもらったらどうかしらん」と、ファイさん。{鮫|サメ}{乙女子|おとめご}で男勝りの少女には慣れてるつもりだけど、大人の女の男勝りのほうは、知識も免疫もない。なんか、女っぽい! それが当然……なんだろうけんどもーォ!!
 「日当、どうすんのォ?」と、スピア。実に、現実的だ。
 「材料費もだな」と……その声は、背後から聞こえた。懐かしい、ワタテツ先輩の声だァ♪
 クーラーボックスに入っていたイサキを三枚におろし終わったモクヒャさんが、手を休めて言った。

 「わしらはなァ……。
 自分のための人生は、もう{逝|い}ってしまった過去のことなのさ。未来にも{在|あ}って欲しい人類のため……しかもそれが、未来の{子等|こら}のためとあらば、余って残ってしまった人生と、鼻くそばかりの財産を無償で{捧|ささ}げることなど、奇特でもなんでもない日常の{茶飯事|さはんじ}なのさ」

 (なんか……重いなッ!)と、思ったその矢先、マザメ先輩が、言った。
 「オッサン! まだ若いじゃん♪ (モグモグ……) でもそこは、『日常のチャバンジ』って言わなきゃ。だから、オッサンなんだよ」
 (確かに、間違ってはないけど、他に、言い方があんだろッ!)と、思ったおれだけど、それよりなにより、口の中にアンパンとオニギリを頬張っている魔性の鮫乙女子の顔がおかしくて、笑いを{堪|こら}えるだけで精一杯だった。
 モクヒャさんが、また手を動かしはいめた。刺身が食える日は、近い♪ 目の前に、間違いなくその現実が、映し出されている。モクヒャさんに代わって答えるかのように、タケゾウさんが、{応|こた}えて言った。
 「人間、五十を過ぎれば、もはや短命とは申さぬ。頭脳も肉体も、{既|すで}に心の思いどおりに動いてはくれん。わしらの{戦|いくさ}は、もう終わったんだ。戦が終わった以上、もはや、どの{民族|エスノ}にも属さぬ。すべては、もう過去だ。それが……悔いがない人生であれば、運命の結末……そう、天命さ。でもな。悔いを残せば……それは、ただの宿命。そいつに屈して{廃|すた}れてしまった{亡骸|なきがら}なのさ」
 「どの{戦|いくさ}ァ? いつあったのォ?」と、ツボネエ。口の中には、唐揚げ!
 {細長|さいちょう}型の顔を長四角にして、テッシャンが応えて言った。
 「ヒト属……というか、動物が生きるうえで、勝負は、必定なんだよ。それが、戦。その戦に勝つ方法は、一つしかない。判りますかァ? それは、敵よりも早く、結果を知ることです。今を生きるだけでは、勝負には勝てません。負けたら、終わりです。人生は、勝負です」
 (さすがに……誰も、声にならない)と、思ったそのとき、ムロー先輩が、言った。
 「洞察……。熟達した大人の方々に比すれば、俺たち子どもは、{場数|ばかず}がぜんぜん足りません。先達の教えを血肉にするには、もっと行動せねば……」
 この無難な{尤|もっと}もらしい語り口の中のどの言葉に反応したのか、テッシャンの細長顔に変化が表れた。眉根を上げ、一重の細い眼をカッと見開き、裾野の広い鼻の噴射口からは、{鏃|ヤジリ}をピロリピロリさせ、その吐息に{晒|さら}された唇は、乾いていた。そして……。
 ゲート、オープン! テッシャンが、言った。

 「その場数とやらと、{昼日中|ひるひなか}に{放|ひ}る{糞数|クソかず}と、何か違うところがあるとでも言いたいのかねぇ? 場数百回で修羅場一回と交換してもらえるんなら、まだクソよりはマシかもしれんがね。
 場数を何千何万と繰り返しても、そこから{得|う}るものは、何一つ無い。だが、修羅場や逆境は……そうだな。正に、グルタチオンとタウリンを得た人間だ。なんでも食って、己の{糧|かて}にしてしまう強肝人間だ。そういう{逞|たくま}しい肝臓を育んでくれる秘薬が、逆境なのさ。
 だが、そんな都合の{好|よ}い逆境や修羅場は、一度限りだ。そこですべてを知ることが出来なければ、その者の道は、一日一日、ただ糞を放るだけの人生となる。
 だから、今まさに君{等|ら}は、{危|あや}ういのだ」

 麦コーン酒の缶が、{体験乗船者|ビジター}たちの片手の{掌|てのひら}の中に納まり、プリプリした鮮魚の切り身が、{美童|ミワラ}たちの胃の中に納まった。クーラーボックスの中の{宝物|ほうもつ}を{捌|さば}き終えたモクヒャさんが、麦コーン酒の缶の栓を、人差し指で強く引き開けた。
 そして、言った。
 「十枚の的を射抜くためには、矢は最少で何本必要か……{判|わか}るかねッ?」
 スピアの野郎が、聞きなれた憎々しい声で、言った。
 「数字だ。
 (ここで、おれの目を見る)
 お前の出番だぞッ!」
 言われなくても、判っている。でも、答えが、{解|わか}らない! こうなったら、いつものように、投げ{遣|や}りに断言するしかない。
 「10本に決まってるじゃん♪ おれの出る幕じゃないよォ!」
 ……と言って、おれは、不満げな顔を、{装|よそお}った。
 「みんな、同じ答えかなァ? 他の答えを持っている{御仁|ごじん}は、{居|お}らんのかなァ?」と、モクヒャさん。
 すると、マザメの大先輩が、一発打ち上げた。
 「一本も{要|い}らないねぇ♪ そんな的なんて、何百枚あったって、ぜんぶブチ壊してやるだけさァ!」
 「さすがは、修羅場もどき姫♪ 当たってはおらんが、指一本{外|はず}しただけだ。答えは、一本。的を十枚重ねれば、一本の矢で{射|い}抜ける」と言って、缶に入った麦コーン酒をグビっと喉越しさせて、幸せそうな顔のモクヒャさん♪
 「紙の的だったんだねぇ♪ それを先に言ってよォ!」と、{蘊蓄|うんちく}少年王のスピア。
 すると、沈黙を恐れるように、{間|かん}、{髪|ぱつ}数本の短い{間|ま}を置いて、タケゾウさんが、言った。
 「失敗! 無念ぢゃ」
 見ると、真っ二つに割れるはずの割り{箸|ばし}が、割れずに、既に割れている先っぽの片方が、ポキッ!と折れてしまっている。口{籠|ごも}った仲間への助け船なのか……それとも、ただ単に、不器用なだけなのか……てか、(手先が器用な町屋の大工さんなんだよねぇ?)と、思ったおれ。
 「割り箸は、人数分しか{貰|もら}ってないからなーァ……いやはや」と、タケゾウさん。独り{言|ご}ちて{俯|うつむ}く。
 「オッサンの今日一日は、クソみたいな一日で終わりそうだねぇ♪」と、マザメ先輩。
 「グサッ! {斬|き}られたな」と、ワタテツ先輩。
 「射抜かれたんっしょ!」と、オオカミ先輩。
 「まだ一枚じゃん。十枚まで、あと残り九枚♪」と、おれ。
 「{生憎|あいにく}、奇数は嫌いでね」と、タケゾウさん。
 「じゃあ、もう一枚、射抜いてもらうしかないねぇ♪」と、ジュシさん。渡哲サングラスは、ズラして鼻の上に{載|の}せたままだ。
 「{厄日|やくび}ね♪」と、ファイねーさん。なんか、ビミョーに嬉しそう!

 大人の女性に興味があるのか、マザメ先輩が、口を休みなくモグモグさせながら、ファイねーさんの全身を横目でチラチラと見ている。一瞬、おれと目が合う。ばつが悪かったのか、急いで口の中を綺麗にして、矢庭に喋り出した。
 「オッチャンたちってさァ。なんか、無意味に面白いよねぇ♪ オッチャンじゃなかったら、友だちになれたのにね。まァ、元気出しなよッ! てか、そのムギコン種って、何種類あるのォ? あたいらは、種の下位の亜種だけどさァ。
 そうだァ♪ サギ! 景気づけに、なんか歌いなよ。
 そうだァ♪ あれがいいよ。ビートルズの『ブラックバード』。ポールの弾き語り、最高だよね。ギターは無いから、ズングリ式の木琴で拍子とってやっからさァ。ほら、さァ、早く歌いなァ!」
 突拍子もなさすぎて、{塞|ふさ}がった口が{開|あ}かない!
 「黒い鳥? {鴉|カラス}? トンビなら、友だちだけど……」と、スピア。
 「おまえの友だちは、ウミネコだろがァ!」と、オオカミ先輩。おれも、そう思う。
 「なんの話? あんたたち、鳥と友だちなのォ?」と、ファイねーさん。
 「鳥と話せるんなら、赤い{若鷲|わかわし}のことも、知ってるんですかァ?」と、目と顔を長ーくして、細長顔のテッシャンが、言った。
 (そっちのほうこそ、「なんの話ーぃ?!」だよ!)と、おれだけじゃなく、みんな同じことを思っているような顔で、ファイねーさんの日焼けしているけど{艶|つや}っぽい顔を、じっと見つめていた。
 マザメ先輩は、文句のつけようがない絶世の美女だけど、一切まったく、ぜーんぜん、女を感じない。{何故|なぜ}なんだろう……。 

【2】格物
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知命の極意

 目標、願望、夢……成功、達成、実現……と、そんな言葉をキーワードにしていろんな本を読んでいると、ぜんぶ同じことを書いていることに気づく。
 {積極思考|Possibility-Thinkinh}。
 この積極思考を使えば、誰にでも、奇跡を起こすことが出来る。
 宇宙開発に積極思考だったアメリカ……。「おれは、宇宙飛行士になるぞッ!」と言って、積極思考を持ち続けた少年がいた。彼は、海軍兵学校を首席で卒業し、宇宙飛行士となり……しかも、宇宙遊泳を{為|な}し{遂|と}げた。
 メジャーリーグの野球選手を夢見た少年が、ワールドシリーズに出場してチームは優勝した……なんて話は、珍しくもなんともないことらしい。
 大事なことは、「成功したい!」「絶対に達成してやる!」「必ず実現する!」……と、固く決心してから突き進むことなんだそうだ。

 正に、信念と熱意の持続……。
 おれたち{美童|ミワラ}に置き換えてみれば、これが、知命の真意というか、極意なのかもしれない。
 「知命……」と聞くと、グサッ!とくる先輩が{居|い}るので、サクッとこのへんで{止|や}めておく♪

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然修録 第1集 No.137

#### ムローの{然修録|137}【1】座学「擦過する師友」【2】息恒循〈一循の{候|こう}〉少年/少女学年候補学童 ###

 {会得|えとく}、その努力に{憾|うら}みなかりしか。
 学人学年 **ムロー** 青循令{猫刄|みょうじん}
     
【1】座学
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擦過する師友

 よき師友が、目まぐるしく擦過してゆく。
 (敵ではないか……)という不安に阻害された貴い師友たちが、永遠に逢えぬまま、地の果てに去ってゆく。
 我ら八人が育ち学んだ半島の港町、スピアたちが降り立ったヒノーモロー島、オオカミが一人降り立ったザペングール島、彼らが旅をしたコオ島……その地、その先々で出遭った素晴らしい人びとが、本当に貴い師友だということを、みながもっと早くに気づいていれば、もっと違う道が{拓|ひら}け、もっと{真面|まとも}な働きをすることが出来ていたに違いない。
 俺は、今、本当に、そう思っている。なので、今更だけんども、改めて、その師友がなんたるかを、書の中の先人偉人に求めてみた。

 青少年の男女にとって、大切な心構えは、いくつもあると思う。その一つが、「人生の物事を、{浅薄|せんぱく}軽率に決めつけたり、割り切って無理に一つの答えを出そうとしてはいけない」ということらしい。
 人生とは、非情に複雑な因果関係で編み込まれている網のようなもので、しかもそれは、変化極まりない。人間{如|ごと}きが、これを軽々しく独断するなど、正しくとんでもない{愚昧|ぐまい}であり、それ{故|ゆえ}に、危ういという{訳|わけ}だ。
 これを論理学では、「{原因の複雑と、結果の
交錯|Plurality of causes and mixture of effects}」と言うそうだ。{則|すなわ}ち、実在するものの中から、著しい特徴を持つものを取り出し、それを{某|なにがし}かのものに結びつけ、「これが原因で、こっちが結果だ!」というふうに、決めつけてしまうということだ。
 例えば、胃が痛むとき、その原因は無数にあり、その無数の原因の結果は、胃痛だけに留まらず、無数にある。ただ、気づいていないだけという訳だ。なので、「昨夜、酒を飲み過ぎた。だから今日は、胃が痛い」と、あたかも原因が一つであるかのように、またあたかも、その結果が一つであるかのように決めつけるという習慣は、闇雲から闇雲へと、どんどん視界を狭めてゆくことに他ならないのだ。
 単純に因果の対を決めつけてゆく過程で、多くの因果が{棄|す}てられてゆく。その棄てられた因果の中に、意外にも重大な論理が潜んでいたかもしれない。実際問題、因果関係というものは、元来複雑なもので、何がどういう縁で(=因)、どういう結果を生み(=果)、どう自分に(=応)跳ね返って来るか(=報)ということは、測り難いことなのである。

 法華経に、十{如是|にょぜ}というものがある。
 如是相、如是性、如是体、如是力、如是作、如是因、如是縁、如是果、如是報、如是{本末究竟等|ほんまつくぎょうとう}。
 これは、因果の循環関係を示している。

 俺たちが直接経験するそのままの世界、その事象のことを、「相」と言う。言わずもがな、これは、定まるところがなく、変化極まりない。そのことを、「無相」と言う。仏教の道は、前者の{現|うつつ}の相を打破し、後者の無相に覚醒することを求めている。
 この相の中には、相が映す事象に到らしめるように働く何者かが存在している。これを、「性」という。その性の源にあるものが「体」で、その体には、「力」がある。この働きの様々な作用のことを「作」と言い、また同時に、この「作」は、様々な事象の「因」ともなっている。この「因」が、不思議な縁(=触れ合い)によって、様々な「果」を生じさせる。縁から起こるから、これを「{縁起|えんぎ}」と言う。

 結果は、更に某かの原因となり、それに挑むことにより、何らかの応えがある。それを「報」と言うから、「応報」と相成る。すべては異なっているが、また同時に、それらすべては、みな同一である。
 {トインビー|Amold Joseph Toynbee}(一八八九~一九七五)というイギリスの歴史哲学者が、このことを説いている。歴史上の文明圏の発生、発展、衰退、滅亡までの事象を詳細に調べ、そこに一貫している法則性を、明らかにしたのだそうだ。
 だから、自分の仕事にまったく関係ないような勉強も、不思議とどこかで繋がっているし、自分が居る業界とはまったく関係のない職業の人たちも、不思議とどこかで繋がっている。人の世の出来事というものは、何が幸いであり、何が{禍|わざわい}となるかは、容易には判らぬものなのだ。

 「{人間|じんかん}万事{塞翁|さいおう}が馬」という{諺|ことわざ}がある。
 中国の古代百科書『{准南子|えなんじ}』の中にある言葉だそうだ。「北辺の要塞の辺境に住む老人の馬が逃げ、やがては、戻って来る。それを何度も繰り返す度に、戻って来たときの老人の禍福が、変転していた」という話だ。
 「勝縁」という言葉もある。
 平生より、およそ善い物、善い人、真理、善い教え、善い書物、なんでも{兎|と}に{角|かく}善いものや{勝|すぐ}れているものには、出来るだけ縁を結んでおいたほうがよいという意味だ。せっかく善いものを見たり善いことを聞いたり善い人に出逢ったりしながら、{他人事|ひとごと}のようにキョトンとしたり、そっぽを向いてしまうような人間は、ダメだ!……と、いう訳だ。
 そういうダメ人間のことを、「うつけ者」と言う。
 そういう、{所謂|いわゆる}「悪しき師友」という者と、{如何|いか}なる理由があれ、事を共にしてはならない。常に耳を傾け、眼を光らせ、魂を輝かせているような人間こそが「見どころがある人間」であり、そういう人間を、師友に持たなければならないのである。

 これには、いろんな{逸話|いつわ}が、残っている。

 先ず一つ目……。
 {山科|やましな}に閑居していたころの{大石内蔵助|おおいしくらのすけ}は、よく伊藤{仁斎|じんさい}のところへ出かけて聴講をするのだったが、これがどうしたことか、よく居眠りをする。それが、同席の聴講生たちの{癇|かん}に{障|さわ}ってしまった。そこで、その聴講生たちからの苦言を耳にするに到った伊藤先生は、{斯|こ}う言ったという。
 「いや、気にかけなさるな。眠ってはおるが、あの人は、出来ておる」
 伊藤仁斎(一六二七~一七〇五)は、江戸前期の儒学者。京都出身。朱子学を修めたのち、古学を教える。門弟の数は、三千を超えたという。
 大石内蔵助(一六五九~一七〇三)は、播州赤穂藩家老。元禄十五年、主君浅野{長矩|ながのり}の{仇討|あだう}ちのため、浪士四十六人を率いて{吉良上野介|きらこうずのすけ}の{邸|やしき}に討ち入った。

 次に二つ目……。
 佐藤一斉の塾で、就寝時間が来ると決まって二人の若者が、大声で猛烈な議論をおっぱじめる。塾生たちが、それを一斉先生に訴え出ると……。
 「それは誰だね」と、一斉先生。
 「佐久間({象山|しょうざん})と山田(方谷)です」と、塾生。
 「そうか!」と、一斉先生。
 ……{暫|しば}し、沈黙。
 「うん。あの二人なら、やらせておけ! がまんせい!」と、一斉先生は、逆に塾生たちのほうを{嗜|たしな}めたという。
 佐久間象山(一八一一~六四)は、幕末期の思想家であり、兵学者でもあった。砲術や兵学を、吉田松陰勝海舟らに教えた人物でもある。松陰の米国密航計画に連座した罪で下獄。開国論や公武合体論を唱えた結果、{攘夷|じょうい}派に暗殺される。

 この{曲者|くせもの}にして偉人たる者たちは例外としても、要は万人、世間知らずの専門バカ!にならぬよう、{虚心坦懐|きょしんたんかい}で、様々な境遇の下で様々な営みをしている人々から、また、洋の東に留まらず、西洋の様々な学問や歴史習慣に到るまで、分け隔てなく学ばなければならないという訳である。
 これらの学びの要求が、己の内面にある誠実なものに因ってである限り、その学問の多面性は、どの面も輝かしいものとなる。「そうならぬ筈はない!」と、言い切れようものである。

【2】息恒循
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〈一循の候〉少年/少女学年候補学童

 《生涯》{則|すなわ}ち{天命|てんめい}の〈前期〉である{立命期|りつめいき}の〈一の循〉を、{幼循令|ようじゅんれい}と言う。幼循令は、立命期の前半でもあり、零歳から六歳までの七年間を指す。
 その幼循令の後半、四歳から六歳までの三年間を、少年/少女学年候補学童と称す。寺学舎就学前の{美童|ミワラ}各自に与えられた自修の努めの仕上げ期であり、継続して日々〈敬〉と〈恥〉を希求するものなり。

 「子供は、幼稚である。まだ何も内容のない、ただ未熟なだけの人間である」と錯覚したことは、大人たちの不明に他ならない。真実は、その真逆である。子供は、豊富な内容と能力を、持っている。しかもそれは、無限であり、それは正に、宝蔵である。宝蔵とは、宝物や経典を{蔵|しま}う蔵のことであるから、子供の頭の中にある実際の内容は、輝かしい宝物や、有難い経典……それが、ギッシリと詰まっているという{訳|わけ}である。
 また子供は、夢を持っている。その夢が大きければ大きいほど、無限性が大きく広がっていることを意味する。{則|すなわ}ち、子供はみな、なんにでもなれる可能性を持っているということだ。
 しかも子供には、先入観や卑屈な劣等感もない。立派な政治家を見れば、自分も大きくなったら、あんな立派な大臣になるぞ!と大真面目に思い、勇ましく優れた将軍を見ればその将軍に、{勝|すぐ}れた演技をする俳優を見ればその俳優に、ズバ抜けた活躍をするプロ野球の選手を見ればそのプロ野球の選手に、美声でうっとりする歌手の歌声を聴けばその歌手になりたがる。
 これは、子供の{融通|ゆうずう}心理ともいうもので、感激すると、なんにでもなりたがる。また、なろうとして、大真面目に努力する。だから、なんにでもなれる素質を、大事に育んでゆけるのだ。それが、「生まれ持った美質」というものなのである。

 ところが、その大事な時期に、「学校」という、大人に非常に都合がよい組織に、投げ{棄|す}てられてしまう。大人たちから、ありとあらゆるものを限定され、否定されてゆく。
 正に、地獄だ! 
 次に、その学校を出ると、大人たちが、ご丁寧に道を用意してくれている。実業界、官界、教育界、工業に農林水産業……選択肢は、精々そんなところだ。
 次に、その道を歩み出すと、更なる地獄が待ち受けている。何省、何局、何部、何課、何係、何担当……と、なんと悲しい道であろうか。

 その道は、宇宙に繋がり、そこを歩む人間は、その宇宙と一体である{筈|はず}ではなかったのか。宇宙と一体であれば、{如何|いか}なる限定も、如何なる否定も、受けることはない。正に人間は、無限なのである。だからこそ、浮世の{猥雑|わいざつ}な仕事も、世のため人のために活かす工夫が、出来るのだ。それが、「真の学問」というものなのではなかろうか。それを、「修養」と言うのではなかろうか。
 であるからにして、真面目な話、子供というものは、本当に、無限の可能性を持った、「美質」と言わざるを得ない、何か素晴らしいものを、持っている。そこには、宗教的なもの、藝術的なもの、音楽的なものなど、あらゆる性質や性能を、含み持っている。子供はまだ、自然の一部であり、自然の一部であるから宇宙と一体なのであり、それ{故|ゆえ}に、可能性のあるものすべてを具現する能力を、持っているのである。

 だが……言わずもがな、その具現は、様々な可能性の一部に{止|とど}まる。{然|しか}し、具現しなかった可能性は、学問や日々の努力によって、ほかの様々な可能性の、{肥|こ}やしと相成る。それが、「子供」というものなのだ。
 だから子供……特に、少年少女期の助走段階である幼年期は、非常に重要で、極めて大事で、本当に、大切にしなければならないのである。

(Ver.2,Rev.0)

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後裔記 第1集 No.140

#### スピアの{後裔記|140}【1】実学「遊覧船ズングリ丸」【2】格物「好ましい人間の徳性」 ####

 体得、その言行に恥ずるなかりしか。
 少年学年 **スピア** 齢10

【1】実学
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遊覧船ズングリ丸

 ぼくらが一番驚いたのは、{鵞鳥|ガチョウ}が、ぼくら{民族|エスノ}の密偵だってことを敵のエスノに気付かれてしまったことでも、その密偵が捕らえられてしまったことでも、鵞鳥の頭に電脳チップが埋め込まれていたことでもなかった。
 ブッチギリで驚いたのは、ワタテツ先輩が、まだ麻酔薬の微粒子が漂う{艫|とも}の{間|ま}の中で一人、ガースカ♪ デスデス! と、爆睡していたことだった。
 まさかそんなことになっていようとは、「予想すること」すら思いつかなかった。というのも、ムロー先輩が目覚めるのを待って……なんて悠長な暇も貰えず、再び、ズングリ丸に舞い戻って来た……というか、連れてこられたのだった。
 無論、今ぼくがこうやって生きてその{経緯|いきさつ}について物語っているということは、ぼくらを連れ出したのは、{武童|タケラ}の{仕業|しわざ}に違いない。

 それは……{兎|と}も{角|かく}。
 {何故|なぜ}なら、{未|いま}だに何が何やら皆目見当がつかず、頭の中がどんぐりひっちんかやしとる……{所謂|いわゆる}、ややこしいままだからだ。そこへきて、ぼくらが押し込まれた{胴|どう}の間の上の作業甲板では、ピーチク♪ ゲホゲホ! と、賑やかしているオッチャン(たぶん)たち……その声から想像するに、その数五人!
 ほどなくズングリ丸は、遊覧船を化してしまったのだった。作業甲板は、差し詰め展望デッキかッ! ……(やれやれ)。

 その、一人目……。

 オッチャン観光客というものは、オバチャン観光客に負けじと劣らず、図々しいものらしい。一人が、胴の間の{上蓋|ハッチ}をはぐり、上から覗き込むように……というか、どっぷり覗き込んで、{斯|こ}う言った。
 「ぼくらは作業着だし、坊やたちも似たようなもんだから気にならないだろうけど、おじょうちゃんたちは、何か敷いたほうがいいなーァ♪」
 中年で、その顔は、{細長型|さいちょうがた}だ。
 「ありがとォ♪ でも、今更……だって、これだもん!」と言って、ツボネエが、クルッ!っと身体を回転させて、真っ黒に汚れたお尻を突き出した。

 次に、二人目……。

 「なるほどねぇ!」と、細長型の顔の横から頭を突っ込んできてそう言ったオッサンは、声は確かにオッサンチックだったけど、その顔は、よく日焼けした青年だった。

 次に、その三人目……。

 続いてまた、他の一人が、頭を突っ込んできて言った。
 「上がっておいでよ、みんなァ♪ ヨットレースのマーク打ちを手伝ってくれてる漁師さんから、イサキとメジナをもらったんだ。刺身、ご馳走するから。ほれ、これだッ! その代わり、おじさんたちは、麦コーン酒を飲んでもいいかなーァ。それは、こっちだァ♪」
 そのオッチャンは、そう言いながら、すぐ{傍|かたわ}らに置いてあるマリンブルーのクーラーボックスからそれらを掴みだして見せてくれた。見るからにオッサンだけど、ちょっと童顔で、笑顔が爽やかだった。

 続いて、四人目……。

 すると、そのオッチャンが持っている麦コーン酒を奪い取って、また別の男が、首を突っ込んできて言った。
 「一緒に、麦コーン酒、飲めばいいさァ♪ 子どもが麦コーン酒の一本や二本飲んでシュワッチ!したって、この星の未来は、変わんねぇてーぇ!!」
 悪気のまったく感じられないその気さくな青年は、黒いキャップを深く被り、{渡哲|ワタテツ}サングラスをかけた、よく見るとポロシャツの胸のところがパッツンパッツンで弾けたように左右に開いていて、見事に{艶|あで}に咲く青年だった。
 そこで、飢えた魔性の{鮫|サメ}{乙女子|おとめご}様が、言った。
 「ねーさんの提言、あたいは、承知したから。だから、早く朝昼晩メシにしようよォ♪」
 (ねーさん?) とんでもない勘違いをしていたぼくだけど、ほかの連中も、女だって見抜けなかったんじゃないかなァ? だってみんな、マザメ先輩の「ねーさん」の一言に、異様に反応してたもん!
 それにしても、まったく魔性というものは、穏やかなときのほうが、その恐ろしさが増幅されてしまうもののようだ。事実、そのときのマザメ先輩の目は、白熱の演技の真っ最中の千葉チャンになっていた。「千葉チャン」というのは、{武童|タケラ}の先達がまだ{美童|ミワラ}だったころに活躍していた、有名な俳優さんの愛称だ。

 そして、五人目……。

 最初に、「許可は、もらっとるんじゃがなァ。乗せてもらっても、ええかいのォ?」と、岸壁から声をかけてきたオッチャン。

 時令は{還夏|かんか}……六月。
 その六月も、中旬が近い。ぼくらムロー学級総員八名、現在員七名は、意外にも近くに居た残りの一名の合流を望むでも待つでもなく、初対面の得体のまったく知れない気さくなオッチャンやおにいさんやおねーさんと、大いに心を許し合うことと相成った。
 その成果の第一番は、なんと言っても、なぜ麦コーン酒じゃなきゃダメなのか……しかも、なぜその麦コーン酒は、クーラーボックスの中に納まっていなければならなかったのかを、身をもって痛感できたことだった。
 では、成果の二番目は? 成果と呼べるものかどうかは判らないけれど、{弾|はず}んだ会話の中で、事態は急展開して、そのまま、決着してしまったことだろう。

 白いレジぶくろを両手にぶら下げて乗り込んで来た初老のオッチャンが、言った。
 「よくぞ、まァ……」
 このオッチャンは、タケゾウと呼ばれていた。竹で組んだ筏で、{牡蠣|カキ}を養殖しているからだそうだ。

 次に、クーラーボックスを担いで乗り込んで来た初老のオッチャンが、言った。
 「まったく……」
 このオッチャンは、モクヒャと呼ばれていた。木の丸太で組んだ筏で、{河豚|フグ}を養殖しているからだそうだ。

 次に、細長型の顔の中年のオッチャンが、言った。
 「この船、{家船|えぶね}なんだよねぇ? トイレとお風呂は、どうしてたのォ?」
 このオッチャンは、テッシャンと呼ばれていた。鉄製の単管パイプで組まれた筏で、{鰤|ブリ}を養殖しているからだそうだ。

 次に、よく日焼けした青年が、言った。
 「本当に、石炭で走ってたのかァ? てか、石炭って、どこで売ってんだァ?」
 このおにいさんは、ジュシと呼ばれていた。樹脂パイプで組まれた筏で、{鮃|ヒラメ}を養殖しているからだそうだ。

 最後に、{渡哲|ワタテツ}サングラスをかけた若いおねーさんが、言った。
 「ホームセンターで売ってんじゃん♪ てかコイツ、日焼けサロンで日焼けしたみたいに、真っ黒クロスケだろォ?」
 このおねーさんは、ファイと呼ばれていた。{ファイバーグラス・レインフォースメント・プラスチック|FRP}製の生け{簀|す}で、{鯛|タイ}を養殖しているからだそうだ。他の四人の筏は海上にあるけど、このおねーさんの生け簀だけは、海岸のビニールハウスの中にあるんだそうだ。

 こういう場合、ぼくの親切心は、五感にも属さない{猥雑|わいざつ}な声帯という器官と密接に交わり、{戦略的協働|コラボレーション}を開始してしまう。ぼくの親切心が、声帯を響かせた。
 「それって、石炭じゃなくって、木炭っしょ!」
 「君は、正しい。実に、勇気ある発言だッ!」と、ジュシ。そう言うなり、そのまま目を伏せてしまった。
 「ホームセンターにも売ってないんじゃさァ……。何か月分もの石炭を筏に積んで、{曳航|えいこう}して旅をしなきゃならんっちゅうこったなァ♪」と、タケゾウ。
 「まァ、そうしてきましたけどォ……。筏じゃなくて、フロートに網を吊るして繋いでたんですけどォ……。その網の中に、石炭の入った麻袋が、いくつも入ってたって{訳|わけ}でぇ……」と、船長オオカミ。
 「おまえさんたち、この先も、旅を続けるつもりなのかい?」と、モクヒャ。
 「まァ、そのつもりですがァ……」と、ムロー先輩。無愛想に、ボソッと。
 「そんな航法で、長旅なんかできるもんかねぇ。{汽帆走艇|ヨット}に改造しなさいなァ♪」と、テッシャン。
 「また、改造かよォ!」と、サギッチ。
 「なんだァ。実績があるんじゃん! じゃあ、決まりだなァ♪」と、ジュシ。
 「そんな、簡単に決められるような話なのーォ?!」と、ヨッコ先輩。
 「ねぇ、ねぇ。ヨットって、なにぃ? ヨッコ先輩みたいな船のことォ?」と、ツボネエ。
 「どんなんやァ!」と、オオカミ先輩。
 すると、物静かに獲物を狙っている猫のように、頭を横にコクンと{傾|かし}げながら、マザメ先輩が、言った。
 「ねぇ! その白い薄い袋、もらってもいい? その袋、なんて言うのォ?」
 「いいともさ。よく見るだろォ? ……この袋。これは、使い切りのグロサリーバッグさ。まァ、レジで売っとるから、レジ{袋|たい}って呼ばれとるんじゃがな」と、タケゾウ。
 「じゃあさァ。ホームセンターって、何を売ってるのォ?」と、サギッチ。
 「おいおい! 随分と小さい町から船を漕ぎ出してきたんじゃなァ。おまえさんたちゃーァ♪」と、モクヒャ。
 「まァ、でっかい雑貨屋ってところですかねぇ」と、テッシャン。
 「てかさァ。誰が改造するのォ?」と、ぼく。
 「時間はあるが、金はない……デスデス」と、ムロー先輩。
 「ガキンチョどもは、案ずるより大志を抱け!ってことさァ」と、ファイ。
 「どういうことォ?」と、ツボネエ。
 「俺ら五人は、元は、町屋の大工なんだ」と、ジュシ。
 「それで、へんてこ五人組になってるって訳ねぇ?」と、マザメ先輩。
 「あんた、遠慮がない女だねぇ!」と、ファイ。
 「舟を改造するんだから、船大工じゃないと出来ないんじゃないのォ?」と、サギッチ。
 「無論! 鋭い! そこが、すっとこどっこいなのさァ♪ この船は、船は船でも、家船だろッ? 船なら船大工だけど、家なんだから、町屋の大工で正解なのさァ♪」と、モクヒャ。
 「見ての通り、このオンボロ……元い。ズングリ丸には、{厠|かわや}も風呂もない。改造している間、あたいは、森に{居|い}るから」と、マザメ先輩。
 「またかい! 好きだなァ、森」と、オオカミ。

 そのときだった。どこからともなく、聞き覚えのある声が流れてきた。
 「俺は、ここに残って、改造を手伝う!」と、ワタテツ先輩。
 その声は、ズングリ丸の後方、胴の間の{上蓋|ハッチ}辺りから聞こえてきた。
 「やっと、八人全員、揃ったみたいだなッ! 俺も、改造を手伝おう♪」と、ムロー先輩。
 「じゃあ、こうしよう。年長の三人は、この船に残って、おれらの助手を務めてもらう。残りの五人は、おれら五人のそれぞれの家に、一人ずつ預かる。そうすれば、便所の心配も、風呂の心配も、要らんだろう♪」と、タケゾウさんが言った。

 そんな訳で、そういうことになり、「事態は、急展開の急決着と相成ったとさーァ♪」の巻……以上。  

【2】格物
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好ましい人間の徳性

 我が国、{日|ひ}の{本|もと}は、急速にだらしなく行き詰まってしまった。{聖驕頽砕|せいきょうたいさい}での大敗で{懲|こ}りたはずなのに、戦後、意外と早く復興してしまったから、またもや{驕|おご}ってしまって、小利口者や小才子、小悪党や小ずるい輩が、全国各地で闊歩するような世の中になってしまった。
 突然現れた五人組に想う。
 みんな、なんとも好ましい人たちだった。不思議と、無警戒に信用したくなってしまう。何故だろう……。
 オッチャンたち三人も、おにいさんも、おねーさんも、五人ともみんな、どこかおっとりして見えるのに、思慮深く、情があり、真面目で、頼もしい。きっと勤勉なのだろうことも、{容易|たやす}く想像できる。だからこそ、なんの疑念にも{遮|さえぎ}られることなく、手放しで信用することができるのだろう。
 これからぼくたちは、心を入れ替えて、その心の修行をして、生活を正し、知命を目指して、正しい道を歩まなくてはならない。

 そんな時代が、また、巡ってきたのだ。
 再び、大動乱へと突き進む時代が……。 

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然修録 第1集 No.136

#### マザメの{然修録|136}【1】座学「{武童|タケラ}の直観」【2】息恒循〈一循の{猶|ゆう}〉少年/少女候補予定者 ####

 {会得|えとく}、その努力に{憾|うら}みなかりしか。
 学徒学年 **マザメ** 少循令{悪狼|あくろう}
     
【1】座学
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武童の直観

 人類必定の宿命……百年ごとの大動乱。
 次の大動乱が終息するのは……皇紀二七〇五年。
 あと……二十三年。
 あたいは……{格循令|かくじゅんれい}{飛龍|ひりゅう}?
 {則|すなわ}ち……齢三十五。

 {武童|タケラ}たちは、{斯|こ}う言う。

 「もう、止められない。
 来たる亜種動乱は、その前哨戦に過ぎない。
 その百年後の文然の乱で、ヒト種は崩壊する。
 更にその百年後の亜族の変で、この世とあの世の様々な種が争う。
 ヒト種は、数ある種の中で、一介の種に過ぎん。
 しかも我らは、その一介の枝葉に過ぎん。
 その一介の枝葉が、二百二十三年後に、如何にして後裔を残すか。
 答えは、一つ。
 敵にしてはならぬ妖怪を、知れ。
 もう、あと、二百年しかない。
 高々数十年後の結果など、最早{計|はか}る価値無し。
 {何故|なぜ}なら、既に百年以上も前に、決まってしまっているからだ」

 高い知能を持って人間を驚かせた動物たちについて、読書してみた。

 古代エジプトの神々の時代の動物たちに馴染みのないあたいら{日|ひ}の{本|もと}の国の{子等|こら}でも、ウォールト・ディズニーの漫画映画に出てくる愛らしくて勇ましくてとっても個性的な動物たちには、馴れ親しんでいる……大概の場合だけれど。
 それが、世界中のどこであれ、悠久の歴史の中のいつであれ、人間は、動物や妖怪たちと、神話や民話をはじめとした様々な伝説のなかで、密接にして強烈……しかも複雑な関係を、築いてきた。
 何故、複雑なのか?

 動物や妖怪たちが、各々名札を付けている{訳|わけ}でもなく、各々に共通している性格によって大まかに分類できている訳でもないからだ。例えば、ギリシャ神話やヨーロッパ民話では、狼は、魔性の存在として描かれている。ところが、北米のインディアンの神話だと、この地球上全世界の慈悲深き創造主ということになっている。
 実は、この魔性と慈悲深さは、一つの個体の中に、共存している。その両極端な二枚の面が、交わることなく平行するとき、それらの動物や妖怪のことを、「いたずら者」と呼ぶ。これを人間に{譬|たと}えるなら、抑圧されていない、*本能的な子供っぽい性格*ということになる。
 もし抑圧されていたならば、夢の中で、目覚めているときに守らなければならないと決めつけられていることをすべて無視して、自分の欲求を満たしているものなのだ。それは、アメリカやアフリカの黒人民話に出てくる『{兎兄さん|ブレア・ラビット}』に、{上手|うま}く譬えられているそうだ。肉体的な欲求が生じれば、その手段や方法は、「道徳性など、お構いなし!」ってことだ。

 いたずら者の動物……例えば、ワーナー・ブラザーズの漫画映画に出てくる悪魔的なのに見事におどけた{悪戯|いたずら}を{魅|み}せて観客を笑わせるバックス・バニーがそうだ。それら漫画映画の主人公の動物たちにしても、{魔神|デモン}にしても、動物神や動物霊にしても、神話や物語に出てくる動物たちにしても、共通して言えることが、一つある。
 ……その動物たちがみな、人間的性格を、見事に正確に再現しているということだ。
 彼ら彼女たちは、皆、よく{喋|しゃべ}る。人間を愛し、恋をし、憎み、完全犯罪に挑む。実に、人間臭い。人間が創り出したものなのだから、人間臭くて当然だ。人間が、{魂|アニマ}を注ぎ込んだのだ。人間との違いは、肉体の形や大きさだけで、性格や思考は、人間と何一つ変わらない。それは、動物だけに限ったことではない。植物や、生きものとは言えない石でさえも、魂を持って、巧みに喋る。
 それらの喋るはずもない者や無機質な*モノ*たちは、大概の場合、妖精や天使や神々の化身であったりする。それだけ人間は、狩猟や農耕を通じて、動物たちと重なり合い覆い被さるようにして、密接な関係を築いてきたのだ。妖怪も、妖精も、天使も、悪魔も、人間とそれそこ相応に関り、交わり合うなかで互いに{某|なにがし}かの変化が起こったからこそ、あたいらの世の中に予告なく飛び出してきたのだ。

 その妖怪と、あたいらは、本当に、戦うことになるのだろうか。だとしたら、なるほど確かに、「敵を、それが敵となる前に、よく知れ!」だ。何が起こっても不思議ではない世の中が、始まろうとしている。それだけは、確かだ。

 悲しいかな……。 

【2】息恒循
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〈一循の猶〉少年/少女候補予定者

 《生涯》{則|すなわ}ち{天命|てんめい}の〈前期〉である{立命期|りつめいき}の〈一の循〉を、{幼循令|ようじゅんれい}と言う。幼循令は、立命期の前半でもあり、零歳から六歳までの七年間を指す。
 その幼循令の前半、零歳から三歳までの四年間を、少年/少女学年の*候補の予定者*と称す。寺学舎就学前の{美童|ミワラ}各自に与えられた自修の努めであり、日々〈敬〉と〈恥〉を希求するものなり。

 天地人間が創造されて、{此処|ここ}……この世に万物が現れる。そのそれぞれを区別するために、〈名〉というものが付けられる。これを、命名と言う。それが、人間の子供である場合、その名に、人の道として{斯|か}くあるべき{某|なにがし}かの絶対的な意味を持たせる。それが、命名である。
 命名されたその子供は、自分の名前の真の意味を知らなければならない。例えば、『書経』から言葉を取って命名して{貰|もら}ったのであれば、その書経に載っている元の文言の意味を、知らねばならぬ。
 例えば、次の様な文言から取って、命名して貰ったものとしよう。

 「人心{惟|こ}れ危うく、道心惟れ微なり。惟れ精惟れ一、{允|まこと}に{厥|そ}の中を執れ」

 先ずは、この文言の意味を知ること……。

 「欲にくらみがちな人心に従うことは危うい。道義の心は、その欲心のために覆い隠されがちなので、{微|かす}かにして、見{難|がた}い。{因|よ}って、人心が危うき事態に{陥|おちい}らないように、道心を明らかにするため、常に専心して事に当たらねばならない。人として、詳しくこの事を察し、専一にして雑念を去り、天から授かった{中庸|ちゅうよう}の道を歩むことに努めなければなたない」

 次に、この文言の中から、〈精〉と〈一〉を取って命名して貰ったものだとすれば、その二語の意味を、知らねばならぬ。
 精は、{鈍化する|purify}こと。一は、{単純化する|simplify}こと。則ち、いろいろな{矛盾|むじゅん}や相対、様々な{相剋|そうこく}や{対峙|たいじ}を排除し、まったく新たなるものを創造してゆくこと。精と一、どちらが欠けても、人として歩むべき道の意味とはならないのである。

 人間を始めるにあたり、先ずは、その人間の意義を求めなければならない。その解答は、「敬する心を持つこと」である。人は、低い位置に留まらず、限りなく高く大きい{尊|とうと}いものを求め続けなければならない。そこに生じる情動が、〈敬の心〉である。
 この敬の心が発育すれば、心が低い位置に{居|い}る己の現実を、素直に{顧|かえり}みることが出来る。するとそこで、(恥ずかしい……)という想いが心に湧き起こってくるというものだ。
 フィヒテの児童教育に{於|お}ける名言……。
 「子供は家にあって愛だけで育つと思ったら大間違いで、愛と同様に敬を求める。従って、愛の対象を母に、敬の対象を父に求めているものである」

 幼循令の前半……零歳から三歳までの四年間、これに努め、敬する心を発達させ、それによってのみ、貴重な〈恥〉を知ることが出来るのだ。

(Ver.2,Rev.0)

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後裔記 第1集 No.139

#### ワタテツの{後裔記|139}【1】実学「鳥よ!友よ!」【2】格物「妖怪の予感」 ####

 体得、その言行に恥ずるなかりしか。
 門人学年 **ワタテツ** 齢16

【1】実学
■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■
鳥よ!友よ!

 **空飛ぶ{同胞|はらから}**

 暫く後裔記を書かなかったことに対して、既に皆が、俺の浅知恵を適当に憶測して完結させてくれているだろうから、恐らくその通りであろう実際の委細については、省く。
 ただ、一つ。
 海辺に出さえすれば、MPG……マリン・パーマネント・ジェネレーションが、使える。海の上しか走らない電波……漂海民専用の、無線付加価値通信網だ。品物に{譬|たと}えるなら、「正に年代物!」と言わざるを得ない代物だが、これがなかなか、燕に迫るよくできた通信システムなのだ。

 唐突だが、思い立ったので、本題に入る。
 スピア君!
 なんで、ハヤブサやトンビやウミネコやカモメとは、*どーぉでもいいこと*まで会話するのに、なんで、肝心の我らが自然エスノ{襲偵|しゅうてい}班の正規メンバー……{鵞鳥|ガチョーォ!!}と、会話しようとしなかったのだァ!
 そりゃあ……まァまァ、言わずもがな、訊かずとも、判る。
 電脳チップを頭に打ち込まれて、羽根は変色して黒ずみ、タケラやミワラに関するすべての{心象|イメージ}記憶が、封印{或|ある}いは抹消されてしまったのだろう。
 (タケラの先輩たちが、一体全体何年かかって、地道に*アイツ*らと信頼関係を築いていったか……)と、{何気|なにげ}にそんなことが頭に浮かんで、その{経緯|いきさつ}を聞かされたことがあるだけに、マジ!で、じんわりジリジリと腹が立ってきてしまう。
 ズングリ丸は見捨てても、卵の中の胎児のころから大事に大事に育ててきた優秀な鵞鳥襲偵員を、見殺しになどできるはずがない。問題の電脳チップは、露出し簡易型とはいえ、脳神経に繋げられてしまっている。無闇には、引き抜けない。
 (電脳チップに、起爆装置が埋め込まれていたら……)と、その程度のことは、先輩タケラたちは百も承知だろう。でも、迷うことなく、身も心もボロボロの鵞鳥は、電脳チップを埋め込まれたまま、廃船寸前にまで痛めつけられたズングリ丸から運び出され、タケラたちの手によってどこかへ緊急搬送されていった。

 ……で、俺。
 身代わりと言うのか、人質というのか、留守番というのか、兎にも角にも、どうにもこうにも、{傾|かし}ぎっ放しで自力で復元すらできなくなってしまったズングリ丸に、俺一人、居残ることになってしまった。(定かではないが、俺の余計な一言で、こういう展開になってしまったのではないか)という憶測が、無意識に、俺の脳裏に浮かび上がってくる……と、いうような往生際の悪い表現は、直ちに撤回する。
 ズングリ丸の{艫|とも}間を最後に出た(というか、正確には、引っ張り上げられたらしい)ムローさんが、{未|いま}だに、目覚めていない……ってことはだァ! 鵞鳥の電脳チップから噴き出した煙は……やはり、睡眠薬だったのだ。道理で……眠いーぃ♪
 {武童|タケラ}が{美童|ミワラ}を、わざわざ危険なところに置き去りにするなんてことは……今までの展開から推し{量|はか}ると……充分に、有り得る! 言われるがまま、{為|な}すがまま、ここに留まってもいいのだろうか。「表が生、裏が死!」みたいな賭けの決断に、迫られている。
 だが、今確実に言えることは、{唯|ただ}一つ。
 寝ないと、きっと死ぬ。
 同じ死ぬなら、寝ている間に、為すがままに、未知の世へ……。

 **最初の目覚め**

 外が、騒々しい。

 (タケラのオッチャンたち、戻って来たのかなァ……。
 てか、そりゃそうさァ♪
 戻って来てくれなきゃ、俺はまた……またまた! 独りだ。
 ここは、揺れる独房だからなァ)

 てか、今こそが、{莫|まく}妄想だッ!
 てか、外が騒々しいのが、気になったんだった。
 {武童|タケラ}の声じゃ……ない。
 じゃあ……誰だーァ?!

 「聞いとらんかなーァ。
 船を見せて欲しいいうて、頼んどいたんじゃけどーォ!!」

 その声質と喋り方は、{如何|いか}にも人畜無害そうな気性を、充分過ぎるほどに{醸|かも}し出していた。そのとき、俺の頭の中は……無! 誤解を恐れて、言う。それは、無意味の「無」……{則|すなわ}ち、「空っぽ!」だ。
 {艫|とも}間の{出入口|ハッチ}から、{生|なま}の頭を覗かせた。犬っころよろしくロープで繋がれた天蓋が、甲板の{船縁|ふなべり}を乗り越えようとして思い止まったように、間一髪的に引っ掛かって止まっている。そのことに今やっと気づいた俺の視野の狭さに、愕然とした。
 ズングリ丸は、ここに連れて来られたときと何も変わらず、接岸して船首と船尾を、岸壁に{繋|つな}がれていた。{繋船曲柱|けいせんきょくちゅう}に、几帳面に{舫|もや}われている。その船首側と船尾側の繋船曲柱に挟まれる格好で、大人の男が五人、ズングリ丸の前に、横並びに居並んでいる。
 俄かに、俺のボサ頭に気づいたのだろう。「あッ!」っと言ういう間もなく、一列に並んだ凸凹び視線が、俺のボサ頭に集まった。彼らの年齢は、一言では表現し{難|がた}かった。一様に、職人{風情|ふぜい}? 一人が、両手に、白いレジ袋を、ぶら下げている。(敵か、味方か……)などと思う頭は、もうそこには無かった。

 「許可は、もらっとるんじゃがなァ。
 乗せてもらっても、ええかいのォ?」

 レジ袋を両手にぶら下げているその人畜無害の声の主は、もし自然{民族|エスノ}の端くれならば、今まさにか{既|すで}にか息恒循の天命を終えているであろう年恰好で、作業服姿ではあったが、そこからは、{生業|なりわい}特有の化学品や土や潮の臭いは、一切何も、漂ってはこなかった。
 キョトン♪ 無防備……白旗状態の、俺。
 五人の男たちが、ズングリ丸の作業甲板によじ登り、五人とも、絶句したような顔で、自分を円の中心にして、くるくると回りはじめた。そしてまた、人畜無害のレジ袋のオッチャンが、言った。

 「伝わってなかったかーァ!!
 わしらは、この町の大工でな。仕事は、大工なんだが、{生業|なりわい}は、左官だったり、配管工だったり、土木の掘り屋だったりするわけなんじゃが、{兎|と}にも{角|かく}にも我ら五人、週末には必ず、律儀に、{艇団|フリート}が水上繋留しとる港に集うんだが……。
 兎も角だ。
 大声で話せることは、そう、多くはない。
 喋るより、座ったほうが、今は、利口だろう」

 人畜無害は有難かったが、五人とも……まったく、正体が判らないままだった。まァ、そんなことは、どうでもいい。今やるべきことは、「どうぞーォ♪」と、そのひとことだけ言って、スピアたちが居室にしていた船倉か、その上の作業甲板の上にでも腰を{据|す}えてもらって、もう二度と俺を深い眠りから呼び起こさないように最善の注意を払ってもらいながら、レジ袋のオッチャンが言うとおりに見学をしてもらって、納得してもらえたら、そこでサッサと帰って{戴|いただ}く……みたいな♪
 さすがに、いくらなんでもそうなった{時分|じぶん}には、俺も深い眠りから自ら覚めて、自力で、{身|み}も心も〈シャキン状態!〉になっていることだろう……たぶん♪

 **大望のシャキン!状態**

 なんど目覚めても、そこはここで、そのここは、やっぱり騒々しい! 声は、作業甲板の上のほうから、聞こえてくる。なんにんかの大人と、なんにんかの子どもが、喋っているようだった。ズングリ丸のどてっ{腹|ぱら}に風穴を開けた船は、セーリングクルーザーという種類の汽帆走艇で、今喋っている大人たちは、その船の{持ち主の艇長|オーナー}だったり、{乗組員|クルー}だったりするようだった。
 彼らは、その汽帆走艇で、俗に言うヨットレースというやつに参戦というか出場というか……兎にも角にもその*レーシングの*クルーザーってやつに、みんなで乗っているらしい。
ガサガサ……♪ ガサガサ……♪ と、これほど大きい音を立てるレジ袋は、ゴワゴワしている。{超ーォ!!高密度|ハイモレキュラー・ハイデンスティー}のポリエチレンなんだそうだ。 
 その、*ハイモレハイデン*のレジ袋が、大魔神を、千年の眠りから目覚めさせてしまったことに、そのときは未だ、誰一人として知る{由|よし}もなかった。(でも、ガサガサ音が、耳に{障|さわ}った訳ではない)……と、直感的に、直ぐに判った。レジ袋の中身に、反応したのだ。正に大魔神は、{斯|こ}う言ったのだった。

 「朝昼晩メシーぃ!!」
 ……と、魔性の{鮫|サメ}{乙女子|おとめご}の歓喜とも悲痛ともなんとも言えぬ声が、海岸線近くまで張り出した半島の{緑々|りょくりょく}たる森林に、{木霊|こだま}してゆくのだった。

【2】格物
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妖怪の予感

 不思議なものだ。少し寝て直ぐに起きたそのちょっとの間に、この星は激変している。{居|い}るはずもない様々な生命体が、俺の視界を支配し、ここには居ないはずの{阿婆擦|あばず}れ乙女子が、空腹に病んで絶叫の爆音を木霊させていたりする……。

 その乙女子たちの年ごろ……立命期の目的は、言わずもがな、知命! その知命に到らぬまま、運命期に転がり込むと、「無知運命期」と呼ばれる。{怪訝|けげん}に思いつつも、{然|さ}して問題とも思わず放置してきたのだが、この*無知運命期*の三人……ムロー先輩、俺(ワタテツ)、ヨッコのうち、ムロー先輩だけが、学級の後輩たちから「無知!運命期」と言われ、{未|いま}だ知命に到っていないことを、{執拗|しつよう}に強調されている。
 無論、無理もない。どれだけ歳を重ねようとも、知命しない限りは、{武童|タケラ}にはなれないのだ。{則|すなわ}ち、{美童|ミワラ}のままということだ。タケラと成れば、使命がある。「その使命のために、タケラになる」と、言ってもいい。その使命は、三つの組織に割り振られ、そこで実行することになる。{斥候|せっこう}班、潜入班、{襲偵|しゅうてい}班……この、三つだ。

 この程度のことを知っているだけで、立命期の後半の概ねすべてを没入することとなる寺学舎の目的は、知れたこととなる。
 知命のため? ……果たして、そうなのだろうか。
 {寧|むし}ろ、逆ではないのか。喜怒哀楽の激しい部分を削ぐため! {美童|ミワラ}は、本来……感情が、激しい。だから、その「野生」とも言うべき、激しく理性の利かない情緒と性格を{和|やわ}らげるために、その情緒や性格が育成され完成すると言われる立命期の少循令七年間を、寺学舎に軟禁する……。
 そこで、心を落ち着かせることによって、短命による天命の不履行を予防しようとしているのではないか。
 {何故|なぜ}、自然に逆らい、予防が必要なのか。
 不履行が、問題だからか……違う!

 問題なのは、〈短命〉のほうなのだ。長かろうが短かろうが、肉体は、寿命が来れば、くたばり{亡|ほろ}びる。だが、魂は、天命を{全|まっと}うするまで、生き続ける。肉体が無くなった後は、魂だけが、{彷徨|さまよ}い続ける。
 それを、{古|いにしえ}より、「妖怪」と、呼んでいる。
 その妖怪も、{現|うつつ}に生きていたころと同じような問題を、{孕|はら}まされてしまった。俺たちが居る{現|うつつ}の世界で天命を生きる人間たちは、自らの分化によって、三つの亜種に分かれてしまった。
 そして、肉体が亡んで魂だけが生き残った世界では、外来種の侵入によって、二つの亜種に分けられてしまう。則ち、在来種である{日|ひ}の{本|もと}古来の妖怪と、{余所|よそ}者の{所謂|いわゆる}外来種が、種を違え、二つの亜種を形成してしまったのである。 

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然修録 第1集 No.135

#### オオカミの{然修録|135}【1】座学「真実は{何処|いずこ}に」【2】息恒循〈一の循〉{幼循令|ようじゅんれい} ####

 {会得|えとく}、その努力に{憾|うら}みなかりしか。
 学徒学年 **オオカミ** 少循令{石将|せきしょう}
     
【1】座学
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真実は何処に

 サギッチの然修録に、{斯|こ}うあった。

 「結果を洞察するための要領について、{纏|まと}めておく。
 一に、正しい情報を、得る。
 二に、その情報を判断したり処理したりするための知識を、得る。
 三に、関連するすべての人たちの個々の好き嫌いを、探り知る。
 以上」

 では、〈正しい情報〉ってのは、{何処|どこ}にあるんだァ?
 闇雲に探して、{某|なにがし}かの情報を拾い集めたにしても、果たしてその中に、〈正しい情報〉ってのが、存在してくれているのだろうか。運よく、そこに{在|あ}ったとしよう。では、拾い集めた雑多な情報の中で、それらのうちどれが*その*正しい情報なのかを、どうやって見極めればいいのだろうか。
 昨今の実際を{省|かえり}みるに、事前に洞察すべきであった*結果*は、バカデカ{鴉|カラス}の襲撃だろう。{況|いわん}や! それが、正しい情報に基づく真実の結果というやつだろう。だが{然|しか}し、そもそも、そんな情報を拾い集めようという動機からして、起こしようがない。
 仮に、なんらかの予測をして、なんらかの動機が起きたとしよう。そこは、{鴉|カラス}が候補に挙がるくらいなら、それは、養殖の{鰤|ブリ}の大群かもしれないし、天然の巨大な{蛸|タコ}なんかが予測されても、なんら不思議はない。それが鴉だとすれば、正に偶然以外の何物でもない。もっと{質|たち}の悪い予測を予想したならば、フナムシの大群だったり、沢蟹の大群だったりもするだろう。

 さて、どうしたもんか……。
 {双六|すごろく}ではないが、振り出しに戻って、考えてみよう♪

 正しい情報……その「情報」とは、なんだろう。何かの意図や事象を、言葉で説明したもの……とまァ、そんなところだろう。これは、確かに正しさを表現するには妥当な方法だろうけれども、真実を見抜くには、何かが足りない気がする。
 ……そうだッ!
 言葉だけでは、洞察は、出来ない。
 観察する対象が、もし人物であるならば、その顔つきや{仕種|しぐさ}、喜怒哀楽を表しているときの態度……もし、その態度と感情表現との間に違和感を覚えるようであれば、周りの環境や人間関係……{延|ひ}いては、その人間の生い立ちから始まって、何から何まで、徹底的に探らねばなるまい。
 こうなってくると、情報というよりは、もっと事務的で生々しい言葉……そう、{資料|データ}と呼んだほうが、ずっと現実的に聞こえる。*真実のデータ*? ……そうそう。それそれ♪

 では、真実のデータとは、何か。
 寺学舎で、同じ問いを耳にしたような気がする。何かの{言葉|コトバ}記憶が索引となって、寺学舎で学んでいたころに保存した{心象|イメージ}記憶が、潜在意識によって無意識のうちに、おれの脳裏に浮かび上がった。そして、それがそのまま、顕在意識の面前で、映し出されたのだ。
 どんなふうにぃ?
 あァ……そうだな。
 こんなふうにだ。

 「真実のデータとは、自分自身……{況|いわん}や! おれ自身が、この目で見、この手で触れたこと。細かく言えば、五感である{視|み}る、聴く、{嗅|か}ぐ、味わう、触れることによって、実際に自分で体感し、確かめたことに限られるということだ。
 信頼できる身内や知り合いから、『ついさっき、庭に犬が{居|い}たけど、どこの犬か、知ってるぅ?』などと{訊|き}かれても、その*事実*が真実かどうかは、そいつ以外の人間に判る{筈|はず}がない。*ついさっき*の時空までタイムスリップして、実際に自分の目で庭を見て確かめない限り、それは、真実とは呼べないのだ」

 対して、己自身の五感で体感して自らが確かめた*真実のデータ*は、そのまま心象……{所謂|いわゆる}イメージとして、その一つひとつが、記憶されてゆく。これを、脳生理学分野の言葉で説明すると、刺激を受けた感覚器官が、インパルスと呼ばれる電気信号を脳に送り、それが一つの{心象|イメージ}記憶となって、頭脳に記録保存される……と、いうことになるんだそうだ。
 そうそう♪
 言葉の索引が付いていない、イメージだけの記憶のことなんだけど……。犬や猫も、{鳥獣|とりけもの}も、まだ言葉を覚えていない赤ん坊も、みんなこの*イメージ記憶*だけで、生きている。これを、「純粋体験」と、呼んでいるそうだ。

 赤ん坊も、この〈純粋体験〉によって、母さんの乳首を認識するのだろう。乳首の色、形、肌{触|ざわ}りなんかが、そのままイメージ記憶として、脳に格納される。その機能が無ければ、赤ん坊は、いつまで経っても、母親の乳首を認識することは出来ないのだろう。
 ではそれが、母さん*そのもの*だったら、どうだろう。
 きっと母さんは、(色や形だけで、人を判断することなんて出来ないんだよッ!)と、赤子の不審そうな顔を見ながら……内心、そう思うかもしれない。おれだって、(外見だけで、おれを判ったつもりになるんじゃねぇ!)って、思うことがあるから……ん?
 と、いうことはだ。おれが読み取った他の誰かの〈真実のデータ〉というのは、その人に初めて出会ったときから現在までのイメージ記憶を結集して、それを総和したものだと言えるのではなかろうかッ!

 それは、相手が人間のときだけに限ったことではないだろう。農作物も、養殖魚も、家畜も、すべてそうだ。{蜜柑|ミカン}だって、原木椎茸だって、{牡蠣|カキ}だって、ジャガイモだって、ただ売り場に並んでいるものを見たり食べたりしただけでは、その本質……「真実のデータが、判った」とは、言えないものだと思う。
 それを、自ら育てた農家さんや漁業者さんたちが、実際に自分が体験したこと……そのすべて、それだけが、本当の*真実のデータ*なのだ。
 それが、蜜柑だったとしたら……。
 その蜜柑の木のこと。歌にもあるくらいだから、花も咲くはずだ。冬の大西風や、梅雨時の長雨に、日照り続きの猛暑など、様々な気象環境が、蜜柑の成長に、どんな影響を与えるか。そして、どのくらいの色合いになったら出荷どきで、実際に食べごろなのは、どんな状態になったときなのか……と、それらすべてのイメージ記憶を結集した総和が、真実のデータだってことになる。
 農家さんや漁業者さんだからこそ、真実を知ったから、「蜜柑の気持ちが{解|わか}る」って、言えるのかもしれない。

 それら、夥しい数の様々なイメージ記憶は、時系列で積み重ねられたり、巻き取られたりして保存されているのではない。大脳皮質という{途轍|とてつ}もなく広大な原野の上に、無数に散らばっているのだ。そこを、正に鳥が{鳥瞰|ちょうかん}でもしているかのように、〈ミカン〉という札が付いた夥しい数のイメージ記憶が、一瞬にして搔き集められ、それを一つ残らず{摘|つま}み上げて、〈ミカン〉という索引の付いた袋の中に、ひと{纏|まと}めに{括|くく}られてしまうのだ。
 {況|いわん}や! その索引こそが、新たに更新された、〈ミカン〉というコトバ記憶なのだ。おれたちは、この〈{心象|イメージ}記憶を、瞬時に{集纂|しゅうさん}するの脳の能力〉……言い換えれば、「真実のデータを保管し、必要なときに、必要なものすべてを呼び出せる、全能にして全自動の脳」を、鍛えなければならないのだ。

 {何故|なぜ}なら、{則|すなわ}ちそれが、洞察力となるはずだから……たぶん♪ 

【2】息恒循
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〈一の循〉幼循令

 《生涯》{則|すなわ}ち{天命|てんめい}の〈前期〉である{立命期|りつめいき}の〈一の循〉を、{幼循令|ようじゅんれい}という。

 零歳から六歳までの七年間。
 天命の**最初**である。
 {且|か}つ、立命期の前半である。

 幼年、幼児、児童、少年、少女……これら、みな{善|よ}し。
 ところが、大人たちは、彼ら彼女たちを、{斯|こ}う呼ぶ。
 「幼稚だなッ!」
 幼稚とは、中身が無いこと。{則|すなわ}ち、動物に近いということ。例えば、犬や猫のような……。最悪は、{鳥獣|トリケモノ}と同じような扱いをする、なんとも不届きな大人さえ{居|い}るという。そういう{奴|やつ}らこそ、動物どころか、トリケモノ以下の、*間違いで生きてしまっている*生きものなのだ。

 少年という言葉は、本来、男女の区別は無い。なので以下……幼年、幼児、児童、少年、少女を総じて、〈幼少年〉と書くことにする。
 幼少年は、大人から見れば、確かに、内容の無さそうな動きをしたり、未熟に思えるような思考をしたりする。{然|しか}し、それは、大人たちの抑圧され続けた経験によって縮まって狭くなってしまった{料簡|りょうけん}から判断された見方であって、実際には、大人とは比べものにならないほど多様な内容や意味を持ち、優れた潜在能力や、鋭い感受性を持っているものなのだ。

 神童、天才少年、天才少女……など、これらの言葉も、間違っている。
 {子等|こら}が、{驚愕|きょうがく}を覚えるような卓越した能力を、発揮することがある。すると大人たちは、特例の代名詞よろしくその{子供|こども}の首に札{紐|ひも}を被せて、ぶら下げさせる。その札に、神童とか天才とかの文字が、書き込まれている。そして、他の大人たちは、その札を目にすると、我関せずで、その子供から目を{背|そむ}けようとする。
 {何故|なにゆえ}かッ!
 それは、真実を知っているからだ。
 「幼少年は、教養宜しきを得れば、ある程度みな、大人たちの言う神童や天才と、似たりよったりの者になるのだ」……と、いう真実を。

 子供というものは、それなりに{躾|しつけ}や教示宜しきを得れば、みんなそれ相応に、立派になるものなのだ。そんなごく尋常な幼少年たちみなが共通に生まれ持っている高い能力のごくごく一部分だけを照らし、そこを、どうしても、*特異な例外*に観せようと、躍起になる。
 それは、{何故|なぜ}なのだろう。
 答えよう♪
 それは、子等に対して宜しくない接し方をして、幼少年が持つ尋常な能力すべてを{壊死|えし}させてしまったことを{隠蔽|いんぺい}したいという衝動と、その裏に潜む{懺悔|ざんげ}の念が、{拠|よ}ん{所|どころ}なく{現|うつつ}に表れてしまうからである。

 そういう時代に、なってしまったのだ。
 それも、そこも……もう、どうしようもない。
 では、どうするかァ?
 答えよう!
 親の力を借りず、自分たちだけで、その能力を、培養するしかない。それが、生涯を左右する大事な*立命期*の前半、天命への道を歩めるか否かを決定づける〈幼循令〉という、生涯で最も……極めて重要な、七年間なのである。
 ここで、自ら己を修めることができなければ、道から{逸|そ}れて、{堕|お}ちて、死ぬ。実に簡単で、実に単純な人生だ。それはそれで、みなと同じ、一つの**命**には違いないのではあるけれども……。 
(Ver.2,Rev.0)

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後裔記 第1集 No.138

#### ツボネエの{後裔記|138}【1】実学「刺さる{船首|バウ}」【2】格物「妄想大改造」 ####

 体得、その言行に恥ずるなかりしか。
 少女学年 **ツボネエ** 齢8

【1】実学
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刺さる船首

 男ども先輩たちが{巨大|チョー!ビッグ}な{醜|みにく}い電脳{鴉|カラス}と格闘している間……と言っても、ちょっとの{間|ま}だけど、アタイは、妄想に{憑|よ}りつかれて、終始頭の中が、堂々巡りをしていた。
 (敵か味方か判らない、得体のしれない人間が、次々と現れる。アタイらの命を狙っている人間や、逆に、アタイらの命を護ろうとしてくれている人間が……居る? 本当に?)
 答えが出ずに、また、同じことを自問する。何度目の自問だったろう。鴉の頭から突き出た電脳チップのお尻から……なんか、「シューゥ♪」って音が聞こえてきた。男ども先輩たちは、依然、その音を気に掛けるでもなく、頭に電脳チップを突き刺した醜いバカデカ鴉と、格闘している。
 ……と、そのときだった。

 ドッカーン!!

 (死んだな。アタイラ……)と、{咄嗟|とっさ}にそう確信したけれど、それが間違いだってことは、直ぐに{呆気|あっけ}なく判明してしまった。オンボロ丸……元い。ズングリ丸の、半分{朽|く}ちたような土手っ{腹|ぱら}に、風穴が開いたのだ。その穴に、尖った{船首|バウ}が、{減|め}り込んでいる。
 聞き覚えのある声が、外から……どの辺かというと、アタイらが{居|い}る{艫間|ともま}に突き刺さった船首の外のたぶん甲板の上あたりから、聞こえてきた。
 「よし! なんとか通れそうだ。早くこっちへ乗り移れ! 急げ! 死ぬぞ!」
 間違いない……ノロガメさんの声だ。
 次に、ムロー先輩の声。耳を{劈|つんざ}くような、バカでっかい声だった。
 「女から、先に行け! ツボネン! 急げ! 死ぬぞッ!」
 次は、聞き覚えのない声が、外の船の後ろのほうから、聞こえてきた。
 「バウのハッチ、開けろ! そこから、キャビンに入れるんだァ!」
 次の声を、辛うじて聞き取れたのを最後に、アタイの記憶機能は、完全に停止した。
 「ベッドがちょうど、八つかァ。よし! {船尾|スターン}から順番に寝かせよう!」

 (アタイ……てか、アタイら、このまま、死ぬのかなーァ?!)なんて{何気|なにげ}に思いながら、死ぬのか気を失うのかも判らないまま、アタイの脳ミソは、そっと、静かに、機能を停止したのだった。

 どのくらい死んでいたのだろう……。
 ポッチャン……。
 ポッチャン……。
 波が、船体に当たる音だと、直ぐに判った。
 狭いけど、個室。横たえた{脚|あし}の先に、カーテン。
 閉まっている。
 記憶が、{甦|よみがえ}る。
 (船尾から順番に寝かせろッ? ……って、言ってたよねぇ?)と、無意識に、妄想。
 あたいの直ぐ後ろは、マザメ先輩だった。その後ろは、見てはいないけど、ヨッコ先輩……たぶん。
 (ベッドがちょうど、八つかァ? ……って、言ってたよねぇ?)と、また無意識に、妄想。
 (と、いうことは……直ぐ{傍|そば}にあるベッドで、マザメ先輩とヨッコ先輩が、寝ているぅ?)と、何気に思った……そのときだった。

 「起きとるかーァ?? 腹、へっとらんかなーァ!?」
 「ぐーぅ♪ ぐーぅ♪」……と、{咽喉|のど}が鳴る前に、腹が鳴った! 外で叫んでいるオッサンが、敵であろうが味方があろうが、もう、どうでもよかった。一度死んだから、腹が{据|す}わったのだ。据わったまでは悪くはなかったんだけど、その腹の中身が空っぽだから、なんだかふわふわして、据わりが悪い……マジっすぅ!
 アタイが、足元のカーテンを開けるのと、ほぼ同時。頭をカーテンの外に覗かせて、矢庭に首を左に{捻|ひね}ると、ちょうどマザメ先輩が、首を右に捻ったところだった。直ぐに頭を正面に戻すと、左右に二段ベッドが、一つづつ。右の二段ベッドに、ヨッコ先輩とオオカミ先輩。左の二段ベッドには、スピアの兄貴とサギッチが横たわっている。
 ここで、一つ気づいてしまった。
 (ベッドがちょうど、八つかァ? ……って、言ってた、言ってた、間違いない! ちょうどって言うんなら、七つじゃん? だって、ムロー学級は、総員八名、現在員七名なんだから……)と、周りを見回しながら、そんなことを、またまた無意識に、考えていたアタイ。

 {然|しか}し……。
 妄想を小休止して、ちょっと考えてみれば直ぐに判ることなんだけど、{現|うつつ}の時間ってのは、アタイの妄想が終わるまで、悠長に待ってなどくれない。
 カーテンから頭だけ覗かせたアタイとマザメ先輩の間に割り入るように、まるで初夏を思わせるような暖かい色の陽光が、{射|さ}し込んできた。……と、次の瞬間、大きな足が、天から降って下りるように落ちてきた。
 使い古された靴とズボンの裾だったけど、洗い立てでパリパリによく乾かされたような清涼感が、強く印象に残った。特に靴の裏側は、上履きのシューズよろしく、擦り減ってはいるけれど、汚れ一つ無い、真っ白だった。その大きな足の潔癖さを、頑なに護っているのであろうその足の主の声が、そのケッペキチックな足の上のほうから、聞こえてきた。

 「なんだァ。
 起きとるんじゃないかァ!
 だったら、返事くらいせんかァ。
 腹、へっただろうにぃ♪」

 「へり過ぎて、風船みたいに空を飛べそうだよッ!」と、そう応えて言ったのは、意外にも、ヨッコ先輩だった。よっぽど腹がへって、腹が立っているらしい。その気持ち、よく{解|わか}る。
 そのヨッコ先輩の弱った怒りの訴えが、横たわっている他のみんなの耳に届くや否や、でっかいヨレヨレの清潔な足が、すーぅ……っと持ち上がった。と同時に、足が引っ込んだ先の上のほうから、また、潔癖の主の声が、聞こえてきた。声というか、正確には、笑い声みたいだったと、記すべきところかもしれない。
 こんな声だった……たぶん!

 「ガハ♪ ガハガハ♪ ガハガハガハ♪」

 まだ、{身体|からだ}が重い。
 ヨッコ先輩は、声の気丈さに反して、その身体は、まだ寝静まったままだった。オオカミ先輩に到っては、まだ薄い布団を頭から被ったままで、生きているのか死んでいるのかも判らない。カバーに包まれているので「布団」と言っただけで、カバーに包まれているのは、{綿|わた}の布団ではなく、薄手のブランケットみたいな、厚手のタオルケットだった。
 スピアとサギッチは、頭を持ち上げて、何かを言いたげで……でも、何を言えば{好|い}いのかが判らないといった様子で、ただぼんやりと、目の玉だけを、右へ左へと動かしている。その足の先の向こうは、木製の片引き戸で、仕切られている。その扉あたりからが、船首らしい。船側の壁が、{緩|ゆる}やかに内側へと角度を変えていた。
 (あの扉の奥……狭い! 本当に、ベッドが二つ? ムロー先輩は、助かって、まだ生きて、あの奥で、ガースカ眠っているのだろうか)と、また、潜在意識が、{何気|なにげ}に考え込んでいる。
 そしてまた、同じことを、思った。
 (ベッドがちょうど、八つかァ? ……って、言ってたよねぇ?)と。
 ワタテツ先輩も、あの扉の奥の狭いところに、ムロー先輩と並べられて、生きてか死んでか、横たわっているのだろうか。

 潜在意識というのは、大したものだ。
 こんな、ほんのごくごく短い〈今〉という点の並びの間に、こんなにもたくさんの妄想を、しかも無意識に、脳裏に次々と映し出すことができるのだから……。
 我ながら、(子どもの脳ミソって、{凄|すご}いなッ!)って、思う。

 まだ身体は重かったけれど、真っ白い{煎餅|せんべい}布団を、二本の{脚|あし}で、思いっきり! {跳|は}ね飛ばした。

【2】格物
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妄想大改造

 どうやらアタイには、「{莫|まく}妄想は、無理!」みたいだ。
 妄想が排除できないと判ったからには、莫妄想は、潔く{諦|あきら}め、妄想を、味方に取り込むしかない。
 禅のお寺に行くと、〈莫妄想〉と並んで、〈観自在〉という標語が、掲げてあるそうだ。「頭の中にある{心象|イメージ}記憶を自在に並べ置いて、それを観よ!」と、まァそんなような意味らしい。その〈自在に置く〉ために、頭の中を、空っぽにする……と、いうことはだ。「莫妄想が、*必要且つ有効*となる」と、いう{訳|わけ}だ。
 ところが、ただ置いただけでは、それこそ、ただの妄想で終わってしまう。そこで、「頭の中に自在に{布置|ふち}された心象記憶が、〈命〉にどんな行動をさせようとしているのかを、{掴|つか}み取れ!」……と、言うことらしいんだけど、これがどうにも、掴みどころがない。
 ただ、「これがまさしく、*直観*による行動である」ということは、疑いようがない。ここで改めて、寺学舎で学んだ{般若心経|はんにゃしんきょう}の言葉記憶が、{甦|よみがえ}る。

 {観自在菩薩|かんじざいぼさつ}
 {行深般若波羅蜜多時|ぎょうじんはんにゃはらみたじ}
 {照見五蘊皆空|しょうけんごうんかいくう}
 {度一切苦厄|どいつさいくやく}

 観自在菩薩は、観世音菩薩とも言って、{所謂|いわゆる}観音さまのこと。莫妄想の修行をして、自分の心象記憶を自在に布置して、それを観ることができるようになった人のこと。
 さて、世のため人のため……救われない人びとのことを、{衆生|しゅじょう}という。衆生を救ってあげるためには、衆生……救われない人たちの言うことを、よく聴いてあげなければならない。但し、ここで終わってしまうと、それもまた、ただ知識のゴミの山を{堆|うずたか}く積み上げてゆくだけのことに過ぎない。
 そこで、その堆積した知識を、自在に並べてみる。そこからが、修行だ。その修行が、般若波羅蜜であり、その意味が……正に、観自在、直観的な行動……{則|すなわ}ち、〈知恵の完成〉なのだ。この修行法を、菩薩道という。その道……方法とは?

 布施 持戒 忍辱 精進 禅定 般若

 自分が持っているものは、人に差し上げましょう。
 規則は、守りましょう。
 人の{厭|いや}がる仕事を、進んで引き受けましょう。
 仕事は、誠心誠意を{以|もっ}てやりましょう。
 {坐禅|ざぜん}して、よく考えましょう。
 {然|さ}すれば{智慧|ちえ}が現れ、{忽|たちま}ち問題は、解決してしまうでしょう。

 然もありなん。
 この修行を自ら修めると、人間の働きは、すべて「空」だということが解る。その人間の働きのことを、五蘊という。{順|したが}って、五蘊が「空」になるからこそ、〈智慧〉の正体……本質を、知ることができるのだ。則ち、{色即是空|しきそくぜくう}、{空即是色|くうそくぜしき}。存在は、空っぽであり、空っぽは、存在である。
 ……また、小難しい話に戻ってしまった!
 それにしても、単純で疑いようもない、当たり前にしか聞こえてこないこの六つの条理は……正に、言うは{易|やす}しだ。ところが、その徹底と実行に到る道は、「あまりにも{難|がた}し!」だ。

 「困っている人を見かけたら、今月の給料をぜんぶ、その見ず知らずの人にあげられる?」
 「理不尽で無駄なだけの規則……。命が、毎日毎日、無駄に削られてゆく。それでも、規則だから、愚痴を押し殺して、従い続ける?」

 日本人は、キツイ、キタナイ、キケンな仕事……{所謂|いわゆる}〈3K〉の仕事を、しなくなった。みんなが厭がる仕事を{為|な}してこそ修行であり、そこで初めて、自己を高めることができる。では、いざ自分がその当事者になったら、厭な顔一つぜずに、みんなが厭がることを、心底快諾して引き受けることができるだろうか……。
 アタイは、やっぱり……厭なものは、イヤだッ!
 だからこそ、それが出来る人は、「大信力を持つ者に限る」と、お釈迦様は、言われたのだと思う。その大信力を持って実践行動する菩薩道とは、どんな目的があるのだろうか。{達磨|ダルマ}さんという人が、{斯|こ}う答えている。
 「菩薩道とは、結局のところは、莫妄想のための具体的な訓練法の一つに過ぎない」のだと……。

 思考は、菩薩道によって、一つの循環を果たすのだ。
 なので、(お布施を、あげ過ぎたかなーァ?!)とか、(あそこまでしてあげる必要は、なかったかもなーァ!?)とか、何かを*してあげ過ぎた*と考えるようでは、いつまで経っても修行にはならない。則ちは、「菩薩の道に、入れない」と、いうことだ。だから、(してあげ過ぎた)と思うのではなく、(思ったよりいっぱい、修行ができたなーァ♪)と、感謝すべきところなのだ。
 何はともあれ、観自在の意味が、「心象記憶……イメージを、自在に配置すること」なのだとすれば、それは正に、「大自然の生きものたちが、ひとりでに、己の頭の中の数々の〈イメージ記憶〉を、効率的に並べ替えてしまう」という〈自己組織性〉に、等しいということになる。

 則ち、莫妄想をして観自在になれば、大自然の〈自己組織性〉によって、動物が本来生まれ持っている「直観」の能力が、働きはじめるということなのだ。

 無論、言わずもがな……。
 アタイが書くことだから、「たぶーん!」ねぇ♪

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然修録 第1集 No.134

#### サギッチの{然修録|134}【1】座学「感激性と{躾|しつけ}」【2】息恒循〈前期〉{立命期|りつめいき} ####

 {会得|えとく}、その努力に{憾|うら}みなかりしか。
 少年学年 **サギッチ** 少循令{猛牛|もうぎゅう}
     
【1】座学
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感激性と躾

 **「真剣に{悪|にく}む」は、道徳の実戦**

 「最高峰の要領……道で言えば『極意』、俗に言えば『悟り』、禅では『{見性|けんじょう}』」……かァ。言わずもがな、スピアの然修録。
 「人間というものは、自分で罪と認めながらも、その罪に少なからぬ愛着を持ったり、未練を引き{摺|ず}ったりしているという。正に、清く透き通った氷柱のような、鋭利な論評だ」……かァ。こちらは、マザメ先輩の後裔記。
 どんなに大努力して{某|なにがし}かの分野の最高峰の要領を極めたところで、人間の本性……罪への愛着は、不変。それが人類の、普遍の真理……かァ。
 悟りを開いても、人間は、罪への愛着を{棄|す}てられない。罪……憎悪……そう、{憎|にく}むこと。

 孔子よりも三十一歳も若い{子貢|しこう}という弟子が、師である孔子に、{斯|こ}う訊ねた。
 「君子も、人を悪むことはあるか?」
 すると孔子は、こう答えたという。
 「悪むことがある。
 人の悪を称する者を悪む。
 下に{居|い}て上を{謗|そし}る者を悪む。
 勇にして礼無き者を悪む。
 そんな人は破壊と無礼に{堕|だ}し{易|やす}いからだ。
 {果敢|かかん}にして{塞|ふさ}がる者を悪む。
 人の言葉に耳を傾ける雅量のない者のことである」
 意外や! 随分といろんな人を、憎んでいる。
 極意も悟りも見性も、「決して、喜怒哀楽を抑えることではない」と、言えそうだ。……と、いうことはだ。喜怒哀楽の感情を抑えて物静かに座っていれば、一見、徳があるように見えるが、実は、そうとも限らないという{訳|わけ}だ。

 陽明先生……王陽明も、こんな語録を残している。
 「人生万変と{雖|いえど}も、{吾|わ}が{之|これ}に{應|おう}ずる{所以|ゆえん}は喜怒哀楽の四者を{出|い}でず」
 道徳の心構え……心得として大事なことは、{如何|いか}に喜び、如何に怒り、如何に悲しみ、如何に楽しむかであって、「決して、無味乾燥の乾物のような、*無感動の心*ではない」という意味のことを、言っている。

 要は、感激性を持って、味のある命を運ぶ……それが、運命。
 命を運ぶ道……それが、「道徳の**道**」というものであろうか。

 **教育から躾を排除した日本人……その大罪の結末**

 喜怒哀楽の「怒」と言えば、例えばその一つに、反対運動がある。その怒りには、時として、不条理というか、不可思議に思えてならないものもある。

 例えば、原子力発電所の建設計画。先ず、原子力エネルギーが必要不可欠であることは、丁寧に説明すれば、{殆|ほとん}どの人が、解ってくれる。これは、欧米であろうが、日本であろうが、世界共通だ。ところが、いざ自分が住んでいる地域に原子力発電所が建設されるとなると、欧米人との日本人とでは、大きな違いが出てくる。
 欧米人は、「それは仕方がないことなので、みんなが従うべきだと思うが、その代わり、納得できる保証を提示してくれ!」といった反応を示し、計画は順次具現してゆく。
 対して日本人の場合は、「原発は賛成だが、俺が住んでる地域に建設するのは、反対、反対、ハンターィ!!」てな具合で、地域ぐるみで、必死の反対運動が巻き起こる。
 もし稼働後に、発電所の周辺から放射能が検出されたとしたら、それが{譬|たと}え人体に全く影響のない範囲のごく微量であったとしても、そのニュースが流れるや否や、魚介類も農産物も、バッタリと売れなくなってしまう。
 放射能は、確かに検出されたけれども、汚染された海藻を、毎日欠かさず十年食べ続けてやっと、その累積の放射能の量が有害の域に達するかどうか……という程度の、ごくごく微量の放射能だと説明しても、「反対、反対、ハンターィ!!」である。
 この違いは、民族性などというものではなさそうだ。
 教育の違い……。

 欧米の人たちは、我が国が、{聖驕頽砕|せいきょうたいさい}で大敗する直前まで教育現場で使っていた道徳の書……『教育勅語』を、絶賛している。ところが、当の日本人は、それを{扱|こ}き下ろしにして、読みもしない。これも、教育の違いだ。言い換えれば、敗戦被保護国の国民である日本人に対する徹底した洗脳教育……正に、占領政策の成果だ。

 原発嫌いも、教育勅語嫌いも、本音のところでは、その重要性を認識しているにも関わらず、少しでも自分と直接関係しそうになると、「嫌い、嫌い、キラーィ!!」になってしまう。どちらの「嫌い」も、潜在意識の叫びに他ならない。{言葉|コトバ}記憶である「原発」も、「教育勅語」も、{心象|イメージ}記憶である「嫌い」と、結びついているのだ。
 原子力船「むつ」の出力テストのときの放射能漏れも、まったく同様だ。そのとき漏れた量は、レントゲン検査で受ける量よりも少ない、ごくごく微量だったそうだ。それなのに、以来{継子|ままこ}扱いされ続け、そのまま廃船! しかも、ただ継子扱いにするためだけに費やされた国民の血税は……なんとなんと、五百億円超え!
 欧米人なら、そんな微量の放射能を検出できる技術の方を、絶賛してくれていたかもしれない。「むつ」とほぼ同時に完成した西ドイツの原子力船「オットハーン」は、順当に進水から運行までその勤めを{全|まっと}うし、惜しまれながら現役を引退したそうだ。

 欧米社会では、言葉によって、自分の考えや頭に描いているイメージを、相手に伝える。また、言葉によって、相手の意見やイメージを、理解する。そうやって、お互いにとって最善の方法を、言葉によって決める。そこで一旦決めた以上は、その決めごとを、守り続ける。{所謂|いわゆる}これが、躾だ。
 躾が出来ているから、本音と建て前の食い違いも、生じにくい。だから、前述の原発計画の話のように、「理屈がそうで理解できるなら、自分もそうでなければならない。仕方がない。でも、保証は、ちゃんとしてねぇ♪」と、いうことになる。
 ところが、日本人は、そうはならない。幼いころから、「理屈を言うなッ!」と言われ続けて大人になってしまうからだ。その代わりに、「黙って何も言わず、察しろッ!」と、言われてしまう。躾も{糞|クソ}も無い!
 新商品のアンケートで、殆どの人が、「是非、買いたい♪」と回答したのに、いざ発売してみると、まったく売れない。「{何故|なぜ}?」「察しろよッ!」と、いう{訳|わけ}である。{況|いわん}や! 欧米人には、とんと理解できないことだろう。

 対人関係に{於|お}いて、行動を起こす前に心掛けるべきこと……則ち、結果を洞察するための要領について、{纏|まと}めておく。
 一に、正しい情報を、得る。
 二に、その情報を判断したり処理したりするための知識を、得る。
 三に、関連するすべての人たちの個々の好き嫌いを、探り知る。
 以上。

【2】息恒循
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〈前期〉立命

 《生涯》{天命|てんめい}……その〈前期〉を、立命期という。

 天命の前期十四年間。
 この時期の学童を、{美童|ミワラ}と呼ぶ。
 実父母が命名した{美童名|みわらな}を名乗る。

 自分の素質能力を、知ること……。
 知って、全力を尽くして、生き抜くこと……。

 天から与えられた世のため人のための使命を知り、燃え尽きるまで生き抜く。この〈燃え尽きるまで生き抜く〉こと……{則|すなわ}ち、天命を知り、そのために与えられた素質能力を完全に発揮し、己のすべてを尽くす。これが、〈立命〉である。

 人として生まれたならば、必ず天命を背負っており、{悖|もと}ることなく自分を{究尽|きゅうじん}し、{怠|おこた}ることなく修練に努めれば、独自固有の人相となり、世界中で自分だけしか発揮できない性質と能力を、体得することが出来る。

 その体得が、命を運ぶこと……則ち〈運命の学〉であり、その究尽修練のこと……これが{所謂|いわゆる}、〈立命の学〉である。この二つは、紛れもない人間科学であり、東亜哲学が最も大事とする、生粋の学問である。

(Ver.2,Rev.0)

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寺学舎 美童(ミワラ) ムロー学級8名
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成功するための神話を残したい……
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